上 下
71 / 103
第3章 入団までの1年間(2)、帝国の陰謀とグラナダ迷宮

71:アルフォンス(アルフレッド)は迷宮探索に行きたい

しおりを挟む
目の前で、詠唱省略の転移魔法なんてとんでもないモノを使い、覆面の男が・・・・勇者が掻き消えた。


「ハッ。逃げられたか・・・・」


周囲を見渡し、神殿の庭には誰もいないことを確かめ、オレ、<レイ皇国王弟>アルフォンス・レイこと、<A級冒険者>のアルフレッド・ブラッドレイはぽつりとそうこぼす。

軽く剣を振りながら、自分の全身を、確かめる。
転移する直前、あの覆面の勇者はオレに<ヒーリング>というこの世界では誰も使えない、回復魔法をかけていった。


「こりゃ、すげぇなぁ。・・・・いまなら飛竜でも一撃で倒せそうだ」


さっきまで血が足りなくて、視界がぼんやりしていた。なのに、いまは体中、力がみなぎっている。

左手首を見ると、そこは生まれたての赤ん坊のような肌になっていた。
ここには昔負った古傷があったはずなのに、それすら治っていた。

・・・だが・・・・。


「ん?・・・・なんだこの痣」


代わりと言っては何だが、見たことのない痣が左の手のひらの内側にできていた。
それこそ飛竜のような形にも見えるものが。


「・・・回復魔法の代償か?それとも、何かされたかぁ・・・・・?」


まぁ、いま悩んでも分からないのだ、気にしてもしょうがない。
また会いに来るっつってたし、その時にでも聞けばいい。
命令さえされていなければ、人を殺したいとも思ってなさそうな奴だったしな。

頭を掻きつつ、空をながめる。・・・・・まだ日が昇っていない。


「しゃあない。逃げられたし、フレドが目を覚ますまで、やっぱりライゼのところにでも行くか」


ここに来た当初の目的を思い出し、ハッと鼻をならす。
そして、あいつが起きるまでの暇つぶしをするため、改めて厩舎に足を向ける。

今の出来事を王族として、兄である王に伝える必要がある。
兄なら何かしら、勇者の隷属の腕輪を取る方法を知っているかもしれないし、勇者を隷属化して何か企む国がある以上、できるだけ早急に対処する必要もある。

が・・・・・・連絡をとるにしても、病室にあるカバンを漁らなきゃできない。
だが・・・・あいつが起きるまであの部屋には・・・・・戻れねぇ。

だから、やっぱりやることは変わらない。

そうして、足を向けたところで、後ろから声を掛けられた。


「アル!・・あ~、よかった。急にいなくなったから、心配したんだぞ」


同じ病室のひげ面男、B級冒険者のイェルクだ。


「お前なぁ。散歩できる体調じゃないだろ?何やってんだよっっ!」

「うるせぇ、もう治った。・・・というか、お前こそどこ行ってたんだぁ?」


そういや、こいつはオレが起きたとき、病室にいなかった。
もしいたら、オレは、さすがに色々我慢できたはずなのに・・・・

・・・・・・いや、いても我慢できねぇな。


「娼館だよ」

「はぁ、その腕で・・・?バッカじゃねぇの」


まさかの答えに、オレはけらけら笑う。


「うるせぇ!日が昇ったら朝の回診だ・・・戻るぞ!!」


だが・・・・まだ日が昇っていない。あいつは起きてないだろうなぁ。一瞬、迷ったが、イェルクと戻ることにした。

もう一度・・・あいつが起きる前に、女の服を着ているあいつの姿を目に焼き付けたいと思ったのだ。
そうして病室に戻ったオレは拍子抜けした。


あいつは起きていたし・・・・起き抜けに見た女性服は幻だったのかと思うほど・・・・しっかりと男性冒険者の服を着こんでいたから。


「ああ、アルフレッド殿・・・・いえ、アル。おはようございます」


そう言ってほほ笑むフレドの顔。
すげぇ胸が高鳴る。

フレドの姿を上から下まで眺める。

オレが買った冒険者服じゃないが、金色の髪に碧眼の、こいつの色に妙になじんでいる服だった。


(ああ、抱きしめてぇなぁ・・・)


・・・・・だが、イェルクならまだしも、神殿の人間に見られたらさすがにまずいか・・・・。
まぁ、オレは気にしないが、こいつは冒険者登録しているとはいえ、公爵家子息だ。

神殿関係者には、貴族の子息が割といる。こいつのこと知ってるやつがいて、妙な噂でも立ったら、貴族社会で生きづらいだろう。

いっそ、瑕疵でもできて、結婚できなくなれば・・・と思うが、そうもいかねぇだろうし。
こいつを不幸にもしたくねぇ。

ああ、なんだって、こいつは公爵家嫡男なんだ。
未来のない現実が・・・・すっげぇ苦しい。

オレらしくもなく、少し感傷に浸っていたら、少し冷たい指先が首筋に触れた。


「・・・・・っっ」

「熱はなさそうですね・・・・?」


背が足りなかったのか、額ではなく、首元で熱を測ったのだろう。
そう首を傾げながら、フレドは呟いた。

首元に触れる手の感触が、イヤに艶めかしく感じる。


(ああ・・・っ、こいつは・・・・・・・・我慢できねぇな・・・・・)


ぐいっとあいつの手を掴み、耳元に顔を寄せる。


「今日は、一緒に迷宮に行こうな?」


うん。やっぱ迷宮しかねぇな。二人きりになりやすいし、オレたち二人なら中階層までなら雑魚しかいねぇ。つまり、いろいろやりやすい。

フレドの顔をそっと覗くと、潤んだ瞳でこちらを見上げていた。顔が真っ赤だ。耳まで赤い。


(やべぇ、すげぇ可愛い・・・・)


思わず、口角が上がる。


「いや。・・・アルは、しばらく療養じゃないですか。それに・・・・私は今日から、指名依頼で2・3週間ほどは迷宮に潜る約束をしていますので・・・・・」

「・・・・あ”ぁ?」


誰だ、オレのフレドを勝手に迷宮に誘ったやつは。

せっかく上機嫌だったのに、その一言で、オレの機嫌は一気に降下した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された侯爵令嬢は、元婚約者の側妃にされる前に悪役令嬢推しの美形従者に隣国へ連れ去られます

葵 遥菜
恋愛
アナベル・ハワード侯爵令嬢は婚約者のイーサン王太子殿下を心から慕い、彼の伴侶になるための勉強にできる限りの時間を費やしていた。二人の仲は順調で、結婚の日取りも決まっていた。 しかし、王立学園に入学したのち、イーサン王太子は真実の愛を見つけたようだった。 お相手はエリーナ・カートレット男爵令嬢。 二人は相思相愛のようなので、アナベルは将来王妃となったのち、彼女が側妃として召し上げられることになるだろうと覚悟した。 「悪役令嬢、アナベル・ハワード! あなたにイーサン様は渡さない――!」 アナベルはエリーナから「悪」だと断じられたことで、自分の存在が二人の邪魔であることを再認識し、エリーナが王妃になる道はないのかと探り始める――。 「エリーナ様を王妃に据えるにはどうしたらいいのかしらね、エリオット?」 「一つだけ方法がございます。それをお教えする代わりに、私と約束をしてください」 「どんな約束でも守るわ」 「もし……万が一、王太子殿下がアナベル様との『婚約を破棄する』とおっしゃったら、私と一緒に隣国ガルディニアへ逃げてください」 これは、悪役令嬢を溺愛する従者が合法的に推しを手に入れる物語である。 ※タイトル通りのご都合主義なお話です。 ※他サイトにも投稿しています。

【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜

桐生桜月姫
恋愛
 シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。  だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎  本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎ 〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜 夕方6時に毎日予約更新です。 1話あたり超短いです。 毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。

愛されていないのですね、ではさようなら。

杉本凪咲
恋愛
夫から告げられた冷徹な言葉。 「お前へ愛は存在しない。さっさと消えろ」 私はその言葉を受け入れると夫の元を去り……

公爵令嬢を虐げた自称ヒロインの末路

八代奏多
恋愛
 公爵令嬢のレシアはヒロインを自称する伯爵令嬢のセラフィから毎日のように嫌がらせを受けていた。  王子殿下の婚約者はレシアではなく私が相応しいとセラフィは言うが……  ……そんなこと、絶対にさせませんわよ?

処理中です...