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第25話 満月の夜に

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 途中何匹かの魔物に襲われはしたが、2人は無事グラスの森までたどり着いた。黒く染まった森は昼とはまた違った様相を醸し出している。

 森のなかに入ると獣の遠吠えが聞こえてきた。ワーウルフが出ることは知っているので警戒する。松明は消した。ここに来るまでに夜目が多少はきくようになっていたし、松明の火はある程度の実力を持った魔物は逆に呼び寄せてしまう。

 見通しのあまり良くない森で魔物をおびき寄せてしまうのあまり芳しくない。

 幸いなことにここではメリッサが新たに覚えた地形把握が役立った。熟練度が低いためまだそこまで効果範囲は広くないが、向いている方角などもわかるので迷う可能性はグッと低くなる。

 目的となる月光美人を得る手がかりとなる特徴は聞いていた。月光美人は満月の光を浴びることで成長する。なので自然と木々が邪魔をしない開けた場所であることがわかる。

 とは言えそれだけでは見つけるのは中々難しいとこだが、しかしこれにメリッサの地形把握を組み合わせることで見つかる可能性も上がる。

「あ、あれです!」

 案の定メリッサのスキルもあって、月光美人を見つけることに成功した。まるで月光美人を木々が避けているかのように開けた場所にそれはあった。念の為鑑定を使ってもらい間違いなく月光美人であることを知る。

 満月の光を浴びることで異彩な輝きを放つ花は、とても美しく、神秘的ですらあった。これであれば鑑定がなくても判断はついたかも知れないが、偽物がないとも限らないので確認は必要だろう。

 それにしても――月光美人の光は中々に明るく、宿の主人から火を起こすための魔導具を借りていたが、どうやらこの場では必要なさそうであった。
 
 ただ、だからこそ危険とも言えるだろう。魔物はこの月光美人の光に惹き付けられる。特にワーウルフという魔物はそれが顕著なのだ。

 ヒットとメリッサは早速準備に入る。先ずは月光美人からこぼれ落ちる雫の下にレリックから預かっていた瓶を置いた。これからはこの瓶一杯に溜まるまでこの場所を守り続けなければいけない。

 雫は一滴ずつ落ちてきており事前に聞いてはいたが、確かに時間が掛かりそうだ。月が出ている間中は掛ると見ていいだろう。

 これがただ黙ってみているだけなら問題はない。しかしここにはワーウルフが出現するのだ。
 
 ヒットとメリッサは次の準備に取り掛かる。ワーウルフが出現する前にそれぞれの武器にクイックシルバーを塗っておく必要がある。

 刷毛はセットで貰えたのでそれを使って塗っていく。本来なら事前に済ませておけば楽とも言えるが、クイックシルバーの効果は塗ってから2時間程度で切れてしまう。なのでこの場で塗る他なかった。

 幸いその間はワーウルフが出てこなかった。ヒットは鋼の剣にメリッサは矢筒に入っていた25本分の矢に塗った。

 これで準備は整った。周囲に注意の目を光らせる。出来れば出てこない方が楽ではあるが、世の中そう甘くはないものである。

 ヒットは木々の間から幾つもの目が光っていることに気がついた。人の目ではない。虎視眈々と獲物を狙う野獣の目だ。

「メリッサ、そこを狙うんだ!」
「はい!」

 ヒットの指示に従い、パワーショットの魔法を掛けた後、メリッサが矢を番え弦を引いた。
 ヒュンッという鋭い風の音。獣の悲鳴が夜の森に響き渡る。
 
 命中した。クイックシルバーの効果もあってか、1匹の転げる音と呻き声。恐らくは1体は殺った。すると躊躇なく一斉にワーウルフが飛び出してきた。

 メリッサより前衛に立っていたヒットに2体のワーウルフが飛びかかった。見た目はやはり2本脚で歩く狼といったところか。
 
 上背は個体によって差はあれど、平均的にはヒットと然程変わらない。武器は持っていないが鋭い爪と牙が月明かりに照らされ煌めいていた。

 ヒットからみて左右斜め前から飛び込んできている。1体にキャンセルを掛けた。突然自重が伸し掛かったように地面に落ちる。
 
 もう1体の爪は盾で受け止めるがすぐさま牙がヒットの喉笛を狙ってきた。首が異様に柔らかいのかかなり奇抜な動きであった。

「武技に爪と牙の連続技がある、気をつけて!」

 メリッサが鑑定を成功させたようだ。どうりで、とつぶやきつつもう一度キャンセル。

 首を伸ばしてきていたワーウルフの動きが止まり、逆に絶好のチャンスとなった。斜めに踏み込み闘気剣で剣の威力を上げ、体を入れ横につくと同時に剣を振り下ろす。首に刃がするりとめり込み頭と鮮血が宙を待った。

 その身が地面に落ち、そして動かなくなった。頭は遅れて落下した。先にキャンセルで倒れていたワーウルフの眉間には矢が突き刺さっていた。メリッサが討ったのだろう。

「てか、多いな……」

 合計3体のワーウルフを倒したが、更に追加で5体現れた。ヒットは若干うんざり仕掛けたが、夜の戦いはまだまだ始まったばかりである――




「はぁ、結構倒したな……」
「こんなに出ると思いませんでしたね……」

 そろそろ2時間が経つ。ここに来てようやくワーウルフの動きが収まった。周囲には30体近くのワーウルフの死骸が転がっていた。

「しかし、こんなにワーウルフって出るもんだったんだな……」
「遠吠えがあったので多少多いのは仕方ないかもですが多すぎですね。この花が呼び寄せているのかな? でも、鑑定だと特に特別なことはなさそうなんだけど……」
 
 メリッサが不思議そうに口にした。遠吠えは仲間を呼ぶ効果があるし確かにそれで何匹か増えていたが、やってきた時点で既に多い事も多かった。

 ヒットとしては単純に鼻が効くのかも知れないといった認識でもある。もともとワーウルフは厄介だとニャムも言っていたしもしかしたらこんなものなのかも知れない。

 とにかく一旦落ち着いたところで急いで武器にクイックシルバーを塗り直した。メリッサは使えそうな矢は回収し、同じく塗り直す。

 何せ思ったより出てくるワーウルフの数が多い。メリッサも使った矢を使い回さないと追いつかない。

 とはいえ、これだけのワーウルフを倒すとステータスにも変化が出てきた。

ネーム:ヒット
ジョブ:キャンセラー
生命力90%体力65%魔力100%精神力80%(+25%)
攻C防D敏D器C魔E護E 
武術
剣術(3)解体術(3)投擲術(2)
武技
挟双剣(3)爆砕剣(3)闘気剣(2)昇天剣(1)中断切り(1)曲投(1)
魔法

スキル
キャンセル(2)
称号
Bランクの壁
装備品
鋼の剣、革の胸当て、革の円盾、精神力強化の指輪(+25%)
道具
魔法の袋(50kg)、魔法の袋(100kg)ポーション(50%)×2、精神安定薬、ナイフ(3)、長剣、着火器、松明×3、寝袋×2

ネーム:メリッサ
ジョブ:アナライザー
生命力100%体力100%魔力125%(+25&)精神力100%
攻F防G敏F器C魔D護D
武術
弓術(3)
武技
狙い撃ち(2)連射(1)
魔法
アクアガン(1)クリーン(1)パワーショット(2)
スキル
鑑定(3)地形把握(1)
称号
鑑定士
装備品
丸木の弓、青葛のローブ、魔力強化の指輪(+25%)
道具
魔法の袋(50kg)、ポーション(50%)×2


 こんな感じである。ヒットは投擲術が上がり曲投を覚えた。これは投げた物が曲がる。それと解体術も上がった。暇をみてかなり解体したからだ。

 メリッサは連射を覚えている。これは熟練度分を+しただけ高速で連射出来る。高速というのがポイントで普通に連続で射るより射るのも矢速も上がる。

 それにヒットは武技の熟練度がメリッサは魔法の熟練度が一部上がっている。

 更に落ち着いたところでワーウルフのステータスも詳しく教えてもらった。

ワーウルフ
生命力100%体力100%魔力100%精神力100%
攻C防D敏C器D魔G護D 
武術
戦狼術(2)
武技
狼爪牙拳(2)
スキル
遠吠え(2)月下自癒(1)月ノ狂狼(2)
称号
月下の狩人、銀に怯える狼

 こんな感じである。月下自癒は月明かりの下で自然治癒力が向上するというもの。月ノ狂狼は月の光で身体能力が向上するというものだ。満月の下ではどちらも厄介だが、称号の銀に怯える狼のおかげでかなり倒しやすくなっていた。

 クイックシルバー様々である。さて、とりあえず少し落ち着いたので宿屋の主人から頂いていた夜食を食べた。

 アルバトロンの肉を使ったサンドイッチは想像以上に美味しく、こんな状況にも関わらず笑顔になってしまう。

 喉も潤し、改めて周囲を警戒する。本当はメリッサに少しでも眠ってもらおうと思ったが、月光美人を守るということも考えると厳しかった。

 この状況でメリッサの弓はかなり役立っているからだ。そして暫く待っていると魔物の死骸が徐々に灰になって消えていった。

 魔物の死骸は放って置くとこうやって消えていくんだなと思いつつしばらくするとまたワーウルフがやってきた。

 それを何体か倒していた2人だが――ふと1体、明らかに他のワーウルフと異なるのが出てきたわけだが。

「!? 大変です! そのワーウルフは、ユニークです!」
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