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番外編
What are they doing ? (OH MY BABY / 親友のお見合い3)
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それからものんびりとした毎日が続いていた。
急に聖夜が「旅行しよう」と言い出し、妊娠六ヶ月の終わり頃、二人で温泉へ向かった。
プール付きの温泉だったので、香夏子は古い水着を持参した。この古い水着はいい具合に生地が伸びていて、それなりに目立ってきた膨らみをカバーし、知らない人が見ればマタニティ用の水着だと信じて疑わないだろう。
リゾート地のプールでは混雑していることもあり、本気で泳ぐことは難しい。だが、浮き輪を借りて温水の中をプカプカと漂っているだけでも香夏子にとってはよい運動になる。
水着着用ゾーンに小さいがジャグジー温泉や檜風呂が併設されていた。プールで遊んだ後、聖夜と二人で檜風呂に入ることにした。
周囲には子どもを連れた家族の姿が多い。香夏子は目を細めてその光景を眺める。もう少ししたら、自分たちもあんなふうになるのだろうか、と思いながら……。
おもむろにザブンと音がして、香夏子は何気なくその方向へ目をやった。檜風呂には香夏子と聖夜以外にも年配の男性が入っていて、その男性が立ち上がったのだ。
(……えええええ――!?)
香夏子はすぐに目を逸らし、絶句した。
それから彼の姿を視界に入れないようにして、少し離れたところにある看板をもう一度確かめる。
(間違いない。「この先、水着を着用してご利用ください」って書いてある!)
だが、今この檜風呂から出て行った年配男性は水着を着用していなかったようだ。香夏子は縋るように聖夜を見る。
「ん? どうかした?」
聖夜は湯に浸かって頬をほんのり紅潮させていた。その顔にほんの少しの間見とれるが、聖夜の顔を見たのは見とれるためではない。香夏子は目をパチパチとさせながらおそるおそる口を開いた。
「あの、今、上がっていった男の人、……何も穿いてなかった気がするの」
「え?」
聖夜は不思議そうな顔をする。
「見てなかったの?」
「男の身体に興味ないし」
「いや、興味とかじゃなくて、ここは水着じゃないと入ってきちゃだめな場所でしょ?」
「うん。みんな水着着てるね」
聖夜もきょろきょろと辺りを見回した。
「でもあのおじさん……どうして?」
香夏子たちのいる檜風呂は、更衣室からもかなり離れている。彼があの格好のまま、どうやってここまで来たのか、香夏子はとても気になった。
「本当に何も穿いてなかったの?」
聖夜は笑いながら言った。
「うん。……よく見てないけど」
「まぁ、向こうもびっくりしただろうね。香夏子がじろじろ見るから」
「見てないってば!」
二人でじゃれあっていると、思いついたように聖夜が香夏子の腹部に向かって話しかけた。
「君のママは本当に面白い人だよね。ママの傍にいると飽きないよ。だから早く出ておいで」
「待って! そんなこと言って本当に今出てきちゃったら困るよ」
香夏子は慌てた。まだ六ヶ月だから産まれてくるには早すぎる。
隣で聖夜がクスッと笑った。
「じゃあ、まだお腹の中にいなさい」
返事のつもりなのか、胎児が動いた。
「あ、動いてる」
聖夜は「さすが俺の子」と笑いながら立ち上がる。手を貸してもらって香夏子もゆっくりと立ち上がった。檜風呂は香りよく湯も滑らかだが、滑りやすい。
「次に、二人きりで旅行できるのは何十年後だろうね?」
香夏子はふと思ったことを口にした。
出産後の生活などまだ想像もつかないが、今より忙しく大変になることは間違いない。子どもを連れて旅行に出かけるのも楽しいだろう。しかしこうして二人だけののんびりとした時間はなくなってしまうに違いない。
「カナが望むなら、いつだって二人の時間を作るよ」
「え? でも……」
聖夜は香夏子の手を握った。
「だからそんな寂しそうな顔しないで。子どもも大事だけど、俺にとっては香夏子が一番大事」
「そんなこと言っても、実際産まれたらメロメロになるよ、きっと」
素直に「嬉しい」と言えばいいのに、ついひねくれた返事をしてしまう。すると聖夜はパッと香夏子の手を離した。
「カナのほうこそ、ママになったら俺のことは二の次に思うかもね」
香夏子は立ち止まって、意地悪な笑みを浮かべる夫の顔を見つめる。
「そんなことないよ」
そんなことはない、と何度も胸の内で繰り返した。だがドキッとしたのは間違いない。今の図星を差されたような感覚はどこから来たのだろう、と香夏子は訝しく思った。
聖夜は香夏子に近づき、今度は肩に手を回した。
「だから、たまには二人でデートしよう。二人きりの旅行は……ちょっと無理かもしれないけど」
「うん」
香夏子は大きく頷いた。そして聖夜は不思議な人だ、と思う。香夏子自身よりも香夏子のことを熟知しているのではないだろうか。
その点、香夏子は自分がどれほど聖夜のことを理解しているのかと少し不安になる。毎日、寝食を共にしているのだから、ただ好きでいた頃よりは聖夜のいろいろな姿を見て、知っているつもりだ。
だが、聖夜の心の中までは見ることもできないし、何を考えていて、何を望んでいるのかということまで正確に把握しているという自信はなかった。
(私、もっと頑張らなきゃ……)
大好きな人と結婚できた香夏子はこれ以上ないほどの幸せ者だ。しかし幸せな毎日を過ごしながら、とても大切なことを忘れかけていた気がする。結婚は「めでたしめでたし」のハッピーエンドではなく、愛する人と共に歩む新たな人生の始まりなのだ。
更衣室の前で聖夜と別れ、水着を脱いで温泉に浸かった。
面白くて飽きない存在と言われるのも嬉しくないわけではないが、聖夜の妻としてそれだけの価値しかないとすれば、それは明らかに香夏子の怠慢だろう。
だが、考えてみれば努力目標があるというのはよいことかもしれない。これからの自分はどうやって生きていけばよいのか、と改めて考える香夏子だった。
「しかし、まさにミステリーですよね!」
高山は興奮気味に身を乗り出した。
ここは高級ホテル内の中華料理店だ。高級ホテルといっても、香夏子と聖夜、そして秀司が育った街の中では一番立派なホテルなのだが、その格式を大都市の高級ホテルと比べてはいけない。この街に求められる格式が、大都市のそれと同じではないからだ。
しかし、この中華料理店は料理の評判がよく、地元の人々が客人をもてなす際によく利用されていた。
今回もおそらくそのような意図でここが選ばれたのだろう。
香夏子は円卓の向かい側に座る高山の顔を、まじまじと見つめた。その白い眼をものともせず、高山は続ける。
「その全裸おじさんはどこから来て、どこへ消えたのか……! ああ、僕もそんなミステリーな場面に遭遇したいですよ。でも実際そういう珍場面にはなかなか遭遇しませんけどね。でも、聖夜さんが見ていないなら、もしかしたら香夏子さんの見間違いかもしれませんよ?」
「あのね、どうやったら見間違うのよ?」
高山のからかうような口調に香夏子は気色ばんでムッとした。
「だって香夏子さんしか見ていないですし、他の人が騒いだ様子もないんでしょ? ……え? もしかして、そのおじさん、実は妖精さんだったとか!?」
「…………」
あまりにも突飛な発想だったので香夏子は口を半開きにしたまま絶句した。聖夜が顔を背けてフッと鼻で笑う。高山の脳内のほうがミステリーだと思ったが、そう発言すること自体がバカバカしいので香夏子は黙り込んだ。
そこに聖夜の咳払いが聞こえてきた。
「それで俺らがここに呼ばれたのは、高山くんの結婚式の打ち合わせという話だったよね?」
「あ、そうなんですよ。ものすごく贅沢なお願いなんですけれども、聖夜さんに僕と彼女のヘアスタイリングをお願いしたいな、と」
「いいよ」
聖夜はあっけなく承諾した。高山も拍子抜けしたのか、一瞬ポカンとしたが、すぐに「それじゃあこれが当日のスケジュールで」と式場から渡された予定表のコピーを聖夜に渡す。
それに目を通した聖夜は「わかった」と再度快諾し、高山に希望の髪型を訊ねたり、当日の衣装についてのメモを取り始めた。すっかり仕事モードに入った聖夜を香夏子は静かに眺める。真剣な目つきでメモ帳にペンを走らせる様子はあまり見慣れない光景だった。
その打ち合わせが終わる頃、店内が一際賑やかになった。
何事か、と香夏子が出入り口を振り返ると、黒地のチャイナドレスに身を包んで、髪を夜会巻きにした秀司の母親を先頭に、フォーマルな装いの集団が窓際の予約席に案内されるところだった。
香夏子は最後に入ってきた振袖姿の女性を見て、小さく声を上げる。
「あっ! 湊……」
その声で聖夜も窓際の予約席へ視線を移動させた。そしてすぐに高山を睨んだ。
「高山くん、このために打ち合わせを今日に設定しただろ?」
「別にお見合いの邪魔をしに来たわけじゃありませんよ。ただ、丹羽先生のお母様とお話したら、是非今日のこの時間に、と勧められたんです」
聖夜が大きなため息をつく。香夏子はこちらに背を向けて座っている湊の背中を黙って見つめた。
「ねぇ、カナ。相手の男性に見覚えない?」
「え?」
聖夜の言葉で初めて湊の見合い相手を注視する。
(あれ? そういえばどこかで会ったことあるかも……)
頭の中の記憶の引き出しを開いたり閉じたりしていると、急に高山が立ち上がった。ハッとして出入り口の方向を見る。
「先生、こっちです!」
香夏子は新たな客の姿を見て、今度は鋭く息を呑んだ。
「秀司……」
聖夜が困惑気味に新たな客の名を呼ぶ。
香夏子たちのテーブルまでやって来た秀司は、聖夜を見下ろして言った。
「俺が来るとマズいことでもあるのか?」
「ないよ。でも、非常にマズい事態に発展する可能性は否めない」
「なんだ、それは?」
秀司は小バカにするような目で聖夜を見ながら、席に着いた。
突然香夏子の心臓はバクバクと激しく鳴り始めた。聖夜の予言どおり、何か非常にマズいことが起こりそうな気がするのだ。
「カナ、どうした? 変な顔をして」
「いつもこんな顔なんだけど」
湊ばかりでなく自分の母親が同じ店内にいることに、秀司はまだ気がついていないらしい。悟られないように、香夏子は笑みを浮かべようとしたが、少し不自然になってしまった。秀司がドリンクメニューに視線を落とした隙に、香夏子は思い切り高山を睨みつけた。しかしそれを高山は涼しげな笑顔で受け流す。
「早速お願いなんですが、先生、僕の結婚式でも挨拶してくれませんか?」
「それはかまわないが、ただそれを言うためだけに俺をここへ呼んだわけじゃないだろうな?」
「勿論、先生にはそれだけのために来ていただいたんですけど。ついでに幼馴染の聖夜さんと香夏子さんに会えて、美味しい中華料理も食べることができて、先生にとっては最高の一日じゃありませんか!?」
「……最悪だ。俺は忙しい。帰る」
「どこに帰る気ですか?」
急に高山の声が低くなった。秀司が改めて高山の顔を正面から見据えた。
ちょうど秀司の真向かいの席に座る香夏子は、秀司の向こう側に湊の背中が見えるのだが、窓際の席では和やかに会食が進んでいる様子だった。
(どうする?)
香夏子は聖夜の横顔を見る。
だが聖夜は我関せずとばかりに、円卓の回転テーブルを回して料理を取り分けていた。聖夜が皿を自分の前に置くと、今度は秀司がテーブルを回す。
「俺がどこに帰ろうが、高山くんには関係ないことだ。それより今度の研究発表の準備はできたのか?」
「当然できてますよ」
普段からなごやかとは言い難い師弟関係なのだが、高山の刺々しい口調で空気が一気にピリピリとしたものへ変化した。
何か言わなければならない、という強迫観念にとらわれた香夏子は、もごもごと口を開く。口が渇いて言葉がすんなりと出てこない。
「あの、二人ともどうしたの? 別にそこまで険悪になるような話題じゃないでしょ」
隣で聖夜がクスッと笑った。
(笑うところじゃないでしょ! 私が一生懸命この空気を修復しようと思っているのに)
香夏子は唇を尖らせて聖夜を見る。
「俺はどうもしていない。どうかしているのは高山くんだ」
真正面から秀司の視線が香夏子を射る。確かに秀司の表情はいつもどおりだ。
「それは……」と香夏子が口ごもると、秀司は畳み掛けるように言った。
「それだけじゃない。カナも聖夜も変だ。お前ら、何か隠していないか?」
「別に、何も。見たままだよ。俺も、カナも、高山くんも、……湊さんも」
それまで黙っていた聖夜が突然割り込んできた。
秀司は眼鏡の奥で目を大きくする。
「……湊?」
そして誰に言われたわけでもないのに、ゆっくりと振り返った。
(ああ……!)
香夏子は目をつぶった。
ガタッと音がして、向かい側で人が動く気配を感じる。目を開けると、秀司が椅子から立ち上がっていた。
「あれは……何をしている?」
「お見合いだよ」
聖夜がため息混じりに言った。
「見合い? ……誰が?」
「見てのとおり、湊さんとその向かい側に座っている40代の加齢臭オヤジがお見合いしているんですよ」
今度は高山が嫌悪感丸出しの声を出す。
「……なぜ?」
やっと聞き取れるほどのか細い声だった。秀司の視線は窓際のテーブルへ固定されたままだ。
湊が見合いをしているという事実が、秀司をこれほどまで打ちのめすとは、香夏子にとっても想定外のことで驚きのあまり唖然とする。そして高山は秀司の挙動を注意深く観察し、聖夜は心配そうにほんの少し眉根を寄せていた。
しばらく固まっていた秀司が、ハッとしたように香夏子たちのテーブルをかえりみる。
それから戸惑った表情で静かに言った。
「あれは……俺の叔父だ」
「……へ?」
間の抜けた素っ頓狂な声を上げたのは高山だった。
香夏子と聖夜は同時に「あっ」と声を上げる。
(そうだ。見たことあるはずだよ)
盆や正月に秀司の家を訪問する彼の叔父を、近所の香夏子と聖夜が見かけていても不思議はない。だが顔に見覚えがある程度で、その人が秀司の叔父とは知らずにいた。それは聖夜も同じらしく、感慨深げに言う。
「叔父さん、ずいぶん若いね」
「あ、あの……あの方が、先生の叔父さん?」
顔面蒼白の高山が目をパチクリとさせる。師匠と仰ぐ秀司の叔父を「40代の加齢臭オヤジ」などと言い放った失礼をどうやって取り繕うつもりだろうか。
しかし秀司は高山の存在など微塵も意識していないようだった。大きく深呼吸すると窓際のテーブルへと視線を戻し、次の瞬間、背筋をピンと伸ばして歩き出した。
香夏子は聖夜と高山を見る。二人とも秀司の背中を見つめていた。
そしてついに秀司が湊の真横に到着した。
「湊、帰るぞ」
怒ったような声が店内に響く。
「あら、秀ちゃんじゃない!」
秀司の母親が中腰になって自分の息子に微笑みかけた。しかしその笑みは次の瞬間、まさに凍りついた。
「この、疫病神!」
近くで椅子がガタッと鳴る。高山が立ち上がっていた。
秀司が怒鳴った相手は、どうやら湊の見合い相手である自分の叔父に対してのようだ。高山は小走りで秀司に駆け寄った。
「先生、こんなところで……」
「どけ!」
呼び戻そうと高山が秀司の腕を引っ張ったが、秀司はそれを乱暴に振り払う。勢い余って転びそうになった高山を間一髪で聖夜が支えた。
さすがに香夏子も立ち上がっていた。
(ど、どうするの……!?)
他のテーブルの客の目が、窓際で勃発した騒動に釘付けになっている。とりあえずこの注目を散らしたいところだが、香夏子にできることはなさそうだ。
「甥から借金して、一年経ってもそれを返せないような男が、見合いだと!? 笑わせるな。湊、帰るぞ」
そう言い放つと秀司は湊の腕をつかんで立ち上がらせた。
「ま、待って。どういうこと?」
湊は秀司の顔を見上げ、それから秀司の母親を見る。孫がいてもおかしくない年代だというのに、同性の香夏子ですらドキッとするほど美しい秀司の母親の顔からは完全に血の気が引いていた。
「すいません!」
香夏子は咄嗟に手を挙げて店員を呼び、個室を借りることができないかと談判した。店員もこの状態を異常事態と判断したのか、すぐに一同を開いている部屋へ誘導した。
「どうして最初から個室を予約しなかったんですか?」
聖夜の冷静な言葉で、全員の視線が秀司の母親に集中する。
「別にこそこそする必要はないでしょ。お見合いだなんて、そんな堅苦しいことをするつもりじゃなかったの」
秀司の母親は開き直ったらしく、笑みを浮かべて言う。
「それに秀ちゃんが来るなんて思わなかったし、ましてや突然お見合いをぶち壊すなんて誰が想像できるかしら?」
(……どうだろう?)
香夏子は訝しく思う。聖夜と目が合ったので、ほんの少し首を傾げてみせると、聖夜も眉を上げて応じた。
円卓の上には二つのテーブルから持ち寄った料理が載っているが、全員突っ立ったままで、言葉を発する者もいなかった。
気まずい静寂を破ったのは、やはりこの非常にマズイ事態を引き起こした秀司だった。
「とにかくこの丹羽家の疫病神を連れて帰れ。耳をそろえて全額返済できる日まで俺の前に姿を見せるな!」
「秀ちゃん! マサノリさんに向かって失礼よ」
「失礼? 甥にまで借金するような情けない男に礼など不要。いいから帰れ!」
そう言い切ると秀司は自分の母親と叔父の背を押して個室の外へと出て行き、自分だけが戻ってきてドアをバンと閉じた。そのままドアの前に仁王立ちして高山を睨みつける。
「高山くん」
「は、はい! 失礼なことを言って申し訳ありません!」
「そうじゃない。なぜ重要なことを先に言わないんだ」
秀司が怒気を含んだ声でそう言うと、振袖姿の湊が高山を庇うように彼の前に立った。
「悪いのは高山くんじゃないよ。高山くんもお見合い相手までは知らなかったんだから」
「だが、今日が湊の見合いの日だということは知っていたんだろう?」
これには湊も沈黙してしまった。
しばらくして高山がポツリと言う。
「だって事前にお見合いのことを伝えたら、先生は来てくれなかったでしょう?」
今度は秀司が険しい表情になる番だった。
聖夜が「まぁ」と割り込んだ。
「疫病神ってどういうことか説明してよ」
その言葉で場の緊張が解けたようだ。湊が「とりあえず座ろうか」と全員に声を掛ける。香夏子は一番近い椅子に腰を下ろし、ようやく一息ついた。
急に聖夜が「旅行しよう」と言い出し、妊娠六ヶ月の終わり頃、二人で温泉へ向かった。
プール付きの温泉だったので、香夏子は古い水着を持参した。この古い水着はいい具合に生地が伸びていて、それなりに目立ってきた膨らみをカバーし、知らない人が見ればマタニティ用の水着だと信じて疑わないだろう。
リゾート地のプールでは混雑していることもあり、本気で泳ぐことは難しい。だが、浮き輪を借りて温水の中をプカプカと漂っているだけでも香夏子にとってはよい運動になる。
水着着用ゾーンに小さいがジャグジー温泉や檜風呂が併設されていた。プールで遊んだ後、聖夜と二人で檜風呂に入ることにした。
周囲には子どもを連れた家族の姿が多い。香夏子は目を細めてその光景を眺める。もう少ししたら、自分たちもあんなふうになるのだろうか、と思いながら……。
おもむろにザブンと音がして、香夏子は何気なくその方向へ目をやった。檜風呂には香夏子と聖夜以外にも年配の男性が入っていて、その男性が立ち上がったのだ。
(……えええええ――!?)
香夏子はすぐに目を逸らし、絶句した。
それから彼の姿を視界に入れないようにして、少し離れたところにある看板をもう一度確かめる。
(間違いない。「この先、水着を着用してご利用ください」って書いてある!)
だが、今この檜風呂から出て行った年配男性は水着を着用していなかったようだ。香夏子は縋るように聖夜を見る。
「ん? どうかした?」
聖夜は湯に浸かって頬をほんのり紅潮させていた。その顔にほんの少しの間見とれるが、聖夜の顔を見たのは見とれるためではない。香夏子は目をパチパチとさせながらおそるおそる口を開いた。
「あの、今、上がっていった男の人、……何も穿いてなかった気がするの」
「え?」
聖夜は不思議そうな顔をする。
「見てなかったの?」
「男の身体に興味ないし」
「いや、興味とかじゃなくて、ここは水着じゃないと入ってきちゃだめな場所でしょ?」
「うん。みんな水着着てるね」
聖夜もきょろきょろと辺りを見回した。
「でもあのおじさん……どうして?」
香夏子たちのいる檜風呂は、更衣室からもかなり離れている。彼があの格好のまま、どうやってここまで来たのか、香夏子はとても気になった。
「本当に何も穿いてなかったの?」
聖夜は笑いながら言った。
「うん。……よく見てないけど」
「まぁ、向こうもびっくりしただろうね。香夏子がじろじろ見るから」
「見てないってば!」
二人でじゃれあっていると、思いついたように聖夜が香夏子の腹部に向かって話しかけた。
「君のママは本当に面白い人だよね。ママの傍にいると飽きないよ。だから早く出ておいで」
「待って! そんなこと言って本当に今出てきちゃったら困るよ」
香夏子は慌てた。まだ六ヶ月だから産まれてくるには早すぎる。
隣で聖夜がクスッと笑った。
「じゃあ、まだお腹の中にいなさい」
返事のつもりなのか、胎児が動いた。
「あ、動いてる」
聖夜は「さすが俺の子」と笑いながら立ち上がる。手を貸してもらって香夏子もゆっくりと立ち上がった。檜風呂は香りよく湯も滑らかだが、滑りやすい。
「次に、二人きりで旅行できるのは何十年後だろうね?」
香夏子はふと思ったことを口にした。
出産後の生活などまだ想像もつかないが、今より忙しく大変になることは間違いない。子どもを連れて旅行に出かけるのも楽しいだろう。しかしこうして二人だけののんびりとした時間はなくなってしまうに違いない。
「カナが望むなら、いつだって二人の時間を作るよ」
「え? でも……」
聖夜は香夏子の手を握った。
「だからそんな寂しそうな顔しないで。子どもも大事だけど、俺にとっては香夏子が一番大事」
「そんなこと言っても、実際産まれたらメロメロになるよ、きっと」
素直に「嬉しい」と言えばいいのに、ついひねくれた返事をしてしまう。すると聖夜はパッと香夏子の手を離した。
「カナのほうこそ、ママになったら俺のことは二の次に思うかもね」
香夏子は立ち止まって、意地悪な笑みを浮かべる夫の顔を見つめる。
「そんなことないよ」
そんなことはない、と何度も胸の内で繰り返した。だがドキッとしたのは間違いない。今の図星を差されたような感覚はどこから来たのだろう、と香夏子は訝しく思った。
聖夜は香夏子に近づき、今度は肩に手を回した。
「だから、たまには二人でデートしよう。二人きりの旅行は……ちょっと無理かもしれないけど」
「うん」
香夏子は大きく頷いた。そして聖夜は不思議な人だ、と思う。香夏子自身よりも香夏子のことを熟知しているのではないだろうか。
その点、香夏子は自分がどれほど聖夜のことを理解しているのかと少し不安になる。毎日、寝食を共にしているのだから、ただ好きでいた頃よりは聖夜のいろいろな姿を見て、知っているつもりだ。
だが、聖夜の心の中までは見ることもできないし、何を考えていて、何を望んでいるのかということまで正確に把握しているという自信はなかった。
(私、もっと頑張らなきゃ……)
大好きな人と結婚できた香夏子はこれ以上ないほどの幸せ者だ。しかし幸せな毎日を過ごしながら、とても大切なことを忘れかけていた気がする。結婚は「めでたしめでたし」のハッピーエンドではなく、愛する人と共に歩む新たな人生の始まりなのだ。
更衣室の前で聖夜と別れ、水着を脱いで温泉に浸かった。
面白くて飽きない存在と言われるのも嬉しくないわけではないが、聖夜の妻としてそれだけの価値しかないとすれば、それは明らかに香夏子の怠慢だろう。
だが、考えてみれば努力目標があるというのはよいことかもしれない。これからの自分はどうやって生きていけばよいのか、と改めて考える香夏子だった。
「しかし、まさにミステリーですよね!」
高山は興奮気味に身を乗り出した。
ここは高級ホテル内の中華料理店だ。高級ホテルといっても、香夏子と聖夜、そして秀司が育った街の中では一番立派なホテルなのだが、その格式を大都市の高級ホテルと比べてはいけない。この街に求められる格式が、大都市のそれと同じではないからだ。
しかし、この中華料理店は料理の評判がよく、地元の人々が客人をもてなす際によく利用されていた。
今回もおそらくそのような意図でここが選ばれたのだろう。
香夏子は円卓の向かい側に座る高山の顔を、まじまじと見つめた。その白い眼をものともせず、高山は続ける。
「その全裸おじさんはどこから来て、どこへ消えたのか……! ああ、僕もそんなミステリーな場面に遭遇したいですよ。でも実際そういう珍場面にはなかなか遭遇しませんけどね。でも、聖夜さんが見ていないなら、もしかしたら香夏子さんの見間違いかもしれませんよ?」
「あのね、どうやったら見間違うのよ?」
高山のからかうような口調に香夏子は気色ばんでムッとした。
「だって香夏子さんしか見ていないですし、他の人が騒いだ様子もないんでしょ? ……え? もしかして、そのおじさん、実は妖精さんだったとか!?」
「…………」
あまりにも突飛な発想だったので香夏子は口を半開きにしたまま絶句した。聖夜が顔を背けてフッと鼻で笑う。高山の脳内のほうがミステリーだと思ったが、そう発言すること自体がバカバカしいので香夏子は黙り込んだ。
そこに聖夜の咳払いが聞こえてきた。
「それで俺らがここに呼ばれたのは、高山くんの結婚式の打ち合わせという話だったよね?」
「あ、そうなんですよ。ものすごく贅沢なお願いなんですけれども、聖夜さんに僕と彼女のヘアスタイリングをお願いしたいな、と」
「いいよ」
聖夜はあっけなく承諾した。高山も拍子抜けしたのか、一瞬ポカンとしたが、すぐに「それじゃあこれが当日のスケジュールで」と式場から渡された予定表のコピーを聖夜に渡す。
それに目を通した聖夜は「わかった」と再度快諾し、高山に希望の髪型を訊ねたり、当日の衣装についてのメモを取り始めた。すっかり仕事モードに入った聖夜を香夏子は静かに眺める。真剣な目つきでメモ帳にペンを走らせる様子はあまり見慣れない光景だった。
その打ち合わせが終わる頃、店内が一際賑やかになった。
何事か、と香夏子が出入り口を振り返ると、黒地のチャイナドレスに身を包んで、髪を夜会巻きにした秀司の母親を先頭に、フォーマルな装いの集団が窓際の予約席に案内されるところだった。
香夏子は最後に入ってきた振袖姿の女性を見て、小さく声を上げる。
「あっ! 湊……」
その声で聖夜も窓際の予約席へ視線を移動させた。そしてすぐに高山を睨んだ。
「高山くん、このために打ち合わせを今日に設定しただろ?」
「別にお見合いの邪魔をしに来たわけじゃありませんよ。ただ、丹羽先生のお母様とお話したら、是非今日のこの時間に、と勧められたんです」
聖夜が大きなため息をつく。香夏子はこちらに背を向けて座っている湊の背中を黙って見つめた。
「ねぇ、カナ。相手の男性に見覚えない?」
「え?」
聖夜の言葉で初めて湊の見合い相手を注視する。
(あれ? そういえばどこかで会ったことあるかも……)
頭の中の記憶の引き出しを開いたり閉じたりしていると、急に高山が立ち上がった。ハッとして出入り口の方向を見る。
「先生、こっちです!」
香夏子は新たな客の姿を見て、今度は鋭く息を呑んだ。
「秀司……」
聖夜が困惑気味に新たな客の名を呼ぶ。
香夏子たちのテーブルまでやって来た秀司は、聖夜を見下ろして言った。
「俺が来るとマズいことでもあるのか?」
「ないよ。でも、非常にマズい事態に発展する可能性は否めない」
「なんだ、それは?」
秀司は小バカにするような目で聖夜を見ながら、席に着いた。
突然香夏子の心臓はバクバクと激しく鳴り始めた。聖夜の予言どおり、何か非常にマズいことが起こりそうな気がするのだ。
「カナ、どうした? 変な顔をして」
「いつもこんな顔なんだけど」
湊ばかりでなく自分の母親が同じ店内にいることに、秀司はまだ気がついていないらしい。悟られないように、香夏子は笑みを浮かべようとしたが、少し不自然になってしまった。秀司がドリンクメニューに視線を落とした隙に、香夏子は思い切り高山を睨みつけた。しかしそれを高山は涼しげな笑顔で受け流す。
「早速お願いなんですが、先生、僕の結婚式でも挨拶してくれませんか?」
「それはかまわないが、ただそれを言うためだけに俺をここへ呼んだわけじゃないだろうな?」
「勿論、先生にはそれだけのために来ていただいたんですけど。ついでに幼馴染の聖夜さんと香夏子さんに会えて、美味しい中華料理も食べることができて、先生にとっては最高の一日じゃありませんか!?」
「……最悪だ。俺は忙しい。帰る」
「どこに帰る気ですか?」
急に高山の声が低くなった。秀司が改めて高山の顔を正面から見据えた。
ちょうど秀司の真向かいの席に座る香夏子は、秀司の向こう側に湊の背中が見えるのだが、窓際の席では和やかに会食が進んでいる様子だった。
(どうする?)
香夏子は聖夜の横顔を見る。
だが聖夜は我関せずとばかりに、円卓の回転テーブルを回して料理を取り分けていた。聖夜が皿を自分の前に置くと、今度は秀司がテーブルを回す。
「俺がどこに帰ろうが、高山くんには関係ないことだ。それより今度の研究発表の準備はできたのか?」
「当然できてますよ」
普段からなごやかとは言い難い師弟関係なのだが、高山の刺々しい口調で空気が一気にピリピリとしたものへ変化した。
何か言わなければならない、という強迫観念にとらわれた香夏子は、もごもごと口を開く。口が渇いて言葉がすんなりと出てこない。
「あの、二人ともどうしたの? 別にそこまで険悪になるような話題じゃないでしょ」
隣で聖夜がクスッと笑った。
(笑うところじゃないでしょ! 私が一生懸命この空気を修復しようと思っているのに)
香夏子は唇を尖らせて聖夜を見る。
「俺はどうもしていない。どうかしているのは高山くんだ」
真正面から秀司の視線が香夏子を射る。確かに秀司の表情はいつもどおりだ。
「それは……」と香夏子が口ごもると、秀司は畳み掛けるように言った。
「それだけじゃない。カナも聖夜も変だ。お前ら、何か隠していないか?」
「別に、何も。見たままだよ。俺も、カナも、高山くんも、……湊さんも」
それまで黙っていた聖夜が突然割り込んできた。
秀司は眼鏡の奥で目を大きくする。
「……湊?」
そして誰に言われたわけでもないのに、ゆっくりと振り返った。
(ああ……!)
香夏子は目をつぶった。
ガタッと音がして、向かい側で人が動く気配を感じる。目を開けると、秀司が椅子から立ち上がっていた。
「あれは……何をしている?」
「お見合いだよ」
聖夜がため息混じりに言った。
「見合い? ……誰が?」
「見てのとおり、湊さんとその向かい側に座っている40代の加齢臭オヤジがお見合いしているんですよ」
今度は高山が嫌悪感丸出しの声を出す。
「……なぜ?」
やっと聞き取れるほどのか細い声だった。秀司の視線は窓際のテーブルへ固定されたままだ。
湊が見合いをしているという事実が、秀司をこれほどまで打ちのめすとは、香夏子にとっても想定外のことで驚きのあまり唖然とする。そして高山は秀司の挙動を注意深く観察し、聖夜は心配そうにほんの少し眉根を寄せていた。
しばらく固まっていた秀司が、ハッとしたように香夏子たちのテーブルをかえりみる。
それから戸惑った表情で静かに言った。
「あれは……俺の叔父だ」
「……へ?」
間の抜けた素っ頓狂な声を上げたのは高山だった。
香夏子と聖夜は同時に「あっ」と声を上げる。
(そうだ。見たことあるはずだよ)
盆や正月に秀司の家を訪問する彼の叔父を、近所の香夏子と聖夜が見かけていても不思議はない。だが顔に見覚えがある程度で、その人が秀司の叔父とは知らずにいた。それは聖夜も同じらしく、感慨深げに言う。
「叔父さん、ずいぶん若いね」
「あ、あの……あの方が、先生の叔父さん?」
顔面蒼白の高山が目をパチクリとさせる。師匠と仰ぐ秀司の叔父を「40代の加齢臭オヤジ」などと言い放った失礼をどうやって取り繕うつもりだろうか。
しかし秀司は高山の存在など微塵も意識していないようだった。大きく深呼吸すると窓際のテーブルへと視線を戻し、次の瞬間、背筋をピンと伸ばして歩き出した。
香夏子は聖夜と高山を見る。二人とも秀司の背中を見つめていた。
そしてついに秀司が湊の真横に到着した。
「湊、帰るぞ」
怒ったような声が店内に響く。
「あら、秀ちゃんじゃない!」
秀司の母親が中腰になって自分の息子に微笑みかけた。しかしその笑みは次の瞬間、まさに凍りついた。
「この、疫病神!」
近くで椅子がガタッと鳴る。高山が立ち上がっていた。
秀司が怒鳴った相手は、どうやら湊の見合い相手である自分の叔父に対してのようだ。高山は小走りで秀司に駆け寄った。
「先生、こんなところで……」
「どけ!」
呼び戻そうと高山が秀司の腕を引っ張ったが、秀司はそれを乱暴に振り払う。勢い余って転びそうになった高山を間一髪で聖夜が支えた。
さすがに香夏子も立ち上がっていた。
(ど、どうするの……!?)
他のテーブルの客の目が、窓際で勃発した騒動に釘付けになっている。とりあえずこの注目を散らしたいところだが、香夏子にできることはなさそうだ。
「甥から借金して、一年経ってもそれを返せないような男が、見合いだと!? 笑わせるな。湊、帰るぞ」
そう言い放つと秀司は湊の腕をつかんで立ち上がらせた。
「ま、待って。どういうこと?」
湊は秀司の顔を見上げ、それから秀司の母親を見る。孫がいてもおかしくない年代だというのに、同性の香夏子ですらドキッとするほど美しい秀司の母親の顔からは完全に血の気が引いていた。
「すいません!」
香夏子は咄嗟に手を挙げて店員を呼び、個室を借りることができないかと談判した。店員もこの状態を異常事態と判断したのか、すぐに一同を開いている部屋へ誘導した。
「どうして最初から個室を予約しなかったんですか?」
聖夜の冷静な言葉で、全員の視線が秀司の母親に集中する。
「別にこそこそする必要はないでしょ。お見合いだなんて、そんな堅苦しいことをするつもりじゃなかったの」
秀司の母親は開き直ったらしく、笑みを浮かべて言う。
「それに秀ちゃんが来るなんて思わなかったし、ましてや突然お見合いをぶち壊すなんて誰が想像できるかしら?」
(……どうだろう?)
香夏子は訝しく思う。聖夜と目が合ったので、ほんの少し首を傾げてみせると、聖夜も眉を上げて応じた。
円卓の上には二つのテーブルから持ち寄った料理が載っているが、全員突っ立ったままで、言葉を発する者もいなかった。
気まずい静寂を破ったのは、やはりこの非常にマズイ事態を引き起こした秀司だった。
「とにかくこの丹羽家の疫病神を連れて帰れ。耳をそろえて全額返済できる日まで俺の前に姿を見せるな!」
「秀ちゃん! マサノリさんに向かって失礼よ」
「失礼? 甥にまで借金するような情けない男に礼など不要。いいから帰れ!」
そう言い切ると秀司は自分の母親と叔父の背を押して個室の外へと出て行き、自分だけが戻ってきてドアをバンと閉じた。そのままドアの前に仁王立ちして高山を睨みつける。
「高山くん」
「は、はい! 失礼なことを言って申し訳ありません!」
「そうじゃない。なぜ重要なことを先に言わないんだ」
秀司が怒気を含んだ声でそう言うと、振袖姿の湊が高山を庇うように彼の前に立った。
「悪いのは高山くんじゃないよ。高山くんもお見合い相手までは知らなかったんだから」
「だが、今日が湊の見合いの日だということは知っていたんだろう?」
これには湊も沈黙してしまった。
しばらくして高山がポツリと言う。
「だって事前にお見合いのことを伝えたら、先生は来てくれなかったでしょう?」
今度は秀司が険しい表情になる番だった。
聖夜が「まぁ」と割り込んだ。
「疫病神ってどういうことか説明してよ」
その言葉で場の緊張が解けたようだ。湊が「とりあえず座ろうか」と全員に声を掛ける。香夏子は一番近い椅子に腰を下ろし、ようやく一息ついた。
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