上 下
10 / 27
スライムでえちち

9.囚われのお姫様ならぬ、囚われのテント様

しおりを挟む
「受け身取れるな?」

耳元でキャロンの声が聞こえたと同時に、洞窟内でも比較的苔が生えているだろう部分に転がされるようにそっと投げられる。

投げられたままべしゃ、と尻餅をつくと、物凄く呆れたようなため息がキャロンから聞こえて。


「⋯お前な、魔法師とはいえ受け身くらい取れるようになるべきだろう」
「ち、違うよ!?普段なら、普段なら取れる⋯っ、けど⋯!」
「普段から取れるなら自然と体が動くものだ。鍛練が足りない。とりあえずお前は今日から⋯」
「そんなの、今はいいからっ!!!」


直径50センチ程、と思われたそのスライムは薄く伸びるようにキャロンの右足をじわじわと包む。
スライムが触れている洞窟の地面は無事なのに、スライムに包まれたキャロンのズボンが明らかに溶けはじめていて。


「良くないだろう。いいか、もう書き出す余裕はないから口頭で伝えるぞ。まず朝起きたらストレッチだ。そして最低5キロのランニングをだな⋯」
「な、何を、何を言ってるんだ!?そんなこと言ってる場合じゃ⋯」
「言ってる場合、だろ。忘れたのか?」

呆れつつも少し困ったように笑ったキャロンの表情を見て俺の背中に嫌な汗が伝った。

“嫌だ、聞きたくない、だってこれは、その言い方は⋯”

「スライムは、『倒す方法がない』んだ。斬っても分裂し増え魔法はその属性を吸収される。捕まったら終わりだと教えただろう。だから聞け、俺が話せるうちに」

“――まるで、遺言を遺すみたいな、そんな言い方じゃないか⋯”


じわりと視界が滲み、足に力が入らず立ち上がる事が出来ない。
俺が絶望している間にもじわじわとキャロンを侵食するスライムは、既にキャロンの太股辺りまで包んでしまっいて。

更に最初にスライムと触れた靴が溶け、キャロンの肌が見えはじめ⋯

そして肌が見えたということは。


「――ッ、⋯生物を補食する、という噂は本当だったんだな。つまり俺は今胃酸で溶かされてるみたいな感じということか?」
「そんなこと言ってる場合かよっ!!」


“靴が溶け布も溶けた、次はキャロンの肌が⋯!”

激しい痛みを伴うのか、キャロンの表情が一気に歪む。
そうこうしている間に、気付けばもうキャロンの下半身は全てスライムに包まれてしまっていて――⋯


“このまま俺は俺のせいでキャロンを、好きな人を失うのか⋯?”

あまりにも無力な自分。

“ちゃんとキャロンの制止を聞いていれば⋯”

今更後悔してももう遅い。
そして後悔している間にもスライムはキャロンを補食すべく、侵食部分を増やしていて⋯

“このまま見ているしか出来ないのか?”
「⋯⋯なの、⋯だ」

――考えろ、考えろ考えろ考えろ。
失いたくない、キャロンを⋯


「そんなの、ダメだ⋯っ!!」

キャロンだけは、諦めたくないから⋯!!!


「エイベル、言えるうちに改めて伝えておく。俺はお前の事が⋯⋯」
「キャロンに強化魔法をかける!」
「好⋯⋯、は?ちょっと待て何をする気⋯っ」
「あとスライムにも!!!」
「スライムにも!?本当に何をする気だ落ち着け待て頼む冷静にー⋯っ」


集中し魔力を練り上げる。
強化魔法は俺の天性の属性の1つ、つまり最も自然に、そして最も効果の高い純度で放てる魔法で。


“スライムが属性を『吸収』し『反撃』するなら⋯!”


「行くよ!」
「行くな来るな放つなーーーッッ」
「はぁっ!」

杖の先から練り上げた魔力を飛ばす。

“上手くいってくれ⋯!”


「ッ」

キャロンが息を呑んだ事に気付き俺も生唾を呑む。
強化魔法によって防御力が上がったのか、皮膚が溶かされる痛みが軽減したらしくキャロンの表情が少し解れたのも束の間――


「スライムが⋯っ!」

俺の魔法をしっかりと吸収したらしく、スライムが僅かに発光して。


「エイベル、気を付けろ!」
「⋯ううん、キャロン、多分大丈夫」
「?」

一瞬怪訝そうな顔をしたキャロンは、自分を包むスライムがパキパキと音を出し始めたことに驚き目を見開いた。


“思った通りだ⋯!”

そしてピシッと一際大きな音を立てたかと思ったら、そのまま砕けるようにスライムが割れる。


「どういう事だ⋯?」
「簡単な事だよ!俺の全力の強化魔法を『吸収』したスライムが『反撃』する為に『増幅』させた結果、砕けたんだ」

強化魔法は、簡単に言えば『硬化』魔法でもある。
もちろん身体能力を上げる『強化』もあるが、今回俺がキャロンとスライムにかけたのは『硬化』の方だった。

“スライムに効果がなかったとしても、キャロンをカチカチにすればスライムが補食しようと出してる酸からも守れるし⋯”

もちろんこれは推測からの一種の賭けだったのだが。


「俺の強化魔法を極限まで増幅させ、そして反撃すべく内部から更なる強化魔法を反射したんだ。固いものが固いものにぶつかったら砕けるのは当然⋯だ、ろ⋯⋯、え、ぇえ!?」


予想以上に上手く行ったその結果に、そして倒せないとされたスライムが倒せたこと、何よりも大好きなキャロンが助かった事が何よりも嬉しかった俺は受かれていた。

浮かれポンチ野郎だった。


無効化出来たスライムばかり見ていて、キャロンの異常に気付くのも遅れたし、何よりも過去一彼のこめかみがピクピクしていた事にも全く気付かず――


やっとキャロンの方に視線をやり、そこでやっととんでもないことが起こってしまったのだと理解したのだ。


「⋯えっと、それ、どうして⋯、なんで⋯?」
「強化されたんだろう。お前の魔法と、そしてお前の魔法を吸収し増幅させ反撃すべく放ったスライムによってな」
「え、でも強化って⋯いや、確かに『硬化』魔法だけどでも想定外の硬化っていうか、その⋯」


あり得ない現状に、視線を外すべきだとわかっているのに釘付けになって目が離せない。


何故ならキャロンの下半身、主にキャロンのキャロンが⋯


「硬化って、その硬化じゃないはずなんだけど⋯」
「俺が知るか!魔法をかけたのはお前だエイベル!!どうして!俺の!股間が!性的な意味で硬化したんだ!!!」
「ひょえっ」


あり得ないほどガッツリとテントを張っていたからだ。


“え、なんで、呪いの時はアレかもだけど少なくとも今回は下心が魔力に乗るなんてことなかったはずなのに⋯!”

思わず目を覆いたくなるような、逆に凝視したくなるような複雑な気持ちをどう処理していいかわからない。

しかもスライムが服を溶かしていたせいで、スライムに覆われていたキャロンの下半身はほぼ布面積が残っておらず、僅かに残ったその“ズボンか下着だった布”が思い切り天を仰ぐように反り返ったキャロンのアレに引っ掛かっているだけ。

それは昨晩散々脳裏に過った比喩的な意味ではなく、文字通りの夜営で張る簡素なテントのようだった。


“スライムが覆ってなかった上半身はガッチリ服を着てるのに下半身はほぼ丸出し、しかも少しでも風が吹けばキャロンのアレも丸見えになっちゃう⋯!?”


あり得ない、あり得ないが、現実に起こってしまっていて。


「えーっと、その、キャロンのソレって時間経過で萎みそうなものだったり⋯する?」
「しない」

この現状にヤケクソになっているのか、半眼で仄暗い目をしたキャロンは強化魔法で昨日よりも質量が増したかなり雄々しいソコを隠すでもなく、引っ掛かっただけのテントを残し仁王立ちしている。

「そかそか⋯。えっと、その、萎えて貰えたりとか⋯」
「しない」
「そ、そうだよな、こんなあり得ない状況でもガッツリ勃ってるんだもん、簡単には萎えないよな⋯」

言いながら項垂れる。

“どうしてこうなったんだ⋯、いや、それよりどうすればいいんだ⋯?”


完全勃起したソコを平常状態に戻す方法。
何かで萎えればそれで解決だが、キャロンのが勃っているのは強化魔法のせいなのだ。

“興奮して勃った訳じゃないんだ、今更何かで萎えたりとかしないよな⋯”


そして萎える以外で平常状態にするとしたら。



「あの、キャロン、その⋯、言いにくいんだけど」
「⋯⋯⋯⋯⋯。」
「⋯⋯⋯えっと、俺と⋯、ヤる?」


それはもう、『出してしまう』しかない訳で。

一晩の思い出となるはずだった想い人とのその行為が。


「ヤる」


まさか数時間後に再びあるだなんて、今朝の俺が知ったら驚きで腰を抜かすだろう。


“今から別の意味で腰が抜けそうだけど”

なんて、どこかヤケクソなキャロンの滾ったソコを凝視しながら、俺は現実逃避するのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】浮気者と婚約破棄をして幼馴染と白い結婚をしたはずなのに溺愛してくる

ユユ
恋愛
私の婚約者と幼馴染の婚約者が浮気をしていた。 私も幼馴染も婚約破棄をして、醜聞付きの売れ残り状態に。 浮気された者同士の婚姻が決まり直ぐに夫婦に。 白い結婚という条件だったのに幼馴染が変わっていく。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ

特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する任務~楽園29~

志賀雅基
キャラ文芸
◆A nightingale in a golden cage./I am Escapist, paradise seeker.∥by.Nightwish『Escapist』◆ 惑星警察刑事×テラ連邦軍別室員シリーズPart29[全53話] またもシドとハイファに降ってきた別室命令はジョークとしか思えなかった。曰く、某星系固有種のザリガニ密輸を調査せよ。あまりに馬鹿馬鹿しいので半ば旅行気分だったが到着するなり何故かシドが人目を惹き始め、ある事件をきっかけに逮捕されてしまう。――優秀な遺伝子のみ残そうとする社会の歪みを描く! ▼▼▼ 【シリーズ中、何処からでもどうぞ】 【全性別対応/BL特有シーンはストーリーに支障なく回避可能です】 【Nolaノベル・小説家になろう・ノベルアップ+にR無指定版/エブリスタにR15版を掲載】

ちびっ子ボディのチート令嬢は辺境で幸せを掴む

紫楼
ファンタジー
 酔っ払って寝て起きたらなんか手が小さい。びっくりしてベットから落ちて今の自分の情報と前の自分の記憶が一気に脳内を巡ってそのまま気絶した。  私は放置された16歳の少女リーシャに転生?してた。自分の状況を理解してすぐになぜか王様の命令で辺境にお嫁に行くことになったよ!    辺境はイケメンマッチョパラダイス!!だったので天国でした!  食べ物が美味しくない国だったので好き放題食べたい物作らせて貰える環境を与えられて幸せです。  もふもふ?に出会ったけどなんか違う!?  もふじゃない爺と契約!?とかなんだかなーな仲間もできるよ。  両親のこととかリーシャの真実が明るみに出たり、思わぬ方向に物事が進んだり?    いつかは立派な辺境伯夫人になりたいリーシャの日常のお話。    主人公が結婚するんでR指定は保険です。外見とかストーリー的に身長とか容姿について表現があるので不快になりそうでしたらそっと閉じてください。完全な性表現は書くの苦手なのでほぼ無いとは思いますが。  倫理観論理感の強い人には向かないと思われますので、そっ閉じしてください。    小さい見た目のお転婆さんとか書きたかっただけのお話。ふんわり設定なので軽ーく受け流してください。  描写とか適当シーンも多いので軽く読み流す物としてお楽しみください。  タイトルのついた分は少し台詞回しいじったり誤字脱字の訂正が済みました。  多少表現が変わった程度でストーリーに触る改稿はしてません。  カクヨム様にも載せてます。

隣の皇帝様を美味しく頂く私~貴方のモノですからお好きにして下さい~

一ノ瀬 彩音
恋愛
ある日、主人公が仕事から帰る途中、高速馬車に轢かれそうになったところを助けられる。 その相手はなんとこの国の皇帝様だった! その後、皇帝様の気まぐれで宮殿に招かれる主人公。 主人公の作る食事が美味しすぎて、皇帝様はついつい食べ過ぎてしまう。 しかし、そんな主人公は皇帝様と結ばれて、美味しく頂いてしまうも逆に皇帝様のモノとなって……。 ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

元婚約者の弟から求婚されて非常に困っています

星乃びこ
ファンタジー
妹のように思っていた従姉妹のシャーロットと婚約者リアムの浮気を知ったその日から人生が一変してしまった公爵令嬢のエレノア・ビクター。しばらくは、身を固めず好きに生きようと考えていた彼女は、侍女を連れ、息抜きがてらお忍びで街へ繰り出すことに。そこで再会したのは、幼なじみでリアムの実弟ノエルだった――。 さらに、屋敷にやって来たノエルに突然婚約を持ちかけられて…!?

嘘つきな獣

クマ三郎@書籍発売中
恋愛
同盟国エドナの王太子セシルとの結婚を控え、花嫁衣装を前に胸を高鳴らせる富国ロートスの王女シャロン。 しかしエドナへ嫁す三か月前。 父王が彼女に告げたのは、隣国エウレカの王子へ嫁げという非情な言葉だった。 そして既にセシルとの婚約解消はなされていると。 なすすべもないまま、シャロンはエウレカへ嫁ぐ日を迎えるのだが、ロートスは何者かの襲撃を受ける。 狼狽えるシャロンの前に現れたのは、婚約者であったセシルだった……

さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。

ヒツキノドカ
ファンタジー
 誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。  そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。  しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。  身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。  そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。  姿は美しい白髪の少女に。  伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。  最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。 ーーーーーー ーーー 閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。とても励みになります! ※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!

【1章完結】経験値貸与はじめました!〜但し利息はトイチです。追放された元PTメンバーにも貸しており取り立てはもちろん容赦しません〜

コレゼン
ファンタジー
冒険者のレオンはダンジョンで突然、所属パーティーからの追放を宣告される。 レオンは経験値貸与というユニークスキルを保持しており、パーティーのメンバーたちにレオンはそれぞれ1000万もの経験値を貸与している。 そういった状況での突然の踏み倒し追放宣言だった。 それにレオンはパーティーメンバーに経験値を多く貸与している為、自身は20レベルしかない。 適正レベル60台のダンジョンで追放されては生きては帰れないという状況だ。 パーティーメンバーたち全員がそれを承知の追放であった。 追放後にパーティーメンバーたちが去った後―― 「…………まさか、ここまでクズだとはな」 レオンは保留して溜めておいた経験値500万を自分に割り当てると、一気に71までレベルが上がる。 この経験値貸与というスキルを使えば、利息で経験値を自動で得られる。 それにこの経験値、貸与だけでなく譲渡することも可能だった。 利息で稼いだ経験値を譲渡することによって金銭を得ることも可能だろう。 また経験値を譲渡することによってゆくゆくは自分だけの選抜した最強の冒険者パーティーを結成することも可能だ。 そしてこの経験値貸与というスキル。 貸したものは経験値や利息も含めて、強制執行というサブスキルで強制的に返済させられる。 これは経験値貸与というスキルを授かった男が、借りた経験値やお金を踏み倒そうとするものたちに強制執行ざまぁをし、冒険者メンバーを選抜して育成しながら最強最富へと成り上がっていく英雄冒険譚。 ※こちら小説家になろうとカクヨムにも投稿しております

処理中です...