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第29話 メタリックスライムを狙え!

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 翌朝、2人はレリックの店に向かい、そして合成された魔法の袋を手に入れた。

「いやぁ思ったより気合が入っちゃってね。おかげで想定よりいいのが出来上がったよ」
「想定?」
「そう、大体いつもなら2割か3割ましぐらいなんだけど、今回のは倍の300kgまで入るのに変化したよ」
「それってイレギュラーか?」

 イレギュラーは錬金術師の合成の際に本来の結果とは異なるものが出来る現象だ。ゲームでも時折発生するがその際に完全に失敗に終わるかよりいいものが出来上がるかはランダムだった。

「うん、俗に言えばそうだね。めったにないことだし場合によっては爆発したりするんだけど良い結果に結びついて良かったよ」

 どうやら失敗した場合はゲームよりも酷い結果になるようだ。錬金術師というのもわりと命がけなのかもしれない。

「これはそのまま受け取ってもいいのか?」
「勿論、イレギュラーだからって追加料金なんて要求しないから安心してね」
「ありがとう。結局随分と得してしまったな」
「はは、運も冒険者には大事な要素だよ」
 
 確かにそうかもしれない。ゲームでもレアやユニークアイテムが手に入るかどうかは運の要素も大きかったのだ。

「ところで、薬が実は欲しいんだ。いいかな?」
「勿論うちも商売だからね。薬が欲しいならそれはそれで大歓迎だよ。それで何が欲しいのかな?」
「クリティカクテルが欲しい。そうだな、2本もらっておこうかな」
「クリティカクテルだね。じゃあ用意するよ」

 そしてヒットはレリックから魔法の袋を受け取り、クリティカクテルを購入した。クリティカクテルは1本2500ゴルドの魔法薬で、飲んだ後の攻撃は必ずクリティカルヒットとなる。ちなみにカクテルとあるが別にアルコールは入っていない。

「薬を買ったのは今後の為?」

 レリックの店を出た後、ヒットの顔を覗き込むようにしてメリッサが聞いてきた。空よりも蒼く澄んだ瞳で不意に見つめられると照れてしまう。

「え~と、そうだな。1本は予備だが、1本は次の依頼で役立つ」
「次というとメタリックスライムの?」
「そう。ただこれだけじゃ足りないから、ストーンの店によっていこう」

 こうしてストーン工房に立ち寄り、以前約束していた廃棄する予定の剣などを譲ってもらった。結構な重さなので、早速合成してもらった魔法の袋が役立つこととなった。

「てことは、いよいよ今日狩りにいくのか?」
「あぁ、これから向かうところだ」
「そうか。期待して待ってるぜ」

 ニカッと笑顔を浮かべてくれたがあまり笑顔が得意でないのか子どもが見たら怖がりそうな笑顔だった。とは言え折角だから期待には答えたいと思うヒットである。

 その後は矢と薬師の店に行き薬を補充する。100%回復のポーションや精神安定薬があれば欲しいところだが――

「その薬はこの辺りには出回らないね」

 店主の回答はこうであった。そもそも50%回復の薬も購入できる個数は決まっている。

 なのでメリッサとヒットで今回はそれぞれ2本ずつ購入することにした。それが一度に買える限度だったからだ。

「メリッサは何か必要な物はないのか? 自分ばかりというのも悪いし、遠慮なく言って欲しい」
「は、はい。それなら、魔導書の店に行ってみても?」
「勿論だ行こう」

 アナライザーのメリッサでも一部を除けば初級の魔法は覚える事ができる。今は水魔法だけ覚えているが他にも使えそうなのがあれば覚えておくのもいいだろう。

「折角だからヒットも何か覚えてみたらどうかな?」
「俺は魔法職じゃないしな」
「でも、生活魔法なら誰でも覚えられるよ」

 そう言ってメリッサがクリーンの魔法を薦めてくれた。これがあればお風呂に入らなくてもある程度体を清潔に保つことが出来る。熟練度が上がればかなり爽快でもあるらしい。

 なので折角なので薦められるがままクリーンの魔導書を手にとった。

 ちなみに魔法には基本として上から、最上級、上級、中級、下級があり、更に中級から上には下位、中位、上位といった区分がある。

 そして基本とは別とされるので神級、天災級といった魔法も存在する。尤もこれは一部の限られたジョブしか使えない上、魔導書自体そう出てこなかったりするのだが。

「では私はこれとこれで」
「はい、魔導書4冊ね。本来なら10000ゴルドだけど、すぐに覚えるならそのまま下取りで8000ゴルドにも出来るよ」
 
 それならその方が楽だな、と魔法を覚え下取り込みで8000ゴルド支払った。

 ヒットはクリーンを、メリッサはファイヤーボルト、ウィンドカッター、アースシールドの3つを会得した。

 火属性のファイヤーボルトは火の礫で攻撃する魔法だ。下級魔法の中では威力が高い。ウィンドカッターは風の刃で攻撃する魔法で、威力はファイヤーボルトに劣るが熟練度が増えると一度に出せる風の刃の数が増える。

 アースシールドは防御系の魔法で土の盾で相手の攻撃をガードできる。強度は熟練度で変化する。

 こうして準備が整ったところでいよいよ2人はスタコラの森へと出発した。

 目的地は町を出て南西の方角にある。徒歩で2時間掛かるのでそれなりの距離と言えた。

 勿論途中で何度か魔物と遭遇したが、一度戦ったホーンラビットなどが主だった為、メリッサの魔法の試し打ちにちょうど良かった。

 こうして何回かの戦闘をこなし、歩き続けてスタコラの森へ到着する。

「でも、メタリックスライムって見つけるのも大変なんだよね……今日中に見つかるかな?」
 
 森に入って歩いていると、顎に指を当てメリッサが問うように言った。

 その後視線がヒットに向けられるが。

「確かに普通ならそう簡単にみつからないだろうね」
「やっぱりそうなんだ……でも、諦めたら駄目だよね。日数はまだ少しあるし、とにかく隅から隅まで探して!」
「いや、そこまでしなくて大丈夫。メリッサには地形把握のスキルで、周囲に隠れられる場所があって、出来るだけ見通しの良い開けた場所を見つけて欲しいんだ」
「え? でも……メタリックスライムはそんな見つかりやすい場所に出てくるかな?」
「あぁ、確かにただ見つけるってだけなら難しいだろうね。だから、今回はおびき寄せるのさ」
「え? おびき寄せる?」
 
 ヒットの答えに小首をかしげるメリッサ。この様子を見るにやはりこっちでもメタリックスライムのおびき寄せ方は知られていないようだ。

 尤もこれはゲームでもそうだった。ヒットにしても偶然見つけたから気づけたことだったに過ぎない。

 とにかく、メリッサのスキルもあって、条件にピッタリの場所はすぐに見つかった。

 そこでヒットはストーンから貰った使い物にならない装備品を取り出し一箇所に纏めておいた。そしてその場を離れメリッサと藪に隠れて様子を見る。

「あの、ヒットこれは?」
「見ての通りメタリックスライムをおびき寄せる餌さ」
「え? 餌?」
「そう、メタリックスライムは金属が好物だからな」
「そ、そうなんですか!」

 メリッサが驚いた。やはり知られていない。ちなみにヒットがこれを知ったのはソロで行動していた時、たまたま敵が落とした折れた剣にメタリックスライムが寄ってきて吸収したのを見つけたのだ。

 そこからもしかしてメタリックスライムは剣とかを置いておけば吸収しにくるかもしれないと考え、試したら上手くいった。

 だからこの世界でも同じではないかと考えたわけだが。

「あ、ヒット! メタリックスライムが!」
「ビンゴ!」
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