カフェを愛する私

詩織

文字の大きさ
上 下
1 / 1

カフェを愛する私

しおりを挟む
「いらっしゃいませ」

朝はモーニングを求めて来るお客さんが半分。私は目玉焼き、ソーセージを焼きモーニングの準備をしている。

綾瀬弥子あやせやこ、26歳。半年前からカフェのオーナーになった。この店は実家の隣の家族が1階を喫茶店にしていて夫婦でやっていた。私は小さい頃からこの喫茶店「ラルク」が好きだった。5年前、高卒で就職した会社が倒産。失業保険をもらいながら次の仕事を探していた。そんなときに

「えっ!?店を?」

毎日のように通ってたカラルクをたたむと言い出した。

「まぁ。もう歳だしね」

70半ばのご夫婦には確かに厳しいかもしれないけど

「息子も都心で就職して向こうで家庭ももってるしね、継ぐ人がいないから」

息子さんとは小さい頃遊んでくれた記憶はあるけど、私が小学校に入学したら大学を卒業し都内に就職。多分戻らないだろうとは思ってたけど…

私はこのラルクが大好き終わらせたくなかった。

「おじさん、おばさん!私が継ぎます!!」

はじめは冗談と思ってたみたい。本気だと言うとおじさん、おばさんだけでなく両親、お姉ちゃんにも渋い顔された。それでもここを潰したくない!こうやって来てくれるお客さんがいるんだもん!

20人くらいの席でいっぱいになる店だけど愛着はある。ここを必要な人もいるはず。

私はなんとか説得し、継ぐことを決意したことを何度も伝え、何とか私が継ぐことになった。

「折角弥子ちゃんが継いでくれるんだから、少しおしゃれにしようかね」

おじさん、おばさんが改装してくれて、カフェとしてお店をリニューアルオープンしてくれた。とは言っても前の喫茶店の雰囲気も残しつつ、新しい空気も取り入れつつ、カフェ「ラルク」をスタートだ。

はじめは、おじさん、おばさんに教えて貰いながらで、それも4年たつとおじさん、おばさんが空いてるときに1階に降りてきて手伝うようなスタンスに。そして半年前からオーナーを私に変えた。忙しいときはチラッとみて少しはきてくれるおじさん、おばさん。そして隣から母も来てくれる。それでも定期的にきてほしい人は確保したかったので、高校時代に仲良かった有森尚美ありもりなおみをパートで雇った。尚美は子供が1人いて保育園に預けたあと、店に来てくれる。

モーニング時間の途中でいつも尚美が来る。

「あっ、尚美!これ、奥のテーブルにお願い」

「オーケー」

そのあとは、洗いきれてない食器をテキパキと片付けてくれる。

「いらっしゃいませ」

あ、彼だ

ひそかに気になってる人。名前も知らないし、何もしてるのかも知らない。

いつもモーニングにオレンジジュースを頼む。そして食後に一杯の珈琲を頼む。

「すいません、モーニングとオレンジジュースを」

「はい!かしこまりました」

スーツを着てないけど、同じ時間になると店を出るので仕事には務めてるのかなー

たぶん30代後半かな?他のお客さんと違ってスマホを見ないでじっーと外を見てる。たまにスマホでチェックはしてるようだけど、外をよく見る彼がなんとなく気になってしまって

「今日こそ声かけたら?」

という尚美

「な、なんてよ!?」

私が意識してるのは勘づいてて、尚美が声かけろとよく言われる。

そもそも結婚してる可能性高いじゃん!まぁ結婚指輪はないけど。でも顔も整ってるし、声も渋みがあって凄い素敵と思える大人なんだよなー。

そして最後に

「すいません、コーヒーください」

と注文。ゆっくりコーヒーを飲んで同じ時間になると店を出る。

「いつもありがとうございますとか、なんか話せないの?」

「だって、なんか…」

「聞かないと解らないじゃない?結婚してないかとだし」

そうだけど…

その後は、ランチメニューになるのでランチの仕込みをする。1日のピークがランチになる。

以前の喫茶店とは違い、テラスを作りそこでも席がある。その席数含め満席になると2人でもかなり忙しくなる。

それでも尚美も慣れて淡々とこなしてくれて本当にありがたい。

ランチの1時間が過ぎると、そのあともランチ目当てで来る人もいるがさほど忙しくはないので余裕ができる。そんなときふと明日は何か話せたらなーなんて思ったりしている。

尚美はその後は4時前に仕事を終え保育園にお迎えに行く。夜は母が来てくれるがバイトでも雇うかなーとも思っている。そして21時は店を締める。1日の労働は長いけどランチの1時間以外はかなりゆったりしてる。




別日のこと

「あっ、弥子ちゃん?」

朝のモーニングで声をかけられた。

だ、だれ!?

「あー、俺、雅人まさひと。ここの2階の子供の」

「あー!」

小さい頃に遊んでくれた、雅兄ちゃんだ。

「お久しぶりです」

「昨日の夜中にこっち来たんだけど、ビックリしたよ!店がこんなにオシャレに変わってたので」

「はい!おじさん、おばさんが2年前に改装してくれて」

「そっかあー、話しには聞いてたけど。おれここ3年、海外赴任してたから全く帰って来れなかったんだよな。話しには聞いてたけど」

店のなかを色々と見てる。

そして私の前にきて

「後を継いでくれてありがとう」

と、改めて頭を下げられた。

「い、いえ…」

雅兄ちゃんはカンウターに座ったので、コーヒーをだした。

「それにしても大きくなったなー、まぁ俺がおっさんになったからな。大きくもなるか」

雅兄ちゃんと談笑していると


「いらっしゃいませ」

あっ、例の人だ。

いつの間にか来る時間になってた。

私が雅兄ちゃんと話してたので代わりに尚美がお冷やを出しに行ってくれた。すると

「あれ!?お前、松山まつやまか?」

例の彼をみて、雅兄ちゃんが言う

「…先輩?」

例の彼も雅兄ちゃんを見て言う。

「おお!!久しぶりたな」

「ビックリした!お久しぶりです」

まさかの雅兄ちゃんの知り合い?だった。

「コイツ、大学の後輩の松山って言うんだよ!」

「そうだったんだ」

「松山この辺だっけ?」

「はい、5年前に近くに引っ越しまして」

「そうなんだ!」

雅兄ちゃんと松山さんが話し始める。

そうすると、私の知りたかったことがどんどんと解るようになる。雅兄ちゃんより3歳下の39歳のようだ。

「で、結婚は?」

「あっ、1度はしたんですけどね」

「なるほどねー、じゃ今は独身を満喫中てわけだ」

「まぁ、そんなところです」

「都心で就職したって聞いたが」

「あー、確かにサラリーマンしてましたけど5年でやめました。それで今はずっとやりたかった仕事に就くことができて」

「ずっとやりたかって…、あっー!絵本作家だっけ?」

「よく覚えてますね!そうです」

「マジか!?夢かなっなのか。すげーな」

そうなんだ、絵本作家さんなのか…

他の人のモーニングを作りながらしっかりと聞いてる。

どんな絵本?と聞いていくつかの本のタイトル名を言うと

「あー!それ、娘が大好きなんです!」

尚美が興奮して言い出した。

「本当ですか?嬉しいなー」

はにかむような笑顔に、ドキッとする。

そして

「あー、あの娘、弥子ちゃんって言って…」

と、雅兄ちゃんが説明をする。

「…そうだったんですか。元々は先輩のご両親が…」

「ああ、まさか隣の子が継いでくれるとはな。俺も頭上がらないんだよ」

「のわりには、全くご挨拶なかったけど!」

と言うと、

「ハハハ」

と雅兄ちゃんは笑う。私も笑って言ったけど、それよりも何よりも松山さんって名前だけならともかく、それ以外のことも知れて雅兄ちゃんありがとうございます!!と、心のなかで何度も言った。

「じゃ俺そろそろ仕事に戻るんで」

「ああ、またな」

松山さんはいつもの時間に帰って行った。

雅兄ちゃんも少しして2階に帰って行った。

「凄い収穫じゃん!」

「うん。まさか知り合いだったとは…」

「バツイチとはいえ独身だし、明日から声かけちゃいなって」

恥ずかしい…けど、そうしたいな。



「いらっしゃいませ」

いつもの時間に来店。

ほらほらっと尚美ははっぱをかける。

「ま、松山さん、おはようございます」

「あっ、おはようございます」

ひぇー、挨拶しちゃったよーー!!

「い、い、いつもご利用ありがとうございます」

「いえ、いつも美味しく頂いてます」

爽やかな笑顔で返される。

だ、だめだ!!パンクしそう

「あ、あの、いつものでいいですか?」

「えっ?」

「あっ、えーと、モーニングとオレンジで」

「あっ、覚えててくれたんですね。ありがとうございます。それでお願いします」

ペコリと頭を下げ、調理場に向かった。

はじめてこんなに喋ったぁー!!!

もう、死んでもいい!

と、幸せにふけてると

「しっかりしろー!!こっちに戻ってこーい!」

と、尚美に言われて現実に戻った。


その後はお客さんもが立て続けに来たので調理場から離れることが出来ず、料理を運ぶのは尚美に任せたので話すことが出来なかった。

「ねね、松山さん恋人いないみたいよ」

ランチのピークが終わったときに尚美に言われた。

「え?そんなこと聞いたの?」

「だって、弥子行けなかったし代わりにね」

「代わりって…、そんなこと私聞けないよ!!」

「まぁ、いいじゃん!」

そりゃ、助かったけど…



定休日。

ファンの俳優さんが映画の主役に。久々に映画を観に行くことにした。

多分4年くらい映画館なんて行ってないなー

チケットを買うために並んでると

「あれ?」

えっ?

「あっ、松山さん?」

まさかの

「この映画観に?」

「あっ、はい」

「俺もです。えっと…お一人?」

「あっ、はい」

「じゃ、よければ御一緒にどうですか?」

えっーーー!!!

「あ、あ、はい!!是非!!」

テンション上がって答えてしまった。

「じゃ、買ってきますからそこで待っててください」

「え?」

「このくらい出させてください!」

「えっ?でも…」

「デートで割り勘ってことないでしょ?」

デートぉーーー!?

だめだ!血管切れそう

チケットを買って貰い、一緒に映画館に入る。勿論座席は隣同士。

「あっ、飲み物買ってきますね」

席近すぎるよ!ど、どうしよう…

飲み物買ってきてくれて

「すいません」

と言うと笑顔で答えてくれる。

あー、もう!!映画しっかりみれるかなー

映画がはじまりストーリーをみつつ、チラッと見てしまう。素敵だなーって、映画、映画!!

そんな感じで隣の松山さんの存在に格闘しつつ映画は終わり、外にでると真っ暗になっていた。

「もしよければ、ご飯でも食べていきませんか?」

!?

「あ、あ、ぜひ!!」

やばい!神様ありがとう!!

心のなかで何度も連呼した。

個室まではいかないけど仕切りのある座敷の居酒屋に入った。

ビールで乾杯。

「弥子さんですよね?」

「あっ、はい。覚えててくれたんですか?」

「先輩との再開のあと、実はその数日後に2人で飲みに行ったんですよ。近況から昔の話から色々と。それで弥子さんの話もしましてね。本当に感謝してるって言ってました」

「継がせて貰えて感謝してます。改装はしましたが、味はおじさんのを引き継ぎたいと思ってます。私にとってはこの味で何度も助けて貰いましたから」

「俺も朝あの店に行くのが日課になってるし、なんと言っても昔ながらの懐かしい味を感じてます。そして新しいメニューも弥子さん自身で考えてるものもあって、古いもの、新しいものがまんべんなくあっていいと思ってます」

「ありがとうございます」

2人でそのあと、ワインにかえた。

「弥子さん、まだそんなに若いんだ。しっかりしてますね」

「いえ、そんなことは…松山さんこそ、絵本作家のかたなんてお会いしたことないで」

「メイン職はそうですが、実際に食べていけるかとなると難しいです。空いてるときは校正の仕事などまわしてもらってます」

「そうなんですね」

「基本在宅ワークですから、弥子さんのお店にいけるのは私にとっては気晴らしにもなるし、気持ちの切り替えにもなるし、美味しいモーニングも食べれるし」

やばい!もう、嬉しすぎる

「松山さんがきてもらえるのは本当に楽しみにしてるんですよ!」

「えっ?」

「…あっ」

やば!

「あっ、そうだ、私母に水彩画を教えて貰ったことがあって」

無理やり話を変えたが、変に思われてないよね?

その後も話がはずみ、そしてかなりのお酒に酔いしれた。

「送りましょうか?」

「あ、いえ、大丈夫です」

「で、でも…」

私を押さえてくれる。

結構酔っててふらついてる!?

「あっ、だ、大丈夫です」

しっかりしないと!!

離そうとする手が重なった。

あっ…





「あ、あの…」

「あっ、すいません」

「好きです」

「えっ?」

「ずっと、好きだったんです!まさか雅兄ちゃんの知り合いと思ってなくって、その前から気になってました。」

「弥子さん?」

「あ、あの…」

これ…私告白してる…よね?

「あっ、あの…、かなり酔ってます!でも酔わないと言えなかったので」

この時点では、半ばやけくそだった。

固まってるように見える松山さんさん。

「えっと、あの…、じゃおやすみなさい!!」

私はダッシュで走り出した。

これ、やばいよね?勢いで言っちゃったけだ、やばいよね?

角を曲がったときにふらっときた。

酔ってるのに走るから…

多分、振られちゃったかな。ってか、松山さんからしたらよく行くカフェのお店の人…それだけだもんな。

「はぁー」

ふらつきながらも、足取りはしっかりと家の方に向いている。明日からどうしよう…


翌日。

「松山さんどうしたんだろ?」

いつもの時間にこない。

そして、翌日も翌々日も来なかった。

「弥子、何かあったの?」

「うっ」

こなくなって3日目になったとき、私の顔は悲しさの限界になってて、尚美が流石に気づかれた。理由を話すと

「もしかして何かあった?とは思ってたけど、まさかねー」

「…」

きっと

「嫌われたか…」



でも、一週間後

「!?」

「あっ!」

松山さんが現れた。

「あ、え、いらっしゃいませ」

尚美もついどもってしまってる。

「最近おみえでなかったので」

「都内に出張に」

「あー、そうだったんですね!」

尚美に行け!と、何度も合図される。

「おはようございます。この間はありがとうございました」

「いえ、楽しかったです」

は、恥ずかしい

「す、すぐご用意しますね」

厨房に行ってモーニングの用意をする。

「弥子、このままだとそのままになるよ!しっかり言わないと」

「う、うん…」

松山さんのあと数人お客さんが来たので厨房に入りっぱなしだったが、松山さんが会計してドアをあけ帰るのをみて、尚美に託され

「あ、あの松山さん!!」

店を出て追いかける。

「む、無理ならいいです!連絡先聞きたいです。」

「…」



だ、だめかな?

「いいですよ!」

「え?本当ですか?」

ビックリした顔であげると、松山さんは笑ってて

「そんな驚かなくっても」

だって、嬉しいんだもん!!それに笑顔だし

「また、会ってください」

そういうと

「わかりました」




「どうだった?」

「連絡先教えてくれた」

「!?やったじゃん!!」

「…うん」

嫌われてはいないのかな?

ドキドキが止まらない。

でも、いざとなると何チャットに送ればいいんだろ?

そんなときに、お客さんからホテルのバイキングのペアチケットを貰った。

テレビで美味しいバイキングって特集してたよね?たしか

そのお客さんにはお礼にランチご馳走したけど、きっとうちのランチ代の何倍もしそう。

そのお誘いをチャットにしたら、OKの返事を貰った。

定休日は平日。少しは空いてるかと思ったが…

「凄い人ですね」

「やっぱり人気なだけありますね」

そうは言っても事前に予約を入れてたんで席にはすんなり案内された。

種類も豊富なんで悩むなー、でも松山さんの前だから少しはおしとやかの方が…

「折角きたんで、がっつり食べますか」

私の心を呼んだのか、そう言ってくれたので

「わかりました!がっつりやります!」

といい、バイキングははじまった。

90分後

「もうだめーー!!」

苦しぃーー!

松山さんも

「こんなに食べたの久しぶりだなー」

と、お互い気合いで食べまくった。

ホテルに出るとまだ15時前だった。

折角会えたんだし、もう少しいたいな。そう思ったら

「え?うそ!!」

天気予報では、雨なんていってなかったよ!

ちょっと振ったなーと思ったら、一気にどしゃ降り。雨宿りでお店の入り口に向かった。けど

「!?」

松山さんはビックリして私に上着をかけ、小声で

「ちょっと、透けて…」

えっーー!?

薄い色のブラウスだったので、透けてる…

嫌だ!どうしよう!?恥ずかしい。

「このままだと目立つし、うち来ますか?こっからなら歩いて10分くらいです」

うちだと1駅だけど電車かバス使わないとだし、何よりも松山さんの家にいきたい!

私は頷き、ピニール傘を買って松山さんの家に向かった。


松山さんのお宅は、デザイナーズマンションでとても個性的な建物、間取り。すぐにシャワーに入るように託され

だ、大丈夫よね?そういうのじゃないよね?

「ここに着替え置いときます。俺のなんで大きいかもだけど」

脱衣所で声が聞こえた。

松山さんの服着るんだ…、やばい!ドキドキする!!

シャワーから出てバスタオルを借り、トレーナーの上下を着た。

「すいません。お先に」

「俺も浴びてきます」

と言って交換で入っていった。

なんか、松山さんに包まれてる感じがする!それって私変態か!?

リビングは開放的で奥に2つの部屋のドアがあった。1つは仕事部屋でもう1つは寝室かな?などと考えてたら

あれ?よくよくみたら、ズボン逆じゃん!!

めっちゃドジ!!

トレーナーは大きく太ももまで長さあったので、よく確認してなかった。

まだ、帰ってきてないしここで取り替えちゃえ!!

ズボンを脱いで履き替えようとしたら

カチャ

と、ドアの開く音が


「えっ?」


うそ!!もう戻ってきたの!?

あまりの衝撃に固まってしまった。


「あっ、すいません。逆に…」

松山さんを見ると顔が真っ赤だでた。私はズボンを履き替えるよりも先に松山さんの方に向かい抱き締めてしまった。

「ずるい!そんな顔!」

「ずるいのはそっちでしょう!そんな格好」

松山さんはなにもしない。私はぎゅっと抱き締めて、そして自らキスをした。

唇の先は全く動いてない。それでも拒否してくれないことが嬉しい。私は啄むようにキスをした。


「す、すいません。襲っちゃいました」

「…襲われ…ました」





「こんなことして責任とってくれるの?」

「…え?」

いつもより低い声で聞こえる。

「俺はなにもしてないよ!弥子さんのせいだ」

そう言って私の顔を見つめる。

「…全部わたしのせい。全部私が悪い。だから…」

松山さんをみつめる。

後頭部を押さえられ、松山さんからのキスが…

荒々しくってそれでいて情熱的な。キスに酔いしれるわたしを後ろのソファに倒す。

「…弥子さんのせいだ」

またキスがはじまり、そのキスは止まることを知らなかった。

見つめられる度に嬉しさが込み上げる。触られる度に幸せを感じる。

「あぁ」

漏れる声に感度があがる。もっと私を求めてほしい!もっと愛されたい。

幸せすぎて、ずっとこのままでいたい





「す、すいません」

お互い裸になっていて、タオルケットでくるんでくれた。

冷静になるとなにやってるのよ!!って思う。謝りはしたが反応はない。

「だ、だって!松山さんが凄いかわいいって思っちゃったんですもん!押さえられなかったから」

って言うと

「ぷっ」

と、笑われて

「おっさんに可愛いって…」

「だ、だって!!」

お、怒ってない!?

「…本気ってことでいいですね?」

「えっ?」

「本気で、好きってことでいいですね?」

「はい!す、凄い本気です!」

「バツイチだし、一回りも歳離れてるし、絵本作家という安定した職についてないし、どこから見ても気に入られる要素ないけど…」

私の頭を触って

「俺でいいんですか?」

う、うそ!?

「ま、松山さんじゃないとダメなんです!」

「まずはお試しってことからでもいいですか?まぁ、色々してしまった後ですけど」

「は、はい!!お試しでも何でも全然問題ありません!」

嬉しくって松山さんに飛び込んでしまった。

「弥子さんってグイグイきますね?」

「ち、違います!必死だったんです」

そう言うと

「可愛いのは弥子さんの方ですよ?」

かぁーと熱くなる。

「ほら、可愛い」

お試しでも何でも近くに居させてくれるなら何でもいい!



「いらっしゃいませ」

「あ、松山さん、おはようございます」

「おはようございます」

尚美が松山さんに挨拶をし

「もうね、弥子ったら今日はすごーく、ルンルンなんですよ!何かあったのかしら?」

「ちょ、ちょっと!!尚美!!」

そう言うと

「アハハハ」

と松山さん笑ってるし

「お待たせしました」

と、モーニングを持っていくと

「弥子さん、夜って会えますか?」

「え?」

「別に今日の夜でなくてもいいので…、今度はうちで夕飯食べませんか?」

「い、いいんですか?」

「勿論!」

やばい!!嬉しすぎる!

「今日はえっと、夜遅くに宅配業者さん待ってるので遅くなりますので、明日でもいいですか?」

「じゃ、明日お店締めたらうちにきて下さい。遅い夕食でも…」

「はい!」

幸せだぁー

翌日、お客さんが20時半で居なくなったんでそのタイミングで店を閉め、松山さんのお宅にお邪魔した。勿論両親にはデート行ってきます!と言ってる。

「うわー!凄い!!こんなに?」

「いつも、誘われてばかりだから。俺からも誘いたいなーって」

「嬉しすぎる」

「弥子さんって本当に顔にでるから解りやすい」

ご馳走を頂きそのあと少しお酒を飲み、ゆっくりと時間が過ぎる感じが大人の時間って感じがする。

「今日は俺からいい?」

「え?」

そう言うとキスをされて

「こんな若くって可愛い子が…、いいのかな?」

「えっ?えっ!?」

「俺なんかじゃ勿体無い」

「そんなことない!松山さんは私にとって最高の男性です」

松山さんを感じたくって何度も抱き締めてはキスをした。結局そのあとも…することはしてしまい

「ヤバいな、ハマりそう」

と、小さい声で松山さんが言ったのが聞こえた。



私たちはそのあとも順調なお付き合いをした。そしていつの間にかどちらもと言うことないけどお試しは終わった?気がする。

お付き合いをして一年後

尚美は旦那さんの転勤で引っ越すことになった。

そして

「「いらっしゃいませ」」

絵本作家の仕事以外は私の店を手伝ってくれることになった。元々料理好きな人だったんで厨房での作業もだいたいやってくれてる。

「弥子、これ」

「はい」

ご夫婦でやってるんですか?なんて言われることもあって、早くなりたいけどね…

両親もおじさん、おばさんも公認だし、堂々とラブラブしてます!

先週1週間、都内で打ち合わせなどで出張があると、母が手伝いにきてくれて

「松山さんって本当にいい人ね、昔弥子が居ないときにね、挨拶に来てくれたことがあるのよ!歳も離れてるし、収入も安定しない職ですけど…、こんな私ですけど弥子さんの力になれるように全力で頑張るって」

「え?」

「その頃から、この店で手伝えたらやろうって決めてたのかしらね」

そうなんだ…、知らなかった。

昼のピークを過ぎればほぼ1人でも問題ないので、それまではだいたい松山さん…改め修也しゅうやさんが居てくれる。

それから夜の20時くらいまでは仕事があるときは絵本作家をしている。本人は安定してない職と言ってるけど、毎月サラリーマンの収入くらいは貰えるレベルなので問題はないと思うけど…

絵本作家は日の目に浴びない職かもしれないけど、子供たちに夢を与えるし私からしたら尊敬。カフェに絵本を置いたことで子供連れの親子なんかも来ることが増えてきた。

店も締めて、家に向かおうとしたとき

「あれ?待っててくれたの?」

「うん」

修也さんが外にいた

「ちょっとだけいい?」

「え?あっ、うん」

少し歩いたところに公園がある。

「俺が前、あの店から座ってたとき、この辺りがよく見えてね、子供たちがこの公園で遊んでるのが見えたんだ」

「あー、確かにあの席からだと見えるね」

「あの子たちが喜ぶものを作りたいって思いながらね」

「うん」

「弥子、俺の嫁さんになって」

ビックリして言葉が出ない

「今日は弥子にはじめて襲われて1年目。だから弥子に責任とって貰おうかと」

い、意地悪!!

でも…

「責任とります!」

と言うとピンク色の指輪がはめられた。

「弥子、俺を選んでくれてありがとう」

こちらこそ、ありがとう!!

しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

癒しの世界

詩織
恋愛
芸能のマネージャーになって15年。少しは凄腕マネージャーなんて言われてる。でもここになるまでには苦労も多い

イケメンの偽彼氏

詩織
恋愛
先輩たちに目をつけられ、我慢の日々そしてとうとう私は…

一夜の男

詩織
恋愛
ドラマとかの出来事かと思ってた。 まさか自分にもこんなことが起きるとは... そして相手の顔を見ることなく逃げたので、知ってる人かも全く知らない人かもわからない。

危険な残業

詩織
恋愛
いつも残業の多い奈津美。そこにある人が現れいつもの残業でなくなる

貴男の隣にいたい

詩織
恋愛
事故で両親をなくし隣に引き取られた紗綾。一緒に住んでる圭吾に想いをよせるが迷惑かけまいと想いを封じ込める

お見合い結婚

詩織
恋愛
35歳。恋人なし!既に前の恋愛から4年経過。このままだと出会いも何もないな…、そんなときに話が出たのがお見合いの話。やっぱりお見合いに頼るしかないのかーと…。そして…

友達の彼氏

詩織
恋愛
友達の彼氏を好きになってしまった。勿論誰にも言えない。

パパのお嫁さん

詩織
恋愛
幼い時に両親は離婚し、新しいお父さんは私の13歳上。 決して嫌いではないが、父として思えなくって。

処理中です...