石積み

星月

文字の大きさ
上 下
1 / 4

第一夜

しおりを挟む
僕達の暮らすこの田舎町には、ある都市伝説があった。
内容はざっくり言うと、町中に散りばめられた12つの平らな石を集め、神社にある祠の前に全て積まなければいけないというものだ。

それは深夜0時から始まり、3時までに終わらせなければ明日は来ない...成し遂げるまで永遠と同じ日を繰り返し続けることとなるらしい。

因みに、その時間帯には同時に殺人鬼がいるみたいだから、そいつから上手く逃げたり隠れたりしながらやらないといけないんだって。
もし誰かが死んでしまった状態で石を積み終わったら、明日は来るけど死んだ者の存在は消されてしまうんだって。

...こんなの、僕はただの作り話だと思っていた。
だから、こんなことに巻き込まれるなんて思ってもいなかった。



■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■



田舎町の中学に通う僕達6人は、この町で行われたお祭りの帰り道で一緒に帰っていた。
学校から少し歩いたところで別れて家に帰ろうとしていたのだが、いつも通る道を歩いていたその時だった。

「ねぇ、あの子何か落としたよ。」

1人の少女が、道路に向かって指を指した。

そこには1枚の白い紙が落ちていた。
彼女はそれを手に取ってみると、何やら文字が書かれているようだった。

"あなた達は選ばれました" 

紙にはそう書かれていた。

「なにこれ...あ!ねぇ君、これ落としたよ...あれ?」

その紙を落としたであろう少女は、忽然と姿を消してしまっていた。

理解するのに時間が掛かった。
今さっきまでそこに立っていたはずの人が一瞬にして消えたのである。

そんな光景を目の当たりにした他の5人も、その場に立ち尽くし、目を見合わせるだけだった。

「とりあえず...帰ろうぜ」

沈黙を破ったのは、リーダー格の真広 裕也(まひろ ゆうや)であった。

「で、でも...この紙どうすれば...」

声を震わせながら問いかけたのは、彼の幼馴染みでもある佐藤 愛実(さとう まなみ)。

「そんなの捨てといたらいいだろ」
「いや、でも...落とし物なんだし交番に届けた方がいいんじゃない?」

怖がりながらも反論した彼女に対し「分かったよ...」と返事をする。

裕也は愛実から紙を取り上げ、2つ折りにしてポケットに入れると、4人は再び歩き始めた。

そして、ちょうど分かれ道に差し掛かろうとした時、事件は起こった。

突然、何処から現れたのか分からないが、お面を被った人物が目の前に現れたのだ。
しかも、その男は手にナイフを持っている。

「な、なんだお前...」

男は走り出し、裕也の腹部にナイフを刺した。
咄嵯の出来事に、一同は硬直していた。

「がは...」と血を流しながら倒れる裕也を見て、女子2人は悲鳴を上げて来た道を走り去る。
僕は腰を抜かし、その場から離れられずにいた。

男がゆっくりと近付いてくる。

「うわぁああ!!!」

恐怖で身体中が震え上がり、立ち上がることも出来ないまま叫び声を上げるしかなかった。
男の持つナイフが僕の喉元を突き刺し、痛みを感じる前に意識を失った。



■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■



気が付いた時には、僕は神社の階段に座っていた。
隣には先程まで一緒だった裕也が座っている。

「おい、大丈夫か!?しっかりしろ!」

裕也の声を聞き、自分の置かれている状況を理解した。
僕は生きているようだ。

すると、どこからか笑い声のようなものが聞こえてきた。

辺りを見渡すと、僕らの他に誰もいないはずなのに、クスクスという不気味な笑い声だけが響いていた。

「ねぇ...なんか変だよ?早くここから離れようよぉ...」

泣きそうな声で僕にしがみつく彼女の名前は佐々木 萌香(ささき もえか)。
僕と同い年の女の子だ。

彼女は極度の怖がりで、ホラー映画を見た日には1人で寝ることさえ出来ないほどなのだ。

「しかしどうなってんだ、いきなり変なやつが襲ってきやがったかと思いきや気が付いたらここにいてよ。」

辺りの木々を見渡す少年の名は鈴木 翔太郎(すずき しょうたろう)。
彼もまた、裕也と同じクラスの同級生であり、部活も同じバスケットボール部に所属している仲良しコンビである。

彼はバスケ部のエースでもあり、イケメンとしても有名だ。

「翔太郎君もあのお面の人に?」

愛実が尋ねると、翔太郎は「あぁ、返り討ちにしようと思ったら普通にやられちまってな。」と苦笑いを浮かべながらそう答えた。

「ダサ」

神社の裏にいたのか、ヤンキー少女の桜木 美波(さくらぎ みなみ)が現れた。

彼女はかつてこの町に存在したレディースグループの元総長であり、今でも先生からも恐れられている存在だ。

悪態をつかれた翔太郎は、「なんだと!?じゃあお前はどうだったんだよ!」と少しムキになって聞いた。

「あたしは普通に後ろから刺されたんだと思うよ、多分ね。」

腕を組み、僕が座る階段まで来ると立ち止まる。

「分からないな...話を聞く限り、俺達はあの仮面の男に殺されたってことだろ?それなのにこうして生きているし、そしてなんでかここに集められた。」

裕也が今の状況を整理する。
ここは天国にしては暗くて不気味で、どちらかと言うと地獄なのではないか。

そもそも、この神社は僕達の暮らす田舎町にある神社だ。
見慣れのある、僕達にとってゆかりのある場所だ。

なんなら今日のお祭りも、ここを使っていたし。

「てかさぁ、これあれじゃね?」

ここから見える、暗くなった町を一望しながら、美波は言う。

「石積みじゃねぇの?」

夜風が髪をなびかせ、月明かりに照らされて輝くその姿はまるで女神のように美しい。

「石積み...懐かしい噂話だな。」

顎に手を添えながら、裕也は呟く。
美波を含め、ここにいる全員石積みについての怪談を知っているようだ。

「でもなんで私たちが選ばれちゃったんだろう...」

と、不安げな表情を浮かべる愛実。
それもそうだ、僕だって訳がわからなくて頭が混乱している。

「もしあの時この紙を拾わなければ、巻き込まれることはなかったのかもな」

ポケットに入れた紙を取り出し、みんなに見せる。

「わ、私のせいだって言うの!?」
「そんなんじゃないって」

そう言って裕也は紙をポケットに戻そうとした。

「ちょっと待って!それ、なにも書かれてなくない?」

さっき見たときには文字が綴られていたが、今見るとなにも書かれていなかった。

「...本当だ、確かに書いてあったよな?」

僕の横にしゃがみ込んだ裕也と2人で、紙をまじまじと観察する。
消された跡すら残っておらず、ただの紙切れとなっていた。

「ねぇ...祠ってあれのことかな...」

気味悪がる僕の袖を引き、ある方向に指を差す萌香。
そこには、小さな神楽のようなものがあった。

その前には、石造りの土台が設置されている。

「噂通りだと、ここに石を積むってことだよね?」

愛実が土台に指先で触れ、そっとさする。

「……このままじっとしてても仕方がないってことだろ。もし本当にやらないといけないんなら、さっさと終わらせようぜ。」

裕也がそう言いながら立ち上がり、神社の出入り口である鳥居を潜る。

「そうだね...まずは行動してみようか。」

階段を降り、神社をあとにする6人。

「まずは12つの石を探さないとダメみたいね」
「石なんてどこにあるんだよ……」
「そんなの知らねぇっての、とりま手分けして探すよ」

美波の提案で、僕達は別々に行動することになった。

「ねぇ、一緒に行こ?1人じゃ怖いよ……」

萌香が僕の服を掴み、離れようとしない。

「分かったよ、萌香は危なっかしいからな」

僕が彼女の手を握り締めると「うん...ありがとう!」と嬉しそうな笑顔を見せてくれた。

しばらく辺りを見渡しながら歩いていると、僕は誰かの視線を感じた。
振り向くと、そこに立っていたのは愛実だった。

「どうしてこんなところにいるの?」
「それは僕のセリフでもあるんだけど...」

彼女の問いかけに、僕は戸惑いながらも返事をした。

「愛実は1人で動いてたのか?」

僕は彼女が歩いてきたであろう道を見渡した。

「いや...裕也と一緒にいたんだけど、靴紐がほどけちゃって結んでたらいつの間にかはぐれてて...その、よかったら一緒に来てくれない?」

彼女は苦笑いをしながら答えた。

「もちろんいいけど、裕也なら携帯とか持ってるんじゃないの?」
「それが、圏外で連絡が繋がらなくて……だから私も困っちゃってて……」
「圏外?」

僕は携帯を開け、電波を確認した。
確かに圏外になっていた。

「じゃあ、とりあえず合流しないとだな」

3人で歩き出すと、萌香はどこか不安げな表情を浮かべていた。

「どうかしたの?何か心配事でもあったり……」
「う、うん...なんかね、ここ変じゃない?誰もいないような気がして……」

萌香の言葉を聞き、周りを確認する。

ここには家が数軒建っているが、確かに人気が感じられない。

「誰もいないように見えるだけで、いるかもしれないじゃないか。」

そう答えると「そうだといいんだけど...」と、また暗い顔に戻った。

「じゃあ...ノックしてみる?」

こんな時間に押し掛けるのもなんだけど、確かめたい気持ちもあった。
僕は引戸を手の甲で叩こうとした。

その時...

「ぎゃあああ!!」

遠くから、男子の悲鳴が響き渡る。

「この声...裕也!?」

愛実が声のする方向へ走り出し、僕も萌香の手を引いてあとを追った。

「はあ、はあ...愛実、ちょっと速くない?」

立ち止まる愛実の背中に声をかけるが、反応がない。

「...どうしたの?」

愛実の顔を覗き込むと、過呼吸になりかけながら青ざめていた。
僕が視線の先を追うと、顔を切り刻まれた裕也が息絶え、横たわっているのが分かった。

萌香は短い悲鳴を上げ、僕は顔をしかめた。

「どうしてこんな...」

愛実ほその場に膝から崩れ落ちる。

その時、周りに広がる田んぼから水のような音が聞こえる。
ばしゃばしゃと、なにかが暴れているような。

物音が止み、そっと現場に辿り着くと、そこには田んぼに沈められた美波の姿があった。
動かなくなった美波を急いで引き上げると、目が潰されいるのが分かる。

「嘘だろ...」

僕の背後で萌香は泣き叫び、愛実は嘔吐してしまった。
僕はここから50mほど離れた場所にある交番に駆け込み、助けを呼んだ。

「誰かいませんか!?人が...人が殺されたんです!!」

受付の奥に声をかけるが、一切の反応が見られなかった。
ふと、外から死角になっていた扉の裏側を見ると、血まみれとなった翔太郎が壁にもられていた。

「...嘘だよ、こんなの...」

拳を握り歯を噛み締めていると、愛実と萌香の悲鳴が耳に届いた。
ハッとした僕は交番を飛び出し、2人がいた場所へと駆けつけた。

携帯の明かりで照らすと、2人はバラバラとなり、頭部だけがしっかりと並べられていた。

2人の虚ろな目を見て、僕はその場にへたれ込んだ。

「どうして...」

一緒にいた5人が何者かによって殺され、その酷いありさまを見てしまった僕は絶望していた。
後ろから足音が聞こえ、ゆっくりと振り向く。

そこには、あの時僕を殺したお面の男が立っていた。

その男は言葉を発することなく、ただそこにいた。

「お前が……みんなを……」

恐怖心を抑えきれず、立ち上がると同時に殴りかかる。
しかし、そんな攻撃もあっさりと避けられてしまう。

そしてそのまま腹部を蹴られ、地面に叩きつけられた。
薄れゆく意識の中、男の手に握られた紙切れが目に映った。

あれは、裕也が持っていた紙切れだ。
それを理解した直後、僕の視界は真っ暗になった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【一話完結】3分で読める背筋の凍る怖い話

冬一こもる
ホラー
本当に怖いのはありそうな恐怖。日常に潜むあり得る恐怖。 読者の日常に不安の種を植え付けます。 きっといつか不安の花は開く。

サクッと読める♪短めの意味がわかると怖い話

レオン
ホラー
サクッとお手軽に読めちゃう意味がわかると怖い話集です! 前作オリジナル!(な、はず!) 思い付いたらどんどん更新します!

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

意味がわかると怖い話ファイル01

永遠の2組
ホラー
意味怖を更新します。 意味怖の意味も考えて感想に書いてみてね。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
よくよく考えると ん? となるようなお話を書いてゆくつもりです 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

処理中です...