巻き込まれた薬師の日常

修練と改良

第14話 魔力

　魔力的な効果で自己治癒力を補完しているなら？　植物の薬効と重なるように抽出操作をすれば、より効果のあるポーションができるのではないか？毒の効果が魔力で増強しているなら？毒の作用を持つ物質と魔力の相乗効果でより強力な毒ができるのでは無いか？

　薬と毒は紙一重。慎重に判断が必要だろう。より効果が有るとすれば扱いは慎重さが必要だ。ある程度、魔力の性質が掴めたときに、パラケル爺さんに相談する必要があるだろう。

　むこうから持ち込んだと思われる【スキル】薬:”{P{{_  も気になる。12歳相当な動きをして、周囲に溶け込みをすることが第1の目標だ。自重だ。魔術とスキルを伸ばすことに力を注ぐことを考えよう。突出した能力は身を滅ぼしかねない。

　午前中の家業のお勤めが終わり、宣言通り、魔導具店での仕事、もとい魔術の授業が開始される。こんな田舎の店だ。さらに魔導具など月に1個、2個売れれば良しとする店だから、ほぼ集中して教授されると予想している。爺さんの暇つぶしの相手、話の相手、茶飲み相手として、両親から宛てられたように感じなくはない。

　パラケル爺さんの話が始まった。最初は講義のようだ。
　「お前も知っているように、全ての人間は魔力機関を持っている。お前にも当然心臓の近くに魔力機関がある。魔力機関からは、体の隅々に血管を通じて魔力を行き渡らせている。体に血液を巡らす血管には層があり、魔力回路も重なっていることが最近の研究でわかってきた。魔力機関から魔素を引き出すこと、出てきた魔素を血管に通して制御し、放出するのが魔力操作だ。汗の管を通じて皮膚から放出することもできる。その個人の固有な波形を持った魔素を魔力と言い、働きと操作の方向性を持った魔力の結果を属性魔法と呼んでいる。剣士や騎士は体内で循環させ、力を増やす方法を編み出している」
　魔力機関！始めて聞く言葉だ！違うところに来たと改めて思う。血管に層がある。調べている研究機関があるとは。こちらでも調査、研究をするところがあるとは驚きだ。

　パラケル爺さんの話はさらに続く。
「7歳の時に行われた領主一族が使用する魔法は、肌身離さず持っていた石と魔力機関が細い糸のようなもので繋がっている関係を、さらに強化するものだ。具体的には儀式の時に外部から魔力を注ぐことで、魔力機関への回路を無理やりこじあける。その影響で、誰もが少しの魔力操作ができるようになっているのだ。初めは石を握っていないと魔力を動かせない。領主は儀式をすることで、人毎に魔力を染めた石を台座に登録する。個別の魔力登録を行うことで領の住民とするのだ。台座にて住民の戸籍として管理をしている。当然住民は税金を納め、領主は防衛・治安の維持の担当するのが役割となる」
　ここの民は流民となることなく、どこかの領地に縛り付けられるようだ。思ったより国の統制が取れていることに驚く。

「まずは、体内にある魔力を感じて、それを循環するイメージをもて。すでに魔力操作はできるようになっているはずだ。今日は魔力が枯渇するまで、両手をあわせて循環させろ。使えるようになるには、魔力回路をより太くする必要がある。今の状態だと仕事にも練習にもならん」

　はい。今日からしばらくは、自主練で終わりそうです。

　心臓付近に違和感を生じていたのは魔力機関という臓器・組織のようだ。人体の構成はむこうと同じように感じる。この違和感を精査するかぎり、左脇腹付近のようだ。この場所は脾臓とみて間違いない。脾臓と言えば体の免疫と、血液のストック、赤血球を壊す役割があった。この世界は魔力機関を兼ねているのか、組織が肥大化しているように感じる。

　血管には内皮細胞と血管平滑筋がある。魔力機関を通じ、魔力回路で魔力を循環させると爺さんは言っていた。血管の層の平滑筋が魔力回路を兼ねているものと予想した。魔力制御ということは、この平滑筋肉に流れる、魔素・魔力を動かす方指すらしい。

　平滑筋というならば、同じ筋肉の分類の骨格筋も魔素の通りの適応とされるのではなかろうか？　爺さんによると騎士、剣士は魔力を力に変換させている。魔力回路として血管の平滑筋だけでなく、同じ筋肉の骨格筋にも存在しているとみて良さそうだ。想像を膨らますと筋肉を支配する神経にも魔力回路は通っているかもしれない。鍛えれば鍛えるほど魔力の流れがよくなるとパラケル爺さんは言っていた。まるで筋肉トレーニングのようだ。前は神経は鍛えることはできなかったが、考えによっては能力向上も期待できそうだ。

　これは常識に問わられず、あらゆる限りの魔力回路を通す訓練をした方がよいかもしれない。トレーニングが楽しみとなるとは、夢にも思わなかった。