アドレナリンと感覚麻酔

元森

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第三章 第十話

104 来訪者

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 あまりにも遅い蒼の登場にしびれを切らした、顔も見えない来訪者はついにドアを大きく叩きだした。そのことに蒼はイラついた舌打ちをし勢いよくドアを開ける。
「うっせーよ、馬鹿か」
「蒼が出ないのが悪いッ」
 甲高い声に、思わず「あっ」と聖月は声をあげる。それは見知った声だった安心感と同時に驚きの「あっ」だった。蒼の身体の隙間から見えたのは、紛れもなくナンバーファイブである、ケイの声だった。その天使の容姿を見ると、聖月はほっとした。そして、彼との会話を思い出す。
 機嫌がいいときは気を付けたほうがいいよ――――
 今までよりずっと蒼が愉しそうだから、聖月に飛び火しないか心配になったんだよね。―――だから極力今はできるかぎり蒼に近づかないで、逃げてほしい―――
 そう言っていつになく真剣な顔をして忠告をしてくれたケイ。そんな彼の想いを無下にしてしまった結果になって聖月は、彼に謝りたくなっていた。
「ケイ…っ」
 聖月は思わず天使の名前を叫んでいた。聖月の表情と声は切羽詰まっており、助けてほしいというSOSを出していることは誰が見ても明らかだった。
 聖月の声に気づいた二人はそれぞれ違う反応をする。蒼に阻まれて聖月の顔が見えないケイは驚いた声で、ケイに気づかれるような行動をしたことの怒りで怒気を蒼は強めた声で名前を叫ぶ。
「聖月っ」
「ふざけんなっクソ聖月ッ」
 ケイはなんとか部屋に入ろうと、蒼を押している。そのまま助けてくれると思った聖月は、嬉しさに涙を流す。
「ケイっ…」
 だがそれは…聖月のここから抜けられるかもしれないという希望は一瞬にして砕け散った。
「ねえ、蒼ばっかり聖月と遊んでてずるくなぁい? するんだったら俺も呼んでよね」
「あ~…、ごめんって。チョット今いいところだったからさぁ…」
 ―――――――え?
 その声は、もしかしたら蒼に届いていたのかもれない。ちらりと、蒼がこちらを一瞥したのが見えた。今、なんて言ったのだろう。ケイは。
 ―――――――ねえ、蒼ばっかり聖月と遊んでてずるくなぁい? するんだったら俺も呼んでよね
 ケイの甘い声が聖月の脳内にくるくると回っていく。ケイの言った今の言葉の意味がにわかに信じられない聖月を置いて、2人は楽しそうに玄関先で話を続けている。乱れた蒼の服装にケイは何も言わなかったし、蒼も特に気にする様子もなかった。それがまた聖月の脳を混乱させ、絶望へと堕としていく。
「今回はどこまで進んだの?」
「あとちょっとで挿入(い)れられるとこまでいったわ」
「え~。すごいじゃん、俺も見ていい?」
 軽く言ったケイの言葉は、じわじわと聖月に侵食していった。
「あ~、いいぜ。セイちゃんも、観客に見られる方が嬉しくてしょうがなさそうだしなぁ~」
「あははっ、セイってば淫乱~」
 嫌な予感は確信へと変わる。二人の会話を聞くたびに、汗がにじみドキドキと嫌な鼓動が鳴り響く。それはさながら警告音のようだった。逃げなきゃ、と思っていても身体は動かない。服に着ようと手を伸ばしてみたが、震えていて使えない。
「……」
 そんな聖月の動揺を見透かすように、蒼がこちらを一瞥する。その蒼の表情は聖月に向けた一瞬の侮蔑に満ちた笑みで。きっと蒼はこう思っているのだろう。
 ―――もしかして、助けられると思ったのか?ケイだって狂気(ディメント)に染まりきった同類なんだぜ―――?
 …信じた俺が馬鹿だった。聖月は項垂れ、そしてずっしりとした身体の重さを感じた。
 いや…、馬鹿も何もない。本当は、自分でも分かっていたはずなのに。聖月はケイを信じてみたくなってしまったのだ。聖月は嬉しさに泣いてしまった目頭を押さえて、違う意味で泣くのをグッと堪えた。
 遊び感覚で人を壊す人物たちだと分かっていたのに。忠告されただけでほだされてしまった自分自身の考えが浅はかすぎて嫌になった。
 聖月はケイに騙されたのではない。聖月が勝手にいい人のようにケイを解釈をしただけだ。そんなのケイにもいい迷惑であろう。自分を責める聖月の耳に、ドアの閉まる音、鍵のかかる音が聴こえる。前を見れば、ケイと蒼がそこにいた。それはこの部屋に、聖月にとって逃げなくてはいけない相手が2人に増えたということだ。
 これからどうすればいい?そんな思考を巡らさせていると、ギシ…と軋んだ音がした。
「み~つき蒼にすっごく気持ちよくさせてもらったみたいだね」
 語尾にハートがついてるぐらい甘ったるい声音でケイは言ってくる。いつの間にかケイはベットの上にあがっており、上半身はシャツだけで、下半身は丸出しの聖月を舐めまわす勢いで見つめてきた。聖月は至近距離にいるケイに恥ずかしさで頬を赤くし、乱暴に言い返す。
「なんで、いるんだよ」
 こんな夜中の時間に、と言えばケイは愛くるしい笑顔を作る。蒼もケイと同じようにベットに座っていた。ベットの上には、蒼とケイがいる。聖月にとっては妙な光景だった。
「寂しくなっちゃったから蒼に会いに来た」
 甘える仕草をして話すケイに、蒼は口を開いた。
「…あぁ、お前今日誰も客来なかったのか」
 納得した様子の蒼は、何度もそんな理由での訪問があるような…普段のケイとの関係を表すようなことを言っている。そのことに聖月は驚きつつも二人の独特の会話を聞いていた。これで付き合っていないのだから、この二人は聖月にとって本当に分からない。
「そうなんだよね~。そしたら聖月がいるし、ちょっとびっくり。お得感ある」
「お得感ってなんだよ」
 乾いた笑みを浮かべる蒼のケイを見る目は、やはり聖月に映るものとして少し怖い。そのことにケイは気づいていないのか、いるのか分からないが―――いや気づいていたらきっとこんな関係じゃいられないだろう―――楽しそうに笑みを浮かべる。
「見せもんじゃないし。ケイも俺を助ける気ないならどっか行けよ」
 聖月は拒絶の態度でケイに接した。そうしないとこれ以上おかしくなりそうだったからだ。
「やーだ」
 意地悪く笑ったケイは聖月の腕を掴み大きな力で引っ張った。
「ッ」
 突然の衝撃に聖月はなすすべもなく、ベットに押し倒される。そのまま聖月に飛びかかったケイは、身体を思い切り聖月の下半身へ乗ってしまった。ふいの出来事に聖月は後手に回りそのあとのケイの行動に対応できない。
「…ッちょっ…」
「あ~変わってない、みつきのだぁ…」
 そう言いながらケイは聖月の、股間のものを綺麗な手と指で掴む。その触れられた刺激と、生々しい光景に聖月は大きくビクつく。
「おっ、」
 ひゅうっと口笛を吹いたのは蒼だった。蒼は愉しそうに―――これから起こることを嬉々としてみていた。聖月は目の前の光景に度肝抜かれた。変わっていない―――その言葉に、一気に前の出来事が蘇った。
 ―――前置きはもうやめよう。ケイタももう我慢できないみたいだし
 聖月はあの時のことを思い出していた。小向の招待状によって撮影会に連れられた、悪夢のような1日。そして一生忘れるはずもない、甘美な一日になってしまった日のことを。
 ケイは、聖月と目が合うと、まるで再演かのように―――あの時と同じくにっこりと蕩けるような笑みをする。聖月はその笑顔から身体を動けずにいた。男を誘う表情――…それが似合っている顔を、ケイはまたあの時と同じくしている。
 そしてあのケイの痴態を思い出し、ドキッとしてしまう。思わず聖月はゴクリ…と喉を鳴らす。
 ケイは聖月のむき出しの性器を愉しそうに触ると、感触を確かめる。
「っ、さわるな…ッ」
「ええ~? いいじゃん、減るもんじゃないし。もう前に触ったし」
 何度触られてたって、何度見たってこんなのおかしい。聖月はそんな気持ちで、低い声で抵抗する。だがケイが相手だと思うとあの時のように無下にして、哀しい顔をさせたくないという聖月の奥底の気持ちが揺さぶられる。
 綺麗で可愛らしい天使が艶美になるのは、たとえケイがそういう人間だと分かってたとしても動揺してしまう。
「そういうもんだいじゃ…、っ」
「んっ、すっご…、なんか前より敏感でえっちな味がする…。…かわい~」
 上目使いで、甘ったるい声で淫猥な言葉を放つケイ。震える聖月を置いて、ケイは可愛らしい小さい口を開き性器を含ませる。
「っ…」
 あまりのことに腰がバウンドし、さらにケイを求めるような形になってしまう。逃げようと腰を動かすが、身体は≪気持ちよくなりたい≫とまるで言っているように動かない。下を見ればケイの艶やかで柔らかい唇が、聖月の陰毛に触れるまで包み込んでいた。
「…や、やめっ…ッ」
 さすがはナンバー持ちの蝶だ。あっという間に聖月を追い詰める口淫をして、翻弄する。聖月は熱くぬめぬめとした未知の感覚に、抵抗も出来ずなすがままだ。ケイは聖月の性器を嬉しそうに、楽しそうに奉仕を続けている。じゅるる…と獰猛で性を啜る下品な顔つきに、聖月の普段は出さない雄の部分が刺激される。
「すっげ、美味しそうに食べるなァ…。おいしいか、ケイ? なぁ、俺のも欲しいか?」
 はぁ、はぁ、はぁ、と男たちの興奮の息遣いが部屋に響き渡る。蒼は楽しそうに言うと、クスッと笑う。
「あっ、んうぅう…おいしぃ…、そ…うのもほし…ッ」
「あぁ、やるよ…、お前の大好きなご褒美だ」
「…っ」
 傍観していた蒼がいつの間にか聖月とケイの至近距離にいた。ベットの上に3人が乗り、蒼は口に含んだケイの顔に自身の性器を近づける。聖月はぎょっとした表情でその光景を見つめていた。ケイは不躾な行為を受け入れ、性器に頬を突かれ本当に嬉しそうにだらしなく微笑んだように見えた。
 

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