上 下
69 / 125
第二章 サムジャともふもふ編

第68話 サムジャと迷推理

しおりを挟む
 ハデルはどうやら俺が真犯人であることを証明出来るらしい。犯人でない以上、ハデルの言っている意味はさっぱり理解できないのだが。

「一体、俺のどこに犯人の要素があるというんだ?」
「アンッ! アンッ!」

 とはいえ、念の為に聞き返してみた。パピィも聞かせてみろ! と訴えんばかりに吠えている。

「ふふ、お前は確かに今言ったはずだ。隠し通路があったと。だが、だとしてそれがお前だけに見つけられたというのが先ずおかしい」
「報告ではそもそもシノは、一緒に向かった冒険者パーティーに騙された結果、隠し通路の先に行くことになったとあり、シノより先に騙した連中が隠し通路を使って移動してるんだが?」
「……」

 オルサの指摘でハデルが間違いないと言っていた推理は早くも暗礁に乗り上げてしまったようだ。

「……そんなもの嘘に決まってるだろう」
「ギルドカードが回収されてるので、嘘ではありませんよ」

 呆れ顔でシエロが言う。ハデルの隣で聞いていたダミールでさえ、おいおい大丈夫か? という顔をしているぞ。

「……コホン」

 するとハデルが一旦咳きし、そしてにこやかな顔を俺に向けてきたが、すぐに表情を変え叫び声を上げた。

「とにかく! 貴様がその呪われた妖刀を持っていることが何よりの証拠だと言っておるのだ!」
「前提覆してとんでもない暴論に切り替えたわよこいつ!」

 ルンが声を張り上げる。それはそうだろう。この男さっきから言っていることが支離滅裂すぎる。

「いいか? サムジャなんてものは本来弱い使えない最低の天職だ。しかし、その妖刀の力によって奴はとんでもない力を手にいれた。これが真相だ! おぞましきは妖刀によって狂化し、夜な夜な人の血を求めて出歩く殺人鬼になってしまったことだ!」
「あんたそれで本当に話が通じると思っているのか?」

 オルサが心底呆れたような半目でハデルに問う。しかしこの期に及んでハデルは未だ強気な姿勢を崩していなかった。

「ならば逆に問おう。その妖刀が呪われていないと証明できるか?」
「そんなもの鑑定させれば一発で……」
「馬鹿め。強力な妖刀は鑑定だけでは一見わからぬものよ。鑑定結果が出たからと言ってそれが妖刀ではないなどと言い切れぬわ」

 ハデルがほくそ笑む。いや、そんなことを言い出したらどんな答えも意味を成さないだろう。

「だったらどうしろと言うんだテメェは」
「今の暴言は聞かなかったことにしてやろう。その上で提案だ。妖刀が本物かどうかは教会のやり方で知ることが出来る。そういったものは寧ろ教会が専門だ。そのうえでシノの身柄は一旦こちらで預かる。疑わしい以上それもやむなしだろう」
「うむ、確かにな」

 ダミールが頷く。何が確かにだ。

「勿論調べがついてその刀が偽物だとわかればどちらも解放してやろう」
「おお! それは良い手だ! 間違いがないな!」

 それのどこがいい手なんだ。どう転んでも俺にとってプラスになることがない。

「ふざけるな。そんな提案受けられるわけ無いだろう。言っておくが俺はお前のことを一切信用してないからな」
「それは教会を信用してないと言っているに等しい。普段教会の世話に散々なっておいて、なんとも愚かな判断だと思われますがな」
「教会を信用してないんじゃなくてお前らを信用してないんだよ。あとお前が来てからさっぱり世話になんてなってねぇよ」
「そうよ! さっきから聞いていれば勝手なことばかり言ってさ!」
「私も同意です。今の話だとシノの刀が呪われているかそうでないかの判断は貴方の胸一つで決まるってことではないですか」
「ガウガウ!」

 三人とパピィから総バッシングを受けるハデルだ。何か俺のためにそこまで言ってくれるとはありがたいが俺もこのままとはいかないな。

「俺の刀は妖刀ではない。天下五剣に数えられる数珠丸恒次じゅずまるつねつぐだ。鑑定でも出てくるだろうし、それでも信用できないなら先ず文献でも当たって調べて見るんだな。そうすればきっと嫌でもわかるだろう」

 誰に言ってもピンッとは来ないようだが、過去には刀の情報が載った書物もあったものだ。ならば探せばまったくないということはないだろう。

「質問の答えになってないぞ。私はその刀が呪われてないことを証明しろと言ったのだ。鑑定などという曖昧なものではなくな」
 
 鑑定が曖昧とか、またとんでもないことを言い出したな。

「さぁどうした言えないのか?」
「そうだ言ってみろ。本当に呪われていないというなら、その根拠を!」
「さぁ!」
「さぁ!」
「さぁさぁ!」
「さぁ!」
「さぁ!」
「さぁ! どうした言ってみろ!」

 ハデルとダミールが詰め寄ってきて俺に根拠を示せと言ってきた。鑑定を信じずそれ以外の方法とか、また妙なことを……いや待てよ?

「オルサ。妙なことを聞くけど、今毒はあるか?」
「は? ど、毒?」
「そうだ。毒薬でも毒草でもいいんだが」
「そう言われても、いや。確かそうだ、薬草と間違えて持ってきたっていうのが確か――」

 オルサがギルドのカウンターをごそごそと探し始めた。
 
「おお、あったあった。これはドクニマミレ草だ。しかしかなり強力な毒だぞ? 間違って口にしたら先ず死ぬ」
「それならちょうどよい」
「ふん。何だ貴様はそんなもので一体どうするつもりだ? はは、見たかハデル。この男遂に頭がおかしく、ハデル?」

 ダミールが俺を笑い飛ばすが、一方ハデルは額に汗を滲ませている。表情からも余裕が消えているが、とにかく俺はオルサから受け取ったそれを、もぐもぐと食べた。

「は、はぁあああ! お、お前何やってんだ馬鹿!」
「ちょ、シノ死んじゃうわよ!」
「吐きなさいシノ! 今すぐ!」

 するとオルサとシエロとルンが駆け寄ってきて慌てだした。ルンは俺の背中を叩いてきてる。

「心配しなくて大丈夫だ。俺は毒が効かないからな。この数珠丸恒次の効果で」
「え? そうなのか? いや、確かに平気そうだな」
「あぁ、旨くはなかったが問題ない」
「毒草だし、そりゃ美味しくはないだろうけど……」
「でも、凄いわね。その刀、ん? ちょっと待ってよそれって!」

 シエロがピンっと来た顔を見せる。流石察しがいいな。

「ああ、そういうことだ。これでわかってくれたか? この刀は妖刀どころか俺を毒や病気から守ってくれる素晴らしい業物だ。疑う余地もないと思うが?」
「う、ぐぐぐうぅうぅうううう!」

 俺がハデルに妖刀ではないことを証明してみせると、ハデルが苦虫を噛み潰したような顔で唸り声を上げた。

「お、おいハデル! どうした、何か、何か言い返してみ――」
「あなた達、一体何を勝手な真似をしているのですか!」

 ダミールも随分と慌てているが、そこに今度は快活な女の子の声がギルドに響き渡る。

 見てみると入口近くにドレス姿の少女とメイド姿の女性が立っていた。

「な! ミレイユ、それにメイシル――何でこんなところに!」

 そして二人に目を向けたダミールもまた、苦々しそうな表情に変わった。どうやら、この男もよく知っている二人なようだが――
しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

異世界営生物語

田島久護
ファンタジー
相良仁は高卒でおもちゃ会社に就職し営業部一筋一五年。 ある日出勤すべく向かっていた途中で事故に遭う。 目覚めた先の森から始まる異世界生活。 戸惑いながらも仁は異世界で生き延びる為に営生していきます。 出会う人々と絆を紡いでいく幸せへの物語。

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

ワンダラーズ 無銘放浪伝

旗戦士
ファンタジー
剣と魔法、機械が共存する世界"プロメセティア"。 創国歴という和平が保証されたこの時代に、一人の侍が銀髪の少女と共に旅を続けていた。 彼は少女と共に世界を周り、やがて世界の命運を懸けた戦いに身を投じていく。 これは、全てを捨てた男がすべてを取り戻す物語。 -小説家になろう様でも掲載させて頂きます。

とある中年男性の転生冒険記

うしのまるやき
ファンタジー
中年男性である郡元康(こおりもとやす)は、目が覚めたら見慣れない景色だったことに驚いていたところに、アマデウスと名乗る神が現れ、原因不明で死んでしまったと告げられたが、本人はあっさりと受け入れる。アマデウスの管理する世界はいわゆる定番のファンタジーあふれる世界だった。ひそかに持っていた厨二病の心をくすぐってしまい本人は転生に乗り気に。彼はその世界を楽しもうと期待に胸を膨らませていた。

ダンジョン発生から20年。いきなり玄関の前でゴブリンに遭遇してフリーズ中←今ココ

高遠まもる
ファンタジー
カクヨム、なろうにも掲載中。 タイトルまんまの状況から始まる現代ファンタジーです。 ダンジョンが有る状況に慣れてしまった現代社会にある日、異変が……。 本編完結済み。 外伝、後日譚はカクヨムに載せていく予定です。

半分異世界

月野槐樹
ファンタジー
関東圏で学生が行方不明になる事件が次々にしていた。それは異世界召還によるものだった。 ネットでも「神隠しか」「異世界召還か」と噂が飛び交うのを見て、異世界に思いを馳せる少年、圭。 いつか異世界に行った時の為にとせっせと準備をして「異世界ガイドノート」なるものまで作成していた圭。従兄弟の瑛太はそんな圭の様子をちょっと心配しながらも充実した学生生活を送っていた。 そんなある日、ついに異世界の扉が彼らの前に開かれた。 「異世界ガイドノート」と一緒に旅する異世界

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...