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第1話 四天王最弱の俺、日本に移住する

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 かつて俺は魔王軍に所属する四天王の一人だった。もっとも四天王と言っても四天王カーストで言えば一番下で能力的にもだいぶ落ちていたんだけどな。

 それでも日々魔王軍の為に頑張っていたつもりだが魔王様も他の四天王も俺に冷たかった。

『全くお前は本当に無能だな。他に候補が出てくれば貴様などすぐに替えるというのに』
『貴方のような無能が同じ四天王だなんてね。同類と思われるだけで吐き気がしますよ。あ~嫌だ嫌だ』
『本当あんた、馬鹿にされてばっかりで悔しくないわけ? そんなだから駄目なのよ。仕方ないから私があんたを、こき使ってやるんだから黙って従いなさい!』
『ギャハハ、お前ダッサ! お前ダッサ!』

 まぁこんな感じで仲間は勿論下の連中からも信用がなく陰口を叩かれていた。

 それでも俺なりに努力したが――あの日、俺の城に冒険者がやってきて、何と俺を残して部下が全員城から逃げ出してしまい結局俺はやってきた冒険者に追い詰められ倒された、かに思えた。
 
 だが気づけば俺は地球という星に飛ばされていた。俺がいたのは地球の日本という国だった。

 正直最初はかなり戸惑った。言葉は通じないし右も左も分からない。場所によっては不審者にだって間違われた。

 どうしようかと頭を抱えて彷徨っている時、俺は柄の悪い連中に絡まれている爺さんを見かけた。

 異世界でも盗賊に絡まれる現場を見たこともあり、それを思い出しついおせっかいを焼いてしまった。

 連中は異世界の言語で話しかける俺を見て外国人と判断したのか、小馬鹿にしながら襲いかかってきたが、全く大したことがなかったので軽くのしてやる事ができた。

 幸いは弱すぎて命を奪うまでにいかなかったことだ。今思えば本当に良かった。こっちでは安易に人を殺すと犯罪者として捕まるからな。

 助けた爺さんは俺にお礼を言いつつ色々話しかけてきた。言葉がわからないと知るとジェスチャーを交えたり絵にしてくれたりで意思疎通を図ってくれた。
 
 爺さんは絵も上手かったのであの時は本当に助かった。それをキッカケに俺はこの世界について色々わかるようになってきた。

 爺さんはお礼のつもりだったのだろう。俺を家に連れて行ってくれて行く宛がないなら暫くここで暮らすといいと言ってくれた。

 魔王軍で冷遇されていた俺にはその優しさが嬉しかった。本当に涙が出るほどにな。

 爺さんの家には本も沢山あった。それを読むことで日本語も勉強した。発音などは爺さんが教えてくれた。

 俺はもともと本や学習は嫌いではなかった。爺さんの教え方もよかったのかもだが、一ヶ月もすればそこそこ会話が成立するぐらいには成長していた。

 その過程でこの世界と俺たちの暮らしていた世界の違いもわかった。大きな違いはやはりこっちには魔法が浸透していないってことだろうか。

 一応は物語の中で使われたり、伝説的な記録として魔法使いがいたみたいな表現はあるものの一般的にはあくまで想像上の力でしか無いと思われている。

 その為かこっちでは科学というものがやたら発展している。俺も道で鉄の獣みたいなのが走り回っていて最初は驚いた。勿論今はそれが自動車だと認識している。

 いつでもどこかで撮影している映像が流れてくるテレビや世界中の人間と繋がり情報を共有できるインターネットの存在。
 
 遠くの相手とも会話ができる携帯端末スマフォにも最初は驚いたものだ。

 ま、今はどれも使いこなしているけどな。俺もすっかりこの世界での生活に慣れたものだ。

 さて、実は俺がこの世界の知識を知り始めたあたりから俺は爺さんが経営しているリサイクルショップを手伝うようになっていた。

 正式に社員として働くようになったのは更にそれから一ヶ月ほど過ぎた後だ。

 本当は戸籍とか色々あったのだが、俺をわけありと察してくれた爺さんはそのあたりも上手くやってくれた。

 これまで戸籍がなかったことにし、俺と養子縁組することで戸籍が手に入り瀬和という性も手に入れた。

 ちなみに俺は元々はアストラという名だったが日本名で通じやすいようアストと伝えていた。

 その結果こっちの世界では瀬和せわ 飛斗あすととして生きていくことになった。

 後から知ったがどうやら俺は言語こそ異世界の言葉だったが髪や目の色は日本人に近かったようだ。

 思い返してみると魔王軍でも容姿という面ではどことなく浮いていた気がしたな。

 まぁそれはそれとして、こうして無事俺は魔王軍とはおさらばして日本での暮らしを満喫している。

 リサイクルショップは住み込みで働かせてもらってるのも大きい。爺さんがオーナーをしているアパートが近くにありその一つを貸してくれたのだ。
 
 家賃や水道光熱費は一定の金額を毎月の給料から天引きしてくれる形にしてもらってるいるのもポイント高い。

 そして元の世界と違いこっちの世界は平和だ。犯罪なども含め危険なことが全くない訳では無いが、元の世界のように魔物が跋扈していることもなく、俺を倒そうと躍起になって攻め込んでくる冒険者もいない。

 何よりあの容赦ない魔王がいない。俺がいた世界の魔王はこっちの世界でいえば会社の代表取締役みたいなものだ。しかもブラックな方の。

 俺は、ただでさえ実力が伴ってないのだからと書類面での仕事は周りから随分と押し付けられていた。

 今思えばよく俺もこなしていたなと思う。休みもなくほぼ一日中働く日々をずっと続けていたのだから。

 それに比べたらこっちは天国だ。リサイクルショップの仕事もシフト制であり一日の業務時間は八時間で途中休憩もある。

 社長でもある爺さんはそのあたりのことはしっかりしているからな。休みも週に二日は確実にくれるし。

 正直俺はもうこの世界で骨を埋める覚悟でもある。この平和な日常を知ったら殺伐とした元の世界になんて戻れないってマジで。

 そう思って毎日を過ごしていたわけだが――俺が日本で暮らし始めてから三年目のある日、ふと妙に懐かしさの覚える気配を感じた。

 ただそれはこっちの世界ではあってはならないものだった。なので仕事終わり俺はそれが何か確認することにした。

「誰も見てないな? よし風魔法フライト――」

 誰もいないことを確認してから俺は魔法を使って空を飛んだ。この世界では魔法は一般的ではないがそれでも俺は使うことが出来た。

 元いた世界とは異なる点も多いが、それでも例えば魔力に近い霊力があったりまた気という概念も存在した。元の世界でもスタータスに気力というのがあったけどな。

 まぁこれらも基本フィクションで使われることがメインの要素だったが、俺はそれを実際に感じ取る事が出来た。
  
 だからそれを利用することで俺は魔法を行使できている。霊力は近いと言うだけで魔力と全く同じではないから最初は苦労したが、こっちの世界で過ごすうちに体が順応したようで今は霊力を魔力に変換し蓄えておくことが出来る。

 今俺が魔法を行使出来ているのもそのおかげだ。さてそんなことを考えているうちに俺は懐かしい気配を覚えた山までたどり着いた。

 魔法を解き下りてみるとこの世界には似つかわしくない不穏な物が口を開けて鎮座していた。

 それは――迷宮ダンジョンだった。そう本来存在しない筈のダンジョンがこっちの世界にも出現していたのである――
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