buddy ~絆の物語~

AYANO

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大学生編

74. 沖縄へGO!②

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8月9日。6人は那覇空港に来ていた。
でも、帰るためではなく、出迎えるためだ。
撮影スタッフなどは昨日の夕方の便で帰っており、3人のマネージャーも、他の仕事のため帰っていった。

正午になる直前、到着口から出てきた人を見て深尋が声を掛ける。
「光太郎くん!」
その声に気づいた木南が、6人の元へやってくる。
「深尋ちゃん、みんな。お仕事お疲れさま」
「光太郎くんも、沖縄までわざわざありがとう」
深尋がお礼を言ってるそばで、また何やら揉めている人がいる。
「明日香ちゃん、ただいま~!」
「近寄るな、触るな、市木っ」
僚と市木が会うなり揉めてる。それを明日香はうんざりするように見ていた。
結局、沖縄に来れたのはこの2人だけなので、いつもと変わらないと言えば、変わらない。
そしてこの場には、なぜか元木もいた。休み返上で働いていた元木も、1日だけ休みをもらい、沖縄に残っていたのだ。

そして元木には、あらかじめ市木と木南のことを伝えていた。
buddyのことを知っていることや、市木はデビュー前から全員と面識があることなどを説明しておいた。すべて聞いた元木からは、「お前たちが信用している友達なら、大丈夫」と言ってもらえたので、こうして堂々と空港まで迎えに来たのだ。

「何だお前たち、彼女を呼んだんじゃなかったのか」
市木と木南を見た元木が、女の子も来ると思っていたのか、期待外れとばかりに言ってくる。
「だって、竣亮の彼女は大学院受験で、俺と誠の所は、就活やら実習やらで忙しいからさ....」
「まあ、そうか。大学3年生だもんな。それで?こちらが深尋の彼氏?」
元木がなんでもないように聞いてくる。深尋の恋愛事情を知る5人は、ちょっと気まずさを感じていたが、深尋は案外さっぱりしたもので、
「うん。元木さん、こちらが彼氏の木南光太郎くんだよ」
と、普通に紹介する。

「初めまして。深尋ちゃんとお付き合いしている、木南です」
木南も知っているかどうかわからないが、元木に丁寧に挨拶する。
「初めまして、僕はこの子たちのマネージャーの元木と言います。それじゃあ、そこの彼が.....」
元木は次に、市木の方を見る。
「元木さん、こいつは.......」
「初めまして、俺は明日香ちゃんの2の、市木颯太と言いますっ!」
と、声高らかに宣言すると、元木は、
「え?.......」
と、呆気にとられる。
「違うっ!元木さん、こいつはただの友達で......」
僚がそう言うも、元木の疑問はそこではなかった。
「明日香、彼が2番目なら、1番がいるんだよね?」
と、明日香の顔を見る。
「あ、あの......その......」
明日香が、こんな騒がしい空港の中で言うべきかどうか悩んでいたら、
「とりあえず、あとでゆっくり聞こうか」
と、レンタカーで移動することにした。

一行が向かったのは、本島南部の海沿いにある、市木家の別荘だった。
さすが、金持ち。別荘の1つや、2つや、3つくらい軽く持っている。
今日1日、全員ここでお世話になることにした。元木はさすがに、別のホテルをとっており、明日には帰る予定だ。僚と明日香、そして深尋と木南は、明日は同じホテルで別々に部屋を取っていた。

市木家の別荘は大したもので、海に面して広い芝生の庭が広がっており、バーベキュー設備も整っている。屋上は広いテラスになっていて、この辺一帯は夜は明かりが少ないため、星がきれいに見えるのが自慢らしい。
ということで、別荘に寄る前にバーベキューの買い出しをしたり、花火なんかも買って、市木家の別荘へ向かった。
運転は、元木がワンボックスカーを借りていたので、それに全員乗って移動する。

「今までさ、何度かバーベキューってしたけど、最初から最後まで自分たちで準備するのは初めてだな」
「そうだな。グランピングでは片付けもいらなかったし、この間はホテルのレストランだったからな」
隼斗と僚がそんな話をしながら炭を並べていると、木南がやってきた。
「ねぇ、そのグランピング、楽しかった?」
「あぁ、まあな.....」
「そう......。僕も早く深尋ちゃんと知り合ってたら、行けたんだろうな」
その木南の言葉を聞いて隼斗と僚は、これ以上この話はしないでおこうと思った。

一方、別荘の中のキッチンでは、明日香、深尋、竣亮が、野菜を切ったり、お肉を盛りつけたりと、食材の準備をしていた。そのそばで、市木がちょろちょろしているが、その場には元木もいるため下手なことはしてこなかった。
ついでに誠は、「俺がやることはないな」と言って、庭のハンモックで大好きな天然日サロを楽しんでいる。

そして、まだ明るい時間だが、バーベキューがスタートした。
ベンチとテーブルが一体になっている、大きめのガーデンテーブルが2つ並んでいるので、9人でも十分な広さがあった。
元木は車の運転があるためウーロン茶だが、他の8人は自分が好きなアルコールをみんなそれぞれ飲んでいた。
「なんかさ、あんなに子供だった君たちと、こうしてお酒を飲むことが出来て、本当にうれしいよ」
酒も飲んでいないのに、元木が語り始める。
「そりゃあ、10年も経てばそうなるよ。てか、元木さん飲んでないよな?」
隼斗が心配になり、元木のグラスを覗く。

「そっかあ、10年か......早いね。そりゃ、みんな恋人もできるよなぁ.....」
そう言ったかと思うと、
「ところで明日香、さっきの空港での話の続きだけど.....」
と、思い出したように言ってくる。
「えっと......さっきのって......?」
「市木くんが2番目なら、1番目の彼氏はどうしたのって話。まさか、僕に言えないような人なの?」
元木がそう言うと、僚が意を決して言う。
「元木さん、俺です」
「.......え?」
「俺が、明日香と付き合っています。あと、1番とかではなく、俺だけです」
僚が元木に対してまっすぐに宣言する。他の人達は、それを固唾を飲んで見守っている。

「え....と、僚と明日香が付き合ってるの?.....いつから?」
「明日香が留学から帰ってきて、すぐです。元木さんにはずっと言おうと思ってたんですけど、なかなか言えずに遅くなってすいません.....」
僚の話を聞いて、元木は今までの様子を思い出し、納得する。
「そう....わかった。まあ、お前たち2人は昔から仲良かったし、そうなってもおかしくないとは思っていたけどさ、なんだか複雑な気分なんだよなぁ.....」

元木はなぜ自分がこんなに戸惑っているのか、いまいちピンとこなかった。
でもそれを、隼斗が解決してくれた。
「この間さ、俺たちの両親に僚が挨拶に来たんだけど、父さんもだいぶショックだったみたい。子供の頃から知っている僚が、明日香を奪いに来たって、酔っぱらって騒いでさー。元木さんの気持ちも、それに近いんじゃない?」
元木は隼斗にそう言われて、納得した。

「そうか、隼斗。なかなか鋭いこと言うな。そうだよ、娘を奪われた父親の気持ちになったんだなぁ。ということで僚、明日香を大事にしないと、外歩けなくなるぞ。あと、木南くんだっけ?君も、深尋のことよろしくね。みんな僕の大事な子たちだから」
元木が僚と木南にそう忠告すると、
「大丈夫です。もう傷つけないって約束したので」
僚は自信たっぷりに言い切る。それに続いて木南も、
「もちろん。僕も大切にしますよ」
そういうと、いつもの木南らしくニコッと笑う。

それを聞いて元木は安心したのか、
「しかし僚と明日香は、中学3年の時は全然だったのに、いつからそんな風になったのかねぇ」
と、からかい半分で言ってきた。
「中学3年の時?なにかあったっけ?」
明日香はすぐに思い出すことが出来ず、僚に聞いてみる。
「たぶんあれだよ。みんなで夏休みに海に行って、俺と明日香でイチゴのかき氷食べたろ?そのことだと思うよ」
僚がそう言うと、元木がそう、それ!と言う。
「あの時、お互いに意識しないのかって聞いたら、2人とも全然そんなこと思ってなさそうだったし、そういうものかぁって思ってたんだけど、そのあとちゃんといろいろあったんだねぇ.....」
と言いながら笑う。
「まぁ、はい......そうですね......」
その辺には、あまり触れてほしくないな......と、僚と明日香、そして市木も思っていた。
「ところで、市木くんが2番目って言うのはどういうこと?」
触れてほしくないのに、触れてくるよなぁと、僚は思うが、あの発言をそのままにしておくわけにはいかないと、説明することにした。

僚は元木に、市木がしつこく明日香に言い寄っている状況を伝えると、市木が突然、初対面の元木にお願いがあると言い出す。
「マネージャーさん、明日香ちゃんが葉山と付き合っても、2番目は俺であることは変わりないので、どうかお許しくださいっ!」
少しほろ酔いだからか、またしょうもないことを元木に言っている。
「まあ、人を好きになるのは自由だから止めないけど、僕たちの仕事の邪魔はしないでくれよ?」
などと、元木も元木で甘いことを言う。
「はいっ!ありがとうございますっ!」
そうしてなぜか、2番目の男として市木は、元木に認められる形になった。

「じゃあ、若者たち。おじさんはこれで失礼するよ」
日もとっぷりと暮れ、元木はホテルへ帰ることにした。
「元木さんは、明日帰るんですよね」
「そうだよー。やること山積みだからね。君らも、ここで息抜きしないと、帰ったらレコーディングも始まるし、新しい振り付けも覚えないといけないし、MVの撮影もあるからね。覚悟しておくように」
レコーディングと聞いて、6人は気が滅入ってしまいそうになる。
そして元木は、言うだけ言って一足先に帰ってしまった。

お腹も満たされたころ、買ってきた花火をすることにした。
バケツに水を用意し、着火ライターで火をつける。
深尋の花火に木南が火をつけると、
「ふわあああっ!」
と、喜ぶ。
その顔が見れただけで、木南は嬉しかった。
「光太郎くんにも、火、あげる」
そういって深尋が近づいてきたので、木南も深尋に近づき、花火の火を貰う。
その花火の光に照らされている深尋の顔を見て、思わず抱き締めたい衝動に駆られるが、今日はまだ我慢だと自分に言い聞かせる。
明日は2人だけで過ごせるのだからと、これまで我慢してきたことを無駄にしないようにぐっとこらえていた。

隼斗、誠、竣亮は噴出花火に火をつけようとしていた。
「来るぞっ!」
導火線に火をつけ、一斉に後ろへ下がると、シャーーーーッと色とりどりの炎が噴出し、それは1メートルほどまで上がると、すぅっと消えていった。
「なんか、あっけないな」
「もっとドンパチするのかと思った」
「いや、それはもう花火じゃないよ.....」
そこへ市木がやってきた。
「番犬くんたち、楽しんでるねぇ」
「ああ?当たり前だろ。沖縄まで来て楽しまないでどうするんだよ」
「彼女がいたらもっと楽しめたのにね~」
市木が地雷を踏むと、めずらしく誠が市木に詰め寄る。
「市木......俺はな、美里にかれこれ10日以上会えていないんだ。だから、次そんなこと言ったら、何するかわからんぞ......」
市木は、誠の背後にゴオオオオオと、花火以上の炎が上がっているように錯覚する。
「ご、ごめんね?まこっちゃん.....」
さすがの市木もたじたじだ。

「ところでさ、明日はどうするの?」
竣亮が3人に聞いてみる。
「とりあえずレンタカーを借りに行って、それからだな」
「市木は沖縄に何度も来てるんだろ?どこかおすすめスポットとかないの?」
隼斗にそう聞かれて、市木はキョトンとする。
「え?俺、明日は明日香ちゃんと.......」
「バカかお前。お前は俺たちとずっと一緒に行動するんだよ」
「市木くん、聞いてなかったの?明日はあそこのカップルたちとは別に行動するんだよ」
「ちなみに、あいつらはホテルも予約済みだぞ」
その誠の一言を聞いて、市木は脳天に直撃を食らったかのような顔をする。

「う、う、嘘だ‼嘘だと言ってくれ‼」
「嘘じゃねえよ。もういい加減諦めろ」
隼斗はこのやりとりも久しぶりだな、なんてことを思いながら市木に最終通告をする。
「いいか、明日であの2人はようやく、身も心も結ばれる予定だ。そのためには誰にも邪魔はさせない。特にお前。わかったな?」
涙目の市木は、がっくりとうなだれる。
「.......じゃあ、明日の夜、3人で俺のこと慰めてね」
小声でぼそぼそと市木が言うと、
「ああ、付き合ってやるよ」
と隼斗が返事をする。
やっぱり、なんだかんだ仲がいい2人だった。
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