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第二章 サムジャともふもふ編

第79話 サムジャと蛇使い

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 奴は俺に毒が通じない事を知らない。迂闊に近づいてきた今がチャンスだった。

「居合忍法――」
「ヴェム! 奴に近づくな! そいつには毒が効かない! 忘れたのか!」

 忍法を発動しようとしたその時、ルンと戦っているマジルの警告が飛んだ。

 ハッとした様子を見せるヴェム。くそ、だがその位置でも当たる!

「居合忍法・抜刀風牙!」
 
 刀を抜くと同時に狼を模した風がヴェムに襲いかかった。

「蛇腹の盾!」

 だが、ヴェムは渦を巻くように無数の蛇を絡み合わせ盾にして俺の忍法を防いだ。

 この蛇使い、防御も固い――

「ふぅ、あぶねぇあぶねぇ。そうだったそうだった。お前の持っている刀。数珠丸だったか? それがある限り毒は通じないんだったな」
「……これを知っていたか――」

 ギルド長ですらこの刀について知らなかったんだがな。コイツらは別なようだ。

「だが、おかげでもう一つの目的も思い出せたがな」
「もう一つの目的?」
 
 俺がそう問うと、ヴェムの袖からまた蛇が伸びてきた。さっきよりも数が多い。伸長した蛇が時間差で噛みつきにかかってくる。

「シャァアアアァアアア!」
「チッ――」

 タイミングを合わせて居合で何匹か切り裂いた。千切れた蛇が地面でビタンビタンっとのたうち回っている。

「蛇にだって命はあるんだぜ? 酷い奴だ」
「そう思うなら武器として使うな」
「なるほどこれは一本取られたな」
 
 ……何か? 今何か妙な違和感を覚えた。俺は辺りに意識を集中させる。この感覚、下か!

「キシャァアアァアア!」

 地面から飛び出た蛇が俺の目の前を通り過ぎていった。こいつの蛇は地面に潜ることも出来るのか。

 だがそれ以前に今の軌道は俺を狙ったものじゃなかった。むしろ俺の手元――

「チッ、惜しいな」
「狙いはこれか――」

 数珠丸恒次――今の蛇は間違いなくこれを狙っていた。奴らはこの刀の効果を知っている。そして俺がこれを失えば当然毒への耐性もなくなってしまう。

 つまり奴らは俺からこれを奪い、戦いを有利に進めたがっている?

 いや、違う。奴は目的がもう一つあるような事を言っていた。その直後にこれを狙っている以上、この数珠丸を奪うことも目的の一つなのだろう。

 思考を巡らす。奴の目的がこの刀であることもわかった。俺を殺すという目的と刀を奪うという目的――そのどれも達成させるわけにはいかないな。

 刀を失えば俺は居合忍法も使えなくなる。このクラスの相手が土錬金で刀を造るのを待ってくれるとも思えないしな。

 その時、地面から更に何匹かの蛇が飛び出してきた。今度は俺を直接狙ってくるのと刀を狙ってくるので分かれている。

「居合忍法・抜刀旋風!」
 
 蛇の猛攻を避けながら、居合忍法で発生した風が蛇たちを切り裂いた。

「居合忍法・影分身!」

 そして分身を三体生み出し、ヴェムに攻撃を仕掛ける。

「分身と来たか! そんなものまで出来るとはな!」
「その余裕がどこまで続くかな? 居合忍法・抜刀鎌鼬燕返し!」

 燕返し分も含めて二つの鎌鼬、しかも分身分もそれに加わり合計八発の鎌鼬だ。

「蛇腹の盾!」

 ヴェムが蛇を盾にして鎌鼬を受け止める。だが、盾は全て切り裂かれた。さっききまでの攻撃でわかったが蛇は切断系にそこまで強くはない。

 一発二発は耐えられても纏めてくる八発の鎌鼬には耐えきれなかったわけだ。

 守る壁がなくなったタイミングで俺たちは一気に距離を詰め、構えをとった。

「居合忍法・抜刀影分身燕返し!」

 影分身で生み出した十二の斬撃、燕返し分も含めると二十四な上、分身も合わさって九十六の斬撃が雨のようにヴェムに降り注ぐ。

「ぐぅぅうう! 糞がぁああ!」

 蛇を鎧代わりにもしていたようだが、流石にこの量の斬撃は受けきれなかったようだな。大きく吹き飛ばされ地面を転がった。

 カランっと仮面が外れ地面に転がった。今の斬撃の衝撃で外れたか。

「チッ、仮面が――」

 起き上がったそいつの顔は、まさに蛇のようだった。爬虫類を思わせる瞳がいっそ不気味にも感じられる。

「はは、なるほど。流石に要注意人物とされるだけあるな」
「一体どこの情報なんだ?」

 純粋に気になったから聞いてみたが、ヴェムは鼻を鳴らし。

「そんなもん教えるわけねーだろ。さて、仮面も外れたことだし――グ、ググウウウェエエエエェエエェエエエエ!」

 突如ヴェムが胸を押さえ苦しげな呻き声を上げた。その直後奴の口が大きく開き中から飛び出た大蛇が俺に向けて突き進んできた――
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