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第63話 対ミルメコレオ

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 敵はミルメコレオとアーマーアントの群れだった。見渡しの良い広間のようになった場所だけに小細工は最初から無駄なことである。

 ヒット達は先ずクララのライトプロテクトで防御力を強化してもらった上で、魔物たちの前に出ていった。

 ネエは新しく覚えたというファイヤーショットの魔法を行使。以前のファイヤーボールを散弾のように放つ魔法だった。

 坑道内ではあるが、ここはある程度の広さが確保できている為、火の魔法でもある程度は大丈夫そうであった。それにネエは火魔法が得意であるし力をセーブしてどうにかできる状況でもない。

「うぉおおぉおおぉおお!」

 ソウダナはシールドチャージという盾の武技で突き進みアーマーアントに突撃していた。アーマーアントも硬いが、ソウダナの突進力も高く2、3匹まとめて押し込まれていく。

「ガウガウガウガウ!」

 フェンリィも露払いの為に積極的に活動してくれた。自慢の爪と牙はアーマーアントの硬い皮膚にもダメージを通していく。それだけで倒せるということはなかったが、皮膚の一部が傷つくことで、そこにセイラの鞭による追撃が加わり相乗効果で大ダメージが期待できた。

 メリッサも魔法の矢で援護してくれている。ヒットとガイもアーマーアントを倒していくが、2人とそしてセイラの目標はあくまでミルメコレオだった。

 ある程度片付いたところでアーマーアントはソウダナやネエ、そしてメリッサに任せヒット達はミルメコレオと対峙した。
 
 改めて見るとやはり結構な巨体だ。魔獣と言うだけある。しかも近くで見るとより不気味さが際立つ。蟻の胴体に獅子の顔があるだけでここまで悍ましい姿になるのかとヒットは嫌な汗が背中を伝うのを感じた。

『グオォオオオォオオォオオォオン!』

 ミルメコレオの獅子の咆哮が放たれた。完全にノーモーションからの雄叫びだった。ヒットはキャンセルのタイミングを見失ったが意識が飛びそうになった中、なんとか己自身にキャンセルを掛け意識を保った。

 ガイとセイラ、それにフェンリィは流石なもので精神を強く持って備えることで咆哮の影響は受けていない。

 本来なら咆哮で相手の意識を奪った上で獅蟻突撃によって体当たりを狙うのだろうが、ヒット達が耐えたのを見て考えを変えたのだろう。

 獅子の口が開かれ、強力な酸が含まれたブレスを行使。強酸混じりの息吹は金属を腐食させる効果もある。

 ヒットとガイはその影響を強く受ける可能性があったが。

「キャンセル!」
 
 だがしかし、ブレスが放たれることはなかった。咆哮はノーモーションだったがブレスには溜めが必要なようだった。それはヒットにとっては絶好のキャンセルポイントとなる。

「――ッ!?」
 
 そしてヒットにスキルが中断されたことでミルメコレオはギョッとして動きを止めた。これは魔物や魔獣であれば大体共通して見せる反応だ。

 魔物も魔獣も本能で動いている部分が大きく、そのため予定外の出来事にめっぽう弱い。尤も一部の知能あるタイプの魔獣など多少の例外も存在するが。

 キャンセルによって一瞬でも動きを止めれば、その隙を狙うだけだった。ヒットは中断斬りからの三刃斬りでカウンターヒットさせキャンセルからの三刃斬りを繰り返した。

 ガイは大丸太切りで大跳躍からの強烈な一撃を、セイラは親の敵のように鞭を振りまくり、フェンリィも攻撃を繰り返す。
 
 だがミルメコレオは存外タフだった。ヒットの体力が限界になりコンボを中断。ガイにも疲れが見えていた。
 
 ミルメコレオの体が淡く光る。

「……何か来る、準備して」
「ウォオォオン!」

 セイラが何かを察したのかフェンリィも警告の遠吠えをあげた。直後、ミルメコレオが蟻の胴体を勢いよく振り回した。円を描く軌道で黒い波が迫る。ガイはなんとか逃れた。ヒットはキャンセルで止めようと思ったが思った以上に動きが早く直撃を受けてしまう。

「ぐっ――」
「ヒット!」

 うめき声を上げ、ヒットが弓なりを描くようにふっ飛ばされた。そのまま地面をゴロゴロと転がった。

「クララ! 回復を!」
「は、はい! ヒール!」

 ヒットの生命力は20%を切っていた。パワーアントの魔法があったことを思い出す。強化された攻撃力でのあの一撃はかなり痛い。

 回復役がいて良かったと思う。メリッサの魔法の弩も大きい。おかげで離れた場所からでも回復が可能だった。

「くそ、こいつブレスを!」
 
 そして残されたガイとセイラに向けて、強酸の息吹が放たれる。今度はキャンセルがないのでガイは強酸の影響を受ける。

「ぐぅ……」

 強酸の息吹は直接大ダメージを与えるものではないが、毒のようにじわじわと生命力が削られてしまう。ついでも装備品にも影響が出た。

「……ガイも下がってていい。後は私とフェンリィでやる」
「ガウガウ!」

 ヒットとガイが負傷し、セイラとフェンリィがミルメコレオをコンビで受け持った。セイラは魔獣に対しての執着が強い。
 
 セイラの鞭が勢いを増し乱打された。どこか鬼気迫る物を感じる。余りの速さに四方八方から同時に鞭が放たれているようにも感じた。

 それでいてフェンリィもしっかり鞭の合間を縫うようにしてミルメコレオに攻撃を加えていた。

「凄い、あっというまに生命力が残り20%を切っている」

 ヒットの生命力がクララのヒールで60%以上まで回復。逆にミルメコレオの生命力が残りわずか。

 これは勝負が決まったかもしれないと思ったが、そこに思わぬ伏兵が岩陰から現れた。アーマーアントだった。まだ何体か残っていたのだろう。

 アーマーアントがセイラに突撃。セイラもフェンリィもミルメコレオに固執するあまりそのことに気がついていなかった。

 蟻は力が強い。顎が脚に食いつき、僅かにセイラの顔が歪む。そのまま振り回して近くの岩場に投げつけた。

「ガウガウ!」

 セイラの危機にフェンリィの意識もミルメコレオから外れた。だが、魔獣の目が光り、フェンリィに向けて突撃する。

「あぶねぇ!」
「ガウ?」

 しかしそれを救ったのはガイだった。フェンリィに飛びつき抱えるようにして突撃を避ける。

「ウォオオォオォオオ!」

 一方セイラはソウダナがスキルを利用したダッシュで直進し受け止めた。

「ファイヤーボール! ファイヤーボール! ファイヤーボール!」

 そしてネエが火球を3発繰り返し、セイラを襲ったアーマーアントを片付けた。

 そしてヒットは――

「滅多斬りーーーー!」
 
 この戦いでヒットの剣術は熟練度5まで上がっていた。それによって覚えたのがこの武技である。

 ミルメコレオに近づき、その名前通り滅多滅多に斬りまくる。そして、遂にミルメコレオの巨体が地面に沈んだ。

「生命力0%――私達の勝利です!」

 メリッサの声を聞き、安堵したヒットはその場に座り込むのだった――
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