上 下
21 / 68

第21話 錬金術師

しおりを挟む
 ヒットとメリッサが先ず向かったのは町の錬金術店だ。紹介してもらった優秀な錬金術師の下を訪ねる。

 だが、店の雰囲気はあまりそういった雰囲気はなく。つまりかなり見窄らしかった。看板に店の名前が刻んでなければきっとそのまま素通りしていたことだろう。

 正直店というよりは掘っ立て小屋といった雰囲気の方が強いが、とにかく中に入ってみることにする。

「うわぁ~何か凄いですねぇ」

 店に入った途端、メリッサがそんな声を上げた。外観もかなり見窄らしかったが、中は中で手入れが全く行き届いておらず、所々には蜘蛛の巣が張られっぱなしだ。

 ただ汚いながらも陳列用の棚が存在し、そこには瓶詰めされた薬が置かれていた。棚には札が貼られていて名前と効果が刻まれている。

 薬は薬師店でも購入できるが薬師の店で売られているのは回復系のポーションや状態異常を治す薬などだ。

 一方錬金術師の店では魔法の効果が施された薬が取り扱われている。店は汚いが扱っている商品は手入れが行き届いていた。瓶も染み一つ付いていない。

 正面にはカウンターが見えるが誰もいなかった。奥には開きっぱなしのドアが見えた。その先にも部屋があるのだろう。

「誰かいないのか?」
 
 ヒットが奥の部屋に向かって声を上げた。誰もいないとしたら物騒がすぎるが、耳を澄ますと奥からコポコポと何かを煮詰めるような音が聞こえてきている。

「あれ~? もしかしてお客様かな~? ならちょっと手が離せないからこっちまで来てもらえるかなぁ」

 奥から男性の声が聞こえてきた。気だるそうな声でもあった。ヒットはメリッサと顔を合わせる。小首をかしげる素振りが可愛いと思った。

「とにかく行ってみようか?」
「そうですね。折角だし」

 そして部屋の奥に向かう。

「ふぇ~これはまた……」
「な、何か圧巻されますね……」

 奥の部屋にはフラスコやらビーカーやらが大量に置かれ、ランプで底から熱しられていたり、何かの反応でボコボコ泡立っていたり、妙なガスが天井を覆っていたりした。

 透明な配管らしきものが器具と器具を結び、天井にも皮を剥がされたなんだかよくわからない生物が吊り下がっていた。

 正直かなり独特な部屋だ。何より奇妙なのはこの空間は明らかに外から見た建物より広い。普通はありえないが錬金術とやらで空間のみを上手いこと拡張させているのかもしれない。

 この部屋だけ見ているとそれぐらいは出来そうな雰囲気はある。

「やった! 完成したぞ!」

 すると何やら作業をしていたローブ姿の男が突然叫び声を上げた。メリッサの肩がビクッと震える。

 何か嬉しそうにしている。面長の顔に眼鏡を掛けた男性だ。くすんだ銅の色の髪をしているが、手入れは全くされておらずボサボサだ。着ているローブにしても本来白色なのだろうが、汚れが酷くヨレヨレである。身なりには全く頓着がないタイプなようだ。

「あぁ、済まなかったね。ついつい実験に夢中になってしまって」

 彼は2人を振り返ると、どこか晴れ晴れとした笑みを浮かべつつ話しかけてきた。何かを成し遂げたような面立ちだ。

「あぁそうだ、よければこれを飲んで見るかい? 今作ったところなんだけど自信作なんだ」

 男は何かの器具に乗っていた容器ビーカーを持ち上げて2人に薦めてくる。中身は液体で煙が立っている。

 男はその中身をカップに注いた。

 赤色をした液体で、シュワシュワと細かい気泡がカップの中に溢れそして弾けて消えていった。

「これは一体?」
「うん、魔物の血液を錬金して作った炭酸ジュースさ。ごくごく、うん旨い!」

 男は自らが率先してカップに入ったジュースとやらを飲み干した。メリッサの笑顔が引きつっている。何せ材料が魔物の血液だ。ドン引きなのだろう。

「どうだい君たちも?」
「……それ飲んで大丈夫なものなのか?」
「勿論! 僕だって平気だったろ?」

 そういいつつ、新しいカップに赤い液体を注いだ。熱心に薦めてくるのでヒットはそれを受け取り、ゴクゴクと飲んでみた。

「ヒット!?」

 メリッサが驚いていた。心配そうにオロオロしている。いくら眼の前で錬金術師が飲んでみせたとは言え不安なのだろう。

「どうかな?」
「……トマトの味がする」
「そう! 赤と言えばトマトだよね!」
「えぇ……」

 メリッサが残念な物を見るような目を男に向けた。血と言えばトマトという考えはヒットからすればわからなくもないが、些か単純すぎる気がした。

「どうだい? 美味しいだろう?」
「いや、俺、そもそもそんなにトマトジュースが好きでもないので……」
「そ、そうなのかい?」

 眼鏡の奥に見える瞳が残念そうに揺れた。だが、その視線が今度はメリッサに向けられる。

「あ、その、私もトマトが苦手で……」
「そうなんだ……くっ、これならイチゴ味にしておけば良かったか!」

 拳を握り、悔しがる。そこかよ! とヒットは一瞬ツッコミたくなったが、止めておいた。

「あの、ところで話をしても?」
「うん? あぁそうだった。君たちはお客さんだったね。いやいや研究に夢中になると周りが見えなくなる質で、あ、僕の名前はレリック。見ての通りここで錬金術師をしている」
「ヒットです。そしてこの子がメリッサ」
「よろしくお願いします」
「へぇ、可愛い彼女と一緒だなんてちょっと羨ましいかなぁ」

 ヒットと隣に立ったメリッサを見て、微笑ましそうにレリックが言った。するとメリッサの頬が紅潮し、ヒットは参ったなという顔を見せた。

「俺たちはそういうのではないんですよ。パーティーを組んでる仲間ではありますが」
「そうなのかい? お似合いに見えたけどねぇ」
「からかわないでください」

 横目でメリッサを見やるヒット。彼女が俯いていた為、こんな勘違いされて迷惑だったろうなと彼は考えた。

「はは、そんなつもりはなかったのだけど悪かったね。わりと思ったことは口にしちゃう方なんだよ。あ、それで今日は?」
「あぁ、実はレリックさんが腕の良い錬金術師だと薦められて、2つの魔法の袋を錬金術で合成して貰いたいんだが可能かな?」
「それはもう。色々なものを組み合わせるのは錬金術の得意分野だからね。良ければ見ても?」
「あぁ、この2つなんだが」
「あ、ヒット良かったら私のも合わせたらどうかな? その方がより性能が上がるんじゃないかなって」
「いや、メリッサはそれ1つだし、自分でも持っていた方がいいよ」

 恐らく気を利かせたのであろうが、薬などはメリッサも持っていた方が良いので、その魔法の袋はそのままの方がいいだろう。

「つまりこの容量50kgの魔法の袋と100kgの魔法の袋2つの合成だね。これだと出来上がりは容量200kgの魔法の袋で価格は50万ゴルドといったところかな」
「え?」

 これは、予定外の結果だ。まさかそんなにするとは思っていなかったからだ。

 手持ちが8万5千ゴルドになったことで喜んでいたが、一気に現実に引き戻された気がする。

「あれ? もしかして足りない? これでも普通に同等の魔法の袋を買うよりはかなりお得だと思うんだけど」
「普通だといくらなんだ?」
「200万ゴルドといったところかな。勿論出回っている数でも相場は変わってくるけど」

 ちなみに50kgのでも25万ゴルド100kgだと80万ゴルドはするらしい。ただ、確かにこれだけの魔法の袋を2つ合成するのに必要な予算がそれだけで済むというのは安いと言えるだろう。

「でも、それだと魔法の袋を2つ購入して合成した方が安いと考える人もいるのでは?」
「そういう人の依頼は受けないようにしているんだ。見れば同時に2つ購入したかどうかぐらいはわかるからね」

 なるほど、とヒットは頷いた。

「ところで合成はどうするのかな?」
「あ、あぁ……ちょっと厳しいから出直すことになりそうだ……」

 これはメリッサと相談するまでもなく諦める他なかった。持ち金が全然足りないのだからどうしようもない。

「う~ん、厳しいというのは予算だよね? それに見たところ2人は冒険者のようだし、腕には覚えがあったりするかな?」
「うん? 腕にか?」
「そう。もし自信があるなら、代金の代わりに1つ仕事を請けてみない?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

魔力吸収体質が厄介すぎて追放されたけど、創造スキルに進化したので、もふもふライフを送ることにしました

うみ
ファンタジー
魔力吸収能力を持つリヒトは、魔力が枯渇して「魔法が使えなくなる」という理由で街はずれでひっそりと暮らしていた。 そんな折、どす黒い魔力である魔素溢れる魔境が拡大してきていたため、領主から魔境へ向かえと追い出されてしまう。 魔境の入り口に差し掛かった時、全ての魔素が主人公に向けて流れ込み、魔力吸収能力がオーバーフローし覚醒する。 その結果、リヒトは有り余る魔力を使って妄想を形にする力「創造スキル」を手に入れたのだった。 魔素の無くなった魔境は元の大自然に戻り、街に戻れない彼はここでノンビリ生きていく決意をする。 手に入れた力で高さ333メートルもある建物を作りご満悦の彼の元へ、邪神と名乗る白猫にのった小動物や、獣人の少女が訪れ、更には豊富な食糧を嗅ぎつけたゴブリンの大軍が迫って来て……。 いつしかリヒトは魔物たちから魔王と呼ばるようになる。それに伴い、333メートルの建物は魔王城として畏怖されるようになっていく。

孤児院で育った俺、ある日目覚めたスキル、万物を見通す目と共に最強へと成りあがる

シア07
ファンタジー
主人公、ファクトは親の顔も知らない孤児だった。 そんな彼は孤児院で育って10年が経った頃、突如として能力が目覚める。 なんでも見通せるという万物を見通す目だった。 目で見れば材料や相手の能力がわかるというものだった。 これは、この――能力は一体……なんなんだぁぁぁぁぁぁぁ!? その能力に振り回されながらも孤児院が魔獣の到来によってなくなり、同じ孤児院育ちで幼馴染であるミクと共に旅に出ることにした。 魔法、スキルなんでもあるこの世界で今、孤児院で育った彼が個性豊かな仲間と共に最強へと成りあがる物語が今、幕を開ける。 ※他サイトでも連載しています。  大体21:30分ごろに更新してます。

ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ

雑木林
ファンタジー
 現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。  第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。  この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。  そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。  畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。  斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

処理中です...