巻き込まれた薬師の日常

白髭

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蒸留と羊油

第56話 修練

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 父親が帰ってきてから2、3日後、パラケル爺さんがホーミィー村に帰ってきた。魔導師ダミアンと護衛騎士共々だ。
「ダミアン、御苦労。相談役に荷物運びまでをしてもらって済まぬな。作業所の裏手の小屋に入れてくれ」
「ああ、あそこですね」
 ダミアンは護衛の騎士を引き連れ、アイテムボックスに収納した陶石を小屋に入れる。パラケル爺さんと合わせると馬車1台分くらいとなる。ダミアンたちは爺さんに一礼して帰っていく。

「レッドよ、店番ありがとな。魔術の修練は進んでいるか?」
「4属性と合わせて光と闇それぞれ取得済みです。闇は覚えましたが、イメージが難しいのでゆっくりですね」
「闇まで覚えるとアイテムボックスも広大になるな。ますます商人として働けるようになる。まあ、魔術師のほうが適性はありそうだが」
「どうでしょうか?比べる先がパラケル爺さんなのでわかりません」
「まあ、いいだろう。この話は両親と一緒にすることだな」
「店のいない間の報告です。お客さんは来ませんでした。経営大丈夫ですか?」
「ん?ああ、ほとんどが受注生産だからな。貴族からの依頼がほとんどだから心配はいらぬ」
「自分が外出した場合は、ベルナル商店に行くようにドアに札を貼っていました。日中は作業所をお借りしていました」
 留守の間の報告をする。まったく来なくて問題ないとは・・経営が成り立つのか疑問だ。

「周囲に香水の香りがしてくると報告を受けているぞ。還流装置でも使用したか?」
「はい。還流ではなく、蒸留できるように組み直して抽出していました」
「あたりに匂いが回ってくるほどだ。随分と留守中にしでかしたものだ。何かしら成果は出たのか?」
「川のそばにメンタがたくさんありましたので、メンタオイルを取りました。妹らと採取をしまして」
「だからメンタの香りがしてくる噂がながれてきたのだな」
「近くにブラックメンタもあったので、蒸留しました。ポーション瓶に入れたら濃縮魔力ポーションと出ましたよ」
「なんと! 濃縮魔力ポーションとは! 現物はあるのか」
 はい、これです、とアイテムボックスから出して爺さんに渡す。うーんと唸っている。
「・・・ほんとうに10倍濃縮魔力ポーションだ。ハイポーションの原料ではないか!」
 【物質鑑定】をしたようだ。濃縮ポーションはハイポーションの原料というのは既知情報のようだ。たしか瓶で入れた状態ではハイポーションの用語は出ない。
「まさかアルテミも?濃縮ポーションがあるとか?」
「よくわかりましたね。まだ検証していません。濃縮ポーションの安定性の試験を優先しました」
「・・・そうか。まさかギルド秘匿の技術がここで見れるとは・・・検証はこれからか・・・」
 パラケル爺さんはニヤリと笑う。検証が残っていることに満足したようだ。
「これが不在時にできた検証結果です」
 メンタ、アルテミの熱水抽出からの蒸留。水蒸気蒸留からの各液の品質。希釈した後の鑑定結果。魔力を使用する場面を検証した。抽出方法を変えたので魔力は最小限にして特級品を確保できた。等級は上がっている一方で、収率は1/2となってしまう。オイル、ウォータの二つの分画に魔素が別れるためだ。分画したオイルにも薬効があることが鑑定から判明した。これは化粧品などに応用が可能とみている。それぞれの成果物は魔素の特性から磁器瓶にて保存できると思われた。瓶での保存期間は遮光試験にて検証中だが間違いなさそうだ。

「特級が魔導師無しで作れるだと!」
「まだ水の清浄度が足りないので全ては無理です。スライム浄水を使用しても作成もしましたが、特級には及びません」
「スライム浄水?」
「今まで川の水を魔力操作して不純物を除いていますよね。不純物を無くせば等級を上げられるではありませんか。ポーションのときもしていたでしょう?水の精製度を段階的に上げられるよう、スライムのなんでも食べる働き貪食作用を利用しました。スライムを利用して不純物を無くすのです。不浄なものはスライムを使用して綺麗にしていますよね? その作用を逆に利用しました」
「試作品は?」
「陶器で水を使うので、陶芸場に設置しましたよ。陶器で使用するには今の品質で十分です。ポーション作成には水をさらに綺麗に磨く必要がありますね。生きているスライムではここまでが限界です」
「水を磨く?」
「あ、はい。鉱石を磨いて不純なものを除くように、水も綺麗に磨く必要があるかな、と。水を蒸発すると白く残っているものがありますよね。まだ魔力で分離させる必要があります。水に溶け込んでいるものは生きているスライムでは無理でした。スライム浄水を使用することで魔力の節約はできます。白く残るものがある以上、もう少し除きたいですね。生きているスライムで無理なら、死んだものならと着想しています」
「どういうことだ?」
「死んだスライムでもいろいろ吸着することが手掛かりとなりました。スポンジとしていろいろ汚れを取りますよね?」
「核を抜いたスライムの用途の一つだな。ベルナル商店でも売っているからな」
「そうですね。核を抜いたスライムを乾燥して粉砕しました。この状態の鑑定結果はスライム樹脂となっています。この粉はモノを吸着する性質があるようです。スライムが生きているときは吸着した栄養素を魔素で取捨していると予想しています。それならガラスの筒に詰めて、水を流せば水に溶けているものも吸着するのでは?と推測しています」
「なるほどな。これは仮説のみか。検証は後にして、まずは実物を見に行くか」

 陶芸場に二人で出向く。水タンクと共に魔法陣を眺め、一息つく。
「はあ、目を離した隙にやりたい放題したな。もう出来上がっているではないか。ポーション作りに魔導師ギルドが参加してつくづく良かったと思うぞ。これを奴らが見たら卒倒するに違いない。俺らを潰しにかかっている、とな。」

 しばらくの間、村の各所にタンク用の容器を作成することになったのは当然の結果だった。
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