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7 突如市場に現れた強盗! 捕まえることが出来るのか?!

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「魔女って…魔女…だよな」
  俺は言われた言葉を反芻する。
 このゲームの世界に魔女がいたのか――。
 妹からそういった話は聞いたことがなかった。俺が考え込むような仕草をするとアレクが言った。
「あぁ、もう殆どいないのだがな。――お前、よく知っていたな」
「え?! あぁ、」
 ――ち、近い!
 目が合った状態のまま近づかれ俺は目を瞬く。やはりファイブは美形であり、目が痛くなるほど眩しい。先程から高鳴った心臓を俺は何とか押さえようとする。
「どこでその名前を聞いた?」
「――え?」
 考えていた所に不意に問われ、俺は身体を硬直させる。
 その目は冷たく、背中がゾクッと震える。
 まさか前世で知っていました、とは言えずに口ごもる。
 ――ここでは何か魔女という言葉が重要なのだろうか…?
 そんな事考えていると、ファイブが重い口を開いた。
「…まぁいい。じゃあ魔女の説明は不要か」
「…あぁ。女性の魔法使いってことだろう」
「まぁそうだが…、お前……いや、いい」
「?」
 俺に何か言いかけて辞めて、ファイブが目を伏せる。気になったが、ファイブの雰囲気が軽く聞けるものではなかった。
「魔女の名前は、ハーバル。…知ってるか?」
「…いや、知らない」
 聞いたことがない名前に首を振ると、俺の頭上から大きな声が響き渡る。
『ハーバル?! ハーバル大魔女?!』
 俺は不審がられないようにこっそりと頭上を見た。目で『なんだよ。知ってるのか?』と聞くとセーブたんが叫んだ。
『ハーバル大魔女は薬草に秀でた大魔女ですよ! まさかゲーム内で、ソードナイト騎士図書室の棚から5番目の本を見ないと出ないキャラに会えるなんて! やっぱりアレクさん持ってる! 流石受けの星です!!』
「そんなの分かるわけがないだろ…」
 俺は小声で言うと、そっとため息をつく。
 最後の方の言葉は無視をするとして、初めの方に言われた言葉が気になった。
 ソードナイト騎士図書室の棚から5番目の本――。
 ――また帰ったら、見て見るか…。
 ソーシードナイト騎士団には図書室があるが、俺はあまり利用してなかった。何だか文字を見ていると眠くなるし、やはり俺には剣の稽古の方が性に合うからだ。
「長話をしてしまったな。もう寝よう」
「そ、そうだな…」
 ファイブの言葉にハッとなる。頷き、俺は毛布をそっと自身の体に寄せる。
 頭上からニヤニヤとした顔のセーブたんが見詰めてきて、俺は睨みつける。
『えーん、ひど~い! ちゃんとハーバル大魔女のこと教えてあげたのに~!』
 ――そういうところが、プレイヤーにウザがれるんだろ…。
 泣く真似をするセーブたんにため息をつきつつ、俺はベッドの端っこに寄った。
 もうファイブも『こっちに来い』とは言わなくなった。それにほっとしつつ、魔女の姿を想像する。
 ――きっとこのゲームだし、絵本にあるような美人なんだろうなぁ…。
 瞼を閉じつつ、俺はまだ見ぬ魔女の姿にドキドキと胸が高鳴っていた。
 それから疲れていたのもあって、隣にファイブがいることも忘れて俺は睡眠を貪っていたのだった――。
 
◇◇◇
 
 その次の日の朝。
「も、申し訳…ございません…」
 俺はベッドの上で、ファイブに頭を下げた。
『だからあれだけ言ったじゃないですか! 引っ付いて寝てくださいって!』
 ――いや、そんな事出来るはずがないだろう……。
 セーブたんの声に俺は頭を下げるしかない。
「まさかアレクに叩き落とされるとは思っていなかったよ。そんなに寝相が悪かったとはな」
「本当に、申し訳ございません…」
 ニヤニヤとファイブに見られてしまい、俺は謝るしかない。ファイブの言う通り俺は寝ている時に彼を蹴とばしてしまった。王族であり、第五王子であるファイブに、だ。
 まさか自分でもあそこまで寝相が悪かったとは思っていなかった。いつも自分が起きているときには元に戻っているし、同室であるシャープにも寝相が悪いと指摘されたことはない。
 ――もしかして、優しいシャープは知っていたが教えてくれなかったのかも…。
「そんなに謝らなくていい。お前の新しい一面が見えたことだし」
 ファイブにさらにニヤニヤとされ、肩を叩かれる。
 どうしてそんなに楽しそうなのだろうか、と思う。
 俺はやってはいけないことをやったのに――。 
「昨日から思っていたが敬語はやめろ。調子が狂う」
「そうは言っても……」
 以前にセクハラ発言に無礼な!と言っていた自分の方が無礼だ。 
「やめろ。――これは命令だ」
 ゾクッとする程の冷たい目をされ、俺は息をのむ。
 ファイブは時折こういう冷たい目をする。ソーシード騎士として俺も危険人物は見てきている。その中でも彼の目はそういった者とは何かが違う、従わなければいけない――そういう目をしていた。
 俺はそんなファイブに頷くしかなかった――。
 
 
 
「凄いな…これがアッシュ王国の一番大きな市場であるアーリー市場…」
 俺は思わず感嘆の息を吐く。
 今俺たちは宿を出て、昼食を食べるためアーリー市場に着いた。
 アッシュ王国は港町で、貿易も盛んな国だ。様々な国の人々が市場にごった返している。軽快な市場にかかる音楽、商人たちの声。様々な国の衣装に包んだ老若男女の賑わい。
 市場の中でディスティニーとクロノに乗った俺たちは目立っていた。邪魔にならないよう路地裏の近くに居るのだが、ファイブが美形で、俺も長身のためかなり目立っている。
「アレクの好きなりんごも売ってるぞ。買って来てやろうか」
 りんごの出店を見ながら、ファイブはくすくすと笑っている。
「子ども扱いするな! りんごぐらい自分で買える!」
「――ククッ、ようやくお前らしくなってきたな」
「――…!」
 ファイブの言葉に俺が赤面していると、突然市場から若い女性の悲鳴が聞こえた。
「きゃーーーーー!」
 一気にアーリー市場がざわついた。
 俺たちの前に逃げるように走るガタイの良い男の姿。男は逃げるように路地の中に入っていった。俺の目にはその手には女性物のバッグを持っているように見えた。
「私の、私のバッグがぁ! あの男を捕まえて~!」
 男を追いかけるようにして、路地の中に泣いている1つ結びの女性がよろよろと走っていく。だがもう限界だったのだろう。路地の途中で息を荒げて地べたに突っ伏した。アレクはクロノから降り、女性に駆け寄る。
「アレク、俺はこの女性を安全な場所に連れていく。――俺の護衛は一旦忘れろ、ソーシード騎士ナンバー2としての仕事をしてこい。これは命令だ」
 強い目と口調でファイブが言った。
 俺の任務はファイブの護衛だ。ファイブを1人にしていいのか迷ったが、事は一刻を争う。
「了解した。また後で落ち合おう! ――ディスティニー!」
 ディスティニーを呼ぶと「ヒヒーン!」と答えてくれ、俺は男を追いかける。小さな豆粒のように遠くの男を追いかけるのには、ディスティニーの力が必要不可欠だ。
 ――今日はたっぷりお前に高級なニンジンを食べさせてやるからな!
 俺はそう思いつつ、必死になって逃げた男の後を俺は追った。
 馬と人間の走るスピードは時速で計算するとだいたい2倍違うと、ソーシード騎士で習った。先程まで小さかった男の背中がどんどんと大きくなり、俺はこれは追いつけると確信していた。
 だが男が路地裏を出て右に向かって走っていくと、状況が一変した。
「クソ! アイツ、アッシュ王国の出身か?! これじゃ、アイツがどこにいるのかさえ分からないじゃないか!」
 俺は怒りを露わにし、ディスティニーの手綱を引っ張り動きを止めさせる。
 目の前にはアーリー市場とは違う、小さい市場が広がっていた。
 ――狭い名も知らぬ市場。ディスティニーと共に入るには小さすぎる道。人もまばらではあるが、先程の泥棒を見つけるには男性も多く見つけるのは至難の業だろう。
 ファイブに言われた言葉が蘇る。
 ――ソーシード騎士ナンバー2としての仕事をしてこい。
 ファイブに信用され、俺だからこそ任されたのに――。
 俺はディスティニーと共に途方に暮れるしかなかった――。

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