巻き込まれた薬師の日常

白髭

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鎮守と毒性

第124話 特化

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「小僧。そんな杖を持っていたのか?アイテムボックスから出してどうするのだ?」

 パラケルからの問いかけで、はっと気付く。体中の魔力回路の痛みが激しい。エルフさん達の食を見届けた後、気を失ったはずだ。時間は全く経過していないようだ。先ほどまで白い空間に引き込まれていた。創造神様と話しをした後、こちらに意識が戻ってきたようだ。[ヒュギエイアの杯]は創造神の御力を借りたテトラフィーラ様が作成したものだ。向こうで手にしたまま、こちらに戻ってきている。右手にお玉、左手に杖を持った、不思議な状態だ。

「これですね。すみません。アイテムボックスから間違えて出したみたいです」
 すぐにアイテムボックスに戻し、グラスを出す。近くにあった水差しから水を注ぐ。そのままグイっと一杯。ようやく気分が落ち着いてきた。
「レッド君。もうそろそろお代わりの人が出てくるわ。またナーネを焼き始めるわよ!」
ファミトリアさんが声をかけてくる。
「はい、了解です。それではパラケル爺さんまたあとで」
 それからは、ナーネをただひたすら整形して、窯で焼きを繰り返した。メディカターリが尽きるまで続いていった。
「これで最後です。あれだけあったターリがすべて食べつくされるとは」
「だから言ったでしょう? 暴力的な匂いが食欲をそそる。一口食べるたびに食欲が増していくの。体の中が欲している感じなの。こうなることを予想して多めにしていてよかったわ。こうも食べきるとは思わなかったけど」

 台所でフォミトリアさんと会話していると族長が主様、エリス様とパラケル爺さんを引き連れて入ってきた。
「レッド少年。ここにいたか。ターリは美味であった。魂を揺さぶる料理だった。里のエルフも同じだったみたいだぞ。無言で涙している人が大勢だ。我も不覚にもまた涙してしまった。本当に感謝する」
「族長、鑑定はされたのですか? ワシはその美味しさだけでなく、その効果に驚愕したのだぞ」

「いや。フォミトリアとレッドが食したとして、特にしていなかったが・・・」
「今回食したメディカターリは、料理だけでなく薬としても作用している。鑑定では薬膳料理と言うらしい。胃腸修復効果60のハイポーション級だぞ? 飲料すると体全体に広がるハイポーションに対して、胃腸への集中効果のようだ。里のエルフにとっては、まさに特効薬みたいだろう?」
 なんでも自分の作ったものはすぐに鑑定してしまう、さすがのパラケル爺さんだ。気づいていたか。
「私も鑑定してそれを感じました。一口食べる毎に胃腸が元気になっていくと感じて・・・最後はナーネでお皿をぬぐい取って、夢中で食べてしまいました。今は血行もよくなり体が軽いです。心持ちか、気分も晴々している気がします。ポーションを飲むよりすがすがしい気分です」
 最初に食べたフォミトリアさん。そういえば夢中で食べていましたね。
「確かに、胃腸は軽くなったわね。ここ最近里に戻る機会がさほどなかったとは言え、傷んでいたということかしら?」
「そうだと思うぞ。治療の方向性を持たせることで胃腸の修復に集中している。同じ品格のものでも特殊な力を持たせることができそうだな。これは面白い。ポーションの万能性に頼り切っていた。すべてを治すこと良いことだと思っていた。それを特化させると効果を集中させることができる。これは面白い。魔道具ばかり関心を持っていたが、治療薬も面白いな、小僧」
「はい。今回の件で、広く浅く効果を及ぼすより、狭く特化させること。これが自分に課せられた使命だといっそう感じました。サナーレウンゲンや今回のメディカターレで知ることができました。これは非常に大きな収穫です」
 ちらりと、テトラフィーラ様と目を合わす。創造主様に会ったことは伏せる方向で話を進めること・・・であっているようだ。

「するとレッドは、この鎮守の森のエルフのために、主食の改善を進めながら、別の案を考え実行までしてくれたのか。里の者全員の体調を案じ、回復させることを目標に。族長として感謝の言葉しかでない。里を代表としてお礼を申し上げる」
 族長は、深々と頭を下げる。フォミトリアさん、エリス様も深々とこちらに礼をしていた。
「いいですから。もういいですから。皆さん、頭を上げてください」
「里の者すべてにとって、お主には感謝の言葉しかない。主食の改善の御礼も全て終わっていないのに、メディカターレのお礼はどうすればよいのだ?このままお主を帰らせてしまっては、エルフの矜持が保てぬ」
「それなら、鎮守の森に定住した時のように、里から一人出してはどうだ?」
 
「それなら、私の娘のリンネを従者に遣わせたらいかがでしょう。里で一番若いですし、私に似たのか料理と家事全般はできますわ。何しろエリス様にあこがれて外の世界を見てみたいと前から言っていましたから。一緒に料理を作ってレッド君の人柄は分かりましたから、ここで託してみても親としては問題ありません」
 フォミトリアさんからの思いがけない提案だ。随分と体調も良くなり活発に話すようになった。
「たしか年回りも100歳を超えたばかりか。レッドの従者としてはちょうどよいが・・・」
「いいのか?里の貴重な若者だぞ」
 パラケルが案じて、ヒト族代表として意見をする。
「いいのです。主食の改善も出来、エルフの体も皆回復できた。これから新しい命が生まれてくることでしょう。新たな御子が生まれる前に次の世代の代表として、外の世界を見てきてもらってもよい経験となるに違いありません。少しお待ちください。リンネを連れてまいります」
「本当にいいのか?エルフ族から二名出すことになるが・・・」

 しばらくするとフォミトリアが自分の娘と思わしき少女を連れてきた。
「リンネと申します。族長様、よろしいのでしょうか。私は前から願っていましたけど、本当に私で」
 リンネといわれる少女は妹のマリンと同世代位の年回りに見える。美形な少女と言った面持ちだ。背格好は自分より少し低いくらい。ダボっとした麻で作ったエルフの平服を着ている。100歳を超えているがエルフの成長は遅い。まだ少女時代なのだろう。
「これから、レッド少年は学院とやらに行くそうだ。その時にレッドの従者としてふるまう必要がある。できるか?」
「はい、母様と一緒に料理を作っていた少年ですよね。大丈夫だと思います。外の世界に行かせてください」
「それでは、族長として命じる。レッド少年に付き、従者として使命を全うしろ」
「拝命しました。レッド様、これからよろしくお願いします」
 準備がありますのでひとまずこれで、とフォミトリアとリンネが席を外す。

「パラケルよ。他に良い人選はいないか?」
 テトラフィーラ様がパラケルに今後を見越して相談をかける。
「それなら、ヒト族のパール家に相談すればよろしいかと。向こうにもレッド少年は貸しを作っています。そのパール家の報酬は学院への招待。これに関しては私も賛同させていただきました。留学費用はパール家持ちで送り出す計画となりそうです。道中にてレッド自らが気の合う人物と会うのがよろしいでしょう。金銭目当てでの人選はあてにはできません」
「なるほどな。ではより良い条件となるようにパール家に文をしたためておくとしよう。族長も頼むぞ」
「は。了解しました」

 学院への移動は前から言われていたこと。ローセアに続き、エルフのリンネが従者としてつくことになった。

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