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第1章 私が魔法騎士として生きる理由(わけ)
03:兄のこと
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次に意識を回復させた私の目に入ったのは、天蓋つきのベッドとピンク色の調度品の数々だった。
それを目に入れた瞬間、「うっっ」と声にならない声が思わず出てしまう。
前世の記憶を取り戻す前の私は、どうやらかなり可愛いもの好きの性格をしていたようだ。
この少女趣味全開の部屋が・・・王都にある公爵家の自室だと気づいて、ベッドに横たわったまま私は眉間に深いしわを刻む。
(・・・すごい部屋だな。この部屋を居心地がいいと感じていたのか、以前の私は・・・・。今の私と全く性格が違いそうだ・・・)
ベッドに横たわりながら、息を吐く。
そうして、現実逃避のためにもう一度目を閉じようとしたとき、真横から可愛らしい声がした。
「レティシア様? よかった。気づかれましたか!!」
膝をついて私の顔を覗きこんだのは、庭園にもついてきた侍女のメアリだった。
メアリは茶色い髪と茶色い瞳をした、レティシア(私)の乳母兄弟であり、そして公爵家筆頭執事・セバスの娘でもある。
今春、16歳となり成人になったことで彼女は正式にレティシアつきの侍女として働いている。
以前の私の記憶をたどるとかなり彼女に心を許していた記憶がある。
そのせいか、メアリの態度は使用人にもかかわらず、友達のような気安さを感じられる。
「・・・・・・まだお加減が悪いのですか?」
いつもは可愛らしくコロコロ笑うレティシアが、眉間に皺を寄せている。
その様子をまだ具合が悪いからだと思ったのだろう、メアリが心底心配そうな様子で私にたずねてきた。
実際は前世を思い出したことでレティシアの性格ががらりと変わっただけなのだが・・・。
「ああ、大丈夫!ちょっと考え事をしてただけだから」
そういって肩をすくめる。
「えっ!? やはり、まだ本調子ではないのですね・・・」
思ったままの言葉を、前世と同じ口調と仕草でこたえた私に、メアリは「やはり体調が悪いのか・・・」とますます心配そうにしだし、ついには私の額に手をあててきた。
私はそんなメアリを至近距離で見つめながら・・・
(この世界の女性はキレイな人が多いんだな。いや、メアリは美人というより、どちらかというと可愛い系統だな)
・・・と、心の中でまったく関係ないことに思っていた。
そうして見つめ合うこと数秒。
メアリは「はっ」となにかを思い出したかのように、急いで立ち上がる。
「レティシア様、ただいま公爵とフレデリック様をお呼びしてきます!お医者様による診断は<心労からくるめまいで倒れただけだから、大丈夫だろう>とのことでした。
・・・ですが、そのままけっして・・・!けっしてベッドから立ち上がらず、安静にしてお待ちくださいね!!」
「分かったよ。心配性だな、メアリは」
彼女の必死な様子に、思わず微笑みながら私はこたえる。
目覚めたらすぐに父と兄を呼ぶ約束だったのだろう、パタパタと足音を響かせながら、部屋からメアリが出て行く。
その音を聞きながら、私はこの乙女ゲームに登場する、自分自身について思考をめぐらせた。
<レティシア・フランシス>
12歳のときに大好きだった兄を事故で亡くし、その苛烈な愛情の行き場を婚約者である王太子に向ける公爵家の一人娘。
「聖女召還魔法」で、異世界の聖女<ヒロイン>が召還されると、彼女の後見人として王太子がつくことに。
愛している王太子が自分以外の者を気にかけることが許せず、嫉妬に狂い、ヒロインが王太子ルートに入っていてもいなくても、ヒロインに嫌がらせを始める。
最終的に、彼女を亡き者にしようと、敵国であるルナリア帝国と内通して、反逆者として断頭台に送られる悪役令嬢だ。
(散々だな・・・レティシア。王太子ルートに入っていてもいなくても、処刑なんてな。・・・あ~、今後の対策を考えるだけで、頭が痛くなってくる)
私は、心の中でわめいた。
(でも、どうにか処刑だけは回避しないと。・・・前世でどう死んだかは覚えてないけど、25歳までの記憶しかない。つまり、前世では若くして死んだんだろう。
今世では、長生きしたい。
VRMMOのアクションゲームはできないけど、この世界は魔法は使えるはず。乙女ゲームの悪役令嬢だってことさえ、気にしなければ、すごく楽しそうな世界なんだ。楽しまないと損だ!
・・・・・・まぁ、その悪役令嬢に生まれ変わったのが、一番問題なんだけどさ)
そこまで思考して、私は無意識に肩をすくめる。
(とにかく、要は私が帝国と内通しなければ処刑は回避できるはずだ。
ただ、よくある物語のように何かしらゲーム補正が働くかもしれない。だから、現在、婚約者候補である王太子とは、どうにか正式な婚約は避けるように父に頼み込もう。
記憶をたどると兄・フレデリックは優秀な男なんだから、妹が王太子妃という肩書きがなくても、立派に公爵家を盛り立てられるはずだ)
・・・とそこで、はたと気づく。
そもそも設定では<大好きな兄を事故で亡くしたことで、レティシアは王太子に依存する>ということに。
そう、つまり乙女ゲームでは・・・いま生きている兄は、死んでしまったのだ。
(確か、レティシアが12歳のときに兄は亡くなる。・・・って、私いま12歳じゃないか。つまり、この数ヶ月の間に事故が起こって兄は、死んでしまうのか!?)
レティシアの中の、記憶の中にいる優しい兄・フレデリックの姿が思い出される。
前世の知識を思い出しても、キャラクター紹介の一文で<事故にあう>としか説明されていなかった。そんな情報だけでは、兄の死を・・・・事故を未然に防ぐことなど難しい。
だが、そう頭で理解していても、私はこのまま兄が死ぬことを納得できないでいた。
いや・・・私の中にいるもう一人の、「12歳のレティシア」が納得できないのだ。
(お兄様が死ぬなんて、イヤ! お兄様は絶対わたくしが助ける!!)
私は、少女趣味全開の部屋を見渡す。
その中の調度品には兄・フレデリックからプレゼントされた品々がいくつもあった。
私はギュッと拳をにぎる。
「兄・フレデリック・フランシスの命は絶対に散らせない」
ベッドの上で私は静かに決意した。
それを目に入れた瞬間、「うっっ」と声にならない声が思わず出てしまう。
前世の記憶を取り戻す前の私は、どうやらかなり可愛いもの好きの性格をしていたようだ。
この少女趣味全開の部屋が・・・王都にある公爵家の自室だと気づいて、ベッドに横たわったまま私は眉間に深いしわを刻む。
(・・・すごい部屋だな。この部屋を居心地がいいと感じていたのか、以前の私は・・・・。今の私と全く性格が違いそうだ・・・)
ベッドに横たわりながら、息を吐く。
そうして、現実逃避のためにもう一度目を閉じようとしたとき、真横から可愛らしい声がした。
「レティシア様? よかった。気づかれましたか!!」
膝をついて私の顔を覗きこんだのは、庭園にもついてきた侍女のメアリだった。
メアリは茶色い髪と茶色い瞳をした、レティシア(私)の乳母兄弟であり、そして公爵家筆頭執事・セバスの娘でもある。
今春、16歳となり成人になったことで彼女は正式にレティシアつきの侍女として働いている。
以前の私の記憶をたどるとかなり彼女に心を許していた記憶がある。
そのせいか、メアリの態度は使用人にもかかわらず、友達のような気安さを感じられる。
「・・・・・・まだお加減が悪いのですか?」
いつもは可愛らしくコロコロ笑うレティシアが、眉間に皺を寄せている。
その様子をまだ具合が悪いからだと思ったのだろう、メアリが心底心配そうな様子で私にたずねてきた。
実際は前世を思い出したことでレティシアの性格ががらりと変わっただけなのだが・・・。
「ああ、大丈夫!ちょっと考え事をしてただけだから」
そういって肩をすくめる。
「えっ!? やはり、まだ本調子ではないのですね・・・」
思ったままの言葉を、前世と同じ口調と仕草でこたえた私に、メアリは「やはり体調が悪いのか・・・」とますます心配そうにしだし、ついには私の額に手をあててきた。
私はそんなメアリを至近距離で見つめながら・・・
(この世界の女性はキレイな人が多いんだな。いや、メアリは美人というより、どちらかというと可愛い系統だな)
・・・と、心の中でまったく関係ないことに思っていた。
そうして見つめ合うこと数秒。
メアリは「はっ」となにかを思い出したかのように、急いで立ち上がる。
「レティシア様、ただいま公爵とフレデリック様をお呼びしてきます!お医者様による診断は<心労からくるめまいで倒れただけだから、大丈夫だろう>とのことでした。
・・・ですが、そのままけっして・・・!けっしてベッドから立ち上がらず、安静にしてお待ちくださいね!!」
「分かったよ。心配性だな、メアリは」
彼女の必死な様子に、思わず微笑みながら私はこたえる。
目覚めたらすぐに父と兄を呼ぶ約束だったのだろう、パタパタと足音を響かせながら、部屋からメアリが出て行く。
その音を聞きながら、私はこの乙女ゲームに登場する、自分自身について思考をめぐらせた。
<レティシア・フランシス>
12歳のときに大好きだった兄を事故で亡くし、その苛烈な愛情の行き場を婚約者である王太子に向ける公爵家の一人娘。
「聖女召還魔法」で、異世界の聖女<ヒロイン>が召還されると、彼女の後見人として王太子がつくことに。
愛している王太子が自分以外の者を気にかけることが許せず、嫉妬に狂い、ヒロインが王太子ルートに入っていてもいなくても、ヒロインに嫌がらせを始める。
最終的に、彼女を亡き者にしようと、敵国であるルナリア帝国と内通して、反逆者として断頭台に送られる悪役令嬢だ。
(散々だな・・・レティシア。王太子ルートに入っていてもいなくても、処刑なんてな。・・・あ~、今後の対策を考えるだけで、頭が痛くなってくる)
私は、心の中でわめいた。
(でも、どうにか処刑だけは回避しないと。・・・前世でどう死んだかは覚えてないけど、25歳までの記憶しかない。つまり、前世では若くして死んだんだろう。
今世では、長生きしたい。
VRMMOのアクションゲームはできないけど、この世界は魔法は使えるはず。乙女ゲームの悪役令嬢だってことさえ、気にしなければ、すごく楽しそうな世界なんだ。楽しまないと損だ!
・・・・・・まぁ、その悪役令嬢に生まれ変わったのが、一番問題なんだけどさ)
そこまで思考して、私は無意識に肩をすくめる。
(とにかく、要は私が帝国と内通しなければ処刑は回避できるはずだ。
ただ、よくある物語のように何かしらゲーム補正が働くかもしれない。だから、現在、婚約者候補である王太子とは、どうにか正式な婚約は避けるように父に頼み込もう。
記憶をたどると兄・フレデリックは優秀な男なんだから、妹が王太子妃という肩書きがなくても、立派に公爵家を盛り立てられるはずだ)
・・・とそこで、はたと気づく。
そもそも設定では<大好きな兄を事故で亡くしたことで、レティシアは王太子に依存する>ということに。
そう、つまり乙女ゲームでは・・・いま生きている兄は、死んでしまったのだ。
(確か、レティシアが12歳のときに兄は亡くなる。・・・って、私いま12歳じゃないか。つまり、この数ヶ月の間に事故が起こって兄は、死んでしまうのか!?)
レティシアの中の、記憶の中にいる優しい兄・フレデリックの姿が思い出される。
前世の知識を思い出しても、キャラクター紹介の一文で<事故にあう>としか説明されていなかった。そんな情報だけでは、兄の死を・・・・事故を未然に防ぐことなど難しい。
だが、そう頭で理解していても、私はこのまま兄が死ぬことを納得できないでいた。
いや・・・私の中にいるもう一人の、「12歳のレティシア」が納得できないのだ。
(お兄様が死ぬなんて、イヤ! お兄様は絶対わたくしが助ける!!)
私は、少女趣味全開の部屋を見渡す。
その中の調度品には兄・フレデリックからプレゼントされた品々がいくつもあった。
私はギュッと拳をにぎる。
「兄・フレデリック・フランシスの命は絶対に散らせない」
ベッドの上で私は静かに決意した。
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