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第15話 厄介な再会

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「ここがグラスの森です」
「へ~森って言うより樹海ぐらい広そうだな」
 
 グラスの森はかなり広大であった。奥にはグラウスマウンテンという山がそびえ立ち、その麓に広がるのがここグラスの森なのである。

「一周するだけで半日掛るぐらいは広いのです」
「外周だけでそれなら中は結構な規模かもな」

 ただ、注意事項にはあまり奥に行くとアルバトロンという鳥の魔物が出るとあった。かなり凶悪そうであるし遭遇しないにこしたことはないだろう。
 
 なので森に足を踏み入れた2人は出来るだけ深くまで行かないように努めた。途中他の冒険者が採取しているのも目撃した。そういう場合あまり近くで採取していると余計なトラブルが起きやすいとメリッサが教えてくれたので出来るだけ他の冒険者と被らないように場所を移動しながら群生地を探し、ある程度歩き回った末にいいスポットを見つけ出した。

 鑑定を試みたメリッサが弾んだ声を上げる。

「あった! これがセラピム草、こっちがアロセラ草です。ライフ草はここにはないみたい」
「じゃあ、見つけたのから採取していこう」

 アロセラ草は小さな赤い実を沢山付けた薬草だった。セラピム草は色が若干青みがかっている。こう聞くと鑑定がなくてもわかりそうに思うが実際は多くの草花が茂っている中に埋もれているのでそう簡単でもない。

 しかし鑑定があれば一発でどこに生えているかわかるのでやはり便利だ。こうして次々と薬草を採取していく2人だが、やはり森には危険もある。

 移動しながら採取を続けていると、草木の擦れ合う音と共に、大きなウサギが姿を現した。

「ホーンラビットです! Eランク相当の魔物で、角の一突きが恐ろしいのです」

 若干怯えた表情でメリッサが敵の特徴を教えてくれた。ただホーンラビットはゲーム時代も相手していた魔物だ。

 メリッサの言うように脚力を活かした角での突撃は中々侮れない上に、このランクの魔物にしてはクリティカル率も高かった。

 クリティカルとは通常の攻撃より大きなダメージを与えることだが、基本狙って出すことは出来ない。だが、ジョブの特性であったりスキルや武技である程度確率に変化をもたらすことも可能だったりする。

 ホーンラビットは角での突撃にクリティカル補正が掛る為、気をつける必要があるわけだ。クリティカルは防御も無効化してしまうので受けるのは極力控えて避けに徹した方が良い。

「来た!」

 ホーンラビットの突撃。横にそれて躱した。だがここで問題が生じる。ホーンラビットの突撃は飛距離が長いため、避けてしまうとそのまま距離が空いてしまい、攻撃に転じられない。

 とは言え、ヒット一人ならともかく、今は仲間のメリッサがいる。ホーンラビットの着地際を狙い撃つ。

 武技の狙い撃ちだ。放たれた矢は一直線にホーンラビットの脇腹に命中。

「ギュギュ!」

 身を捩り、呻き声を上げるが、それが逆にヘイトを溜める要因になったようだ。その角先がメリッサに向けられ、地面が抉れ土塊が飛び散った。

 ホーンラビットがメリッサに向けて突撃を行ったのだ。メリッサはギョッとしているようだが。

「キャンセル」
「ブベッ!」

 しかしホーンラビットはそのまま勢いよく顔面を地面に叩きつけ横向きにゴロゴロと転がった。
 ヒットのキャンセルで技の出始めをキャンセルされたのだ。慣性も残しておいたので、結果、途中で落下し無様な姿を晒すこととなった。

「悪いがこれで終わりだ」
 
 起き上がり、頭を振るホーンラビットだったが、その時には既にヒットが間近に迫っており鋼の剣の一振りで命を散らすこととなった。

「ヒット、ありがとう。助かった、でも私も駄目だね。役に立ててない……」
「そんなことはない。ホーンラビットの突撃は厄介だし、メリッサのおかげで注意が引けたんだし、それにメリッサがいるおかげで戦いの幅も広がるし」
「本当?」
「うん」
 
 ヒットが答えるとメリッサが笑顔を見せた。実際はキャンセルがあればソロでも問題はなかったりするが、ただキャンセルは精神力の消費が激しい。今回はメリッサが危ないと思って使用したが、節約出来るところはしたいので、メリッサとの連携を高めておきたいのも事実なのである。

 それに弓が扱える仲間が後方に控えているのといないのとではやはり安心感が違う。現実化した世界では鑑定も重要だ。

 倒したホーンラビットは毛皮と魔石と角を素材として売ることが可能だ。この回収はヒットが行い。肉は容量的に厳しそうなので今回は諦めた。

「さて、続けようか」
「うん♪」

 メリッサの声が妙に弾んでいる。そして2人は更に薬草採取を続けていく。途中で何度かホーンラビットやイジワルモグラなどにも遭遇した。

 イジワルモグラは落とし穴を掘ったり、戦闘中に地面の中に隠れたりと中々面倒くさい相手だったが、それらはキャンセルで潰すことが出来た為、コツさえつかめれば倒すのは難しくなく採取は順調と言えた。

「わ! やった、ライフ草ですよ!」
「あぁ、本当だ」

 森を探し回ったところで、ライフ草の群生地を見つけた。ライフ草は他の薬草に比べて1本あたりの単価が高い。だが、その分他の薬草より数が少なく見つけにくい。

 ヒットは改めてライフ草を見る。ライフ草は赤いハート型の小さな花を咲かせるのが特徴だ。その特徴から比較的わかりやすいと思われがちだが。

「この辺りはニセライフ草ですね。こっちはライフ草ですので!」
「うん、メリッサの鑑定様々だね」

 ライフ草の周りには必ず見た目がほぼ同じのニセライフ草が咲く。そしてニセライフ草は毒だ。
 しかもライフ草とニセライフ草を混ぜるとライフ草がニセライフ草になってしまうという厄介な特性がある。

 なのでライフ草の採取は難しい。ギルドでの価格の差も見つけにくい点と採取が難しいという点があるからだろう。

 とはいえ、これも鑑定持ちがいれば当然相当に楽になる。ヒットはメリッサの鑑定に従い、ニセライフ草には目もくれずライフ草だけを上手く採取することが出来た。
 
「だいぶ集まったな。これだけあれば十分かな?」
「はい、ライフ草も見つけられましたし、収穫は上々ですね!」

 メリッサもニコニコし嬉しそうだ。元から器量の良いメリッサが見せる笑顔は中々の破壊力だ。ヒットも思わず見惚れそうになる。

「どうかした?」
「いや、なんでもない」

 照れたように目を背けつつ。

「さて、じゃあ戻ろうか。そろそろ戻らないと日も暮れそうだし」
「あ、確かに結構、日が傾いてきましたね」

 危険とされる奥まで来たとは思っていないが、それでもここからだと森を出るのに徒歩で3、40分は掛るだろう。森を出た後も町まで1時間は掛るわけであり、太陽の位置的にもそろそろ引き返した方が良いだろう。

 そう思って踵を返した2人だったが、そこへ何人かの冒険者と思われる3人が草木を掻き分け姿を見せた。

「あ……」
「ん? あ、あぁぁああぁあああ!」

 その姿にヒットは見覚えがあった。目付きの悪い銀髪の男に、盾を背負った茶髪の男、そして赤髪の杖持ちの女だ。

 だがそれ以上に覚えがあったのは彼ら3人のようであり。

「遂に見つけたぞメリッサてめぇ!」

 突如メリッサを睨めつけそう叫びあげたのである。その不穏な空気に、ヒットはトラブルの予感しかしなかった――
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