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第5話 魔城での自由過ぎる捕虜生活
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勇者ヒイロたちのパーティが魔女王との戦闘に全滅し、彼らは光に包まれて教会へと飛んでいってしまった。
――ロージひとりを残して。
「み、みんな――!?」
「カミジョー・ロージさん」
魔女王は静かな口調でロージの前に立つ。
「私は敢えてあなたをここに残しました」
「ど、どうして……?」
「あなたを見ていると、何かが思い出せそうなのです」
魔女王はじっとロージの目を見る。
「私には魔女王になる前の記憶がないのですが、カミジョー・ロージという名にも懐かしい響きがある……ので、私が何かを思い出せるまで、あなたにはこの城に残ってもらいます」
「つまり、お前は捕虜だ」
我を取り戻した獅子若丸がしかめ面をしながら唸る。
「よくも我に恥をかかせたな、ボウズ」
「ホント、見ものでしたわ」
「黙れ神楽姫」
扇子で口元を隠しながらクスクス笑う神楽姫を、獅子若丸が睨んだ。
「ほ、捕虜って……」
俺だって記憶がないから手がかりを探さなきゃいけないのに、この魔城に監禁されても困る。
「ご安心ください、捕虜とは言っても丁重にもてなしてあげますから」
魔女王は穏やかに微笑んだ。
本当に丁重にもてなされた。
地下牢にでも閉じ込められるのかと思いきや広い一人部屋をあてがわれ、その部屋からも自由に出入りできて城の中を歩き回れる。
廊下で魔族や魔物とすれ違ったりするが、軽く会釈されるくらいで手荒な真似をされるわけでもない(獅子若丸の件で不用意にロージに触れないのもあるだろう)。
食堂で魔女王と同じテーブル――アニメでよく見る貴族の食事風景みたいなやたら長いテーブルだ――で一緒に食事をすることも出来る。
「なるほど、ロージさんもここに来る前の記憶がないのですね」
食事を終え、ナプキンで口を拭きながら魔女王は言った。
「おそらくあなたはチキューから来た流れ者ですね」
「チキュー?」
地球のことだろうか。
「チキューという世界もあなたのいう『ニホン』や『アメリカ』などという国に分かれているのでしょう?」
「まあ、世界というか惑星というか……」
つまり、ここは別の惑星ということなのだろうか。
「この世界はネイバーランドと呼ばれています」
「ネバーランド……? あの、ピーターパンとかがいる?」
「ピーターパン、聞いたことがあります。チキューのおとぎ話ですね。しかし、ここはネバーランドではなくネ『イ』バーランドです。チキューの言葉でいうと『隣の国』みたいな意味でしたっけ?」
Neighbor Land。英語がこの世界に伝わっているのか。
「ネイバーランドは言葉通りチキューの隣にある異世界なのです。物理的に隣にあるわけではなく、……そうですね、並行世界、といったところでしょうか」
「はあ」
「ネイバーランドにはチキューの住人がよく流れ着いてくるのです。あまりに多いのでチキューの言語が公用語になるくらい」
「あっ、だから俺の言葉が通じるんだ……」
あまりに自然に会話ができているから気付かなかったけど、よく考えたら異世界で日本語が通じるなんて不思議な話だ。
「どうも、チキューで意識不明になったり行方不明になった人間の一部がネイバーランドに流れ着いてしまうらしいのです。ほとんどの人間はそのままここに居着いてしまいますが」
結構居心地悪くないみたいですよ、この世界。
そう言って魔女王は誇らしげに微笑む。
日本だけでも年間十万人近くが行方不明になる、とネットか何かで見た気がする。意識不明も含めるならもっと多いだろう。
その一部がネイバーランドの移民になる、というわけか。
「つまり、俺もチキューで意識不明もしくは行方不明になった……?」
「その可能性は高いでしょうね」
いったいチキューで俺はどんな目にあったのだろうか。
それにしても。
ロージは魔女王をちらりと見る。
全く知らない人のはずなのに、どこか見覚えがある気がするのは何故だろう。
どこかで会ったことがあるような。
「……実は俺も、魔女王陛下を見ていると、何かが思い出せそうな気がするんです」
「あら、奇遇ですね」
魔女王はニコッと笑う。
「では、お互い何かが思い出せるまで、ロージさんには城に残ってもらえませんか? ロージさんが元の世界に帰る方法も一緒に探しましょう」
「帰る方法があるんですか?」
「城の中に図書館があるので、まずは資料を探してみましょう」
やべえ、魔女王さんめちゃくちゃいい人だ……。美人だし。
渡りに船とばかりに、ロージは城に残ることを二つ返事で了承した。
城に残るといっても、監禁されてるわけでもなし、城内も広いし、捕虜としては自由過ぎるくらいだ。
そうして、ロージの魔城での捕虜生活が始まった。
〈続く〉
――ロージひとりを残して。
「み、みんな――!?」
「カミジョー・ロージさん」
魔女王は静かな口調でロージの前に立つ。
「私は敢えてあなたをここに残しました」
「ど、どうして……?」
「あなたを見ていると、何かが思い出せそうなのです」
魔女王はじっとロージの目を見る。
「私には魔女王になる前の記憶がないのですが、カミジョー・ロージという名にも懐かしい響きがある……ので、私が何かを思い出せるまで、あなたにはこの城に残ってもらいます」
「つまり、お前は捕虜だ」
我を取り戻した獅子若丸がしかめ面をしながら唸る。
「よくも我に恥をかかせたな、ボウズ」
「ホント、見ものでしたわ」
「黙れ神楽姫」
扇子で口元を隠しながらクスクス笑う神楽姫を、獅子若丸が睨んだ。
「ほ、捕虜って……」
俺だって記憶がないから手がかりを探さなきゃいけないのに、この魔城に監禁されても困る。
「ご安心ください、捕虜とは言っても丁重にもてなしてあげますから」
魔女王は穏やかに微笑んだ。
本当に丁重にもてなされた。
地下牢にでも閉じ込められるのかと思いきや広い一人部屋をあてがわれ、その部屋からも自由に出入りできて城の中を歩き回れる。
廊下で魔族や魔物とすれ違ったりするが、軽く会釈されるくらいで手荒な真似をされるわけでもない(獅子若丸の件で不用意にロージに触れないのもあるだろう)。
食堂で魔女王と同じテーブル――アニメでよく見る貴族の食事風景みたいなやたら長いテーブルだ――で一緒に食事をすることも出来る。
「なるほど、ロージさんもここに来る前の記憶がないのですね」
食事を終え、ナプキンで口を拭きながら魔女王は言った。
「おそらくあなたはチキューから来た流れ者ですね」
「チキュー?」
地球のことだろうか。
「チキューという世界もあなたのいう『ニホン』や『アメリカ』などという国に分かれているのでしょう?」
「まあ、世界というか惑星というか……」
つまり、ここは別の惑星ということなのだろうか。
「この世界はネイバーランドと呼ばれています」
「ネバーランド……? あの、ピーターパンとかがいる?」
「ピーターパン、聞いたことがあります。チキューのおとぎ話ですね。しかし、ここはネバーランドではなくネ『イ』バーランドです。チキューの言葉でいうと『隣の国』みたいな意味でしたっけ?」
Neighbor Land。英語がこの世界に伝わっているのか。
「ネイバーランドは言葉通りチキューの隣にある異世界なのです。物理的に隣にあるわけではなく、……そうですね、並行世界、といったところでしょうか」
「はあ」
「ネイバーランドにはチキューの住人がよく流れ着いてくるのです。あまりに多いのでチキューの言語が公用語になるくらい」
「あっ、だから俺の言葉が通じるんだ……」
あまりに自然に会話ができているから気付かなかったけど、よく考えたら異世界で日本語が通じるなんて不思議な話だ。
「どうも、チキューで意識不明になったり行方不明になった人間の一部がネイバーランドに流れ着いてしまうらしいのです。ほとんどの人間はそのままここに居着いてしまいますが」
結構居心地悪くないみたいですよ、この世界。
そう言って魔女王は誇らしげに微笑む。
日本だけでも年間十万人近くが行方不明になる、とネットか何かで見た気がする。意識不明も含めるならもっと多いだろう。
その一部がネイバーランドの移民になる、というわけか。
「つまり、俺もチキューで意識不明もしくは行方不明になった……?」
「その可能性は高いでしょうね」
いったいチキューで俺はどんな目にあったのだろうか。
それにしても。
ロージは魔女王をちらりと見る。
全く知らない人のはずなのに、どこか見覚えがある気がするのは何故だろう。
どこかで会ったことがあるような。
「……実は俺も、魔女王陛下を見ていると、何かが思い出せそうな気がするんです」
「あら、奇遇ですね」
魔女王はニコッと笑う。
「では、お互い何かが思い出せるまで、ロージさんには城に残ってもらえませんか? ロージさんが元の世界に帰る方法も一緒に探しましょう」
「帰る方法があるんですか?」
「城の中に図書館があるので、まずは資料を探してみましょう」
やべえ、魔女王さんめちゃくちゃいい人だ……。美人だし。
渡りに船とばかりに、ロージは城に残ることを二つ返事で了承した。
城に残るといっても、監禁されてるわけでもなし、城内も広いし、捕虜としては自由過ぎるくらいだ。
そうして、ロージの魔城での捕虜生活が始まった。
〈続く〉
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