buddy ~絆の物語~

AYANO

文字の大きさ
上 下
103 / 117
大人編

102.重大発表

しおりを挟む
11月に入る直前。
GEMSTONEから、buddyに関する重大発表がされた。

僚と明日香の結婚、深尋、隼斗、竣亮もそれぞれ一般の人との結婚が決まったというものだった。

人気絶頂期のグループメンバーのほぼ全員の結婚発表ということで、朝から芸能ニュースはこの話題で持ちきりだった。

世間の反応も様々で、祝福する人、落胆する人、裏切りだという人、それでも変わらず応援する人と分かれており、僚と明日香の熱愛報道の時ほど、バッシングの声も大きくなく、男4人の作戦が見事成功した形になった。

その発表と同時に、誠に第一子が誕生していたことも発表されたが、性別などは公表しなかった。

そしてこの話は市木、木南、芽衣が働く病院でも大きな話題となり、特に木南は、以前から深尋との交際を噂されていたのもあって、院内の職員から好奇の目に晒されていた。でも、本人はそれを全く気にしていないので、それが逆に清々しさを感じさせていた。

一方芽衣は、12月25日のクリスマスに入籍する予定で、それを上司である病棟の師長にいつ言おうか悩んでいた。

結婚発表はしたものの、入籍日は全員バラバラで、結婚式は10周年のツアーが終わってからすることにしていた。

その中でも一番最初に入籍したのは、意外にも竣亮と葉月だった。

竣亮は長期休暇中に、葉月の実家がある長野に行き、結婚の承諾を貰った。
そして帰ってくるなり、その足で婚姻届けを提出していた。
その理由を竣亮曰く、
「葉月さんに考える時間を与えると、やっぱりやめたいって言いかねないから、ご両親に挨拶をしたあと、婚姻届けの証人欄を書いてもらったんだ。外堀を埋めていかないと、あの人すぐ逃げようとするから......」
だそうだ。
そのあまりの手際の良さに、さすがの葉月も何も言えなかったらしい。

そしてその策士ぶりに、竣亮以外の5人も驚いていた。
「竣亮のこと子供の時から知ってるけど、こんなことする奴だったか.....?」
「たまに小悪魔的なところはあったけど、でもここまでするとは.....」
「完全に葉月さんの影響だね」
「竣も必死なんだな」
「あいつ、胃袋掴んだのに逃げられそうって、不憫だな」
などと、相変わらず好き勝手言ってる。まあ、長い付き合いだからこそ、こんなことも言い合えるのだが......。

そのあと、僚と明日香、深尋と木南と続き、最後に隼斗と芽衣が無事入籍を済ませた。

その年の年末。buddyは久しぶりに年末の歌番組に生出演することになり、テレビ局に来ていた。

これまでも歌番組に出演することはあったが、ほとんどが収録での出演だったため、生出演すること自体がめずらしく、6人とも緊張していた。

そしてここでも、男女で楽屋は別れていたが、明日香と深尋は、男子の楽屋でほとんど過ごしていた。

コンコンコンッ。6人で楽屋で好き勝手に過ごしていると、扉がノックされ入ってきたのは、事務所の先輩の女性3人組ユニットRainだった。

「やっほーっ。みんな久しぶりー」
「あんたたち、相変わらずみんなでいるのね?」

突然の訪問客に驚いた6人は、全員で扉の方を見る。

「ナツミさん、ユイさん、ハルさん、Rainも今日出演ですか?」
「そうだよー。それよりみんな、結婚おめでとー」
「わたしたちより先に結婚するとか、信じらんなーい!」
「ちょっとくらい、その幸せ分けなさいよ」
「ははは.....ありがとうございます」

Rainは練習生として入所する前から、6人のことをよく知っている唯一の先輩で、何かあるたびにこうして声を掛けてくれる優しい先輩だ。

それから軽く話していると、Rainはリハーサルだと言って呼ばれていった。

「あの人達も相変わらずだな」
「ほんと、わたしたちのこと言えないよね」

1時間後、今度はADさんが楽屋に入ってきて、リハーサルのためスタジオへ行くことになった。

「うぅ.....生放送とかって、緊張するよ......」
「とりあえず、外さないようにな」

みんなでしゃべりながらスタジオへ向かって歩いていると、その道中、見たことのあるアイドルの子たちとすれ違う。
すると、その団体が全員一斉に、
「おはようございます!」
「おつかれさまです!」
などと言ってくるので、6人はそれに気圧されてしまう。

「あははっ.....どーもー......」
「はい、お疲れ、お疲れー」
と、適当に隼斗と誠が返すと、今度は「きゃあ!」とか「こっち見た!」
とか言って騒ぎ始めたため、近くにいた関係者の大人たちに怒られていた。

やはりbuddyの6人が歌番組に生出演するとあって、他の同業者も生の6人を見たいと話している人が多いようだ。

buddyの6人は、芸能人の友達や知り合いがほとんどいない。気軽に話せるのは、先ほど楽屋に来ていたRainの3人くらいだ。

以前市木にも、
「お前らさ、俺らとばっかつるんでるけど、芸能人の友達とかいないの?」
と、聞かれたことがある。
言われてみれば、デビュー当時は姿を見せていなかったから、この業界の人達との交流はほとんどゼロだったが、顔を公表して以降もそれは変わらなかった。

でも、それでなにか不便を感じたこともなければ、別に無理して作りたいとも思わなかった。
逆に、悪い噂ばかりが耳に入ってくるので、作らない方がいいとさえ思うほどだった。なにより、友達はすぐ目の前にいつもいたから、寂しさもなかった。

そんな、芸能人との関係が薄い6人とお近づきになりたい人も実は多いのだが、そこは最強のマネージャー集団が、上手くガードしてくれているようで、6人は変に芸能界に染まることなく、活動をしているという状況だった。

番組のスタッフも、buddyの出演部分の演出には気合が入っているようで、細かいところまで修正しながらリハーサルをしていると、やたらと見学者が多いことに気づく。

よく見ると、テレビで見たことのある歌手やメンズグループ、アイドルグループなど、結構な人数の人がbuddyのリハーサルの様子を見ていた。

「ライブとかコンサートで見られるのは慣れたけど、さすがにこれは......」
「生の歌番組のリハって、こんなに見学者が多いのかな?」

僚と明日香が不思議に思って話していると、上機嫌な顔をしたディレクターが、2人の話を聞いて割り込んできた。

「なに言ってるんですか!いま何かと話題のbuddyが、生放送の歌番組に出演するんですから、そりゃみなさん気になりますよー。逆に何も気にしていないのは、あなた方くらいのもんですよ」
「え.......?そうなんですか........?」
「そうですよ!先日のメンバー5人の結婚発表もそうですし、そのルックスと人気、そしてなにより、普段テレビに生出演されないことでも有名なので、同業者の方が気にするのは当然でしょう」

ディレクターはこんこんと説明するが、6人にとってはどうでもいいことだった。とりあえず、早く終わって家に......ではなく楽屋に帰りたかった。

今回buddyが披露する曲は、1年前の誠の結婚式の際に6人で披露した、『Summer Story』と、最新曲『Diamond』の2曲だ。

『Summer Story』は、6人が余興として披露した動画がSNSで広がると、その後の音楽配信ダウンロード数がぐんっと伸びて、最近では結婚式に使われることが増えてきているようだ。

振り付けも可愛いので、それも人気になった理由の1つだろう。
buddyの6人中、5人が結婚を発表したこともあっての選曲だった。

最新曲の『Diamond』は、デビュー10周年記念としてのシングルなので、その宣伝を兼ねての選曲だ。

これまでの中でも一番難しい曲なので、ずっと練習を積み重ねて仕上げたとはいえ、生放送で失敗が許されないこともあり、6人はライブとは別の緊張感に包まれていた。

無事にリハーサルを終え、いざ本番。
1曲目の爽やかな可愛らしい曲調から一変して、激しく熱を持った曲調に変わると、スタジオにも緊張が走る。

しかし、歌っているうちに楽しくなってきた6人は、あんなに難しいと言っていたこの曲を難なく歌いこなしていた。
また、息の合ったダンスも相まって、全国にbuddyの存在感を思う存分見せつけた。

歌い終わった後には、よほど楽しかったのか、6人とも息が上がっているにもかかわらず、カメラに向かって笑顔を振りまき、無事に本番が終わった。

その中でもう一つ話題になったのが、6人全員の左手の薬指に、結婚指輪が光っていたことだった。
これもすぐにSNSで発信され、大きな話題になっていた。

「おいおい、かっこよすぎないか?こいつら.......」
「本当にね。この先心配だよ」
市木の家で音楽番組を一緒に見ていた木南は、深尋が帰ってきたら今年一番褒めてあげようと思った。

~.・☆・.~.・☆・.~

その約半年後。
6月から始まった、デビュー10周年記念5大ドームツアーはチケットは全日程即日完売。ツアーも大成功を収め、buddyの人気も実力も不動のものとなっていった。ツアーの観客動員数はこれまでで最も多い、35万人を記録した。

9月も中旬を過ぎた頃。
いつものメンバーの11人は、buddyのツアー終了後の長期休暇に合わせて、あのキッシュの美味しいお店に集まっていた。
市木の引越しの時に集まって以来、約1年半ぶりに全員集合した。

もうすぐ1歳になる、誠と美里の息子の翼くんは、その後、なんの障害もなくすくすくと成長しており、いまは絶賛ハイハイ中だ。

明日香と深尋は、時間を見つけては誠の家に行き、翼くんを溺愛するということが続いていた。
2人が子供の世話をしている間に、美里は家事をこなせるので、美里的には助かっていたが、誠は息子との時間を奪われ、少々不機嫌になっていた。

そのせいもあり、
「お前たちも結婚したんだから、自分の子供を作ればいいだろ」
と、こんなデリケートなことを簡単に言う誠に対し、明日香と深尋が猛反論するということがあったりもした。

その翼くんは、今日は2人の祖母に任せて、美里も久しぶりに羽を伸ばしに来たのだった。

「まずは、ツアー完走お疲れさまー!かんぱーい!」
なぜか市木が主導権を握りグラスを掲げるが、まあいいかと全員で乾杯する。
全ツアー終了後にも、スタッフ全員で打ち上げをしたが、やっぱり気を許している仲間同士でやる方が楽でいい。

「葉山と明日香ちゃんさ、来月の披露宴の準備は進んでる?」
向かい側に座る市木に聞かれ、僚が返事をする。
「ああ。でも、大掛かりなものじゃなくて、簡単なパーティーだしな」
「そうそう。来るのは、家族以外にここにいるみんなと、事務所の人達と、Evan先生くらいだしね」

僚と明日香は、挙式はせず、披露宴という名の小さなパーティーをすることにした。
これは明日香の希望だったので、僚も仕方なくそれに同意した形だ。

「でもさ明日香ちゃん、ウェディングドレスとか、カラードレスとか着なくていいの?」
市木にそう聞かれて、明日香も正直に答える。

「そういうのは、前撮りでたくさん着せてもらったし、披露宴はあくまでも結婚しましたよっていう場だと思っているから、わたしはそこまでこだわらなかったの」
「そっかー。女性はみんな、ドレスを着た自分を、たくさんの人に見てもらいたいんだと思ってた.....」
「まだまだ修行が必要だな、市木」
「むぅっ.....番犬くんにだけは、絶対言われたくない言葉だねっ!」
ふんっと市木が隼斗にそっぽを向く。すると、話を聞いていた深尋が容赦ない言葉を浴びせる。

「わたしから言わせたら、2人ともまだまだ修行が必要だよ?女心がわかってないもん。ね?芽衣ちゃん」
深尋は芽衣から何を聞いたのか、そんなことを言う。
女性同士のつながりほど、恐ろしいものはない。

「そうだよ隼斗。いつまでも芽衣がそばにいると思ったら大間違いだからね」
「うぐっ........」
明日香まで隼斗に釘を刺してくる。
その様子を見て、芽衣はくすくす笑っていた。

「そういえば、市木のお嫁さん探しは進んでいるのか?」
「未来のな!でも俺はまだ、独身でいいや」
「というか、遊びたいだけだろ」
「葉山っ!奥様方の前でいらんことを言うなっ!」
その奥様方は、席を移動して5人で話に夢中になっていた。

「市木くんさ、もういい大人なんだから、真面目にお付き合いしなよ?」
「うぅ.......竣くんまで、そんなこと......」
「市木、子供はかわいいぞ」
「くっ.........」
「医者はモテるって豪語してたのにね?」
「...............」
みんなこんなこと言っているが、市木に幸せになってほしいのは事実だ。
なんだかんだいってもいい奴だし、憎めない男だ。気が付けば10年以上の付き合いになるし、そう思うのは自然なことだった。

こうして久しぶりにみんなで集まった楽しい時間は、あっという間に過ぎていった。


そして、この日から3年が経ち、buddyの6人は30歳になる年を迎えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

君から逃げる事を赦して下さい

鳴宮鶉子
恋愛
君から逃げる事を赦して下さい。

ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?

春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。 しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。 美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……? 2021.08.13

元カノと復縁する方法

なとみ
恋愛
「別れよっか」 同棲して1年ちょっとの榛名旭(はるな あさひ)に、ある日別れを告げられた無自覚男の瀬戸口颯(せとぐち そう)。 会社の同僚でもある二人の付き合いは、突然終わりを迎える。 自分の気持ちを振り返りながら、復縁に向けて頑張るお話。 表紙はまるぶち銀河様からの頂き物です。素敵です!

長い片思い

詩織
恋愛
大好きな上司が結婚。 もう私の想いは届かない。 だから私は…

処理中です...