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3 隠しキャラ登場?! その名もファイブ・ソード!
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その日の夜。俺は、城下町の酒場に居た。これから旅に出るので、遊べなくなるため少しでも遊んでおこうという目的と、もう一つ目的があった。城下町ということで、酒場には町人やソーシード騎士ではない騎士、はたまたソーシード騎士の一員など様々な人が居た。
皆楽しそうに酒を飲み、明日の憂さ晴らしをしている。
俺は自然とカウンター席にいる平凡な顔の騎士の隣に座っていた。…だって、怖いじゃないか、美形の隣なんて。
すると隣に座ってきた俺をみて、茶髪の騎士が驚いた顔をしていた。
「おー、ソーシード騎士のアレク騎士じゃないか! ソーシード騎士のナンバー2に会えるなんて光栄だなぁ!」
その声につられて俺の周りには屈強そうな騎士が群がってきた。おう、こんな展開は想像してなかったぞ。
「王国直属の騎士様に会えるなんて嬉しいなぁ!」
「今日はおごってやるぞ! いつも王国を守ってくれてサンキューなぁ!」
「ああ、どうも」
おごってもらえるのは嬉しい。ソーシード騎士は、王国直属の騎士団ということもあってか国民の人気も高いことがよく分かる。もしも選ばれたら皆のあこがれの的になることは確定するのである。俺はぐびぐびと樽に入ったオレンジジュースを飲みながら、本題を切り出した。
「皆に聞きたいことがある」
「おう、なんだ?」
「なんでも聞いてくれぃ!」
酒に酔っているのか顔を真っ赤にした男たちは意気揚々と言った。俺は意を決して言葉を紡ぐ。
「第五王子について知ってるか?」
俺が言った言葉に、しばらく静寂がやってきた。皆、目を丸くして俺を見詰めた。そして、次に顔を崩して爆笑した。ひーひー言わせて皆爆笑している。俺はぽかんとしてしまう。
「騎士様面白い事いうねぇ! ソーシード王国の王子は第四王子までしかいないじゃないか」
と、セクシーな赤いドレスを着た熟女がけたけたと笑い、
「第五王子ぃ? 聞いたことないなぁ!」
と、屈曲な騎士が、
「女王様の隠し子かなんかかあ?」
と、隣の平凡騎士が笑っている。
やはり、皆、第五王子なんて知らないみたいだ。セーブたんに聞こうにも寝ているのか、全くこちらの声に応答しない。ホントに、使えない虫だな。
「いや、女王様がおっしゃられていたんだ。明日、第五王子の護衛をよろしく頼む…と」
「言い間違えたんじゃないか? あの人、結構言い間違えることが多いだろ」
「やはり、…そうか」
屈強な騎士に言われて、やはりそうか、と思い始める。酒場にきたもう一つの目的は、『第五王子について情報を集める』ことだった。女王陛下のことを疑っているわけではないが、やはり記憶を巡っても『第五王子』なんていなかった。この国の王子は4人しかいなかったはずだ。
不思議に思っていたが、女王が言い間違えている可能性もある。第五王子じゃなくて、大貴族、とか。
「そんな人いたら、他の王子たちが言ってるはずだしなぁ。気になるんだったら、他の王子に聞いてみたらいいんじゃないか?」
と、同僚でもあるソーシード騎士の騎士に言われて俺は頷いた。そうか。第五王子がいるんだったら、他の王子なら知っているのかもしれない。ちょうど第一王子のワンが近くに居るんだし、帰ったら聞いてみよう――――そう俺は結論付けた。
そこで一つの話が終わったのだと判断した人々が楽し気に話しかける。
「聞いてくれよ、今日、フォー王子が部屋をゴーレムに変えちゃってさぁ! 今日はそれの修繕で各所を回って大変だったんだよ」
「あぁ、あの人のトラブルメイカーっぷりは今日も健在だねぇ」
「そうそう! この間もさぁ――――」
皆が今日あったことを楽しそうに話している。ちなみに、話に上がっている王子の名前はフォー・ソード。30歳。第四王子。美形。土属性の魔法が使える。髪はこげ茶で、ツンツンとがっている。トラブルメイカーでよく部屋をゴーレムに変えている。ソーシード騎士に所属しておりナンバー6の実力を持つ人物だ。
噂にはよく聞く人物で、実際にトラブルに俺自身あったことはない。騎士が熱弁する部屋をゴーレムにされた話を聞きながら、足を組み頬杖をつく。
俺はこの国を守る騎士だ。ソーシード騎士のナンバー2。それは今この場に居る人々を守る責務を果たすということだ。女王の言う事も果たす。それは変わらない事実だ。明日はとにかく頑張ろう―――。とにかく、第五王子だか、大貴族の護衛をすればいい。
俺は、喧噪を聞きながら、明日の準備をするためオレンジジュースを飲み干し酒場のドアを出ていった。上を見上げれば、あまりに綺麗な星空が広がっていた。
◇◇◇◇◇
「ここだよな…」
俺は、馬を連れて、塔の前に立っていた。空は晴天。朝の日差しは温かく俺の肌を照らしている。女王の言う通り早朝、城の北にあるある塔の前に来てみたが人の気配はしない。鬱屈とした雰囲気のあるおどろおどろしい塔だといつみても思う。石で出来た冷たい印象のある塔。
結局、昨日、ワンに第五王子について知らないか聞いたが聞いたこともないという回答を貰った。
「ここに人が住んでるなんて想像出来ないんだがな」
剣術の練習をこの塔の前でするが、人の気配なんてしたことがない。
「ぶるる…っ」
「おう、すまんな。今、ノックするから」
早くしろ、と言わんばかりに俺の愛馬である『ディスティニー』が鼻を鳴らす。黒いたてがみを撫でてやるとご満悦そうな顔をしている。可愛い奴だ。
「ちょっと待ってろ」
ディスティニーにそう言って、俺は塔のドアの前に立つ。木で出来た扉には、どこか威圧感がある。俺は勇気を出し、大きくドンドンと3回鳴らしノックした。
「早朝に失礼する。私は、ソーシード騎士のナンバー2アレク・シールドだ。女王の命によって馳せ参じた」
シーン…。
何度か叩いたが、返事はない。大きく声を張り上げたが、聞こえないのかもしれない。返事はなく、可愛い鳥のさえずりが聞こえるだけだ。それから何度かドアを叩いたが、返事はなかった。やはり人がいないのではないか?と不安になった。
「仕方がない」
あまり使いたくなかった、女王からお借りしている鍵をポケットから取り出す。
「申し訳ないが入らせて頂く」
ドアにある鍵穴に差し込み、カチャリ…と鍵のあいた音がする。心臓がドクドクと跳ねあがる。俺はゆっくりとドアを開けた。開けたドアからのぞかせた部屋は真っ暗で、やはり人の気配すらしない。
「…失礼する」
ディスティニーに「待ってろ」と命令し、俺は一歩踏み出した。だが、暗く、段差があるのに気付かず足がつまずいてしまった。
「痛っ」
床に受け身を取りつつ倒れこんだ俺は、その瞬間、バタン!と大きな音がしてドアが閉まったのを聞いた。思わず愛剣に手を伸ばす。背筋に嫌な汗が流れる。その瞬間、部屋が一気に明るくなった。そして、綺麗に整頓された部屋が目の前に広がる。
そして奥のベットから、一人の男が立ち上がった。
男は倒れた俺に近づき、しゃがむと顔を覗き込む。
「美形…」
俺は思わず顔を見て呟いた。その刹那、男は「くくっ」と低く笑った。
「人の家に入ってきて始めに話す言葉がそれか?」
低い声で言った男は白髪、赤目で、オールバック、褐色の肌を持つ、かなりの美形の男だった。白いシャツに、スラックスのズボンをはいている。思わず見惚れてしまう程の美形であり、しばらく惚けていた俺は慌てて立ち上がると深々とお辞儀をする。
「―――ッ、申し訳ない。勝手に入ってきたことを詫びる」
「へえ、素直じゃないか」
男は立ち上がるとくくっ、と面白そうに俺を見詰めている。じろじろと上から下まで一瞥する男は、見たこともない顔だった。
「俺はソーシード騎士のナンバー2、アレク・シールド。今日は女王の命によりファイブ・ソードをアッシュ王国まで護衛するためここにやってきた」
「ほう。俺の名前を知ってるのか。珍しいこともあるものだ」
「……ということは」
恐る恐る俺は問いかける。その言い方は、まさか…。
「俺が、ファイブ・ソードということだ。アレク、俺の事はファイブと呼べ」
傲慢に言い切った男は、自らをファイブと名乗り、俺の事を初めから呼び捨てにした。これが俗にいう『俺様キャラ』というやつなんだろうか。開いた口がふさがらない俺をファイブは顎を掴む。急な事に驚き、逃れようとするがビクともしない。ファイブは180センチはある俺より大きく190センチはありそうだった。これだけの大男は見たことない。
「ファ・イ・ブ」
甘ったらしく言われて、俺は眉をひそめる。
「…だ、第五王子を呼び捨てにするなんて出来ない」
「じゃあ、ずっとこのままだな」
不敵に笑うファイブに、俺はついに折れた。
「ふぁ…いぶ…」
「よかろう。アレク」
やっと顎の手を離され、ほっとする。だが、ほっとした瞬間、俺の愛剣がぱあああああ…と光り、脳内にけたたましく声が聞こえた。
『な、なんということだぁ?! 私が寝ている間に…いつの間にか隠しキャラが、と、登場しているぅううううう?!』
「う、うるせえええええええっ」
思わず叫び、ファイブに何だコイツという顔をされたので「な、なんでもないですぅ」と口を押さえた。俺は慌てて愛剣から飛び出てきたセーブたんを握りつぶした。そして小声で言う。
「ぐ、ぐえ…っ」
「なんだよ、隠しキャラって?! てか、ファイブ・ソードなんてキャラ『ナイトオブナイト』にいたのか?!」
「貴方は知らないかもしれませんが、ナイトオブナイトには全員をクリアすると出てくる秘密のキャラクターがいたんですっ! それが、第五王子 ファイブ・ソード! 難易度が高いので出てくる可能性が低いレアキャラ…、ファイブがいるなんて…! こ、ここがハッピーエンドの世界だからいるのか?! これは想定していない、こんなの想定していないっ」
「お前、一旦落ち着け! 秘密のキャラなんて知らないぞ! 妹もはなさなかったし、データがない!」
「えー、データならありますよ。ファイブ・ソード 28歳 攻め 攻略対象 隠しキャラ第5王子。美形。闇魔法が使える。白髪、赤目で、オールバック、褐色の肌を持つ。ゲームの隠しキャラですね。恋人はいない。隠された存在のため、兄弟にもあまり認知されておらず、いつもは塔に幽閉されています」
どこからか紙を取り出して眼鏡までかけたセーブたんが早口で説明した。
「おい、なんでそんな重要な事言っておかなかった! いつも受け 100か条なんてどうでもいいこと教えてこれを教えないのはなんでだ?!」
「だって、出るとは思わなかったんだもん…汗汗」
「汗汗…じゃ、ねえんだよ! かわいくねえ虫だなぁ!」
「酷い!」
ワーワー言っている俺を不審に思ったのか、ファイブが不敵に笑う。
「で? そのアッシュ王国の護衛はまだなのか?」
「隠しキャラフラグキターーーーーー!!!!」
『新展開キタコレ』『隠しルート爆誕』うちわまで取り出したセーブたんを俺は黙らせる。
「だ・ま・っと・れ!!」
「ごえええええっ」
セーブたんを握りつぶした俺は慌てて目の前の男に向き合う。…隠しキャラ。目の前のこの男が? 分からないことだらけで、困惑する俺にファイブは愉し気に笑っている。あ、これってもしかして……やばいフラグ立ってます?
皆楽しそうに酒を飲み、明日の憂さ晴らしをしている。
俺は自然とカウンター席にいる平凡な顔の騎士の隣に座っていた。…だって、怖いじゃないか、美形の隣なんて。
すると隣に座ってきた俺をみて、茶髪の騎士が驚いた顔をしていた。
「おー、ソーシード騎士のアレク騎士じゃないか! ソーシード騎士のナンバー2に会えるなんて光栄だなぁ!」
その声につられて俺の周りには屈強そうな騎士が群がってきた。おう、こんな展開は想像してなかったぞ。
「王国直属の騎士様に会えるなんて嬉しいなぁ!」
「今日はおごってやるぞ! いつも王国を守ってくれてサンキューなぁ!」
「ああ、どうも」
おごってもらえるのは嬉しい。ソーシード騎士は、王国直属の騎士団ということもあってか国民の人気も高いことがよく分かる。もしも選ばれたら皆のあこがれの的になることは確定するのである。俺はぐびぐびと樽に入ったオレンジジュースを飲みながら、本題を切り出した。
「皆に聞きたいことがある」
「おう、なんだ?」
「なんでも聞いてくれぃ!」
酒に酔っているのか顔を真っ赤にした男たちは意気揚々と言った。俺は意を決して言葉を紡ぐ。
「第五王子について知ってるか?」
俺が言った言葉に、しばらく静寂がやってきた。皆、目を丸くして俺を見詰めた。そして、次に顔を崩して爆笑した。ひーひー言わせて皆爆笑している。俺はぽかんとしてしまう。
「騎士様面白い事いうねぇ! ソーシード王国の王子は第四王子までしかいないじゃないか」
と、セクシーな赤いドレスを着た熟女がけたけたと笑い、
「第五王子ぃ? 聞いたことないなぁ!」
と、屈曲な騎士が、
「女王様の隠し子かなんかかあ?」
と、隣の平凡騎士が笑っている。
やはり、皆、第五王子なんて知らないみたいだ。セーブたんに聞こうにも寝ているのか、全くこちらの声に応答しない。ホントに、使えない虫だな。
「いや、女王様がおっしゃられていたんだ。明日、第五王子の護衛をよろしく頼む…と」
「言い間違えたんじゃないか? あの人、結構言い間違えることが多いだろ」
「やはり、…そうか」
屈強な騎士に言われて、やはりそうか、と思い始める。酒場にきたもう一つの目的は、『第五王子について情報を集める』ことだった。女王陛下のことを疑っているわけではないが、やはり記憶を巡っても『第五王子』なんていなかった。この国の王子は4人しかいなかったはずだ。
不思議に思っていたが、女王が言い間違えている可能性もある。第五王子じゃなくて、大貴族、とか。
「そんな人いたら、他の王子たちが言ってるはずだしなぁ。気になるんだったら、他の王子に聞いてみたらいいんじゃないか?」
と、同僚でもあるソーシード騎士の騎士に言われて俺は頷いた。そうか。第五王子がいるんだったら、他の王子なら知っているのかもしれない。ちょうど第一王子のワンが近くに居るんだし、帰ったら聞いてみよう――――そう俺は結論付けた。
そこで一つの話が終わったのだと判断した人々が楽し気に話しかける。
「聞いてくれよ、今日、フォー王子が部屋をゴーレムに変えちゃってさぁ! 今日はそれの修繕で各所を回って大変だったんだよ」
「あぁ、あの人のトラブルメイカーっぷりは今日も健在だねぇ」
「そうそう! この間もさぁ――――」
皆が今日あったことを楽しそうに話している。ちなみに、話に上がっている王子の名前はフォー・ソード。30歳。第四王子。美形。土属性の魔法が使える。髪はこげ茶で、ツンツンとがっている。トラブルメイカーでよく部屋をゴーレムに変えている。ソーシード騎士に所属しておりナンバー6の実力を持つ人物だ。
噂にはよく聞く人物で、実際にトラブルに俺自身あったことはない。騎士が熱弁する部屋をゴーレムにされた話を聞きながら、足を組み頬杖をつく。
俺はこの国を守る騎士だ。ソーシード騎士のナンバー2。それは今この場に居る人々を守る責務を果たすということだ。女王の言う事も果たす。それは変わらない事実だ。明日はとにかく頑張ろう―――。とにかく、第五王子だか、大貴族の護衛をすればいい。
俺は、喧噪を聞きながら、明日の準備をするためオレンジジュースを飲み干し酒場のドアを出ていった。上を見上げれば、あまりに綺麗な星空が広がっていた。
◇◇◇◇◇
「ここだよな…」
俺は、馬を連れて、塔の前に立っていた。空は晴天。朝の日差しは温かく俺の肌を照らしている。女王の言う通り早朝、城の北にあるある塔の前に来てみたが人の気配はしない。鬱屈とした雰囲気のあるおどろおどろしい塔だといつみても思う。石で出来た冷たい印象のある塔。
結局、昨日、ワンに第五王子について知らないか聞いたが聞いたこともないという回答を貰った。
「ここに人が住んでるなんて想像出来ないんだがな」
剣術の練習をこの塔の前でするが、人の気配なんてしたことがない。
「ぶるる…っ」
「おう、すまんな。今、ノックするから」
早くしろ、と言わんばかりに俺の愛馬である『ディスティニー』が鼻を鳴らす。黒いたてがみを撫でてやるとご満悦そうな顔をしている。可愛い奴だ。
「ちょっと待ってろ」
ディスティニーにそう言って、俺は塔のドアの前に立つ。木で出来た扉には、どこか威圧感がある。俺は勇気を出し、大きくドンドンと3回鳴らしノックした。
「早朝に失礼する。私は、ソーシード騎士のナンバー2アレク・シールドだ。女王の命によって馳せ参じた」
シーン…。
何度か叩いたが、返事はない。大きく声を張り上げたが、聞こえないのかもしれない。返事はなく、可愛い鳥のさえずりが聞こえるだけだ。それから何度かドアを叩いたが、返事はなかった。やはり人がいないのではないか?と不安になった。
「仕方がない」
あまり使いたくなかった、女王からお借りしている鍵をポケットから取り出す。
「申し訳ないが入らせて頂く」
ドアにある鍵穴に差し込み、カチャリ…と鍵のあいた音がする。心臓がドクドクと跳ねあがる。俺はゆっくりとドアを開けた。開けたドアからのぞかせた部屋は真っ暗で、やはり人の気配すらしない。
「…失礼する」
ディスティニーに「待ってろ」と命令し、俺は一歩踏み出した。だが、暗く、段差があるのに気付かず足がつまずいてしまった。
「痛っ」
床に受け身を取りつつ倒れこんだ俺は、その瞬間、バタン!と大きな音がしてドアが閉まったのを聞いた。思わず愛剣に手を伸ばす。背筋に嫌な汗が流れる。その瞬間、部屋が一気に明るくなった。そして、綺麗に整頓された部屋が目の前に広がる。
そして奥のベットから、一人の男が立ち上がった。
男は倒れた俺に近づき、しゃがむと顔を覗き込む。
「美形…」
俺は思わず顔を見て呟いた。その刹那、男は「くくっ」と低く笑った。
「人の家に入ってきて始めに話す言葉がそれか?」
低い声で言った男は白髪、赤目で、オールバック、褐色の肌を持つ、かなりの美形の男だった。白いシャツに、スラックスのズボンをはいている。思わず見惚れてしまう程の美形であり、しばらく惚けていた俺は慌てて立ち上がると深々とお辞儀をする。
「―――ッ、申し訳ない。勝手に入ってきたことを詫びる」
「へえ、素直じゃないか」
男は立ち上がるとくくっ、と面白そうに俺を見詰めている。じろじろと上から下まで一瞥する男は、見たこともない顔だった。
「俺はソーシード騎士のナンバー2、アレク・シールド。今日は女王の命によりファイブ・ソードをアッシュ王国まで護衛するためここにやってきた」
「ほう。俺の名前を知ってるのか。珍しいこともあるものだ」
「……ということは」
恐る恐る俺は問いかける。その言い方は、まさか…。
「俺が、ファイブ・ソードということだ。アレク、俺の事はファイブと呼べ」
傲慢に言い切った男は、自らをファイブと名乗り、俺の事を初めから呼び捨てにした。これが俗にいう『俺様キャラ』というやつなんだろうか。開いた口がふさがらない俺をファイブは顎を掴む。急な事に驚き、逃れようとするがビクともしない。ファイブは180センチはある俺より大きく190センチはありそうだった。これだけの大男は見たことない。
「ファ・イ・ブ」
甘ったらしく言われて、俺は眉をひそめる。
「…だ、第五王子を呼び捨てにするなんて出来ない」
「じゃあ、ずっとこのままだな」
不敵に笑うファイブに、俺はついに折れた。
「ふぁ…いぶ…」
「よかろう。アレク」
やっと顎の手を離され、ほっとする。だが、ほっとした瞬間、俺の愛剣がぱあああああ…と光り、脳内にけたたましく声が聞こえた。
『な、なんということだぁ?! 私が寝ている間に…いつの間にか隠しキャラが、と、登場しているぅううううう?!』
「う、うるせえええええええっ」
思わず叫び、ファイブに何だコイツという顔をされたので「な、なんでもないですぅ」と口を押さえた。俺は慌てて愛剣から飛び出てきたセーブたんを握りつぶした。そして小声で言う。
「ぐ、ぐえ…っ」
「なんだよ、隠しキャラって?! てか、ファイブ・ソードなんてキャラ『ナイトオブナイト』にいたのか?!」
「貴方は知らないかもしれませんが、ナイトオブナイトには全員をクリアすると出てくる秘密のキャラクターがいたんですっ! それが、第五王子 ファイブ・ソード! 難易度が高いので出てくる可能性が低いレアキャラ…、ファイブがいるなんて…! こ、ここがハッピーエンドの世界だからいるのか?! これは想定していない、こんなの想定していないっ」
「お前、一旦落ち着け! 秘密のキャラなんて知らないぞ! 妹もはなさなかったし、データがない!」
「えー、データならありますよ。ファイブ・ソード 28歳 攻め 攻略対象 隠しキャラ第5王子。美形。闇魔法が使える。白髪、赤目で、オールバック、褐色の肌を持つ。ゲームの隠しキャラですね。恋人はいない。隠された存在のため、兄弟にもあまり認知されておらず、いつもは塔に幽閉されています」
どこからか紙を取り出して眼鏡までかけたセーブたんが早口で説明した。
「おい、なんでそんな重要な事言っておかなかった! いつも受け 100か条なんてどうでもいいこと教えてこれを教えないのはなんでだ?!」
「だって、出るとは思わなかったんだもん…汗汗」
「汗汗…じゃ、ねえんだよ! かわいくねえ虫だなぁ!」
「酷い!」
ワーワー言っている俺を不審に思ったのか、ファイブが不敵に笑う。
「で? そのアッシュ王国の護衛はまだなのか?」
「隠しキャラフラグキターーーーーー!!!!」
『新展開キタコレ』『隠しルート爆誕』うちわまで取り出したセーブたんを俺は黙らせる。
「だ・ま・っと・れ!!」
「ごえええええっ」
セーブたんを握りつぶした俺は慌てて目の前の男に向き合う。…隠しキャラ。目の前のこの男が? 分からないことだらけで、困惑する俺にファイブは愉し気に笑っている。あ、これってもしかして……やばいフラグ立ってます?
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