85 / 103
第4章 入団までの1年間(3)、グラナダ迷宮と蓋をした私の思い
84:貴族令息のマナー
しおりを挟む
林の中に依然たたずむベルタに視線を戻す。
彼女は彼が消えても平然としていた。音を遮断する魔道具(なにか)はあの茶髪男が持っていたのだろう。
彼女の透き通ったような可愛らしい声が、私のいるこの場所まで聞こえてきた。
「んんん~!本当、何なのかしら、あの男・・・・・・・!せっかく固有魔法で猫ちゃんたちの集会を覗き見してたのに・・・・・!!いっつも邪魔をするんだから・・・!」
あの茶髪男にどうやらとてももなく、怒っているようだ。
そして「いっつも」という言葉から考えると、あの茶髪男とベルタは元々の知り合いらしい。
ベルタの声音からは茶髪男と会う予定ではなかったことがうかがえる。偶然、ここで会ったのかもしれない。
私は、どう動くべきか・・・・・・・・そんなこと、考えるまでもない。
いま私は兄・<フレデリック・フランシス>なのである。肩をすくめ、鞘から手を離す。
まだ近くにいるかもしれない男を警戒しつつ、公爵家子息家教育で習ったとおり、口元に笑みを浮かべながら、ベルタに近づいた。
枝をかき分ける音を、わざとがさがさと響かせる。
「ベルタ、こんな林の奥で冒険者でもない女性が一人は危ないよ?マクシムがいる湖の方まで送ろう」
レイ皇国の貴族はレディーファーストが基本。兄・フレデリック扮している私もそれに則る。何より依頼人を安全に20階層まで送り届けるのが、私のいまの冒険者として受けている依頼なのだ。
ベルタと男の様子から、彼女が狙われることはあまりなさそうだが、万が一もある。
茶髪男から襲撃を受けてもベルタを守れるように警戒しながら、また湖の方に戻る・・・・・・それが最善だろう。
公爵子息家教育で習ったのは・・・・・足元が悪い状況では、男性が手を差し出してエスコートするということ。基本に沿い、手のひらを上に向けてベルタに手を差しだした。
ベルタは、「んん~?あら、あなたもここにいたの・・・!」と少し驚くも、私の手を取ってくれた。
握りすぎないように注意しながら、エスコートしていないほうの手で、目の前の草をかき分ける。
私一人なら顔に草があたろうが、枝が当たろうが気にせず歩くが、ベルタがいるのでそうはいかないのである。
湖に戻る道中、私はあの茶髪男とベルタの関係を聞こうかと何度か試みた。
が・・・・・・失敗した。なぜなら・・・・・・
「今日は、ずっと魔法を使って、昨日路地裏にいた茶虎の猫ちゃんを見ていたの・・・その子がね・・・・・」
ずっと彼女も今日、腕の中で移動していたせいだろう。
喋り足りないのか、ベルタが猫の話を私に語り掛けているのである。
女性の話を遮るのは、野暮である。そう公爵家子息教育でも習った。それに、こういうのは苦じゃない。前世の姉のおかげで、こういったとりとめのない話を<スルー>するのは、慣れている。
とりあえず、ほほ笑みをたたえたまま、彼女の話を聞くふりをする。
(まぁ・・・いいか。ベルタと知り合いということは<マクシム>とも知り合いかもしれない。彼に後で聞こう)
ベルタとマクシムは一緒に住んでいる・・・聞いてはいないが、恋人なのだろう。彼なら知っている可能性が高い。
ベルタとマクシムの関係を思うと胸がかすかに痛む気がした・・・・・だが、一息つけば、まだ気にならない程度の痛みである。
マクシムは<光輝>じゃない。・・・・・・だから、冷静でいさえすれば、容易にこの感情に蓋は閉められる・・・はずだ。
ベルタの歩く速度に合わせ、ゆっくり歩くこと20分ほど。
急に視界が開け、この<休憩部屋>の中心地、マクシムがいた湖の近くまでたどり着いた。
「あ“ぁ?お前には関係ねぇだろうが・・・・!」
「はははっ何をいってるんだ?・・・オレにだって・・・・口出す権利はあると思う・・・!!」
だが、そこでは何故か・・・・アルフレッドとマクシムが・・・・口論をしながら戦っていた。
彼女は彼が消えても平然としていた。音を遮断する魔道具(なにか)はあの茶髪男が持っていたのだろう。
彼女の透き通ったような可愛らしい声が、私のいるこの場所まで聞こえてきた。
「んんん~!本当、何なのかしら、あの男・・・・・・・!せっかく固有魔法で猫ちゃんたちの集会を覗き見してたのに・・・・・!!いっつも邪魔をするんだから・・・!」
あの茶髪男にどうやらとてももなく、怒っているようだ。
そして「いっつも」という言葉から考えると、あの茶髪男とベルタは元々の知り合いらしい。
ベルタの声音からは茶髪男と会う予定ではなかったことがうかがえる。偶然、ここで会ったのかもしれない。
私は、どう動くべきか・・・・・・・・そんなこと、考えるまでもない。
いま私は兄・<フレデリック・フランシス>なのである。肩をすくめ、鞘から手を離す。
まだ近くにいるかもしれない男を警戒しつつ、公爵家子息家教育で習ったとおり、口元に笑みを浮かべながら、ベルタに近づいた。
枝をかき分ける音を、わざとがさがさと響かせる。
「ベルタ、こんな林の奥で冒険者でもない女性が一人は危ないよ?マクシムがいる湖の方まで送ろう」
レイ皇国の貴族はレディーファーストが基本。兄・フレデリック扮している私もそれに則る。何より依頼人を安全に20階層まで送り届けるのが、私のいまの冒険者として受けている依頼なのだ。
ベルタと男の様子から、彼女が狙われることはあまりなさそうだが、万が一もある。
茶髪男から襲撃を受けてもベルタを守れるように警戒しながら、また湖の方に戻る・・・・・・それが最善だろう。
公爵子息家教育で習ったのは・・・・・足元が悪い状況では、男性が手を差し出してエスコートするということ。基本に沿い、手のひらを上に向けてベルタに手を差しだした。
ベルタは、「んん~?あら、あなたもここにいたの・・・!」と少し驚くも、私の手を取ってくれた。
握りすぎないように注意しながら、エスコートしていないほうの手で、目の前の草をかき分ける。
私一人なら顔に草があたろうが、枝が当たろうが気にせず歩くが、ベルタがいるのでそうはいかないのである。
湖に戻る道中、私はあの茶髪男とベルタの関係を聞こうかと何度か試みた。
が・・・・・・失敗した。なぜなら・・・・・・
「今日は、ずっと魔法を使って、昨日路地裏にいた茶虎の猫ちゃんを見ていたの・・・その子がね・・・・・」
ずっと彼女も今日、腕の中で移動していたせいだろう。
喋り足りないのか、ベルタが猫の話を私に語り掛けているのである。
女性の話を遮るのは、野暮である。そう公爵家子息教育でも習った。それに、こういうのは苦じゃない。前世の姉のおかげで、こういったとりとめのない話を<スルー>するのは、慣れている。
とりあえず、ほほ笑みをたたえたまま、彼女の話を聞くふりをする。
(まぁ・・・いいか。ベルタと知り合いということは<マクシム>とも知り合いかもしれない。彼に後で聞こう)
ベルタとマクシムは一緒に住んでいる・・・聞いてはいないが、恋人なのだろう。彼なら知っている可能性が高い。
ベルタとマクシムの関係を思うと胸がかすかに痛む気がした・・・・・だが、一息つけば、まだ気にならない程度の痛みである。
マクシムは<光輝>じゃない。・・・・・・だから、冷静でいさえすれば、容易にこの感情に蓋は閉められる・・・はずだ。
ベルタの歩く速度に合わせ、ゆっくり歩くこと20分ほど。
急に視界が開け、この<休憩部屋>の中心地、マクシムがいた湖の近くまでたどり着いた。
「あ“ぁ?お前には関係ねぇだろうが・・・・!」
「はははっ何をいってるんだ?・・・オレにだって・・・・口出す権利はあると思う・・・!!」
だが、そこでは何故か・・・・アルフレッドとマクシムが・・・・口論をしながら戦っていた。
0
お気に入りに追加
2,184
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された侯爵令嬢は、元婚約者の側妃にされる前に悪役令嬢推しの美形従者に隣国へ連れ去られます
葵 遥菜
恋愛
アナベル・ハワード侯爵令嬢は婚約者のイーサン王太子殿下を心から慕い、彼の伴侶になるための勉強にできる限りの時間を費やしていた。二人の仲は順調で、結婚の日取りも決まっていた。
しかし、王立学園に入学したのち、イーサン王太子は真実の愛を見つけたようだった。
お相手はエリーナ・カートレット男爵令嬢。
二人は相思相愛のようなので、アナベルは将来王妃となったのち、彼女が側妃として召し上げられることになるだろうと覚悟した。
「悪役令嬢、アナベル・ハワード! あなたにイーサン様は渡さない――!」
アナベルはエリーナから「悪」だと断じられたことで、自分の存在が二人の邪魔であることを再認識し、エリーナが王妃になる道はないのかと探り始める――。
「エリーナ様を王妃に据えるにはどうしたらいいのかしらね、エリオット?」
「一つだけ方法がございます。それをお教えする代わりに、私と約束をしてください」
「どんな約束でも守るわ」
「もし……万が一、王太子殿下がアナベル様との『婚約を破棄する』とおっしゃったら、私と一緒に隣国ガルディニアへ逃げてください」
これは、悪役令嬢を溺愛する従者が合法的に推しを手に入れる物語である。
※タイトル通りのご都合主義なお話です。
※他サイトにも投稿しています。
何もできない王妃と言うのなら、出て行くことにします
天宮有
恋愛
国王ドスラは、王妃の私エルノアの魔法により国が守られていると信じていなかった。
側妃の発言を聞き「何もできない王妃」と言い出すようになり、私は城の人達から蔑まれてしまう。
それなら国から出て行くことにして――その後ドスラは、後悔するようになっていた。
【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした
葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。
でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。
本編完結済みです。時々番外編を追加します。
【完結】夫は王太子妃の愛人
紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
侯爵家長女であるローゼミリアは、侯爵家を継ぐはずだったのに、女ったらしの幼馴染みの公爵から求婚され、急遽結婚することになった。
しかし、持参金不要、式まで1ヶ月。
これは愛人多数?など訳ありの結婚に違いないと悟る。
案の定、初夜すら屋敷に戻らず、
3ヶ月以上も放置されーー。
そんな時に、驚きの手紙が届いた。
ーー公爵は、王太子妃と毎日ベッドを共にしている、と。
ローゼは、王宮に乗り込むのだがそこで驚きの光景を目撃してしまいーー。
*誤字脱字多数あるかと思います。
*初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ
*ゆるふわ設定です
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる