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調整と報酬
第127話 焦燥*
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時は遡る。ここは王国の薄暗いの会議室。初老に達した4、5人の魔導師が集まっていた。古びたフラスコと書籍がここは魔導師ギルドだと主張していた。日中だというのに暗幕を掲げ、魔導具の明かりが会議室を照らす。朝からの会議の話題は依頼者からの返答の手紙だった。これを入手するのに数回に分け、依頼者に質問の文書を送付していた。相手は辺境。その返事は当然のごとく遅くなっていた。ようやく待ちわびた文が届いたのだ。
######
シュヴァイツェル様
辺境は魔物の氾濫期を迎え、領内は立て込んでおります。数回に渡るご依頼を頂き、遅筆なことお詫び申し上げます。上記の件により、まとめての返事となることご了承頂きたく存じます。ご依頼内容の長期保管のポーションの王宮への献上についてです。長期保管が可能な磁器瓶を開発した者は、パラケル門下の弟子のようです。戦略物資のポーションの確保と備蓄に有用な技術として開発されたようです。貴族家の後押しもあり、マルガリタという商会を設立したようです。
知る限り発案者と発起人は、共に当ギルド前任者。出資者筆頭はパール家。個人の他、都市3ギルドが賛同し出資しております。貴族家の肝いりの事業として運営が開始されました。公表している主幹事業はポーションと磁器の製造となります。令としては、ギルド前任者が代表人となるため問えません。我がギルドと業務が重なることから、存続も危ぶむ事態ともなりました。ゆえに当初は事業について反発をし、競合する手段をとることを考えておりました。
しかしながら、辺境は魔物による氾濫の危険性があります。城郭都市は一丸となってこの問題に立ち向かう必要性があるでしょう。貴族による戦略物資の管理も必要との意見もわかります。我がギルドは大局を見据え、不本意ながら受け入れる決断を致しました。それほどマルガリタ商会の技術は革新的なものだったのです。受け入れた我がギルドの技術は明らかに向上しました。結果、ハイポーションの製造ができるようになるまでに至ったのはギルド長として喜びに堪えません。王国内にて4番目のハイポーションの製造拠点として供給する運びとなりましたこと、対面に変えて報告申し上げます。
ウィザーリング
######
「判断を誤りよって!体よく権利がはく奪されているではないか!」
魔術ギルド総長シュヴァイツェルは激怒する。ポーションの利権のはく奪。辺境とはいえ、王国の一部。少しずつ崩れることは組織の揺らぎとなってしまうことを危惧していた。総長はギルドの権威が失墜がすることを恐れている。
「由々しき問題ですな。そのマルガリタ商会とやらにポーションの製造利権が取り上げられている」
副ギルド長は今回の問題性を指摘する。
「このマルガリタ商会は問題だ。城郭都市ギルドの前任者と言えばパラケルではないか!あ奴はこちらの都合など全く考慮に入れぬ。長期保管が実現してしまえば、常時作成することも必要無くなる。定期的な買い替え需要もなくなる。収入が減ってしまうことは、我がギルドの発言力の低下となる。魔導師なら少し考えればわかるだろう!」
「追って報告させましょう」
「辺境とのやり取りはやきもきするな。手紙一つとっても早馬を往復させても10日はかかる」
「総長。どっしりと構えておきましょう。相手はしょせん辺境ですから」
######
ベンベルク城郭都市 魔導師ギルド長 ウィザーリング殿
ハイポーションの製造拠点が増えることは、大変めでたいことだ。仲間として誇りに思う。王国内の供給均衡を崩さぬよう、細心の注意を払い、製造することを切に願う。背景にいるマルガリタ商会の詳細を早期に報告をして頂きたい。商人ギルド経由にて特財局に複数件のポーション関連の出願が見られたのだ。
別件にて"正位"アクティフォーリア様が御神託を賜ったようだ。巫女へ御言葉を伝えられ、王宮に早馬で伝達がなされた。王宮でも情報が錯綜している。[界上の賜物]がパール領内で発見されたとの噂もある。可能なかぎり詳細を求む。
シュヴァイツェル
######
5日後、同ギルドの会議の場。
「[界上の賜物]についての続報だ。パール家当主トーマス辺境伯より[界上の賜物]の保護がなされたとの王宮会議での報告があった。先日、辺境の騎士が王宮に封書を持参してきたらしい。現在、[界上の賜物]は領内に在籍している。パール家の保護下におき、チャームを配し遇しているので、干渉は慎むように伯からの通達が来ている」
「また辺境からか!」
「今回の件、パール家はずいぶんと先手を取っていますね。波風を立てぬよう王宮への配慮もある。背後で立案している者がいると思われます」
「すぐに思いつくのは学院出の『三重の魔』の連中ですね。クリスティーヌ、エリス、パラケルの3人組だ。奴らはパール家と一体となっている」
「おそらくクリスティーヌだろう。あの妖女の手口に近しい」
さらに5日後、同ギルドの会議の場。ウィザーリングより封書が届く。
######
シュヴァイツェル様
[界上の賜物]の保護は無事に完了しております。パール家の保護下に置き、慎重に行方を見守る方針と聞いております。その者は商家出身にて、商人ギルド長の配下だとか。パラケルの思惑と教育を受けているともこちらでは入手しています。ポーション瓶の改良から、保存瓶の開発、ハイポーションの作成と、一連の流れはパラケルとの共同開発のようです。マルガリタ商会はこれらの技術を基に設立されたとか。我がギルドも活気ができ、自由に采配できることのすばらしさに感動しております。
ウィザーリング
######
「ええい!そういうことではないのだ!一連の出願もこやつらの仕業か!全く余計なことをしよって。魔導師ギルドに恨みでもあるのか?」
「強力な競合者となりそうですね。手紙を見る限り、ウィザーリングも取り込まれたとみて良いでしょう」
「まずいな。向こうは魔導具師としての第一人者のパラケル。革新な技術を持つ[界上の賜物]か。連携されると厄介極まりない」
さらに5日後追ってきたように議場に手紙が届く。
######
魔導師ギルド総長シュヴァイツェル殿
[界上の賜物]の身元が割れました。商家出身の12歳の少年です。城郭都市商人ギルド長の孫とのこと。名前はレッド・ベルナル。学院[ボローニア・アカシア]へ来季から入学予定です。鎮守の森の"主"位テトラフィーラ様とエルフの族長ヒスビートゥス、パール家からトーマス様、先代辺境伯のホフマン様。クリスティーヌ様。前相談役のパラケル。冒険者ギルド長のエリス女史まで。辺境爵位者と影響力のありそうな者の全員の推薦者を確保しています。入学は間違いないでしょう。入学枠は年齢からすると、異例の研究枠での試験に臨むこと、報告させて頂きます。
ベンベルク城郭都市 魔導師ギルド長 ウィザーリング
######
「くくく、思ったより若い小僧のようだな。のこのこと王都に来るとはな。今の学院長は誰だ?王都にいる間に、取り込むように采配するのだ」
「現在はミューラーですね。クリスティーヌ様とは懇意の間柄です」
「うぬ。あの妖女め。思いの他、友好関係が広いな。そちらの線では無理か。商家出身なら、貴族の方面から交渉できないか?」
「もうすでにパール家から配下を示すチャームを送られているとか。たしか通達がなされていると前回の会議にて報告がありましたね。慎重に対処したほうが良いと思われます」
「くそ、対策済みか。おい、貴様ら、何か案を考えておけ!」
総長の苛立ちは続く。既得権益を壊しかねないマルガリタ商会は脅威だ。魔導師ギルドはポーションの作成、供給を一手に担う。過去にも豊富な資金を背景にハイポーションの製造の芽をことごとくつぶしてきた。出る杭は打つ。少ない拠点でハイポーションを生産することで希少価値を高める。新しい技術とギルドの体制を揺さぶることは許さない。前例踏襲と現状維持。既存の組織の魔導師ギルドはそれを是とする組織だった。
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シュヴァイツェル様
辺境は魔物の氾濫期を迎え、領内は立て込んでおります。数回に渡るご依頼を頂き、遅筆なことお詫び申し上げます。上記の件により、まとめての返事となることご了承頂きたく存じます。ご依頼内容の長期保管のポーションの王宮への献上についてです。長期保管が可能な磁器瓶を開発した者は、パラケル門下の弟子のようです。戦略物資のポーションの確保と備蓄に有用な技術として開発されたようです。貴族家の後押しもあり、マルガリタという商会を設立したようです。
知る限り発案者と発起人は、共に当ギルド前任者。出資者筆頭はパール家。個人の他、都市3ギルドが賛同し出資しております。貴族家の肝いりの事業として運営が開始されました。公表している主幹事業はポーションと磁器の製造となります。令としては、ギルド前任者が代表人となるため問えません。我がギルドと業務が重なることから、存続も危ぶむ事態ともなりました。ゆえに当初は事業について反発をし、競合する手段をとることを考えておりました。
しかしながら、辺境は魔物による氾濫の危険性があります。城郭都市は一丸となってこの問題に立ち向かう必要性があるでしょう。貴族による戦略物資の管理も必要との意見もわかります。我がギルドは大局を見据え、不本意ながら受け入れる決断を致しました。それほどマルガリタ商会の技術は革新的なものだったのです。受け入れた我がギルドの技術は明らかに向上しました。結果、ハイポーションの製造ができるようになるまでに至ったのはギルド長として喜びに堪えません。王国内にて4番目のハイポーションの製造拠点として供給する運びとなりましたこと、対面に変えて報告申し上げます。
ウィザーリング
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「判断を誤りよって!体よく権利がはく奪されているではないか!」
魔術ギルド総長シュヴァイツェルは激怒する。ポーションの利権のはく奪。辺境とはいえ、王国の一部。少しずつ崩れることは組織の揺らぎとなってしまうことを危惧していた。総長はギルドの権威が失墜がすることを恐れている。
「由々しき問題ですな。そのマルガリタ商会とやらにポーションの製造利権が取り上げられている」
副ギルド長は今回の問題性を指摘する。
「このマルガリタ商会は問題だ。城郭都市ギルドの前任者と言えばパラケルではないか!あ奴はこちらの都合など全く考慮に入れぬ。長期保管が実現してしまえば、常時作成することも必要無くなる。定期的な買い替え需要もなくなる。収入が減ってしまうことは、我がギルドの発言力の低下となる。魔導師なら少し考えればわかるだろう!」
「追って報告させましょう」
「辺境とのやり取りはやきもきするな。手紙一つとっても早馬を往復させても10日はかかる」
「総長。どっしりと構えておきましょう。相手はしょせん辺境ですから」
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ベンベルク城郭都市 魔導師ギルド長 ウィザーリング殿
ハイポーションの製造拠点が増えることは、大変めでたいことだ。仲間として誇りに思う。王国内の供給均衡を崩さぬよう、細心の注意を払い、製造することを切に願う。背景にいるマルガリタ商会の詳細を早期に報告をして頂きたい。商人ギルド経由にて特財局に複数件のポーション関連の出願が見られたのだ。
別件にて"正位"アクティフォーリア様が御神託を賜ったようだ。巫女へ御言葉を伝えられ、王宮に早馬で伝達がなされた。王宮でも情報が錯綜している。[界上の賜物]がパール領内で発見されたとの噂もある。可能なかぎり詳細を求む。
シュヴァイツェル
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5日後、同ギルドの会議の場。
「[界上の賜物]についての続報だ。パール家当主トーマス辺境伯より[界上の賜物]の保護がなされたとの王宮会議での報告があった。先日、辺境の騎士が王宮に封書を持参してきたらしい。現在、[界上の賜物]は領内に在籍している。パール家の保護下におき、チャームを配し遇しているので、干渉は慎むように伯からの通達が来ている」
「また辺境からか!」
「今回の件、パール家はずいぶんと先手を取っていますね。波風を立てぬよう王宮への配慮もある。背後で立案している者がいると思われます」
「すぐに思いつくのは学院出の『三重の魔』の連中ですね。クリスティーヌ、エリス、パラケルの3人組だ。奴らはパール家と一体となっている」
「おそらくクリスティーヌだろう。あの妖女の手口に近しい」
さらに5日後、同ギルドの会議の場。ウィザーリングより封書が届く。
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シュヴァイツェル様
[界上の賜物]の保護は無事に完了しております。パール家の保護下に置き、慎重に行方を見守る方針と聞いております。その者は商家出身にて、商人ギルド長の配下だとか。パラケルの思惑と教育を受けているともこちらでは入手しています。ポーション瓶の改良から、保存瓶の開発、ハイポーションの作成と、一連の流れはパラケルとの共同開発のようです。マルガリタ商会はこれらの技術を基に設立されたとか。我がギルドも活気ができ、自由に采配できることのすばらしさに感動しております。
ウィザーリング
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「ええい!そういうことではないのだ!一連の出願もこやつらの仕業か!全く余計なことをしよって。魔導師ギルドに恨みでもあるのか?」
「強力な競合者となりそうですね。手紙を見る限り、ウィザーリングも取り込まれたとみて良いでしょう」
「まずいな。向こうは魔導具師としての第一人者のパラケル。革新な技術を持つ[界上の賜物]か。連携されると厄介極まりない」
さらに5日後追ってきたように議場に手紙が届く。
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魔導師ギルド総長シュヴァイツェル殿
[界上の賜物]の身元が割れました。商家出身の12歳の少年です。城郭都市商人ギルド長の孫とのこと。名前はレッド・ベルナル。学院[ボローニア・アカシア]へ来季から入学予定です。鎮守の森の"主"位テトラフィーラ様とエルフの族長ヒスビートゥス、パール家からトーマス様、先代辺境伯のホフマン様。クリスティーヌ様。前相談役のパラケル。冒険者ギルド長のエリス女史まで。辺境爵位者と影響力のありそうな者の全員の推薦者を確保しています。入学は間違いないでしょう。入学枠は年齢からすると、異例の研究枠での試験に臨むこと、報告させて頂きます。
ベンベルク城郭都市 魔導師ギルド長 ウィザーリング
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「くくく、思ったより若い小僧のようだな。のこのこと王都に来るとはな。今の学院長は誰だ?王都にいる間に、取り込むように采配するのだ」
「現在はミューラーですね。クリスティーヌ様とは懇意の間柄です」
「うぬ。あの妖女め。思いの他、友好関係が広いな。そちらの線では無理か。商家出身なら、貴族の方面から交渉できないか?」
「もうすでにパール家から配下を示すチャームを送られているとか。たしか通達がなされていると前回の会議にて報告がありましたね。慎重に対処したほうが良いと思われます」
「くそ、対策済みか。おい、貴様ら、何か案を考えておけ!」
総長の苛立ちは続く。既得権益を壊しかねないマルガリタ商会は脅威だ。魔導師ギルドはポーションの作成、供給を一手に担う。過去にも豊富な資金を背景にハイポーションの製造の芽をことごとくつぶしてきた。出る杭は打つ。少ない拠点でハイポーションを生産することで希少価値を高める。新しい技術とギルドの体制を揺さぶることは許さない。前例踏襲と現状維持。既存の組織の魔導師ギルドはそれを是とする組織だった。
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