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第24話 難しい依頼

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「にゃん、確かに依頼は来てるにゃん。いきなり営業して指名依頼なんて偉いにゃん、といいたいとこだけど、とんでもないのを引き受けたにゃん」

 ギルドにやってきたヒットたちに応対したのはやはりニャムだった。猫耳を揺らしながら嘆息する。

「そんなに厄介だったのか。アルバトロンのことがあったから請けてないのかと思ったが」
「確かにそれはそうにゃん。アルバトロンがいる状況だと厳しい場所に生える花にゃん。でもそれがないにしても簡単な依頼じゃないにゃん」
「本来は俺ぐらいじゃ請けられないのか?」
「そうにゃん。普通はG級の冒険者に任す話じゃないにゃん。月光美人は満月の夜にしか咲かないし月の雫を溜めるとなると徹夜必須にゃん。夜は魔物も凶暴なのが多い上、月光美人の近くにはワーウルフが出没するにゃん。G級で挑むなんて自殺行為にゃん」

 そう聞くと確かに危険が伴う仕事かもしれないと思える。

「依頼は請けられないのか?」
「それは大丈夫にゃん。指名依頼は依頼者の意志を出来るだけ尊重するにゃん。でも断る自由ならあるにゃん、だけどとりあえず依頼書を渡すにゃん」

依頼内容
月の雫の採取
依頼条件
ヒットのパーティーへの指名依頼。
期限は今夜限定。
報酬
50000ゴルド+条件報酬

「条件報酬とは別にこんなに貰えるのか?」
「条件報酬は依頼人との間で決められたもので正規の報酬とは別にゃん。でも中々出す依頼人はいないにゃん。だからその約束を取り付けたのは凄いにゃん」

 どうやら依頼人から条件報酬が出ることは少ないらしく、ニャムが腕を組みながら1人うんうんと頷いている。

「だけど危険な仕事にゃん。本当に請けるのかにゃん?」
「あぁ、約束だしな。請けるよ」
 
 そしてヒットは依頼書に受諾のサインをする。

「ちなみにこれもあるんだが、この紙で受け付けて貰えるのか?」
「なんにゃんそれは?」

 ヒットはストーンから預かっていた紙をニャムに手渡した。すると、にゃん! と受付嬢の耳が立ち。

「これも指名になったかにゃん。やるにゃん! といいたいところだけどこれも無茶にゃん」
「無茶? でも、これは元からある依頼なんだろ?」
「確かにそうにゃん。でも中々見つからなくて請ける人がいなくなっていたにゃん。そういう意味では条件は厳しいし、それに例え見つけても倒すのは難しいにゃん。本当にこれ請けるかにゃん?」
「一応聞くけど依頼を達成出来なかったらペナルティーがあるのか?」
「今回の場合はあるにゃん」
「今回の場合は?」
「ヒットが最初に受けた薬草採取は誰でも自由に出来る依頼だからないにゃん。討伐依頼も基本ないにゃん。だけど今回みたいに受諾して動く依頼の場合、失敗すると依頼額の10%が罰金となるにゃん。それに冒険者の評価にも影響するにゃん」
 
 そうなんだな、とヒットは一考する。これもゲームではなかった要素だ。ただ冒険者としての評価は確かに失敗すると下がったが。

「あとは護衛任務などの場合は仕事次第で報酬が減ることがあるにゃん。それと内容が悪質な場合は更にペナルティーが課せられることもあるにゃん」
「悪質な場合というのは?」
「明らかに仕事の邪魔をする目的で請けた場合などにゃん。大勢で挑む依頼なんかだと私念でそんなことをやる馬鹿がたまにいるにゃん。あとは身勝手な依頼放棄も追加ペナルティーの対象にゃん」

 なるほど、とヒットは頷く。尤もこれは納得の行く話でもあった。

「それに今回みたいな依頼は失敗すると下手したら今後は錬金術師やストーン工房からヒットたちに出さないと言われてしまう可能性もあるにゃん。それでもいいかにゃん?」
「う~ん、そんな性格にも見えなかったけどな」
「あくまで例えにゃん」
「そうか。でもまぁ約束したし請けるよ」
「……一応忠告はしたにゃん。なら書き直すにゃん」

 そう言った後、ニャムが紙を取り出し元の依頼内容を書き直し始めた。

「出来たにゃん」

依頼内容
メタリックスライムの討伐及び素材回収
必要素材
・メタリックスライムの死体・メタリックスライムの魔石
依頼条件
ヒットのパーティーへの指名依頼。
期間は3日以内。
報酬
500000ゴルド+条件報酬

「ちょっと待った。報酬がおかしい」

 ヒットは若干焦った。桁が1つ間違っているのではないかと思った程だ。

「特におかしなことはないにゃん。メタリックスライムは本来それぐらい討伐が難しい魔物にゃん。ついでに言うとこれはあくまで依頼の報酬にゃん。素材の買取価格はまた別にゃん」
「素材でいくらするんだ?」
「状態が良ければ本体で100万ゴルド、魔石で50万ゴルドにゃん」

 ヒットは唖然となった。確かにゲームでも高価な素材ではあったがここまではしなかったからだ。

 だが、そこまでの価値があるなら追加で報酬を出してでも欲しいという気持ちもわかる気がする。

「当然この依頼は罰金もそれなりのものになってしまうにゃん。それでもいいかにゃん?」

 確かに失敗したときの50000ゴルドの罰金は痛い。この依頼を請けるのがいなくなったのもわからないでもない。

 だが、やはり約束は約束だ。ヒットは律儀なのである。

 なので依頼書にサインし、2つの依頼を請け負った。ニャムは心配そうに。

「メタリックはともかく、月の雫集めは気をつけるにゃん。ヒットには将来性を感じるにゃん。無理だと思ったら素直に逃げるにゃん」
「あぁ、心配してくれてありがとうな」

 依頼を請けヒットとメリッサはギルドを後にした。帰りに薬師の店に寄り、精神安定薬とポーションを購入した。その後は宿屋に立ち寄るが、主人は弁当とお茶の他に寝袋と焚き火をするのに役立つ着火用魔導具や松明を貸し与えてくれた。

 このあたりの道具のことはうっかりしていた為、非常にありがたかった。

「何から何までありがとう」
「すごく助かります。本当にありがとうございます」
「……いいってことよ。だから、無事戻ってこいよ」

 どうやら主人は2人のことを心配してくれているようだ。見た目は怖そうだったが内面は客思いの優しい男であった。

 ヒットはこの町にいる間はここの宿を利用し続けようと決め、改めてお礼を言って出発した。

「こんな時間に出るのかい? もうすぐ門がしまってしまうぞ?」
「それは大丈夫だ。夜の依頼を請けたから朝まで戻らない」
「夜の依頼か。しかし勇ましいな。夜は危険だからある程度腕に自信がないとうけないものなんだがな」
 
 門番が心配そうに言った。やはり夜は危険が多いようである。護衛の依頼や遠征が必要となる依頼も基本は熟練した冒険者の仕事なようだ。

「とにかく気をつけてくれよ。特にあんたは男なんだし、しっかりやってくれ。見捨てたりしたら承知しねぇぞ」

 この門番は初めて町に来た時にいた男だ。だからメリッサが一度見捨てられたことを知っている。

 だからこそ心配だったのだろうが、ヒットは頷き。

「勿論、仲間を見捨てるような真似はしない」
「私もヒットを信じてますので」
「……はは、なるほどな。こりゃ敵わないな。うし、ならしっかりやれよ」
「あぁ、わかった」

 正直何が敵わないかはわからなかったが、ヒットは深く頷き、そして夜のグラスの森に向けて出発した。




「ヒット、その魔物はヨルノウルフです」

 メリッサが鑑定結果をヒットに伝える。改めてヒットは昼と夜の違いを思い知らされた。

 太陽が昇っているうちは、見通しの良い街道に魔物が出ることは滅多になかったが、夜の帳が落ちた街道には闇夜に乗じて襲いかかってくる魔物が多く現れる。ヒットが暮らしていた日本のように外灯があるわけもなく、便りになるのは月明かり程度なのである。

 一応メリッサに松明を持ってもらってはいるが、それでも襲ってくる魔物はいる。
 
 とは言え、ヨルノウルフ程度ならばそこまで苦労することもなく切り倒す事ができた。ただ夜はうかうかしているとすぐ他の魔物が寄ってくるのでいちいち素材回収をしている時間はない。

 なので倒したらすぐ歩みを再開させた。
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