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15.構わないと、言ったのに

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「サ、シャ?」
「ほ、ほらっ、こういう時は思っていなくても『俺も』くらい返すもんですよ! 円満な初夜のために!」
「あ、あぁ。そう、だな。そうだった」

 一瞬驚いたように目を見開いた彼が私の言葉に頷く。
 
「サシャ、俺も――んっ」

 そして言われるがまま口にしようとした彼の言葉を遮るように、彼を引き寄せ唇を重ねた。
 練習のための言葉なんて聞きたくないと思ったからだ。

“ルミール様が本番でこの言葉を口にする相手は私じゃないもの”

「……こうやって最中に口付けても効果的ですよ。どうですか?」
「理解した」

 誤魔化すためにした苦し紛れのその説明に納得した彼が再び口付けを降らせ、彼の手のひらが私の肌を這う。
 腹部を撫で、そのまま下がりドロワーズを一気に脱がされる。

 さっきは少ししか触れられていなかったはずなのに、既に蜜が滴っていることに気付き恥ずかしさから私は顔を逸らした。

「本当に可愛いな」

 楽しそうにそう溢したルミール様は、わざと音を響かせるように指先で浅いところを何度も擦る。
 その度にくちゅくちゅと☆な音が響き、私の顔が熱くなった。

「まだ舌は試したことがなかったな」
「……えっ!」
「サシャが作ってくれた指南書に書いてあっただろう」

“確かに書いたかも”

 指や舌での愛撫について記入したことを今更ながらに思い出し後悔する。
 
「絶対しなくてはいけない訳ではないといいますか、その、本番の相手にすればいいと申しますか」

“自分が書いただけに恥ずかしい……!”

 指南書に書いてあることを実践するのは確かに有効だが、それを今から、私に、と思うと羞恥心が刺激される。
 次になにをされるかわからないというのも緊張するが、次になにをされるのかがわかっているというのもそれはそれで緊張した。
 わかっていても心の準備なんて出来ず、そっと私の脹脛ふくらはぎに彼の手が触れるとピクッと腰が揺れてしまう。

 そのままゆっくりと左右に大きく開かれ彼の眼前に☆が露になると、宣言通り彼の顔が埋められた。

「――ッ、や、ダメ……!」

 ほぼ無意識に両腕を伸ばし彼の顔を離そうと突っ張るが、与えられる快感のせいで腕に力が入らず、結果彼の艶やかな黒髪を撫でるように掴むので精一杯。
 そして私のそんな抵抗などものともせず、すぼめられた舌先が蜜口を這い、すぐ上にある愛芽を弾いた。

「あ、あぁ……ッ!?」

 ちゅぷちゅぷと淫靡な音を響かせながら舌での愛撫が繰り返される。
 左手は相変わらず今も私の脹脛を掴んでいるが、いつの間にか右手は蜜口へと触れ彼の指が蜜壺へと挿入された。

 つぷりとナカへ指が埋められた感覚にゾクリとし、痺れにも似た快感が私を襲う。
 指と舌で苦しいほどの快感を覚えさせられ、私の口からはもう言葉にはなっていない言葉だけが溢れていた。

“こんな、私ばっかり……!”

 弾けそうなまでの快感が私の奥へ蓄積する。
 ナカを彼の指が激しく抽挿し、指の腹でぐりゅっと強く擦られた時、その快感が爆ぜるように一気に弾け視界にチカチカと星が散った。

「あ、あぁあ……ッ!」

 だらんと体から力が抜け、ベッドへと四肢が投げ出される。
 荒い呼吸を繰り返しながら視線だけで彼の方を見ると、どこか嬉しそうに口角が上がっていることに気がついた。

“ルミール様は、まだ何も気持ちよくなってないのに”

 彼がしたのは私への一方的なご奉仕だ。
 もちろんその先には彼のモノを挿入するという目的があるのだが、満足そうな彼を見ると今一線を越える気はないのだろう。

“すればいいのに”

 今ならば簡単に挿入出来る。
 このまま私の足を開き、自身の猛りを押し進めればいいだけだ。
 私の体からは力が抜けていて、先の愛撫により秘部の潤みだって十分なはず。

 もちろん破瓜の痛みはあるだろうが、それだって初めてであれば当然あって然るべきもの。
 それに私が娼婦である以上いつかはこの純潔を必ず散らすだろう。

“だったら、私は彼がいい”
 
 それに元々私は彼に純潔を捧げる為に買われたのだから。

「……挿入、していいんですよ」

 六番目になる貴族の花嫁は、きっとこんなことはしないのだろうけれど。

“でも、何より今私が欲しいと思ってる”

 力が抜けていた両足を開き、僅かに膝を立てて曲げる。
 蜜壺が彼に見えるように自らの両手で開き挿入を促すと、彼の視線が私の秘部へと注がれた。

 彼のモノを欲し蜜が臀部まで滴っている。

「愛撫も十分です。だから……」
「ここでは、しない」
「え……」

“な、なんで? 私何かしちゃった?”

 完全にスるつもりでいた私は、ルミール様のその返答に愕然として口をポカンと開ける。

「たった一回しかない、サシャの“ハジメテ”だろ」
「で、でも私のは」

 本番の為のただの練習だ。
 それに私は貴族令嬢ではなく娼婦。
 体を開くのが仕事で、きっとこの仕事を終えたら色んなお客様とすることになる。

 決して“ハジメテ”を大事にして貰うようなことはない、のに。
 それなのに。

「一度しかないことに変わりはないだろう」

 だから、と前置きをし、気恥しそうに咳払いをするルミール様の赤い頬をじっと見つめる。

「せめて、家で。勢いではなくちゃんとサシャと一緒にしたいんだ」
「一緒に?」
「俺は今まで怖がらせるしか出来なかったような男だからな。だから、痛くしないとは約束出来ないが……それでも、少しでもサシャの初めてがいい思い出になるようにさせて欲しい」

 それだけ一気に話したルミール様が、そっと私の唇へと口付ける。
 表面を掠めるだけのその口付けが、今日したどの口付けよりも私の胸を震わせた。
 
“まさかそんな言葉を貰えるだなんて”

 彼の気遣いが嬉しい。大事にしたいと思ってくれるその心が嬉しい。
 勘違いなんてしたくないのに、優しく口付ける彼が温かくて何故か泣きそうになる。

 ――彼とシたい。最後までシたい。
 それが、私と彼の最初で最後の行為になるのだとわかっているけれど。
 
「じゃあ、帰りましょうか?」
「あぁ」

 滲んだ目元に気付かれないように、脱いだ服を再び着るフリをして下を向く。
 短く返事をしたルミール様が乱れた衣服を直しているのをこっそり盗み見ながら、私はそっと涙を拭ったのだった。
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