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第13話(最終話)八王子先輩と私の結末

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 とある日のこと。
 仕事を終えて、私――村崎薫子はマンションに帰宅していた。
 八王子先輩は、「ちょっと寄るところがあるから」と私に先に帰るように言って、会社を出たあとどこかへ行ってしまった。
 八王子先輩が朝のうちに作り置きしていた夕飯を一人で食べながら、彼の帰宅を待つ。
「お待たせ」と帰ってきた彼は、何故かケーキの箱を持っていた。
「今日って何かめでたい日でしたっけ」
 私は首を傾げる。
「今からめでたい日にするんだよ」
 ニコニコ笑う八王子先輩に、私は頭の上にさらにはてなマークを重ねる。
 八王子先輩は、ポケットから小さな箱を取り出して、私の前で開いてみせる。
 ――箱の中には、指輪が入っていた。
「薫子さん、俺と結婚してくれないか」
 八王子先輩のプロポーズに、私はキョトンとしていた。
「結婚、ですか」
「もう同棲してだいぶ経つし、そろそろいいかなって」
「お互いの親に挨拶もしてないのに?」
「挨拶かー……」
 八王子先輩は少し難しそうな顔をしている。
「嫌なんですか?」
「いやぁ……薫子さんとの馴れ初めをどう説明したらいいものか……」
「正直に説明して私の親に殴られればいいと思いますよ」
 思えば、八王子先輩との馴れ初め、最悪だったな。
 匂いフェチの八王子先輩と声フェチの私が出会ってしまい、その日の夜にホテルに連れ込まれ……。
 目が覚めたら全裸でベッドに寝てて、隣に裸の男がいるとか、悪夢だな。
 それから色々あって、どういう心境の変化か、お互いに好きあっている私たちがいる。
「それで、結婚してくれる?」
 八王子先輩は甘い声で私の返事を待っている。私はこの声が好きだ。
「そうですね……一発殴らせてくれたらいいですよ」
「親だけでなく、薫子さんにまで殴られるの……?」
「それだけのことをしてきたでしょう、あなたは」
 私はそう言って、間髪入れずに八王子先輩の頬を引っぱたいた。
 ……ああ、何度も殴ろうとして先輩に受け流されていたビンタが、やっと成功した。
「――っ、効くなあ」
 いつも余裕ぶっている先輩が痛がっている顔を見ると、爽快感がある。
「……ふふ」
「?」
 先輩が不意に笑いだして、私は怪訝な顔をする。
 気でも狂ったんですか、と言う前に、先輩に抱きしめられてしまった。
「……なんですか」
「薫子さん、今までになくいい匂いがする。もしかして今、幸せなんじゃない?」
「は?」
「そっかあ……薫子さんを幸せにしたら、ずっとこんな匂いが嗅げるんだ……」
 先輩は相変わらず突拍子もない。
 ……ああ、だけど。
 私も幸せそうな八王子先輩の声が、心地よく感じた。

〈了〉 
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