離婚活

詩織

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「は?」

「だから、離婚してほしいんだ」

ちょっと待ってよ!

数日前までショピングモールで一緒に買い物してたじゃん!

「出ていってほしいんだ」

「な、な、どういうこと!?」

何も理由も言わない。ただ離婚と出ていけ!それだけを言われた。

中田麻衣なかたまい、38歳。結婚して10年、子供が出来れば仕事を辞めようとしてた衣料品の企画の仕事。

結局子宝に恵まれず、ずっと勤続中。そして課長にまでなっている。

中田勇斗なかたはやと、40歳。同僚の合コンで知り合い、2年の交際をして結婚した。

「説明して!離婚、出ていけ!って勝手すぎない!?」

「もう、君を女と見れないんだ。」

心に突き刺さる。

「どういうこと?」

「悪いが、出ていってほしい」

話が纏まらないので後日話そうとしたら、私の荷物を業者が整理して、会社から帰ったときは私の私物は1つもなくなっていた。

「引っ越し業者の人が君の荷物を預かってくれてるので、引越し先を言えば運んでくれるから」

そんな感じでほぼ強制的に追い出された。

数日はビジネスホテルに泊まったが、ここでおめおめと食い下がる私ではない。

「すいません…」

「はい!」

「ご相談よろしいでしょうか?」

弁護士無料相談のサイトを見つけて、ここにたどり着いた。

「はい!どうぞ!」

数人弁護士さんがいるようだが、順番で私は男性の弁護士さんが相談を受けてくれることになった。

名刺を頂き、名前は山伏誠也やまぶしまさやと書いてあって、私より多分5歳近く若いかなという印象。

細身で眼鏡をかけてる。インテリなイメージ。

「実は…」

ここ一週間の出来事を話す。

ふむふむと話を聞いてくれた。

「そうですか…、それはびっくりなされたでしょう」

「…はい」

「中田さんは、どうされたいですか?」

「このまま終わりって納得いかないです」

「離婚調停されますか?」

「…はい」

まだ離婚届けにサインはしてない。

とはいっても、あんな人とはもうやり直したいとは思わない。所有者は旦那のだけど私だってあのマンションはお金を出してる。

そのへんを話し、後日また弁護士さんと会うことになった。

そして

「あー、ちょっと待ってくださいね。」

笹井ささいさん、田城たしろ君が出た部屋あるでしょう?いつまでになってる?」

「契約は3ヶ月先までです」

「うちの事務所で働いてた子が、家庭の事情で実家に帰ることになりましてね、あと3ヶ月先まで契約あるようなんで、それまで新しい部屋見つけながらお使いになるのはどうですか?」

「えっー!?」

まさかの…

「いいんですか?」

「はい、いいですよ」

いいんですか?とは言ったものの、そこまで甘えていいのかしら?

「家賃は、中田さんの方でお支払いはしてもらうので、そこまで考えなくてもいいかと」

「…はい。解りました。よろしくおねがいします」

短期だけど居住を確保できた。

ビジネスホテルはもう勘弁だっし、とりあえずはよかった。



別日、弁護士事務所に行き、離婚のそぶりが全くなかったこと、離婚に繋がる大きな理由は見当たらないことなどを話した。

「旦那さんが浮気とかそういうのも記憶にないですか?なんか様子が少し変わったとか…」

「…ないと思います。」

「そうですか…、では全く離婚の流れもなかったということですね?」

「はい」

「例えば休みの日に何処か行かれることとか何かありませんでしたか?旦那さんが別行動するような…」

別行動…

「会社は別々ですけど…、あとは…あっ!」

そうだ!

「週末はテニスしてました」

「テニスですか?」

「はい!同僚の人たちとテニスしてます。毎週末ではありませんが…、私も数回参加したことがあります」

「ほう」

「色んな人たちとやってるようです」

「色んな人たち?」

「はい!仕事のストレス発散で仕事仲間とはじめたとか…、初心者の方もいたりご夫婦、ご家族などで参加されてる方もいました。それで私も数回参加して…私は学生時代テニス部だったので少しは…」

「なるほど」

でもそのくらいかな。

他に気になることって…

「なので、他にそういう気になることはありませんが」

「…わかりました」

先生はそう言って話を終え

「中田さん、またお話しましょう。とりあえずこちらから旦那さんに離婚調停を言うことは伝えますので」

そう言ってその日は終わった。


しばらくは仕事の日々。そして休みの日は新居を捜す日々。

会社から5駅先の賃貸マンションをみつけて、来月そこに引っ越すことに決まった。

ちょうどそのとき、弁護士さんと話すことになり

「なんとか新居が決まりました。来月からそっちに引っ越します。色々ありがとうございました」

といって先生に頭を下げる。

「いやあよかったですね。」

と言って笑顔になった先生。

そして…

「中田さんにお話したいことがあります」

と、笑顏が消えた。

「旦那さんには2人お子さんがいます」

「…えっ!?」

「8歳と6歳のお子さんです」

「…ど、どういうことですか?」

山川紗栄子やまかわさえこさんをご存知ですか?」

山川紗栄子…?

どっかで聞いた気が…

「保険の…」

「あーー!!」

思い出した。保険会社の人だ。

確か主人の会社で保険を勧められて入ったんだった。

自宅にも数回来た記憶が…

「あ、あのまさか、その山川さんが…」

「…はい。2人授かってます」

そ、そんな…

「あと、衝撃をうけると思いますが…」

「ま、まだ何か?」

「例のテニスサークルはデマです」

「えっ?」

だって今まで何回か私参加してるのに

「今は結婚式でも招待する人がいなかったら、代行で友人のふりで出席するなんてことがあります」

「…えっ?まさか…」

「はい。おそらくそんな感じかと…多分山川さんと会ってたと思われます」







「私は、ずっと騙されてたの?」

「…」

私はずっと何を見てたんだろう?

あまりの衝撃に泣くことも出来ない。

「…ですので、慰謝料を頂く方向で…がんばりましょう!」

そか、慰謝料か…

まぁそうだよね。私ももう元の生活には戻ろうとは思わないので、結局はお金になるんだもんね

解ってはいたけど、それでも何ていうんだろう…、こんなにずっと近くにいたのに…、何も知らなさすぎて何を信じていいのか解らなかった。


そして、2ヶ月後

「相手方が和解金申し出ました」

新しい新居にもなれ、落ち着いたところだった。

和解金は1600万。

それが安いのか高いのか解らない。

夫と山川さんがトータルで出す金額。

悪いと思うから和解金。

向こうの弁護士さんがそうしたほうがいいと言ったのかもしれないけど、それでも向こうが悪いと思うから和解金に了承したんだし、これ以上しても仕方ないと思ったので私は離婚に同意した。


両親にも既に報告し言葉を失ってた。

あんなに仲良かった向こうの両親からは連絡はない。まぁ、仕方ないけど。


気づけば39歳。

これから再出発か…

仕事先ではずっと旧姓の松川まつかわで仕事してたので離婚したと報告しなければ解らないだろう。まぁ、総務とかは知られるだろうけど。

弁護士事務所の行って、深々とお礼をし

「まだまだこれからですよ!」

と先生は言ってくれた。

そうね…、まだまだこれからよね。



「はぁー」

久々に1人でバーにいる。

こんなおばさんに声をかける人もいないだろう。

カウンターでぼーとしながら飲んでいた。

「あれ?課長!?」

「えっ!?」

「ビックリしたー!1人ですか?」

後ろで声が聞こえ、振り向いたら梶木かじき君がいた。

以前企画部にいたが、今は営業部にいる。

歳は33~35位だったはず。スラリとしたスタイルが印象が強い。

「あっ、うん」

「そうなんですか!?なんか課長って家に帰って手料理とかして円満なイメージがあったので、こういう店にいるってちょっとビックリしました」

おっしゃる通り。結婚してたときは、そんな感じでした。

「梶木君は?誰かといるの?」

「あっはい!先輩2人と」

…てことは、同じ会社の人がいるってことか。この店は出るか

「実は課長代理になりましてね、さっきまで皆でお祝いしてくれてたんです。今3次会中です」

3次会って…

「そっか、課長代理か…、おめでとう!」

「ありがとうございます」

「先輩たち待ってるから、早く戻ってあげて」

「あっ、そうですね!よければ松川課長もご一緒に」

「あっ、ごめん。そろそろ帰るから、またね」

「そうですか…、わかりました」

そう言って私は店を後にした。



ここ2週間は仕事がピークで毎日遅い。

今の私には助かる。何かに集中したかった。

必死に仕事に没頭してるのが今は落ち着く。

「皆!今週はお疲れさん!なんとか企画のノルマを達成した!週末も出勤してた人も多かったし、疲れてるだろうから今日は定時前でも退社していいから、ゆっくり休んでくれ」

部長が皆に向かって一言言った。

それを聞いて、部署内では帰り支度をする人がちらほら。

「松川君、君もずっと休みなしだったから、今日は早く帰って旦那さんにご飯でも作ってあげたらどうかね?」

「…」

以前はそう言われて素直に従ってた。

「あっ、でもちょっと残処理あるのでそれだけしたら帰ります」

「そうか…、無理しないでな」

「はい」

残処理なんてあまりなかった。

1人が虚しく会社にいるだけ。

定時に会社を出て、そのまま自宅に帰るのもなーと考えていた。

「課長!」

振り向くとこの間バーであった梶木君がいた。

「今日も飲みに行くんですか?」

「…えっ?」

「いや、実は課長が1人で飲んでるのあれから数回見まして、もし1人ならご一緒したいと思いまして」

「えっー!?」

「なんでこんなに驚くんですか?」

いやだって、何でそうなるのよ!

それに店変えてたんだけどなー、見られてたってこと?

「あっ、1人飲みのが好きでした?」

「あっ、いやあの…」

「なら、大丈夫ですね!気に入ってる店あるんです!行きましょ!」

そう言ってほぼ強制的に引っ張られた?ように誘導された。

「…素敵」

周りは水族館のように、魚がいっぱい泳いでる。その中にバーがある。

こんな店あるんだ。

「女性と行くなら、こういうのがいいですよね?」

「女性って、おばさん相手に?」

「おばさんとか関係ないですよ!女性です」

周りをみればカップルが多い。

オススメのカクテルを出してくれて、それで乾杯をし

「課長とあまり飲むことなかったから嬉しいです」

「へ?」

「仕事終わると、家に一直線で帰ってたから、飲みに誘うのもね…」

「あっ」

確かに…、いつも仕事が終わったら買い物して家に一直線で帰っていた。

「最近息抜きですか?」

「…」

少し沈黙して

「…離婚したのよ」

「…えっ?」

ビックリした返事。そして…

「半分は驚きました。そして半分は何かあったんだと予測してました」

「…その予測はあってた?」

「別居くらいかなと思ったんですが…」

「離婚か…、そうですか。色々大変だったんですね」

「もう済んだことだから」

「じゃ、これから課長に声掛けていいですか?」

「は?」

「俺実は課長に憧れてたんです。こうやって飲みに行けるの嬉しい」

「憧れ?ちょ、ちょっと!憧れるものないわよ!」

「部下のフォローしっかりされてるし、俺のとき本当に迷惑ばかり…、課長は見捨てずずっと接してくれました」

「そんなの…」

「俺、課長をみて自分もいつかこうなりたい!って思いました」

素直に嬉しいな。そうやって思ってくれる人がいるなんて。

「あの…、課長は今は…、フリーですか?」

お互い5杯目くらいのカクテルを飲んだ頃、急に梶木君が言い出した。

「…フリーってか…」

バツイチ相手に…

「そんなこと聞いてどうするのよ」

「それは、もう…」

わたしの顔をみて

「課長を…口説き落としたい思ってるんですけど」

「…は?」

何言ってるの!?

「俺にとっては、課長は上司としても憧れだし、女性として理想なんで」

「な!何言ってるの?梶木君、飲みすぎ?」

「いえ、飲んでるけど、課長は既婚者だったんでずっと遠くから見る存在でした」

「…」

「これからアタックしてもいいですか?」

「ちょ、ちょと…」

「年下の俺じゃ相手されませんか?」

「そ、そういうことじゃないの!この年で急に1人になったし、そりゃ…色々考えるけど、でもわざわざバツイチじゃなくてもいいでしょう?」

「課長、バツイチなんて特殊じゃないですよ!今は」

「そりゃそうだけど、梶木君は若いし、モテそうだから無理に私じゃなくても…」

「俺モテる男に見えるんですか?嬉しいかも…、前までは恋人もいましたよ!結婚だって考えようかなって人もいました。でも今はフリーですから」

「あ、あのね、梶木君、私は今はちょっと…」

「じゃ、友達とかはどうですか?」

「友達?」

「飲み友達でも何でもいいです。友達としてお会いしたいです。その後お付き合いが出来るなら検討で」

「いや、あの…」

ぐいぐい来るなー

「プライベートの方の連絡先教えてください」

結局押されまくってNOとも言えず、連絡先は交換した。

まぁ、友達だし…とその時は思った。
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