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追いかけるのはどちらの役目

17.応援なんて欲しくない

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“キャロンに言わなきゃ⋯”


当たり前のようにこれからも側にいれると思っていた。
もしこれが断れるなら、それがどれだけ俺にとってプラスになる事だったとしても断っていたとすら思う。

「魔法師として失格だな⋯」


そもそも子供の頃から何をやってもダメだった俺が魔法師として騎士団に所属する事になったのはただの成り行きで。

“魔力があるからそれを活かす仕事に就きたかった、とかじゃないもんなぁ⋯”


魔力があるから魔法師になったのではなく、魔力があったお陰で唯一なれたのが魔法師だったのだ。
試験ももちろんダメダメだったが、魔力量は生まれもってのもの。

人より多い魔力量を“伸び代”と判断して貰った俺が奇跡的に就職できた先、それが騎士団だった。


入団し、その魔力量から期待されまず先輩騎士と組むことになり――

「火力操作をミスして何故か先輩の髪の毛だけ全部燃えたんだよな⋯」


次に組んだのも先輩だったが、強化魔法をかけようと先輩に杖を向けた時に丁度躓き先輩のお尻に杖が深く刺さって。

「俺が目覚めたらどうするんだと怒鳴られたっけ⋯」


その次の相方は同期の奴だったが、俺の夕飯を頭から被って気付けば退団していた。

「5日連続で被っただけで、そんなに被害は大きくなかったんだけどなぁ」


更にその次ははじめての後輩だったが、組んで10分でその後輩が団長に泣きつき相方を解消することになった。

「噂を聞いたってだけでまだ何もやらかしてなかったんだけどな。ただ全ての噂が事実だと伝えただけで⋯」


先輩も、同期も、後輩もダメ。
本格的に相方になってくれる相手がおらず、腫れ物というか完全に貧乏神のように扱われはじめた俺の相方に名乗り出てくれたのが他でもないキャロンだった。

そして俺の起こすトラブルにどれだけ巻き込まれても相方を解消せず、するのは皆の前でのお説教。
いつしかその光景が皆の『当たり前』になったお陰で、嫌われものだった俺も気付けばこの騎士団に馴染んでいて――


“崇高な気持ちで魔法師になった訳じゃないからこそ、キャロンに迷惑をかけないように、キャロンと一緒にこれからも戦えるようにって目標でやってきたのに⋯”

気付けば目標がキャロンの役に立つことだったからこそ、キャロンの側にいられない栄転なんて望んでなくて。


「⋯でも、国に所属している以上当然拒否権なんてないんだよな⋯」

この辞令に拒否は出来ない。

栄転を受けてキャロンの側を離れるか、栄転を拒み騎士団を退団しキャロンの側を離れるか。


「どっちにしろ、もう側にいれないじゃんか⋯」


ライアテヌス帝国の最北端にあるこのラースと、魔法塔のある帝都は馬車で1ヶ月以上は掛かる距離にあって。

休みだからと会える距離どころか、往復2ヶ月と考えれば騎士団員である俺達に取れる休みを越えている。
それはつまり、年に一度も会えないどころか騎士団で働き続ける以上もう一生会えないと言っても過言ではなくてー⋯



魔法師ならば泣いて喜んでもおかしくないこの栄転を、俺は違う意味で泣きそうになりながら自室に戻ったのだった。


――だからといって、いつまでも隠せるハズもなく。


「エイベル、俺に何か言うことはないか」

ふと任務の後にそう告げられドキッとする。
まだ俺の辞令が正式に出る前だったので知っている人はほぼいないが、相方であるキャロンは当事者の1人として聞かされていても不思議ではなくて⋯


――俺はお説教を覚悟しその晩キャロンの部屋に向かった。



暗い気持ちになりながら少し焦げたキャロンの部屋の扉をノックする。

“この扉焦がしたのも、今となったらいい思い出だよな⋯”

扉が開くまでの数秒間だけでも感傷に浸れるのは、それだけキャロンと過ごした時間が長かったからだろう。

“相方としてずっと側にいて、これからは恋人として側にいれると思っていたのに⋯”

じわりと目頭が熱くなった時、ガチャリと扉が開かれる。
なんだかキャロンの顔が真っ直ぐ見れなくて、扉を開けてくれたキャロンの足元をじっと見ながら口を開いた。

「キャロン、あのさ⋯俺⋯」
「待てエイベル、まずは俺から言わせろ」

言葉を遮ったキャロンは、扉の前で立ち止まっていた俺の腰に腕を回し部屋の中へ促してくれて。


足元から視線を上げた俺は、そこでやっと気付く。


「⋯え?これ⋯」
「おめでとう、俺はお前が誇らしいよ」

慌ててキャロンを見上げると、見たことないほど穏やかに微笑むキャロンがそこにいた。

“お、めで⋯とう⋯?”

言われた言葉が俺の中をするりと通り抜け、ちゃんと聞こえていたはずなのに上手く聞き取れない。


――だって俺の栄転は、キャロンとのサヨナラを意味しているのだ。

“全然、全然⋯おめでとうなんかじゃ、ないだろ⋯?”


ポロリと俺の瞳から涙が溢れ、床にパタパタと落ちる。
そんな俺の様子をどう勘違いしたのか、本当に嬉しそうに笑ったキャロンは、俺の手を引いて椅子に座らせて。


「特別に頼んでケーキを用意して貰ったんだ。エイベルは甘いもの好きだっただろ?」

“キャロンは本当に喜んでくれてるんだ⋯”
きっと他意なんかなく、純粋に。

わかってる。
わかってるのにー⋯


「⋯好きだよ、甘いものも、キャロンも⋯」
「エイベル⋯?」
「だから、何も“おめでとう”じゃないって⋯悲しいって、寂しいって思うのは俺だけなの⋯?」


どうしてもそのキャロンの気持ちを受け入れられなくて。


「祝ってなんか、欲しくない⋯っ、キャロンにだけは祝われたくなんかなかった⋯っ!!」


ドンッとキャロンを押し退けた俺は、そのまま自室に駆け戻る。
部屋に入り扉を閉めて。

「鍵⋯」


鍵を締めるつまみを掴んだものの、回さず手を離す。

“もし、もしキャロンが来てくれたなら⋯”


ー⋯キャロンが自分で入ってこれるように。


「飛び出したのは俺のくせに」

追いかけて欲しいと思う自分の女々しさに涙だけでなく苦笑も漏れる。


“それでも、もしキャロンが来てくれたならー⋯”



「その時はちゃんと謝るから⋯」


謝って、仲直りして。
そしてこれからの事を話したい。

せっかくキャロンと恋人になれたのに、このまま終わらせたくなんてないから。

「キャロンも一緒に方法、考えてくれるよなー⋯?」


ぽつりと溢した本音は、1人の部屋に儚く消えた。



――キャロンが来たら、なんて謝ろう。
なんて考えながら、ベッドにもたれて目を瞑る。

耳だけは扉の方に意識を向けて、カチャリとドアノブが回る事を想像した俺は、“⋯あ、でもキャロンなら絶対ノックするよな、ドアノブなんて回さないかも”なんて想像してー⋯




――けれどその日、ドアノブが回ることも、扉がノックされる事も⋯
もちろんキャロンが俺のところに来てくれる事もないまま、1人の夜が明けるのだった。
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