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第62話 逃げ遅れた坑夫

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「その坑夫はどんな姿だった? 名前とかわかるか?」
「名前……そういえば何か言っていたような? ねぇ、わかる?」
「……確かアイアンだ」

 ネエがソウダナに聞く。すると巨漢の盾持ちが答えてくれた。彼は意外と記憶力がいいのかもしれない。そして語られた名前はまさにストーンから頼まれた相手である。

「ヒット、これって急がないと……」
「はい! まだ間に合うかもしれませんし!」
「たしかにな。無事だといいんだが」
「ちょ、ちょっと待って。貴方達奥に行く気?」

 ヒット達が奥に向かおうとしていると察したのかネエが不安な顔で尋ねてきた。ソウダナも難しい顔を見せており。

「……アイアンを助けたいと思っているのなら……心苦しいが諦めた方がいい。危険すぎる」
「え? どうしてですか?」
「俺も気になるな。相当な被害が出ているようだし、危険があるのなら考えなしに向かうわけにいかない」

 2人の言葉にガイが興味を示す。この状況で自分から危険に飛び込むような真似は良しとしていないようだ。

「そんな! ストーンさんの親友なんですよ!」
「……親友だからと特別扱いは出来ない。既にこの中では多くの死者が出ている。これ以上被害を出さないために大事なのは原因の究明」

 それを言われてはメリッサにしてもクララにしても返す言葉がなかった。ヒットも理解は出来るが、だからといって素直に諦めていいものではない。

「話を先ずきこう。一体何が危険なんだ?」

 なのでヒットは先ずどんな状況を知ろうと改めて2人に問う。

「魔獣よ――この奥にはミルメコレオという魔獣がいるの」
「ミルメコレオだと!」

 ネエの口から出たその名に即座にガイが反応した。

「それは、駄目だ。こいつらの言う通り、諦めた方がいい」
「ミルメコレオ……」

 ヒットはその名を繰り返す。確かにゲームにも出てきた魔獣であり、彼の言う通り簡単な相手ではない。ミルメコレオは巨大な蟻の胴体に獅子の頭がくっついたような魔獣だ。

 元が蟻だけにとんでもない怪力の持ち主であり、その上魔法で自身を強化する。蟻の性質も併せ持つため体も頑丈だ。動きも素早く、獅子の咆哮や強力な噛みつき、更に酸を煙にして吐き出す息吹も行使する。

「確かに厄介な相手だな……」
「そんなにですか?」
「あぁ、特に俺みたいな戦士にとってはな。強酸の息吹は金属を腐食させる効果もある。勿論酸を体に浴びても無事ではすまないし、咆哮で動きを止めて猛スピードで突撃してきたりもする。攻撃力も防御力も高い。こういう時に積極的に挑む相手じゃない」

 ガイはアイアンについては先の2人と同じ意見、つまり諦めた方がいいと思っているようだ。ネエとソウダナにしても及び腰だ。

「なぁ、セイラはどう思う?」

 ただ、ヒットには気になることがあった。ネエから魔獣という言葉を聞いた途端、セイラの表情が険しくなり、口数も減ったのだ。いや、もともと積極的に話すタイプではなかったが、どうにも様子がおかしい。だからヒットは問いかけてみたのだが。

「……行こう。確かに手強い相手かもしれないけど、このメンバーなら全く敵わないという相手でもない」
「……ほ、本気なのか?」
「でも、さっきまで場合によっては見捨てると言っていたよね? なんで急に?」

 セイラの答えにソウダナとネエには戸惑いが見えた。そしてそれはクララやメリッサにしても一緒のようでもある。勿論、アイアンを助けるという話には賛同しているが。

「セイラ、そういえば二つ名が魔獣殺しだったな……」

 するとガイが思い出したように口にした。ヒットもそういえばそんな話があったなと顎に手を添える。

「しかし、魔獣殺しと言えど簡単な相手じゃないぞ?」
「……どんな敵でも簡単に行くことなんてない。私は常に相手の方が強者と思って挑んでいるのだから」
「ガウガウ!」

 セイラの言っていることはヒットも理解出来た。むしろ簡単だとか楽な戦いなどと思いながら挑むほうが油断を生む。

「……私は1人でも行く。おまえたちはどうする?」
「俺は君についていくさ」
「勿論私もです!」
「わ、私も!」

 クララとメリッサも決意のこもった顔で返事をした。するとネエとソウダナも覚悟を決めたように口を開き。

「……なら俺たちも行く。人数は少しでも多いほうがいい」
「アーマーアントもいるからねぇ。それにやっぱり見捨てたままじゃ目覚めが悪いし」
「だ、そうだ。あんたはどうする?」
「チッ、たくしょうがねぇ連中だな」

 ヒットの問いかけにガイは頭をガリガリと掻きむしり。

「この状況で俺だけ仲間はずれとか勘弁してくれ。わかったいくよ。こうなったらやぶれかぶれだ!」

 どうやらガイも一緒に戦ってくれることを決めたようだ。ガイはかなりの戦力であり、やはりいるといないとでは大違いなのである。

「ただし、アイアンが生きてるとは限らねぇ。もし、残念な結果に終わっていたらそもそも挑む理由がないんだから大人しく引き返すぞ」
「そうは思いたくないがな」
「……」
「セイラもいいな?」
「……約束は出来ない」
「ガウ……」

 セイラの反応にガイは困り顔を見せたが、とにかく奥の状況を確認してからだ、ということでアイアンの救出に向かうこととする。

 全員で横穴を突き進むと程なくして巨大な蟻の胴体と獅子の頭をした化け物の姿を捉えた。周囲にはアーマーアントも数多くいる。この中ではミルメコレオがボスにあたるようだ。

「あれが、ミルメコレオか。アーマーアントもかなりいるな――ただ、アイアンの姿がないな」
「やっぱりもう喰われたんじゃないか?」
「むぅ、そう悪い方にばかり考えるのは良くないです! 腹ペコの時に肉が落ちていると嘘つくぐらい良くないです!」
「……そ、そうだな」
「ねぇ、今の例えわかったの?」

 ソウダナはなんとなく相槌を打ったようだが、ヒットとしても中々微妙な例えに感じた。

「鑑定しました!」

ミルメコレオ
生命力100%体力100%魔力100%精神力100%
攻S防S敏A++器B+魔C護B++
魔法
パワーアント(3)
スキル
獅子の咆哮(5)獅蟻突撃(5)強酸の息吹(5)
称号
獅子と蟻の合成獣、蟻の頭領

 
 メリッサが鑑定結果を教えてくれた。予想通りかなり能力が高い。攻撃も防御もSであり、生半可な攻撃は通用しないだろう。見た目にも大きく、蟻の体が殊更不気味に感じられる。

「かなりの大物だ。アイアンの姿も見えない。考え直すなら今だぞ?」

 ガイが改めて全員の判断を仰いだ。ヒットとしても悩みどころである。ただアイアンが無事ではない証拠も何もない。ガイの言うように喰われてしまったらそもそも死体が残らないが……。

「ガウガウ」
「……アイアンかは判然としないけど、生きている坑夫がいるとフェンリィが言ってる。フェンリィの鼻は確か。間違いない」
「なら、助けないという選択肢はないですね!」
「はい。全力でぶつかりましょう」
「そ、そうだな」
「ねぇ、私達は周りのアーマーアントを相手するわ。あれなら少しはたたけるかもだし」
「仕方ねぇ、セイラがこういうならな。俺も死ぬ気でいくぜ!」
「本当に死ぬなよ」
 
 苦笑交じりにヒットが返し、そしていよいよアイアン救出の為の戦いが始まろうとしていた――
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