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第8話 冒険者のルール

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 受付嬢がヒットの持ち込んだホブゴブリンの頭や魔石を見て叫ぶと、周囲がどよめいた。

 メリッサが生きていたことでさえ驚きであったが、更にそこにホブゴブリンとゴブリンシャーマンがいて、また驚いたといったところだろう。

「メリッサってまだG級だったよね?」
「て、ことはあの男がすごいのか?」
「このあたりじゃ見ない顔だねぇ」

 そして注目はヒットにも集まった。メリッサのランクが低い以上、ホブゴブリンやシャーマン退治に貢献したのは彼ではないか、と推測されているのだろう。間違ってもいないが。

「必要なら魔石もあるぞ。見るか?」
「にゃ~これは大した有力株があらわれたものにゃん。そうにゃん、魔石は勿論見せてもらうにゃん。でも、その前にギルドカードを見せてもらってもいいかにゃん?」
「ん? それは持ってないぞ。なにせまだ冒険者の登録をしていない」
「にゃにゃ! 未登録にゃん?」
「あぁ、ただ冒険者として登録したいと思っては来ている」
「つまり新人ルーキーってことかにゃ~。またとんでもないのが現れたにゃん」
「そんなにか?」
「当たり前にゃん。普通登録もしてない人間ならただのゴブリンでも近付こうとしないにゃん。それなのに見ず知らずの冒険者の為にゴブリンの巣へ飛び込んでいってゴブリンシャーマンとホブゴブリンも倒すなんて異例中の異例にゃん」

 どうやら未登録でホブゴブリンやゴブリンシャーマンを倒したのはかなり珍しいことらしい。
 ヒットとしてはあまり目立ちたくはなかったが、おかげで妙に注目されてしまっている感がある。

「そうか、それは冒険者に登録する上で何か不都合があるか?」
「あるわけないにゃん。それどころかホブゴブリンとゴブリンシャーマンを倒したならある程度実績として評価出来るにゃん。普通なら登録時に試験もするけど、これなら試験免除で冒険者としても特別にG級からスタートにゃん」
「すごいヒット!」

 両手を組み海のように蒼い瞳も輝いていた。メリッサが喜んでくれるなら、多少は目立っても持ってきて良かったなと思い直す。
 とりあえずこれでメリッサと肩を並べて活動が可能だ。

「なら冒険者としての登録を進めていいかにゃん?」
「頼む」
「わかったにゃん。ならこれに必要事項を記入するにゃん。代筆が必要なら銅貨1枚にゃん」

 用紙を渡されたが全て日本語で書かれていた。思えばメリッサとの会話もこの受付嬢とも普通に会話できている。世界が日本語準拠なのかそれとも言語がヒットに理解できる形に対応されてるのかは判らないが、これなら代筆は必要なさそうであった。

「問題ない」

 ヒットはそれにスラスラと書き込んでいく。年齢も記憶に残っていた18歳と書き込み、ジョブはとりあえずキャンセラーと書き込んでみた。

「18歳かにゃ? ソレまで何をしてたにゃん?」
「何をとは?」
「普通は15歳から働くにゃん。たまに学園に通ってる場合もあるにゃんが……」

 話を聞くにこの世界の成人は15歳からなようだ。

「自分を見つめるために一人旅を続けていた」
「なるほどにゃん、それで実力をつけたってことかにゃん」
 
 勿論嘘だが、ヒットにとって都合よく解釈してくれたようだ。

「このキャンセラーって何かにゃん?」
「ジョブだ」
「……聞いたことのないジョブにゃん。どんなジョブにゃん?」
「キャンセルが使える」
「意味がわからないにゃん」

 受付嬢が首を傾げた。しかし、どうにも説明しづらい。

「とりあえず戦士職ではある」
「つまりファイターにゃん。それならそう書き換えとくにゃん」

 勝手に書き直されてしまった。しかしジョブの認識はそんなものでいいのか、と目を細めるヒットである。

「適当だな」
「ジョブなんて大体の役目がわかればいいにゃん。適当な冒険者は上位職になっても報告してこないなんて多々あるにゃん」

 基本職と呼ばれるジョブの上には上位職があるのはゲームでも一緒だった。ただキャンセラーは実装されたばかりのジョブだったので当時は上位職が明らかにされてなかったが。

「本当は魔法職なのに戦士職と偽ったりしないかぎり大丈夫にゃん」
「そんなものか」

 とりあえずあまり深いことは考えないでおこうと思う。

「後は特に問題なさそうにゃん。注意事項にゃん。冒険者ギルドは個人や団体から依頼を請け負い冒険者に斡旋する組織にゃ。色々な町に冒険者ギルドはあるけれど、一つの組織として成り立っているからギルドカードは共通にゃん。ちなみに各冒険者ギルドの長はギルドマスターにゃん。各国の冒険者ギルドを統括するのはグランドマスターと呼ばれるにゃん」

 これもゲームと通ずるものがある。ついでに言えばゲーム内では各国のグランドマスターが集うグランドマスター会議なるものがあり、それ絡みのクエストも存在した。

「基本的に冒険者はギルドから依頼を請け負わないと駄目にゃん。ギルドを通さず仕事を請ける裏営業は禁止にゃん」
「駄目なのか?」
「トラブルにつながることがあるから駄目にゃん」
「トラブル?」
「以前その裏営業で闇ギルドの依頼を請けてしまった冒険者がいるのです。本人は知らなかったと話してたようですが」

 メリッサが補足してくれる。

「にゃん、でもそれは知らなかったで済む話じゃないにゃん。その男も冒険者資格を剥奪されたにゃん」

 どうやらギルドは裏営業には厳しいようだ。

「判った。営業は駄目ってことだな」
「それは少し違うにゃん。ギルドを通す形の営業ならむしろ万々歳にゃん。いくらでも持って来るにゃん」

 話を聞くに依頼をこなした後、依頼主の方から続けてお願いしたいと冒険者に直で言ってくることがあるらしい。そういうときはあくまで冒険者ギルドとして請けるには構わないそうだ。ただしその場で依頼料の話などをするのはご法度である。

「あとは入手した顧客の情報を外に漏らすのは駄目にゃん。犯罪行為も駄目、冒険者同士のいざこざも喧嘩程度なら関知しないけど、理由なく殺したり傷つけたりした場合は勿論罪に問われるにゃん」

 その他も内容的には至極まっとうな話だった。普通に冒険者としてやっていれば処罰されることは先ずないだろう。

「冒険者ランクは最下級がHで、G、F、E、D、C、B、A、Sの順で上がっていくにゃん。ちなみに一番上のSは王国内でも数えられるほどしかいないにゃん」
「このギルドにはいるのか?」
「いないにゃん。うちで一番上はB級にゃん。A級にしても冒険者の中で慣れるのはごく僅かにゃん。大抵の冒険者はDにも上がれず引退するにゃん」

 どうやら冒険者の世界は中々厳しいらしい。

「依頼についてにゃん。依頼は基本、そこの壁の掲示板に貼られるにゃん。そこから選ぶといいにゃん。依頼にはランクに関係なく請けられる通常依頼と請けられるランクや人数に制限がある条件依頼、それと指名依頼や強制依頼もあるにゃん。後者2つはかなり特殊なケースにゃん」
「依頼を強制されることがあるのか?」
「町を壊滅させる可能性があるような災害級と呼ばれる魔物が出た場合に発動されるにゃん。いざとなったら人々を守るのも冒険者の本質にゃん」

 そういうことならわからなくもないなと納得する。思えばゲームでも範囲内にいるプレイヤー全員に送られる強制クエストも存在した。それと似たようなものだろう。

「特殊ケースのもう一つの指名依頼は、ギルドから直接という場合と依頼者から指名されるケースがあるにゃん。こっちは強制じゃないけど、理由もなく断ると心象は悪いにゃん」

 逆に言えば正当な理由があればいいということか、と判断する。ただ、最初から無理と思われる指名依頼を出したり請けることはなく、内容的に微妙な場合は要相談としてくれるようだ。
 
「あとは、そうにゃん。ギルドカードは初回発行手数料は無料にゃん。でも再発行の場合は手数料として5000ゴルドもらうにゃん。バカバカしいから無くすなにゃん。ここまでで大体話したにゃん。何か質問あるかにゃん? ちなみにニャムの名前はニャムにゃん」
 
 聞いてもいないが名前を教えてもらった。自分を指すときも名前なようだ。

「さっき冒険者を意味もなく殺傷してはいけないとあったけど、相手に襲われたときに反撃して殺してしまった場合などは大丈夫なのか?」

 メリッサには聞いていたが念の為確認を取る。

「いきなり物騒な質問にゃん。でもそういう場合は正当防衛が認められるにゃん。でも、何かあったにゃん?」
「あぁ、実は――」
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