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大人編
90. 結婚式 二次会
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いろんなことがありながらも、披露宴も無事に終了し、9人は控室に戻ってきた。
「すっごい良かったよねー」
「うん。花嫁でもないのに、まだ気持ちがフワフワしてるよ」
深尋と芽衣が興奮気味に話す中、明日香は女性3人に申し訳ない気持ちになっていた。
「なんか、ごめんね.....ブーケ、わたしが貰っちゃって.....」
美里から貰ったとはいえ、少し後ろめたい気持ちになる。
「何を言うの明日香さんっ。いまこのブーケを貰うのにふさわしいのは、あなたよっ!」
葉月が明日香の言葉を否定する。なんとも葉月らしい慰め方だ。
「葉月さんの言う通りだよ。ちゃんと幸せになるんだよ」
芽衣にも強く言われ、明日香も「うん。」と頷く。
そこへノックをして入ってきたのは元木と、buddyへ楽曲提供をしている音楽プロデューサーのEvanだった。
「やあみんな、今日もサイコーだったよ!」
Evanが入ってくるのを見て、深尋、隼斗、竣亮はヤバいと思った。さっきの話し、覚えていたんだな....と。
「さて深尋、さっきの約束覚えているよね?」
入るなり深尋を見つめて迫るEvan。
「うっ......」
深尋はEvanに言われて、しぶしぶ木南を連れてきた。
「彼が、深尋の彼氏?」
「はい......」
2人のやり取りを見て、木南は慌てて自己紹介する。
「初めまして。木南光太郎と言います」
「ふうん.....木南くんね。........深尋、いい男捕まえたな」
木南をじぃーーっと見た後にそんなこと言われても、深尋は全然嬉しくなかった。木南には目だけで「どういうこと?」と聞かれているような気がしたが、とりあえず後で説明することにした。
「あと、隼斗と竣亮は?」
元木もそうだが、このEvanもなかなかの曲者で、自分がこうと決めたことは絶対に曲げない人だ。だから、交際相手を見せろと言われれば、絶対に見せるまで帰らないことを知っていた。
なので隼斗も竣亮も、素直にその言葉に従う。
「芽衣、葉月さん」
隼斗が2人を呼んで、Evanに紹介する。
そしてここでもEvanはじぃーーっと2人を見つめ、なぜか突然、
「よしっ!決めたっ!」
と、大きな声を出す。
「Evanさん、どうしました?」
「元木くん、今度の新曲はウェディングソングに決まりね。誠の結婚式を見て、いまこの子たちを見て、ピーンッと閃いたよっ!そういうことで、また引きこもりになるからっ!よろしくっ!」
そう言い残すと、嵐のように去っていった。
「はは.....天才の考えることはわからんな」
「あの人、音楽が無かったら生活力ゼロだしね」
可愛い教え子たちからもこの言われようだ。とにもかくにも、今度の新曲はウェディングソングらしいので、その話を聞いていた市木たちには、しっかり口止めをした。
それから僚、明日香、隼斗、市木は二次会に行くためタクシーに乗り込んだ。
深尋は木南と一緒に帰ってしまった。木南は行っておいでと言ってくれたのだが、深尋がなぜか甘えん坊モードで、今日は帰ると言ったらしい。
お酒が得意でない竣亮も、遠慮すると言って葉月と自宅が近い芽衣と一緒に帰っていった。
「でも隼斗、本当に大丈夫なのか?突然参加して」
二次会には行かないと言っていた僚と明日香が、当日になって参加することになったので、その辺のことを幹事に確認したのか聞いてみる。
「大丈夫!心配すんなって。二次会の幹事は高校の同級生で、俺も知ってる奴だったからちゃんと聞いたよ」
隼斗がそう言うなら....ということで、僚も明日香も二次会へ行くこととなった。
会場は貸し切りのパーティーホールで、こういう結婚式の二次会や、会社の忘年会・新年会などに使われるそうだ。
なので、大画面のモニターや映像機器、カラオケにステージと、何でも揃っていた。
僚たちが会場に着いた頃には、大勢の人が集まっていて、受付に行くとホントに来た!という顔で出迎えてくれた。
「藤堂!マジで連れて来てるじゃん......」
隼斗の高校の同級生が、後ろにいる僚と明日香を見て言ってきた。
「なんだよ。そんな風にジロジロ見るな」
「だってさ.....藤堂明日香が目の前にいるんだぜ?」
「あ?お前、明日香は俺の姉ちゃんだってことわかってる?」
「うっ.....わかってるよ.....」
「その隣に僚がいるのもわかってる?」
「わかってるってっ!」
友人はブツブツ言いながら、4人分の受付と会費を集めていく。
「隼斗、これ俺と明日香の分」
僚がそばからお金を出してくるので、素直にそれを受け取る。こういうところでお金の遠慮をしていると、後々大変なことになったりするので、6人は昔からなんでもきっちり割り勘にしていた。
受付を済ませホールに入ると、案の定一斉に注目を浴びる。
披露宴会場よりせまいので、その視線は先ほどのものと違っていた。
隼斗が来るのは聞いていたが、そこに僚と明日香まで来たので、ホール中が色めき立つ。
「よお、二次会までありがとな」
披露宴の時とは違い、幾分カジュアルな衣装に着替えた誠が、4人の元へやってきた。
「誠、お疲れ」
「披露宴良かったよ」
「まこっちゃん、想像より人多いね」
市木がぐるっと見回すと、披露宴に来ていた友人よりも多い気がする。
「ああ、二次会から参加するって人も結構いたしな。竣亮と深尋は?」
2人がいないことに気づいた誠に、僚が説明すると「なるほどな」と、あっさり納得していた。
「とりあえずここは目立つし、飲み物とかつまめるものを取って座ろっか」
そう言って市木が先頭になり、一番奥のソファ席に行く。その移動もすべて目で追われていた。
ソファに落ち着いたのも束の間、今度は美里が4人の元へとやってきた。
「明日香、葉山くん、藤堂くん、市木くん、今日はありがとうね」
「美里も、遅くまでお疲れさま」
「美里ちゃん、ダンス良かったよ」
「やだっ、市木くん。恥ずかしいから言わないでっ」
まあ、人前でダンスを踊ったことのない美里にしたら、恥ずかしい以外何もないだろう。
「明日香、疲れているところ悪いんだけど、友達が明日香を紹介してほしいって言ってて.....」
「.........え?」
その言葉に、明日香はもちろん僚も「え?」となる。
「あっ、安心して葉山くんっ!友達って言っても、みんな女性で、高校の同級生なの。だから、ちょっとだけ明日香を借りてもいいかな......?」
美里は明日香の了承よりも、僚の了承を取りに来たようだった。
「ははっ、別にいいよ。明日香、行っといでよ」
「うん......じゃあ、これ預かっててくれる?」
明日香はそう言うと、披露宴の時に美里から貰ったブーケを僚に渡す。僚がそれを受け取ると、明日香は美里についていってしまった。
「葉山、顔に思いっきり心配って書いてるぞ」
「僚、大丈夫だよ。立花さんの友達に変な子はいないから」
市木と隼斗がなぜか慰めてくる。
そこへまた誠がやってきた。
「なんだ、こんなとこにいたのか」
「あんまり目立つのもなと思って来たんだけど、どこに行っても一緒だった」
市木がポリポリと頭を掻きながら言う。
「立花さんなら、明日香と一緒に友達のとこに行ったぞ」
「立花さんじゃない」
隼斗が美里のことを『立花さん』と呼ぶのに、誠がピシッと訂正する。
「あーーーっと.......美里.....さん?」
誠に恐る恐る尋ねると、コクンと首を縦に1回だけ下げる。ご納得いただけたようだ。
それから、スマホをいじっていた市木が、突然大きな声を出す。
「ねぇねぇ、これ見てっ!」
市木に見せられたのは、SNSの中に投稿されたもの。それは動画になっており、その場面は美里が明日香にブーケを渡している動画だった。
あの披露宴で撮影していた誰かが投稿したのだろう。
しかし驚くべきなのはそれだけではない。投稿からたった数時間で、その動画が瞬く間に拡散されていたのだ。
あの報道からまだ1週間も経っていない。なのに、またこんな形で注目を浴びてしまうと、明日香が傷つく。僚は直感でそう思ってしまった。
しかし、予想に反することを市木が言ってきた。
「なんかさ、みんなおめでとうって書いてるよ」
市木のその言葉をすぐに信じられなかった。数日前まで、口汚い言葉が並べられていたのに、そんな数日で変わるものかと。
「隼斗の作戦が上手くいったみたいだな、僚」
誠にそう言われて、僚は思い出す。
1週間前の会議室で、隼斗はこんなことを言ってきた。
「もうバレるもんはしょうがないんだから、誠が言うように世間に仲良しアピールしたらいいんだよ。隠そうとしておかしくなるなら、素直になった方が案外受け入れてくれるかもよ?SNSで拡散するとかさ」
そう、隼斗はSNSに対抗するには、SNSを使うしかないと考え、数人の友人に「結婚式でミニライブをするから、それをSNSに投稿してもいいよ」と伝えていた。
自分たちで投稿すると作為的なものを感じるが、そこに居た人たちが投稿するとそういうことを感じることなく、素直に受け取ってくれると思ったようだ。
最初に聞いたときは、そんな上手くいくわけないと思ってたが、実際には.....
「ほら、見て見ろよ葉山。お似合いとか、素敵とか、憧れるとかそんなんばっかだよ。それに否定的なことを書いている奴は、袋叩きにあってるぞ。嫉妬するなとか、モテない僻みだろとか」
市木は画面をスクロールしながら、その状況を事細かに説明してくる。
僚と明日香はあの報道以降、SNSやネットニュースなどを見ないようにしていた。1度見た時に、ありえない言葉が並んでいて、とてもショックだったからだ。
もちろん、そんな人ばかりじゃないことはわかっている。だけど、自分の目で見てしまったことが、世間の反応だと思ってしまうのも無理はなかった。
だけど、風向きが変わってくれるなら......そんな期待を寄せる自分がいるのも事実だった。
その頃明日香は、美里の女友達4人に囲まれていた。
「初めまして、藤堂明日香です.....」
その一言を言っただけなのに、
「いやぁ!かわいいーっ!」
「実物は半端ないね......化粧品は何を使っているのか教えてほしいわぁ」
「藤堂くんも整った顔してたし、さすが双子なだけある」
「どうしたら、そんな美人になれるの⁉」
予想もしてない反応に、明日香は困って美里を見る。
「ほら、みんな。明日香が困ってるから。ごめんね明日香、この人達、悪気はないから」
「う、うん.....」
明日香の周りにはいないタイプの人達ばかりだったので、最初こそ戸惑ったが、話してみると意外と楽しい人たちだということがわかった。
しばらくすると、会場の大画面のモニターでは、披露宴に参加できなかった人たちのために、披露宴会場で流した、誠と美里の生まれてから出会い、結婚までのあの映像が流れていた。ということは、また、あの恥ずかしい写真と下手なダンスの映像が流れるということだ。
そしてその反応は、披露宴会場よりも大きく、そして温かいものだった。
「この並んでシャーベット食べてる写真、サイコーだな。みんな小さいし」
市木は2回目だというのに、涙を流して笑っている。
僚と隼斗は、久しぶりに市木を殴ってやりたいと思った。
そして今度は、ウェディングプランナーが作成した、今日の披露宴のダイジェスト映像だった。いまは、こういうプランもあるらしい。
入場から始まり、元木の挨拶、友人たちによる余興、そしてbuddyのミニライブの映像になると、二次会からの参加者から、
「生で歌が聞けたのか!」「うらやましい!」
などの声が上がっていた。
そして、いまSNSで拡散されている、美里から明日香へブーケを渡す場面になると、シーンと静まり返り、その場にいた人たちは、固唾を飲んで見守っていた。
その映像が終わると、また大きな拍手が沸いた。
それが落ち着いたとき、明日香の隣にいる子が尋ねてきた。
「ねぇ、変なこと聞いてもいい?」
改めて何だろうと思いながら、明日香も返事をする。
「うん、なに?」
「葉山僚のどこが好き?」
その質問を聞いて、その場にいる人だけでなく、周りの人も聞き耳を立てる。
「どこって......」
うーん....と考えながら、明日香は過去のことをいろいろ思い出す。
小学校の時、中学校の時、高校の時、そして、大学入学して留学に行く前まで。とにかくいろんなことがあった。
市木の一言で、失恋したこともあった。自分の気持ちをずっと隠し続けた。
そのせいでたくさん泣いた。隼斗にも深尋にも、迷惑をかけた。
でも、明日香は迷うことなく答える。
「そうだね、僚は真面目で、優しくて、頼りがいのある頼もしいリーダーだけど......常にまっすぐで嘘をつかないところかな。そこが一番好き」
明日香のその答えを聞いて、友人たちも、周りで聞き耳を立てていた人たちも、そして美里までもが、なぜかポーっとなっている。
明日香はみんなの反応がいまいちなので、変なこと言ったかな?と焦ってしまった。
「て、てっきり、顔がタイプなのかと思ったら.....」
「まさかの答えで、思いっきり惚気られたね......」
明日香は正直、僚の顔なんて意識したことがない。笑顔にドキッとしたことは何度もあるが、僚の顔がタイプかと言われれば、それは違う気がする。
「たしかに、僚は昔からモテてたけど、顔は意識したことがないというか....僚よりかっこいい人なんて、まだいるでしょう?」
「!!!!」
その言葉に、今度は全員が驚愕する。
あの国宝級のイケメンをそんな風に言うのは、藤堂明日香ぐらいだろう。
「おい、もうそのくらいにしておけよ」
そう声を掛けてきたのは隼斗だった。そばには僚と誠と市木もいた。
「明日香、そろそろ帰ろうか」
僚がそう言って明日香に手を差し出すと、明日香もその手を自然に取る。
その一連の行動があまりにも美しすぎて、みんな呆然と見ていた。
「誠、美里さん、今日はもう帰るな」
「美里、今度またみんなでパーティーするから。あと、わたしは先に失礼しますね。みなさんはまだ楽しんでくださいね」
明日香が美里と、その友達に挨拶すると、4人ともぎこちなく手を振ってくれた。
「あ、それとさ、俺らは帰るけど、代わりにコイツ置いていくから、相手してあげて。一応医者だし、実家は金持ちだし、好物件だぞ」
隼斗はそう言って、女性たちの前に市木を差し出す。
すると市木の顔を見た女性たちは、一気にキュピーンっと目の色を変えた。
「あははは......ど~も~.......」
市木は女の子は大好きだが、肉食系は苦手だ。というよりも苦手になった。
大学時代、看護科のみなさんに散々な目にあわされたので、看護師とは絶対に付き合わないと心に決めた。
自分が医者だと知って、目の色を変える子もちょっと苦手。
新しい出会いがあればと思って来たものの、やっぱりそんな簡単に行くわけもなく、僚たちが帰って1時間もしないうちに、早々に帰ることにした。
明日香に恋したことによって高くなってしまった市木の理想は、今後どうなっていくのかまだ誰も知らない。
そして、その二次会のこともSNSに投稿され、いつの間にか2人はお似合いのカップルとして認知されていき、それを悪く言う人もいなくなった。
自宅に帰ってきた僚は、リビングで明日香がブーケを花瓶に移し替えているのを見て、後ろから抱きしめる。
「今日、本当に良かったね、結婚式」
「そうだな......」
僚は、二次会での明日香の話を聞いていた。
明日香は外見じゃなく、ちゃんと中身を見てくれた。それがとても嬉しかった。もし、外見が好きだと言われたら、100が99に減ったかもしれない。
だけど、今日のあの言葉で、100が1000にも10000にもなった。
そして今日、僚はある一つの決心をする。
明日香にプロポーズすることを。
「すっごい良かったよねー」
「うん。花嫁でもないのに、まだ気持ちがフワフワしてるよ」
深尋と芽衣が興奮気味に話す中、明日香は女性3人に申し訳ない気持ちになっていた。
「なんか、ごめんね.....ブーケ、わたしが貰っちゃって.....」
美里から貰ったとはいえ、少し後ろめたい気持ちになる。
「何を言うの明日香さんっ。いまこのブーケを貰うのにふさわしいのは、あなたよっ!」
葉月が明日香の言葉を否定する。なんとも葉月らしい慰め方だ。
「葉月さんの言う通りだよ。ちゃんと幸せになるんだよ」
芽衣にも強く言われ、明日香も「うん。」と頷く。
そこへノックをして入ってきたのは元木と、buddyへ楽曲提供をしている音楽プロデューサーのEvanだった。
「やあみんな、今日もサイコーだったよ!」
Evanが入ってくるのを見て、深尋、隼斗、竣亮はヤバいと思った。さっきの話し、覚えていたんだな....と。
「さて深尋、さっきの約束覚えているよね?」
入るなり深尋を見つめて迫るEvan。
「うっ......」
深尋はEvanに言われて、しぶしぶ木南を連れてきた。
「彼が、深尋の彼氏?」
「はい......」
2人のやり取りを見て、木南は慌てて自己紹介する。
「初めまして。木南光太郎と言います」
「ふうん.....木南くんね。........深尋、いい男捕まえたな」
木南をじぃーーっと見た後にそんなこと言われても、深尋は全然嬉しくなかった。木南には目だけで「どういうこと?」と聞かれているような気がしたが、とりあえず後で説明することにした。
「あと、隼斗と竣亮は?」
元木もそうだが、このEvanもなかなかの曲者で、自分がこうと決めたことは絶対に曲げない人だ。だから、交際相手を見せろと言われれば、絶対に見せるまで帰らないことを知っていた。
なので隼斗も竣亮も、素直にその言葉に従う。
「芽衣、葉月さん」
隼斗が2人を呼んで、Evanに紹介する。
そしてここでもEvanはじぃーーっと2人を見つめ、なぜか突然、
「よしっ!決めたっ!」
と、大きな声を出す。
「Evanさん、どうしました?」
「元木くん、今度の新曲はウェディングソングに決まりね。誠の結婚式を見て、いまこの子たちを見て、ピーンッと閃いたよっ!そういうことで、また引きこもりになるからっ!よろしくっ!」
そう言い残すと、嵐のように去っていった。
「はは.....天才の考えることはわからんな」
「あの人、音楽が無かったら生活力ゼロだしね」
可愛い教え子たちからもこの言われようだ。とにもかくにも、今度の新曲はウェディングソングらしいので、その話を聞いていた市木たちには、しっかり口止めをした。
それから僚、明日香、隼斗、市木は二次会に行くためタクシーに乗り込んだ。
深尋は木南と一緒に帰ってしまった。木南は行っておいでと言ってくれたのだが、深尋がなぜか甘えん坊モードで、今日は帰ると言ったらしい。
お酒が得意でない竣亮も、遠慮すると言って葉月と自宅が近い芽衣と一緒に帰っていった。
「でも隼斗、本当に大丈夫なのか?突然参加して」
二次会には行かないと言っていた僚と明日香が、当日になって参加することになったので、その辺のことを幹事に確認したのか聞いてみる。
「大丈夫!心配すんなって。二次会の幹事は高校の同級生で、俺も知ってる奴だったからちゃんと聞いたよ」
隼斗がそう言うなら....ということで、僚も明日香も二次会へ行くこととなった。
会場は貸し切りのパーティーホールで、こういう結婚式の二次会や、会社の忘年会・新年会などに使われるそうだ。
なので、大画面のモニターや映像機器、カラオケにステージと、何でも揃っていた。
僚たちが会場に着いた頃には、大勢の人が集まっていて、受付に行くとホントに来た!という顔で出迎えてくれた。
「藤堂!マジで連れて来てるじゃん......」
隼斗の高校の同級生が、後ろにいる僚と明日香を見て言ってきた。
「なんだよ。そんな風にジロジロ見るな」
「だってさ.....藤堂明日香が目の前にいるんだぜ?」
「あ?お前、明日香は俺の姉ちゃんだってことわかってる?」
「うっ.....わかってるよ.....」
「その隣に僚がいるのもわかってる?」
「わかってるってっ!」
友人はブツブツ言いながら、4人分の受付と会費を集めていく。
「隼斗、これ俺と明日香の分」
僚がそばからお金を出してくるので、素直にそれを受け取る。こういうところでお金の遠慮をしていると、後々大変なことになったりするので、6人は昔からなんでもきっちり割り勘にしていた。
受付を済ませホールに入ると、案の定一斉に注目を浴びる。
披露宴会場よりせまいので、その視線は先ほどのものと違っていた。
隼斗が来るのは聞いていたが、そこに僚と明日香まで来たので、ホール中が色めき立つ。
「よお、二次会までありがとな」
披露宴の時とは違い、幾分カジュアルな衣装に着替えた誠が、4人の元へやってきた。
「誠、お疲れ」
「披露宴良かったよ」
「まこっちゃん、想像より人多いね」
市木がぐるっと見回すと、披露宴に来ていた友人よりも多い気がする。
「ああ、二次会から参加するって人も結構いたしな。竣亮と深尋は?」
2人がいないことに気づいた誠に、僚が説明すると「なるほどな」と、あっさり納得していた。
「とりあえずここは目立つし、飲み物とかつまめるものを取って座ろっか」
そう言って市木が先頭になり、一番奥のソファ席に行く。その移動もすべて目で追われていた。
ソファに落ち着いたのも束の間、今度は美里が4人の元へとやってきた。
「明日香、葉山くん、藤堂くん、市木くん、今日はありがとうね」
「美里も、遅くまでお疲れさま」
「美里ちゃん、ダンス良かったよ」
「やだっ、市木くん。恥ずかしいから言わないでっ」
まあ、人前でダンスを踊ったことのない美里にしたら、恥ずかしい以外何もないだろう。
「明日香、疲れているところ悪いんだけど、友達が明日香を紹介してほしいって言ってて.....」
「.........え?」
その言葉に、明日香はもちろん僚も「え?」となる。
「あっ、安心して葉山くんっ!友達って言っても、みんな女性で、高校の同級生なの。だから、ちょっとだけ明日香を借りてもいいかな......?」
美里は明日香の了承よりも、僚の了承を取りに来たようだった。
「ははっ、別にいいよ。明日香、行っといでよ」
「うん......じゃあ、これ預かっててくれる?」
明日香はそう言うと、披露宴の時に美里から貰ったブーケを僚に渡す。僚がそれを受け取ると、明日香は美里についていってしまった。
「葉山、顔に思いっきり心配って書いてるぞ」
「僚、大丈夫だよ。立花さんの友達に変な子はいないから」
市木と隼斗がなぜか慰めてくる。
そこへまた誠がやってきた。
「なんだ、こんなとこにいたのか」
「あんまり目立つのもなと思って来たんだけど、どこに行っても一緒だった」
市木がポリポリと頭を掻きながら言う。
「立花さんなら、明日香と一緒に友達のとこに行ったぞ」
「立花さんじゃない」
隼斗が美里のことを『立花さん』と呼ぶのに、誠がピシッと訂正する。
「あーーーっと.......美里.....さん?」
誠に恐る恐る尋ねると、コクンと首を縦に1回だけ下げる。ご納得いただけたようだ。
それから、スマホをいじっていた市木が、突然大きな声を出す。
「ねぇねぇ、これ見てっ!」
市木に見せられたのは、SNSの中に投稿されたもの。それは動画になっており、その場面は美里が明日香にブーケを渡している動画だった。
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しかし驚くべきなのはそれだけではない。投稿からたった数時間で、その動画が瞬く間に拡散されていたのだ。
あの報道からまだ1週間も経っていない。なのに、またこんな形で注目を浴びてしまうと、明日香が傷つく。僚は直感でそう思ってしまった。
しかし、予想に反することを市木が言ってきた。
「なんかさ、みんなおめでとうって書いてるよ」
市木のその言葉をすぐに信じられなかった。数日前まで、口汚い言葉が並べられていたのに、そんな数日で変わるものかと。
「隼斗の作戦が上手くいったみたいだな、僚」
誠にそう言われて、僚は思い出す。
1週間前の会議室で、隼斗はこんなことを言ってきた。
「もうバレるもんはしょうがないんだから、誠が言うように世間に仲良しアピールしたらいいんだよ。隠そうとしておかしくなるなら、素直になった方が案外受け入れてくれるかもよ?SNSで拡散するとかさ」
そう、隼斗はSNSに対抗するには、SNSを使うしかないと考え、数人の友人に「結婚式でミニライブをするから、それをSNSに投稿してもいいよ」と伝えていた。
自分たちで投稿すると作為的なものを感じるが、そこに居た人たちが投稿するとそういうことを感じることなく、素直に受け取ってくれると思ったようだ。
最初に聞いたときは、そんな上手くいくわけないと思ってたが、実際には.....
「ほら、見て見ろよ葉山。お似合いとか、素敵とか、憧れるとかそんなんばっかだよ。それに否定的なことを書いている奴は、袋叩きにあってるぞ。嫉妬するなとか、モテない僻みだろとか」
市木は画面をスクロールしながら、その状況を事細かに説明してくる。
僚と明日香はあの報道以降、SNSやネットニュースなどを見ないようにしていた。1度見た時に、ありえない言葉が並んでいて、とてもショックだったからだ。
もちろん、そんな人ばかりじゃないことはわかっている。だけど、自分の目で見てしまったことが、世間の反応だと思ってしまうのも無理はなかった。
だけど、風向きが変わってくれるなら......そんな期待を寄せる自分がいるのも事実だった。
その頃明日香は、美里の女友達4人に囲まれていた。
「初めまして、藤堂明日香です.....」
その一言を言っただけなのに、
「いやぁ!かわいいーっ!」
「実物は半端ないね......化粧品は何を使っているのか教えてほしいわぁ」
「藤堂くんも整った顔してたし、さすが双子なだけある」
「どうしたら、そんな美人になれるの⁉」
予想もしてない反応に、明日香は困って美里を見る。
「ほら、みんな。明日香が困ってるから。ごめんね明日香、この人達、悪気はないから」
「う、うん.....」
明日香の周りにはいないタイプの人達ばかりだったので、最初こそ戸惑ったが、話してみると意外と楽しい人たちだということがわかった。
しばらくすると、会場の大画面のモニターでは、披露宴に参加できなかった人たちのために、披露宴会場で流した、誠と美里の生まれてから出会い、結婚までのあの映像が流れていた。ということは、また、あの恥ずかしい写真と下手なダンスの映像が流れるということだ。
そしてその反応は、披露宴会場よりも大きく、そして温かいものだった。
「この並んでシャーベット食べてる写真、サイコーだな。みんな小さいし」
市木は2回目だというのに、涙を流して笑っている。
僚と隼斗は、久しぶりに市木を殴ってやりたいと思った。
そして今度は、ウェディングプランナーが作成した、今日の披露宴のダイジェスト映像だった。いまは、こういうプランもあるらしい。
入場から始まり、元木の挨拶、友人たちによる余興、そしてbuddyのミニライブの映像になると、二次会からの参加者から、
「生で歌が聞けたのか!」「うらやましい!」
などの声が上がっていた。
そして、いまSNSで拡散されている、美里から明日香へブーケを渡す場面になると、シーンと静まり返り、その場にいた人たちは、固唾を飲んで見守っていた。
その映像が終わると、また大きな拍手が沸いた。
それが落ち着いたとき、明日香の隣にいる子が尋ねてきた。
「ねぇ、変なこと聞いてもいい?」
改めて何だろうと思いながら、明日香も返事をする。
「うん、なに?」
「葉山僚のどこが好き?」
その質問を聞いて、その場にいる人だけでなく、周りの人も聞き耳を立てる。
「どこって......」
うーん....と考えながら、明日香は過去のことをいろいろ思い出す。
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市木の一言で、失恋したこともあった。自分の気持ちをずっと隠し続けた。
そのせいでたくさん泣いた。隼斗にも深尋にも、迷惑をかけた。
でも、明日香は迷うことなく答える。
「そうだね、僚は真面目で、優しくて、頼りがいのある頼もしいリーダーだけど......常にまっすぐで嘘をつかないところかな。そこが一番好き」
明日香のその答えを聞いて、友人たちも、周りで聞き耳を立てていた人たちも、そして美里までもが、なぜかポーっとなっている。
明日香はみんなの反応がいまいちなので、変なこと言ったかな?と焦ってしまった。
「て、てっきり、顔がタイプなのかと思ったら.....」
「まさかの答えで、思いっきり惚気られたね......」
明日香は正直、僚の顔なんて意識したことがない。笑顔にドキッとしたことは何度もあるが、僚の顔がタイプかと言われれば、それは違う気がする。
「たしかに、僚は昔からモテてたけど、顔は意識したことがないというか....僚よりかっこいい人なんて、まだいるでしょう?」
「!!!!」
その言葉に、今度は全員が驚愕する。
あの国宝級のイケメンをそんな風に言うのは、藤堂明日香ぐらいだろう。
「おい、もうそのくらいにしておけよ」
そう声を掛けてきたのは隼斗だった。そばには僚と誠と市木もいた。
「明日香、そろそろ帰ろうか」
僚がそう言って明日香に手を差し出すと、明日香もその手を自然に取る。
その一連の行動があまりにも美しすぎて、みんな呆然と見ていた。
「誠、美里さん、今日はもう帰るな」
「美里、今度またみんなでパーティーするから。あと、わたしは先に失礼しますね。みなさんはまだ楽しんでくださいね」
明日香が美里と、その友達に挨拶すると、4人ともぎこちなく手を振ってくれた。
「あ、それとさ、俺らは帰るけど、代わりにコイツ置いていくから、相手してあげて。一応医者だし、実家は金持ちだし、好物件だぞ」
隼斗はそう言って、女性たちの前に市木を差し出す。
すると市木の顔を見た女性たちは、一気にキュピーンっと目の色を変えた。
「あははは......ど~も~.......」
市木は女の子は大好きだが、肉食系は苦手だ。というよりも苦手になった。
大学時代、看護科のみなさんに散々な目にあわされたので、看護師とは絶対に付き合わないと心に決めた。
自分が医者だと知って、目の色を変える子もちょっと苦手。
新しい出会いがあればと思って来たものの、やっぱりそんな簡単に行くわけもなく、僚たちが帰って1時間もしないうちに、早々に帰ることにした。
明日香に恋したことによって高くなってしまった市木の理想は、今後どうなっていくのかまだ誰も知らない。
そして、その二次会のこともSNSに投稿され、いつの間にか2人はお似合いのカップルとして認知されていき、それを悪く言う人もいなくなった。
自宅に帰ってきた僚は、リビングで明日香がブーケを花瓶に移し替えているのを見て、後ろから抱きしめる。
「今日、本当に良かったね、結婚式」
「そうだな......」
僚は、二次会での明日香の話を聞いていた。
明日香は外見じゃなく、ちゃんと中身を見てくれた。それがとても嬉しかった。もし、外見が好きだと言われたら、100が99に減ったかもしれない。
だけど、今日のあの言葉で、100が1000にも10000にもなった。
そして今日、僚はある一つの決心をする。
明日香にプロポーズすることを。
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ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
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