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第4章 入団までの1年間(3)、グラナダ迷宮と蓋をした私の思い

82:鍛錬4日目・迷宮の中のオアシス

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グラナダ迷宮に入ってアルフレッドに抱えられ、移動すること約10時間・・・・。
10階層のボス部屋にいた「ヘルハウンド」という犬型のC級魔獣。それを、アルフレッドが一刀両断にするのを私は・・・・・・どうやら見逃したらしい。

ゆさゆさと揺り動かされ、目を覚ましたら・・・・すでにグラナダ迷宮11階層の<休憩部屋>にいた。

アルフレッドによると<休憩部屋>とは便宜上、冒険者にそう呼ばれているだけで、実際には部屋ではないらしい。
代々の南の領地の領主が、A級冒険者やB級冒険者に依頼をして、<魔獣除けの魔道具>を配置しているスペースのことだという。

彼いわく、グラナダ迷宮にはそういった箇所がいくつもあるらしく、ここは10階層台で一番大きい休憩場所とのことだ。
<魔獣除けの魔道具>はB級以上の魔獣にはさすがに効果はないらしいが、そもそもB級以上の出現ポップアップは15階層から先がメイン。11階層にはほぼいないので、ここは比較的安全に休める迷宮内の休憩場所という訳である。


「起きたかぁ?・・・今日はこの休憩部屋で野営するぞ」


起きた私を腕からおろしたアルフレッドは、魔道具の時計を見たあと、私の頭をぐいっと押しながら、声を掛けてきた。
あくびをしながら、私は頷く。


「飯、さがしてくる」


そう言ってどこかに歩いていくアルフレッドを見つめながら、私はもう一度、あくびをする。
どうやら結構な時間を寝ていたらしい。昼ご飯を食べてからの記憶が・・・・・・・全くない。

折角楽しみにしていた迷宮だが・・・・寝てしまったのは、仕方がないと思う。
なにせ・・・・・・・


「お前の依頼が終わって、後ろの奴らがいなくなったら、降ろしてやるよ。・・・・・それまでは、フレドの場所は食事と睡眠、小便以外はオレの腕の中だ・・・・上官命令だから拒否権は・・・ねぇ!」


・・・・・そう、アルフレッドに言われたのだから。

<貴族令嬢・レティシア>も<喪女・理奈>もアルフレッドの腕の中でリラックスなど最初はできなかった。

だけど・・・次第に、私の中の貴族令嬢・レティシアはパニックで気を失うように思考を停止し、理奈の意識は・・・・・睡眠欲に・・・・・負けた。

いや、言い訳をするようだが、思い出してほしい・・・・・今日の出来事を。
そもそも今日は、<ひげ面男・イェルク>に早朝とも言えない、陽が昇るか昇らないかという時間に起こされた。
そのうえ、起きたら女性服を着ていて・・・・まぁパニックになり、目がさえてそのまま起きる羽目になってしまったのだ。

いつもより全然睡眠が足りてなかった。

・・・・・・そう仕方がないのである。

目線の少し先にいる<マクシム>を見る。

だから・・・・・・なんだろう、そう少し呆れたような・・・「仕方ないな、理奈は・・・・・」と前世の<元彼・光輝>が私にしていたような表情を私に向けないでほしい。

ただでさえ、全てがそっくりなのだから。どうしても・・・・・・一瞬、光輝に見られていると勘違いしてしまう。

<元彼・光輝>にそっくりな転移魔法の使い手<マクシム>。

彼は、いまはベルタをもう抱えてはいなかった。
今晩の夕食の準備のためだろうか、水辺の岩に座りながら、果物をむく手を止め、さらにあくびをした私を見て、なんともいえない表情で今度は微笑んだ。


「・・・・っ」


私はいま兄の<フレデリック・フランシス>のふりをしている。男に微笑まれて、目が合って・・・・・・顔を赤くしたら・・・・・・・・・おかしいだろう。

ふぅと咄嗟に隠すように、目線を下に移し、息を整える。そして、公爵子息家教育で習った優雅な笑みをマクシムに返す。

なぜか目を見開いたマクシムに内心首を傾げつつ、辺りを観察しながら、私も歩くことにした。


(本当にマクシムの顔は心臓に悪いな・・・・)


そんな風に思いながらも、迷宮というゲームでしか入ったことのない場所をワクワクしながら観察する。

1階層の洞窟とは違い、11階層は砂漠地帯のようだった。どんな仕組みか分からないが、太陽のようなものまである。
さながら、この休憩場所はオアシスのようだ。近くに湖があり、様々な果物が実っている。


(なるほど・・・・。マクシムがむいていた果物はこれか。夕ご飯も楽しみだな)


腰辺りまでしかない低木に前世でいうリンゴとオレンジの中間のような果物が鈴なりに実っている。
今日、昼ご飯のときも思ったが、マクシムはさすが同じ顔というべきか・・・・光輝と一緒で料理が上手だった。

迷宮内では、どの階層にも種類は違うが、食べられる植物や水が豊富にある。

迷宮に潜った冒険者たちは、それをかてにし、迷宮を進むのが常らしい。驚くことに迷宮内の食べ物だけで栄養が不足することはないらしく、特にみんな調味料を持ち込むことなどないというのだ。

・・・・が、マクシムは干し肉や調味料を持ち込んでいた。お昼には、迷宮でとれた植物と干し肉を煮込んだスープを作っていたのである。

アルフレッドには食べるのを止められたが、我慢などできるはずがない。
快くくれたマクシムからもらったそのスープは・・・・とても優しい味がした。

思わず「また食べたい」と言ったら、夕ご飯もおすそ分けしてくれることになった。
とても楽しみだ。

私も何か美味しそうなものを見つけて、渡そう。そう思い、この休憩部屋・・・オアシスの少し奥、林の中を探索していたら・・・・・・・

ベルタがいた。

大きな木の下、すっぽり数人は影で隠れるようになる場所。

そこで・・・・・・ベルタは、ここにはいるはずのない人物と話をしていた。

街中にどこにでもいそうな茶色い髪の中年男。

覚えいているだろうか?

その茶髪男は・・・・2か月前、この異世界で・・・私が初めて命を奪った・・・・・・・・・・相手である・・・・。
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補足メモ:『10:襲撃!(3)』

短編をアップしました。
よろしければそちらもお読みいただけると嬉しいです。
どうぞよろしくお願いします!

■タイトル
聖女召喚されて「お前なんか聖女じゃない」って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

https://www.alphapolis.co.jp/novel/458681116/347497067

■あらすじ

自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
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