幸せの証

詩織

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 よし…これで終わり!

「はぁー」

 なんとか、終わったぁ!!

 出版社から校正の仕事を依頼され、はや5年。

 私はその間ずっと在宅で仕事をしている。1度だけ担当者と会ったことはあるが、言葉は出なかったようだ。でも仕事はしっかりやるので、信頼を深め今では生活できるまで仕事を与えてくれる。

 浜谷咲子はまやさきこ、26歳。9割をこの家で過ごしてる。

 理由は…

 私が中学生の時に、男の子を助けた事で人生が変わる。詳しくは男の子が誰かを抱き締めてたのを、私が突飛ばしそして私が事故にあった。

 そして左のおでこから頬まで紫の痣が残る。色々とやってみたが直すのは難しいと。

 そして学校にも行かなくなり、 高校は通信制を卒業。校正の通信をやってバイトで少しずつやりはじめ現在に至る。

 親もはじめは心配をしてくれたけど、私が引きこもってること、そして今後の未来が不安になることでどんどんと距離をおき、妹しか可愛がらなくなった。

 収入が安定したころに実家を出てこのマンションに一人住まいをしている。

 人とふれあうことがない。ずっと1人。

 私は死ぬまでこうなんだろうな。


「それでね、その方が浜谷さんに会いたいと」

「え?」

「…嫌だよね?」

「…ですね」

 担当者の、住田すみたさん。以前会ったことがある唯一の人。その人の話は私に会いたい人がいると言うのだ。

「誰なんですか?その人は」

「うちの取引先の会社の人なんだけど、校正してる貴方の名前を見つけてね、会いたいと言ってるのよ!」

 よくわからない。なんでだろ?

「名前が同じで違う方じゃ…」

「…それがね、顔に怪我とかありますか?って言ってたから」

 …

 …

 …私を探してるってこと!?

「でも、どっちにしても会うことはないけど、どんな人か怖いな。私知らない人だと思うし」

「私も先輩からお願いされてるから、名前までは知らないのよ」

 そのときはそのくらいで終わった

 けど、別日にまた電話で住田さんと話すことになり

「じゃ、それ明後日までお願いします。それとね。この間言ってた人が隣にいてね」

「えっ!?」

 向こうで話が聞こえ

「すいません!突然申し訳ありません。私は眞鍋裕人まなべゆうとと言います。どうしても貴方にお会いしたいんです」

 この間会いたいって言ってた人?

 男性の声で、少し緊張してるようにも見えた。

「あ、あの…、私は貴方とお会いした記憶がありませんが」

「私もありません!ですが、どうしても貴方にお会いしたいんです!」

「住田さんから聞いてると思いますが、私は大きな傷があり、あまり人と会うことはないんです。申し訳ありませんが」

「お願いします!どうしても会って話したい!!」

 その後も何度も言われ、あまりにも切羽詰まった勢いに負け

「解りました。ただ、私は人混みが苦手ですので」

「でしたら、車を用意します」

 そういって、迎えのクルマをよこす話しと個室の店である約束をした。

 当日。私は外出するときは帽子を深くかぶる。そして外にでると

「浜谷様でいらっしゃいますか?」

 黒い服を着た、高齢の男性がわたしを見て言った。

「あっ、はい」

「お待ちしておりました。どうぞ」

 後部座席のドアをあけてくれる。

 車のことはよく解らないけど、どうみても高級車だ。

 その男性は、私を乗せると運転席に座り車を発信させた。

「何か御座いましたら遠慮なく申し上げください」

「は、はい」

 外に出るのも久々なのに、こんな車に…

 落ち着かず、ソワソワしっぱしだった。

 着いた先は

「ここって…」

「ご案内致します」

 ここって、テレビでみた高級料亭じゃない!!

「あ、あの…」

「はい」

「えっと…本当にここですか?」

「はい。すいません。ご一緒にお迎えに行く予定だったのですが、急遽仕事が入り私だけになってしまいまして」

「あっ、いえ、それは」

 って、そういう問題じゃない!!

 部屋に案内され

「どうぞこちらに」

 お店の方に案内される

「では、私はこれで」

 と言って、運転して方はお店の玄関に向かった。

「どうぞ、こちらでございます」

 本来であれば、こういうところはもっとちゃんとした服でテン、てか帽子もとった方がいいんだろうけど…

 深く帽子をかぶった私は顔はよく見えないし、不振人物とすら思ってしまう。

 しばらくすると

「失礼します。お待たせしました」

 と言って入ってきた男性。

 30代くらいの背の高い、顔の整った人だった。そして、私の前に座ると

「眞鍋祐人といいます」

 そういって頭を下げる。

「…浜谷咲子です」

 私も名前を言って深々と頭を下げた。

「この度は突然のお誘い、申し訳ありませんでした」

「…い、いえ。私に何かお話を…、どのようなことでしょうか?」

 そういうと

「失礼します」

 と言ってお店の人が入ってくる。

 料理がきたようだ。

「あ、あの…」

「こちらで勝手にご注文させて頂きました。事前に好き嫌いも確認しておりませんので合わないものがありましたら申し訳ありません」

「…い、いえ。わざわざすいません」

 って、こんな高級店、嫌いでも食べます!!

 ビールを飲もうとしたようだけど、私が遠慮すると烏龍茶を頼んだ。そもそも引きこもりの私には飲み会とかそういうのがないのでお酒を飲む機会がない。1度買ってみたが、ビールの苦さにありえない!と思った。

 前菜が運ばれ

「ここのお店は、1つ1つが綺麗で味付けも絶品なんです」

「…そうですか」

 こういう店に来られるくらいの方ってことだよね?

 メイン料理がきた。折角出して頂いたものなんだしと、手をつけるど人と向かい合わせに食事なんてしたことなんて10年近くないから緊張してしまう。

「…あの、それで…」

 私は話したいことを聞こうと切り出すと

「浜谷さんは、本当に申し訳ないことをして」

 と言って深々と頭を下げる

「えっ、えっと…」

「その、傷は…、私が原因なんです」

「えっ!?」

「あの日、浜谷さんが助けれくれたのは私の弟と妹です」

「そう…だったんですか」

「本当に申し訳ありませんでした」

 また頭を下げる

「いえ、でも、お兄さんがそんな…、もう済んだことですし」

「いえ、私の責任なんです。私はあの日、妹を蔑ろにしてしまい、妹は家を飛び出してしまったんです。心配で追いかける弟をみましたが、私は追うことがでしませんでした。そのとき車に跳ねられそうになったのを弟がとっさに抱き締め、そして貴方が助けてくれたのです」

 そっか、誰かを抱き締めてたのは妹さんだったのか。

「でも、もう過ぎたことですし過去のことはどうにもなりません。態々ありがとうございます」

 そう。もう過去のこと。どうにもならない!誰かを恨んだって仕方ない。

「そ、それで私にその傷を治すのを支援させて頂けないでしょうか?」

「え?」

 昔は無理と言われてた。でも今はネットとかみると医療が進みかなり薄くなることもチェックしている。ただかなりの費用がかかる。

「そういうわけには…」

「私の知り合いに美容外科がいます。話をしたらぜひ連れてきてほしいと。かなりの経験をしてるので腕は確かです。1度ご一緒に行って頂いて見て頂けないでしょうか?」

「お気持ちはありがたいですが」

 責任感という気持ちも解らなくはないが、急に現れてってのも正直どうしていいか…

「私はずっと、浜谷さんを探してました。事故当時は何度もお宅に足を運びました。そして治療も出来るレベルではないと聞かされ、なんとかしたいとずっと思ってました。お宅に何度も足を運びましたが会わせて頂くことはできず、そして数年前に伺ったら家を出たと…、連絡先も教えることなく出ていったので場所もしらないと言われ、その後は必死で探しました」

「そう…だったんですか」

 家に謝罪しにきたと聞かされたことはあったが、誰とも会いたくなく聞く耳をもたなかった。家を出たのも特に連絡先は言ってない。すでに何年も話してない状態だったので何も言わず出ていった。

 そのあとに家にきてたことは知らなかった。

「では、お医者さんを紹介してください。それだけで十分ですから」

「い、いえ。それは…、お願いいたします!私に浜谷さんの治療を」

 その後は眞鍋さんもなかなか譲ってくれず、ひとまずはその医者に一緒に行くという約束になった。



 後日、また迎えの車がきた。

 あの日の帰りもこの高齢の男性の運転で送ってもらった。そのときに眞鍋さんが松田さんと言っていた。

 そして弟さんと、妹さんは現在アメリカに留学しているらしい。

 松田さんの車にまた乗られ、横には眞鍋さんがいる。

 名刺を貰ったがやっぱり大企業の会社の方で、ヨシヤマ商事の常務をされている。社長は伯父さんらしい。

 車が止まって降りると

「え?」

 ここって有名な美容外科じゃない!?

「あ、あの…、本当にここですか?」

「あ、気に入りませんでしたか?」

「と、とんでもない!!」

 こんな、有名で高級な…、お金出せるわけが…

 中に入ると

「お待ちしておりました」

 と、受付の人が言ってすぐ案内された。

 診察室の中にはいると

「よう、待ってたよ」

「…ああ」

「初めまして!担当します吉山です」

「浜谷です」

「お話は聞いてきます。長い間大変でしたね。そして私の身内を助けて頂きありがとうございます」

 といい、頭を下げられた。

「えっ?」

「従兄弟なんです」

「そうだったんですか」

「うちの父は祐人の会社の社長をしてます。俺は昔から医者になりたくって…、そんな時に祐人が親父の会社に入ってくれたので助かってるんです」

「もういいだろ!その話しは」

 少し和やかになりつつも

「では、すいません。早速状況を把握したいので見せて頂けませんか?」

 と言われ、恐る恐る帽子をとる

「「!?」」

 眞鍋さんも、吉山先生もあまりの酷さに一瞬言葉を飲む。

「…これは…」

「…」

「…少しさわりますね」

 そういって、色々触られ

「…」

 やっぱり、難しいか…、昔はどこも酷いということで断られたんだし、そう簡単には…

「あ、あの…、事故当時はどこも断られて…、今は少しは可能性があると思ってんですが、やっぱり…」

「確かに、ここまでとなるとなかなか難しいでしょう」

「…そうですか」

「ですが、全力を尽くします!」

「えっ!?」

「色々この先の計画を考えたりする必要がありそうですね!これから頑張りましょう!」

「あ、ありがとうございます。あ、あの…それで費用なんですが」

「お金に関しては祐人以外貰うつもりはありません!」

「えっ!?いや、あの…」

「浜谷さん、すいませんがこれに関しては譲れないんで」

 と、後ろから眞鍋さんが言う。

 涙目になってしまい

「あ、あ、ありがとうございます」

 そういって頭を下げる。

「こちらこそ、ありがとうございます」

 これから長い治療が始まる。でも治療が出来ることにうれしさを感じていた。


 翌週も医者に行くときに、眞鍋さんが連れていってくれた。

「今後、私がいないことがあったときでも松田さんの連絡先を教えますので、迎えに電話をしてください」

「いや、それは…」

「私がしたいのです。松田さんも了承しています。」

「はい!浜谷様。ご連絡お待ちしております」

 いや、そこまでして貰うなんて…


「今日は、後輩の医師も連れてきました。今後は2人で治療することになると思いますのでよろしくお願いいたします」

 2人…

「今回ちょっと、範囲も大きいですし、膿もあるので2人で最善の方法で取り組んで行ければと思っています」

 やっぱり、かなり大きい治療なんだろうな。2人で医師がつくことに自分の治療の大変さがわかる。

「はじめまして!坂木さかきです!全力を尽くします」

 そういって挨拶をされる。

 後輩の医師と紹介されたけど、私よりは年上の優しそうな感じの方に見えた。メガネの奥の眼が凄い印象的だった。

「なるほど。吉山先生、やはりこの間話してた移植の…」

 と、私の症状をみて吉山先生に言うと

「その方向で俺も考えてる」

「…ですね」

「大丈夫ですよ!」

 と、笑顔で言われてドキドキする。

 な、なにときめいてるのよ!

 と、そんな話になってたとき


「困りますー!」

 遠くからそんな声が聞こえる。

「すいません。まだ診察中なんです」

と聞こえ診察室のドアが開く!

「すいません!」

受付の女性が困った顔をしてる。

受付の女性を制止した女性が勢いよくドアを開け入ってきた感じに見えた。

私はとっさに顔を隠した。

「祐人さん、どこにいったかと思えば…」

し、知り合い!?

「あ、いいよ!後はこっちで」

吉山先生は、受付の人に言うと頭を下げてドアを閉めて行った。

「吉山先生お久しぶりです!お話は聞いてます。祐人さんの弟さんをかばった方の傷を直すんですよね?さすが先生です!あ、この方がその方ですか?」

と言って私の近くによる

「はじめまして!私、祐人さんのフィアンセの森文乃もりあやのっていいます。この度は彼の弟さんを…っ!?」

と言って私をみると

「ひっ!!!化け…」

悲鳴をあげ私をみる。

「おい!祐人!!」

吉山先生は、眞鍋さんを見て一言う

「こっちに、来てください」

眞鍋さんは彼女を連れて診察室を出た。

「…」

「すいません、今のは祐人の婚約者で」

「あっ、いえ…。大丈夫です!よく言われてますので」

よく化け物、怪物、幽霊など言われてた。だから余計に家に出ることがなくなった。

「…」

医師の2人も何も言わなくなった。



「あ、あの…、フィアンセの方は?」

「車を呼び帰らせました」

帰りの車で眞鍋さんも乗り

「でも、フィアンセの方に着いてた方が」

「…気にしないでください。」

なんか、それ以上聞きづらい感じがするのは何故だろう。


在宅で仕事をしつつ、通院で少しずつ治療を始めた。

この先、手術もあるようだけど今は消毒も兼ねて少しずつ膿を押さえるような治療だった。

次に治療に行ったとき

「あっ」

凄いしみて、痛みもあった。

「大丈夫ですか?どこ痛いですか?」

坂木先生が治療してくた。

「この辺ですかね?」

と、触られ

「うっ」

と言うと

「ちょっと診察台で横になってください」

看護士さんが来て、少しドタバタとする。

少しすると痛みが収まった。

「あっ、楽になりました。ありがとうございます。」

少し痛みがあったけど、今はそれほどじゃない。

帰りの支度をしてると

「浜谷さん、お送りします」

「えっ?」

看護士の女性が1人私に向かって言った。

「あ、あの…、大丈夫ですよ」

「でも、迎えの車できてなかったですよね?」

と言われて

「あ、いや…」

今日は眞鍋さんが一緒でなかったので、1人できた。やっぱり松田さんに電話をするのはきが引けて…

「私、吉山真由加まゆかって言います。担当医の吉山の妹です」

妹さん!?

「今仕事が終わったので、ここからは個人的なことですから。私がお送りしますね」

タクシーを呼び、自宅まで向かった。

「私、浜谷さんを初め拝見したとき、驚きました。でも…本当に素敵な方だなっと」

「…え?」

私が素敵?

「私ならショックで一生立ち直れないかもしれません。勿論そういうナーバスなこともあったと思います。でも誰も怨まず生きてる貴方をみて本当に素敵な方だと…思いました」

「そ、そんな…、私なんて」

自宅まで送ってくれてそして

「何かあったらいつでも言ってくださいね」

と言って、真由加さんはそのままタクシーに乗り出発した。



「最近、なんだか少しだけ雰囲気が変わったきがする」

住田さんに電話で言われた。

眞鍋さんが治療に支援してくれてるのは伝えていたので

「眞鍋さんのお陰かしらね」

「自分では解らないけど」

「声が全然違うもの」

住田さんは前向な感じに聞こえてることを凄くよろこんでくれてた。

「そろそろ手術なんだっけ?」

「ええ」

「大丈夫よ!」

不安なのが解ったのかそう言ってくれるのが安心する。

そして手術の日。

準備をしてるとき

ドン!!

と、ドアが開く

「貴方、何様?」

これから手術をうけるので、服も着替え、鎮静剤を打っていた。

「祐人さんになんでうろうろするのかしら?」

この人確か、眞鍋さんのフィアンセ。

「貴方のせいで」

「こちらに!!」

吉山先生が入ってきて必死に押さえて病室から出させようとする

「こんな顔で、こんな化け物面して弱みを握れたとでも思って好き放題してるわけ!?」

「!?」

坂木先生も急いできて

「浜谷さん、こっち行きましょう」

そう言って私を別の病室に移動させた。

「あ、あの…、眞鍋さんどうしてんです?」

今日も来たかったけど、抜け出せない仕事があると連絡があった。

「今は手術のことに集中しましょう!」

「…はい」

本当は部分麻酔の予定だったが、私が興奮状態になってしまってので全身麻酔に変えて手術ははじまった。



気がつくと

「終わりましたよ」

坂木先生がいて

「今日は少し熱が出るかもです。解熱剤出しときますね。もう少しここで休んでください」

「…はい」

手術が終わった安堵もあるが、気になったのは先程の眞鍋さんのフィアンセのこと。

「あ、あの…眞鍋さんの…」

「…ああ」

坂木先生は少し考え、そこに吉山先生がきて

「私から話しましょう」

と、言って来た。

「祐人のあのフィアンセは政略結婚なんです」

「…え?」

「父に進められて…、はじめは断ったんですが、相手方がかなり祐人を気に入ってましてね。あれこれと条件を入れ、増山物産の社長とも知り合いのようで、この結婚が成立したら、増山物産ともいい関係が築けるように言ったとようで、それでやむなく婚約を」

増山物産と言ったら、知らない人はいないってくらい国内大手の会社だ。

「でも、祐人には元々想う人がいたので」

「そ、そうなんですか」

「今回、浜谷さんの失礼な言い方に婚約を解消したいと言ったようで、祐人からしたら浜谷さんをそんなこと言うなんて限界だったんでしょう」

そっか、それで私に…

「あ、でも、会社は大丈夫なんですか?」

「親父の話だと、無理に増山物産と取引しないでも会社としては何とでもなるからって言ってる。それもあって婚約を破棄したいと言ったようだから」

そっか…私のせいでなんか…

それを察したのか

「祐人には本当に好きなヤツと結婚してほしいから俺としてはよかったと思ってるから」

といってくれた。

「…はい」

そう答えたと同時に顔面に痛みを感じ始めた、

「っ!?」

顔をおさえてると

坂木さんが少しして鎮静剤を打ってくれた。

「本当ならここで帰宅されても問題ないのですが…」

眞鍋さんのフィアンセのことか…

「私の自宅はどうでしょうか?」

「えっ?」

坂木先生が自分の自宅に連れて帰ることを提案した。

「で、でも…」

「吉山先生は、御家庭がありますし、私は独り身ですから気兼ねなく」

気兼ねなくって…、まぁ女ってみられてないってことか。それは仕方ないか

「坂木、男女が1つ屋根の下はまずいだろ!」

と、吉山先生が言うと

「あっ、今妹が田舎から来てるんです。」

「そーなんだ」

眞鍋さんのフィアンセは、眞鍋さんには連してくれたようだけど、今はなにするかわからないかもなので、皆さんに進められて坂木先生のお宅に今日はお世話になることになった。



「はじめまして!夏希なつきといいます」

私が顔半分包帯状態なのに少し驚きもしたが、すぐに切り替えて笑顔で挨拶してくれた。

「客室専用の部屋があるんで休んでください」

「すいません」

今日はお風呂も入れないので、とりあえず休むしかない。口を動かすのも辛いので食べることもできない。

「浜谷さん、何かあったら言ってくださいね」

私はベッドに横になり、緊張がずっと続いてたせいか眠気が出てきた。



「はぁ、はぁ」

なんか寝苦しい…

少し寝たと思ったんだけどな。

なんか身体が熱い。熱が出るかもって言ってたよな。多分熱がありそう。

バックから取り出して熱冷ましの薬を出そうとしたとき、バッグが床に落ちてしまった。その音で

「浜谷さん?どうしました?」

坂木先生の声がドアの向こうから聞こえ

「入りますね」

ドアをあけ入ってきた。

「すいません、なんか身体が熱いのでもしかしたら熱あるかなっと思って薬を」

「あっ、なるほど。ちょっとすいませんね」

と言って、おでこをさわり首を触る。

「確かに熱ありそうですね」

「お兄ちゃん?」

後ろから妹さんがきて

「夏希、水枕と冷えピタもってきて」

「うん、わかった」

「痛みは?」

「少し…、でも大丈夫です」

薬を飲ませてもらい、水枕をする。

「色々すいません」

「いえ、浜谷さんはずっと1人で頑張ってたんですから、こういう時くらい頼ってください」

その一言でなんか、涙が出てきて…それが止まることがなかった。

「…我慢しないでください」

「うっう…」

ボロボロと流す涙を坂木先生は優しく拭いてくれた。



「…あっ」

いつの間にか寝ていまい、朝になっていた。

坂木先生はいなかった。

仕事は一週間休みとってるので問題ないけど、今日は家に帰らないと…

顔の痛みもなく、熱も下がってる気がする。

ドアをあけると

「あっ、おはようございます」

リビングには妹さんがいた。

「おはようございます」

「お兄ちゃんちょっと出てしまって、もう少ししてらもどってきます」

「あっはい」

「もしよかったら、シャワー浴びますか?今日は大丈夫って聞いてるんで」

「いや、さすがに」

「いえー、気にしないでください!着替えも私のですけどそれでよければ…」

ベッドで寝るときも着替えを貸してくれたし、申し訳ないな

そのまま押しきられるようにシャワーを浴びた。

熱で汗もかいてたし、スッキリする。

出てくると

「ご飯食べれますか?」

まさかの朝食の準備まで…

「辛かったらベッドまで運びますから」

そこまで辛くなかったので

「大丈夫です」

と言って、テーブル席に座り

「お口に合うかわかりませんが」

と言って2人で朝食を食べ始めた。

「私ね、嬉しいんです」

ボソッと言い出した。

「私達って…あっ、聞いてるかどうか知りませんが、私達2人きりなんです。お兄ちゃんが高校生のとき両親は事故で亡くなり、誰も引き取り手がなく私達は施設に預けられました。クラスで仲良かった子も私達が施設っと知ったとたん距離を置くようになって…、兄は高校卒業と同時に私を引き取り、兄は働きながら通信の大学で勉強をはじめました。そしてお金に少しだけ余裕ができたら両親の遺産を少し使って夜間の大学に編入し、私も短大に行かせてくれました。私達はずっと2人で…、昨日浜谷さんを見るお兄ちゃんは本当に心から心配してて、こんなお兄ちゃんみたの久々で」

「…そうなんですか。大変だったんですね。坂木先生からそんな素振り全然見えなかったんで」

「あっ、いえ。きっと同情されたくないんだと思います。私もそうなんで、患者として勿論心配もしてると思いますが、浜谷さん個人として心配もしてるのかなって」

私個人!?

それを聞こうと思ったら、坂木先生が帰ってきた。

「あっ、浜谷さん、熱も下がったし落ち着いたようですね」

「はい!お陰さまで。ありがとうございます」

どうやらランニングしてきたみたい。

シャワーを浴びてくるみたいで浴室に移動した。

「あ、あの…、片付けだけでも」

「いいですよ!片面だと疲れるでしょ?気にしないでください」

こんな顔でも普通に接してくれることが嬉しい。

鞄の中で音が鳴ったのな気付きみると、眞鍋さんからだった。

「すいません、なかなか行くことが出来ず」

「いえ、全然です!いつもありがとうございます」

「実は急遽海外に行かされましてね、まだ帰れないです」

「そうだったんですか」

「話しは聞いてます。本当にご迷惑お掛けしました」

「いえ、言われるのは仕方ないですから」

「いや、私がもう少ししっかりしてれば…」

「大丈夫ですよ」

「いえ、また何かあっても困るので、私が所有してるマンションに一時的に住んで頂くことできませんでしょうか?」

「えっ?ご自宅…ですか?」

「いえ、別にマンションを所有してまして…」

流石大企業の御曹司!

断ろうと思ったけど、こうやって言うということは今後もしかしたら何かあるかも?ということなんだろうか?

少し考えて

「お言葉に甘えていいでしょうか?」

「いえ、こちらからお願いしたので…、住居先は真由加が知ってますので真由加に案内させます。なるべくはやく日本に戻りますから」

「わかりました」

「あっ、あと松田さんを頼ってください。実は彼、元警察庁だったんです!なので私は護衛もしてもらってるんです」

「そうなんですか」

話しも纏まったところで電話を切ったら坂木先生が既に戻ってた。眞鍋さんとの話を説明すると

「なるほど。折角そういって頂けるなら少しの間お世話になるといいかもですね」

「はい」

私は帰り支度をし

「家まで送りましょう」

と、坂木先生が

「いえ、そんな」

「まぁ、それだけ包帯してたら1人で出歩くのも大変でしょう!お送りします。」

その間に真由加さんからも連絡があり、今日夜迎えに来てくれるのいう

車に乗ってる間あまり話さなかったが

「浜谷さんは凄いな」

「…え?」

「ずっと浜谷さんは1人でやってきた。けど、今は浜谷さんを助けたいって人がこんなにいる」

「それは…」

「例え、人をかばった怪我だとしてもこんなに人は集まりませんよ!貴方の人柄ですよ」

と、横で笑顔で言われる。

「…だから」

そういって包帯の顔に手をおいて

「治します」

「坂木先生…」

「何かあったら連絡ください。…待ってます」

そういうとクリニックの名刺をくれた。

家について車を降りるとすぐに発車した。

携帯番号も書いてあって、ここに電話をってことなのかな?と想ったが何気なく後ろをみると

「あっ」

こっちには、手書きで電話番号が書いてあった。

プライベート用!?

患者として凄い心配されてるのかな?


家に着いて、仕事の資料と着替えを用意し、スーツケースにいれてるときに真由加さんがきた。

「何か足りないものとかあったら、戻れるしそんなに色々準備しないでも大丈夫ですよ」

と言われるけど、やっぱり準備しちゃうよなー

少しまって貰って、色々詰め込んで松田さんの運転する車で出発した。

「昨日熱をだしたと聞いてるんで、今日は無理させちゃいましたね。すいません」

1時間かけてついた先はファミリー向けのマンションだった。

「あ、今は熱も下がってるし、痛みもないので…、あ、あのこのお宅は…」

そういうと、少し間があって

「ここは…、私達が将来住もうと思って購入したマンションで…」

えっ!?私達!?

…あっ!!そういうことか。

眞鍋さんと真由加さんは、恋人同士だったんだ。

眞鍋さんに好きな人がいるってのは真由加さんのことだったのか…

ここまできてやっと辻褄があった。

「一緒になれないなら手放さないとって思ってたんだけど…」

寂しそうな笑顔で言われるのが心が痛い。

「で、でも、婚約はなくなったと聞いてますけど」

「そうなんですけどね。父のために結婚してとお願いしたのは私なんです。苦しんでる父を助けたくって…」

「…」

「だから、婚約がなくなったからと言って、じゃまた元に…なんて…」

それでも眞鍋さんは真由加さんを好きなんだと思った。じゃなきゃこんなこと頼めない。

「祐人の母と私の父が兄妹なのですが、祐人の母は後妻なので…、叔母さんが再婚する前に私達はゼミで知り合ってて…まさかいとこになるんて…、あっ、ごめんない。こんなこと…、とりあえずここにあるのは自由に使ってください。私の趣味のものばかりですけど」

「真由加さんは、こちらに居ないんですか?」

「…前は住んでましたが、今は…」

一緒に住めるはずが住めなくなったから辛いってことなのかな?多分だけど

その後、部屋のなかを説明してもらい、真由加さんは帰って行った。

こんな広いところ一人っても寂しいな…、と贅沢な気持ちになる。

2日後に痛みも落ち着いたことから仕事を再開。そして…

眞鍋さんのフィアンセだった人はどうやら私の自宅に来たという情報が入った。

勿論眞鍋さんが弁護士を通して注意させたらしい。けど私が原因で婚約破棄になったと思ってるのでかなりしつこく私を探してた。

その後2回の手術を行った。手術するたびに傷が薄くなり、最後の2回目の後は

「…凄い」

やはり完璧に消えることはなかった。けど、化粧をすればわからないくらいになっている。

「ありがとうございました」

その時、眞鍋さん帰国し私をみて凄い喜んでくれた。そして眞鍋さんの兄妹もみえた。

「あのときの…、あのときの事故の人?」

夏休みでちょうど帰国してた。治療前の私をみたら2人はショックを受けるかもしれないから、伝えないでとも私の方から言ってあった。

「あのときは本当にすいませんでした」

頭を下げる妹さん。

「いえ…、それよりも今生きてる方のが大事です。よかった。生きててくれて」

もしかばわなければ、兄妹とも大変なことになってたかもしれない。だから私がやったかとは間違ってなかったと思いたい。

「私が…、飛び出したせいで、ずっと傷で苦しんでたと聞きました」

「いや、俺があのとき…」

「お兄ちゃんのせいじゃないよ!私が悪いの」

「俺は、両親の愛情が妹と弟に向けられたことで自分は家の中で孤独を感じてしまって、妹が声かけても八つ当たりのように言ったからな。根本は俺なんだよ」

「お兄ちゃん…」

「兄ちゃんは、ずっと浜谷さんのこと支えてくれたんでしょ?ありがとう」

「いや、俺が出きることなんてたいしたことないよ」

血は繋がってなくても兄弟愛を感じるな。

その後もみんなで少し話しながら食事をし、帰宅した。

こうやって普通に出掛けることが出きることが凄い嬉しい!

鏡をみると確かに跡はあるけど、でも化粧で見えなくなるし、また明日も出掛けたくなってしまう。

私は第2の人生をつかんだ気がした。

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