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大学生編
59. 修羅場からの新展開
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「新井さんは、藤堂くんと幼馴染って言ってたけど、もしかして葉山のことも知っているの?」
木南に質問された深尋は、正直に答える。
「うん、知ってるよ。僚とも小学校からの幼馴染。あと、新井さんって呼ばれ慣れてないから、深尋でいいよ」
「ははっ、わかった。じゃあ、僕のことも光太郎って呼んでね」
隼斗たちとは違って、こちらは和やかに話している。
先ほどの修羅場を知らない深尋だから、というのもあるだろう。すると、木南が再び深尋に質問する。
「葉山の大切な子って、もしかして深尋ちゃんのこと?」
いきなりド直球の質問に、さすがの市木もえっ?と驚いている。でも、天真爛漫の申し子は、そんなことでは動揺しない。
「ううんー違うよー。それは、隼斗の双子のお姉ちゃんのことだよー」
コイツいいやがった....と、隼斗は怒り心頭だ。
「へえ....藤堂くんって双子なんだ。しかも男女の。めずらしいね」
「そうだな。よく言われる」
「似てるの?」
男女の双子に興味を示す木南に、今度は市木が警戒する。
「番犬くんと明日香ちゃんは、全く似てないよっ。似ても似つかないというか、他人なんじゃというくらい.....」
「おいっ!明日香と俺は、昔っからそっくりの美男美女の双子で有名なんだ。いい加減なこと言うなっ!」
自分で自分のことを美男と言ってるあたり、隼斗もなかなか図々しい性格をしている。するとそれに興味を示した人がもう一人。
「そんなこと言われたら、そのお姉さんの顔見てみたいな」
奈緒美がお願いするも、それはさすがに本人の承諾なしには無理だということで、諦めてもらった。
芽衣は隼斗が双子であることは知っていたが、詳しい話は何も聞いたことがなかった。この場にいる深尋や、さっきから話題に上がっている僚のことも、全く知らなかった。
だから、少しでも隼斗のことを知りたくて聞いてみた。
「深尋さん、もしかして崎元くんとか、国分くんのことも知ってるの?」
芽衣に尋ねられると、深尋もなぜか少し警戒してしまう。でも、知らないとは言えないので、
「うん、知ってるよ。みんな友達だから」
とだけ答えた。
「ああ、そっか芽衣ちゃん、番犬くんの高校時代の元カノだっけ?だから竣くんとまこっちゃんのこと知ってるんだね~」
しれっと市木がバラす。というか、さきほどの深尋の発言で、ほぼバレているようなものだが。
「あ.....うん、もしかしてと思って.....」
と、芽衣は軽く流す。
深尋から「みんな友達」と聞いた芽衣は、自分が知らなかったからという疎外感からかもしれないが、隼斗を取り巻く小学校からの幼馴染たちには、目に見えないものでつながっているように感じてしまった。
「深尋ちゃんはいま、彼氏とかっているの?」
この木南も、市木に負けず劣らずグイグイくるタイプのようで、さっきから深尋を質問攻めにしている。
「いませんけど......」
深尋も深尋で、ここまで押しの強い男の人は初めてだったので、だんだん警戒心が出てきたのか、おどおどし始めた。
「木南、あんまりがっついてると深尋ちゃんがびっくりするよ~」
隼斗は、まさか市木からそんな言葉が出てくるとは思わず、(お前が言うな!)と目を大きくさせる。
「それにさ、この番犬くん以外にも、あと3人番犬がいるから要注意だよ」
と、木南に説明する。
「なぁ、市木がさっきから言ってるその番犬って、何?藤堂くんのあだ名じゃなかったの?」
木南は番犬の意味が分からず、市木にどういうこと?と聞いてくる。
「まあ簡単に言えば、深尋ちゃんや明日香ちゃんを守っている、4人の男たちのことだね~」
そう言われて隼斗は少し顔が赤くなり、深尋ははぁ?という顔をする。
「市木くん違うよー。番犬は明日香を守っている、隼斗と僚のことでしょう?」
すると市木は人差し指を横に振って、
「わかってないな~深尋ちゃんは。君もしっかり葉山たちに守られてるよ。それもがっちりと。この間のことがそうでしょう?」
この間のこと。深尋が暗い夜道で待ち伏せされていたカメラマンに、腕を掴まれた時のことだ。市木も少し話を聞いていたので、そのことを指摘したのだ。
市木に言われて初めて、そうだったんだと深尋は自覚する。
「深尋さんすごいね、守ってくれる人がたくさんいて」
奈緒美は嫌味ではなく、本心からそう思った。しかし芽衣は違った。
そんなに守ってくれる人がいるなら、隼斗くらいわたしに譲ってくれてもいいじゃないと、嫉妬してしまう。なんであの子ばっかり.....と。
「じゃあ、深尋ちゃんを口説こうと思ったら、藤堂くんの許可がいるの?」
木南がさらにド直球を投げてくる。
「.......え?」
「.......は?」
深尋も隼斗も唖然とする。市木は何が面白いのか、ニコニコ笑ってる。
「あ、あの.....光太郎くん、今日会ったばっかりで何言ってるの?」
「別に、会ったばかりとか関係なくない?僕は深尋ちゃんを気に入ったから、そう思っただけ」
「いや、でも......」
深尋は明日香の気持ちがようやくわかった。男の人に迫られるのが、こんなにも恥ずかしいこととは思わなかったからだ。
「別に。俺にも、僚にも許可を取る必要はないよ。ただ、大切な友達だから傷つけることはするな」
隼斗はそう言い切った。
「ということで、これからよろしくね。深尋ちゃん」
木南はニコッと深尋に笑いかける。
「なんか、光太郎くん.....市木くんみたい」
深尋は思わず本音が出てしまう。
「深尋ちゃん、市木みたいな遊び人と一緒にしてほしくないかな」
「どういう意味かな木南?」
「そのまんまだよ。僕は少なくとも、女の子をとっかえひっかえしない」
ゔっ....と市木は黙ってしまう。
「市木くん、明日香一筋じゃなかったの?」
「やだな、深尋ちゃん。俺はずーっと明日香ちゃんだけだよ?」
「嘘つけお前。僚にも言われてただろ」
「市木くんって、藤堂くんのお姉さんに手出してんの?」
「藤堂くんのお姉さんって、葉山のだろ?お前、葉山と争ってるのか?」
「ううん、光太郎くん。市木くんはとっくにフラレ.......」
「あーーっ‼UFOだーーーーっ‼」
なんだかんだいつもやり玉に挙がっている市木だが、それはそれで楽しそうだった。
そのあと深尋は、木南と連絡先を交換した。
ただの食事と聞いてきてみたら、合コンのようになったし、でも楽しかったからまあいいかと思った。
「深尋ちゃん、お家まで送るよ」
店を出ると、木南からそう言われて困ってしまった。
「そうそう、深尋ちゃんは木南に送ってもらいな。番犬くんは、芽衣ちゃんと話があるみたいだし」
「はあ⁉俺は話なんか....!」
隼斗は市木に反論したかったが、市木が隼斗の腕をグイっと引っ張り、みんなと少し離れる。
「あのさ番犬くん。芽衣ちゃんの話をちゃんと聞いてごらんよ。結局、ご飯を食べてる間、ほとんど話してないでしょ。芽衣ちゃんにも芽衣ちゃんの事情があるかもしれないんだからさ」
市木にめずらしく説得されて、隼斗は渋々芽衣を送っていくことにした。
2年と数か月ぶりに隼斗は芽衣と肩を並べて歩く。
しかし、2人の間に会話はない。
高校生の時、何度か芽衣を送るために通ったことのある道を、こうして再び2人で歩いている。
すると、家へと続く道の街灯の下で、芽衣が立ち止まる。それに気づいた隼斗も、立ち止まって振り返る。
「長瀬.....どうした?」
隼斗が声を掛けると、芽衣が顔を上げて隼斗を見つめる。
「あの.....もう、ここでいいよ.....」
「え.....?でも、まだ家は......」
「だって藤堂くん、わたしのことキライでしょ?これ以上は迷惑になるから.....」
まるで明日香みたいなことを言うなと、隼斗は思ってしまった。
「だからって、女の子をこんな暗い中1人にできないだろ。それに......前に話があるって言ってただろ.....」
そこで2人の間に沈黙が流れる。隼斗も、自分が言い出したものの、これ以上どうしたらいいのかわからない。
「................きなの....」
「.....え?」
芽衣が何か言っているが、声が小さく聞こえない。そのため、隼斗が一歩近づくと、涙をためた芽衣の目と隼斗の目がぶつかる。
「わたし、高校卒業してからもずっと、藤堂くんのことが好きなの。ずっと忘れられなくて.....今さらこんなこと言っても......藤堂くんを.....困らせるだけなのに......ごめんなさい.......」
芽衣は両手で顔を覆うと、そのままそこで泣いてしまった。
隼斗は女の子を泣かせてしまったと焦り、狼狽える。
明日香に泣かれるのは慣れている隼斗だが、その他の女の子相手だと、どうしていいかわからなくなってしまう。
「な....長瀬、泣くなよ。ごめん。ちゃんと話聞くから.....」
隼斗がそう言うと、芽衣はフルフルと首を振る。
「違う.....藤堂くんは、何も悪くない.....わたしが藤堂くんを.....傷つけたから.....怒って当然だよ.....なのに、まだ.....好きで.....ごめ......」
芽衣はそれ以上言葉を続けられなかった。
しばらくして、芽衣が落ち着いたのを見て、隼斗が話を切り出す。
「確かに、長瀬にあんなことをされて傷ついたよ。しかもその理由が恥ずかしかったからって言われて、なんだよそれって思った。俺は、自分が悪いことをしたと思って、ずっと悩んで苦しんだのに、そんなことでって思った」
「ふ........ごめんなさい.......」
芽衣はまた涙があふれてくる。すると隼斗が、左手の親指で芽衣の涙をグイっと拭う。
「俺の方こそごめん。あの時、もっと長瀬の様子を気にかけるべきだった。自分が長瀬と話をすることだけに固執して、結局遠ざけてしまっていたんだと思う。もう少し、余裕を持って接することが出来たらよかったのに、小さい男でごめんな」
そんなことを言われると、余計に涙があふれる。
あの時、お互い確かに好きだったのに。だから、体を重ねたのに。なんでこうなってしまったんだろう。過去に戻ってやり直したいと、何度も思った。
そして芽衣は、自分の涙を拭ってくれている隼斗の左手に、自分の手を重ねて言った。
「藤堂くん、わたし、あの時は恥ずかしくて言えなかったけど、これだけは言わせてほしいの.....」
「なにを......?」
芽衣は、自分の中の勇気を全部振り絞るかのように大きく息を吸って、
「わたし、藤堂くんとの初めての時、本当に気持ちよくて、幸せだったよ。ありがとう」
そう言って、まだ涙の残る目を細めてニコッと笑う。
その瞬間隼斗は、ぶわっと体中が熱くなり、顔が赤くなってしまった。
「なっ.....な.....なんでっ、そんなことっ......」
「だって本当のことだし、ちゃんと伝えないとって思って......」
「だからって、そんなっ.....直球は.....キツイ.....」
今度は隼斗が両手で顔を覆う。
『気持ちよかった』という言葉が、隼斗の頭の中を駆け巡る。
市木に「下手」と言われたことも、この一言ですべて吹き飛んだ。
「だけど、藤堂くんいいの?」
芽衣にそう言われると、隼斗はいったん落ち着きを取り戻し、何が?と聞いてみる。
「深尋さん、木南くんに狙われてるけど、大丈夫?」
「ん?ああ、別にそれはいいと思うけど.....なんで?」
隼斗は、芽衣がなぜ急に深尋のことを言うのかと、不思議に思った。
「だって、藤堂くんは深尋さんが好きなんだと思ったから.....」
「はあ⁉俺が深尋を⁉」
冗談だろ⁉と、顔に書けるくらいの勢いで隼斗が否定する。
「俺は深尋に、そんな感情を持ったことなんか1ミリもない。もちろん、幼馴染として、友達としては大事な存在ではあるけど、それ以上の気持ちは断じてない。それは深尋も同じだ」
「そうなの.....?」
「そう‼というか、それを深尋に言ったら、逆に俺がひどい目に合うと思うから、言わないでくれ....」
「え.....ひどい目って.....?」
芽衣は恐る恐る隼斗に聞いてみる。
「高級な焼肉とか、寿司を奢れだとか、ほしいものを買えとかそういうこと」
その答えを聞いて、芽衣はふふっと笑ってしまう。その笑顔は、隼斗が芽衣を好きだった時の笑顔と、何も変わらない笑顔だった。
「わかった、言わない」
芽衣は安心したのか、目は赤いままだが、自然な笑みが零れている。
隼斗はその顔を見て、過去の恋心が戻ってくる感覚に陥る。
芽衣の笑った時にできる右頬のえくぼとか、すこしたれ目なところとか、柔らかい唇の感触などが一気に頭の中に蘇る。
そして衝動的に、でも自然に、隼斗は芽衣を自分の腕の中に閉じ込める。
「あ....あの、藤堂くん....?」
芽衣は、何が起こったのかわからないまま、動揺してしまう。すると、隼斗は芽衣の右頬に自分の手を添えて、芽衣と目を合わせて告白する。
「長瀬.....俺たちもう一度やり直せるかな?」
「え......」
「なんか、いろいろ誤解があったし、行き違っていたから、やり直せたらと思ったんだけど.....」
そう言い終わらないうちに、また芽衣の目から涙があふれる。
「ご、ごめんっ....泣かせるつもりじゃ....」
「ありがとう藤堂くん.......もう一度、わたしと恋してくれませんか」
芽衣にまっすぐ見つめられた隼斗は、
「うん、こちらこそよろしく」
そう言って芽衣にキスをした。
最初は触れるだけのキスから、だんだんと深くなっていく。
それは隼斗と芽衣のわだかまりなど、一瞬で溶かすくらいに甘いキスだった。
木南に質問された深尋は、正直に答える。
「うん、知ってるよ。僚とも小学校からの幼馴染。あと、新井さんって呼ばれ慣れてないから、深尋でいいよ」
「ははっ、わかった。じゃあ、僕のことも光太郎って呼んでね」
隼斗たちとは違って、こちらは和やかに話している。
先ほどの修羅場を知らない深尋だから、というのもあるだろう。すると、木南が再び深尋に質問する。
「葉山の大切な子って、もしかして深尋ちゃんのこと?」
いきなりド直球の質問に、さすがの市木もえっ?と驚いている。でも、天真爛漫の申し子は、そんなことでは動揺しない。
「ううんー違うよー。それは、隼斗の双子のお姉ちゃんのことだよー」
コイツいいやがった....と、隼斗は怒り心頭だ。
「へえ....藤堂くんって双子なんだ。しかも男女の。めずらしいね」
「そうだな。よく言われる」
「似てるの?」
男女の双子に興味を示す木南に、今度は市木が警戒する。
「番犬くんと明日香ちゃんは、全く似てないよっ。似ても似つかないというか、他人なんじゃというくらい.....」
「おいっ!明日香と俺は、昔っからそっくりの美男美女の双子で有名なんだ。いい加減なこと言うなっ!」
自分で自分のことを美男と言ってるあたり、隼斗もなかなか図々しい性格をしている。するとそれに興味を示した人がもう一人。
「そんなこと言われたら、そのお姉さんの顔見てみたいな」
奈緒美がお願いするも、それはさすがに本人の承諾なしには無理だということで、諦めてもらった。
芽衣は隼斗が双子であることは知っていたが、詳しい話は何も聞いたことがなかった。この場にいる深尋や、さっきから話題に上がっている僚のことも、全く知らなかった。
だから、少しでも隼斗のことを知りたくて聞いてみた。
「深尋さん、もしかして崎元くんとか、国分くんのことも知ってるの?」
芽衣に尋ねられると、深尋もなぜか少し警戒してしまう。でも、知らないとは言えないので、
「うん、知ってるよ。みんな友達だから」
とだけ答えた。
「ああ、そっか芽衣ちゃん、番犬くんの高校時代の元カノだっけ?だから竣くんとまこっちゃんのこと知ってるんだね~」
しれっと市木がバラす。というか、さきほどの深尋の発言で、ほぼバレているようなものだが。
「あ.....うん、もしかしてと思って.....」
と、芽衣は軽く流す。
深尋から「みんな友達」と聞いた芽衣は、自分が知らなかったからという疎外感からかもしれないが、隼斗を取り巻く小学校からの幼馴染たちには、目に見えないものでつながっているように感じてしまった。
「深尋ちゃんはいま、彼氏とかっているの?」
この木南も、市木に負けず劣らずグイグイくるタイプのようで、さっきから深尋を質問攻めにしている。
「いませんけど......」
深尋も深尋で、ここまで押しの強い男の人は初めてだったので、だんだん警戒心が出てきたのか、おどおどし始めた。
「木南、あんまりがっついてると深尋ちゃんがびっくりするよ~」
隼斗は、まさか市木からそんな言葉が出てくるとは思わず、(お前が言うな!)と目を大きくさせる。
「それにさ、この番犬くん以外にも、あと3人番犬がいるから要注意だよ」
と、木南に説明する。
「なぁ、市木がさっきから言ってるその番犬って、何?藤堂くんのあだ名じゃなかったの?」
木南は番犬の意味が分からず、市木にどういうこと?と聞いてくる。
「まあ簡単に言えば、深尋ちゃんや明日香ちゃんを守っている、4人の男たちのことだね~」
そう言われて隼斗は少し顔が赤くなり、深尋ははぁ?という顔をする。
「市木くん違うよー。番犬は明日香を守っている、隼斗と僚のことでしょう?」
すると市木は人差し指を横に振って、
「わかってないな~深尋ちゃんは。君もしっかり葉山たちに守られてるよ。それもがっちりと。この間のことがそうでしょう?」
この間のこと。深尋が暗い夜道で待ち伏せされていたカメラマンに、腕を掴まれた時のことだ。市木も少し話を聞いていたので、そのことを指摘したのだ。
市木に言われて初めて、そうだったんだと深尋は自覚する。
「深尋さんすごいね、守ってくれる人がたくさんいて」
奈緒美は嫌味ではなく、本心からそう思った。しかし芽衣は違った。
そんなに守ってくれる人がいるなら、隼斗くらいわたしに譲ってくれてもいいじゃないと、嫉妬してしまう。なんであの子ばっかり.....と。
「じゃあ、深尋ちゃんを口説こうと思ったら、藤堂くんの許可がいるの?」
木南がさらにド直球を投げてくる。
「.......え?」
「.......は?」
深尋も隼斗も唖然とする。市木は何が面白いのか、ニコニコ笑ってる。
「あ、あの.....光太郎くん、今日会ったばっかりで何言ってるの?」
「別に、会ったばかりとか関係なくない?僕は深尋ちゃんを気に入ったから、そう思っただけ」
「いや、でも......」
深尋は明日香の気持ちがようやくわかった。男の人に迫られるのが、こんなにも恥ずかしいこととは思わなかったからだ。
「別に。俺にも、僚にも許可を取る必要はないよ。ただ、大切な友達だから傷つけることはするな」
隼斗はそう言い切った。
「ということで、これからよろしくね。深尋ちゃん」
木南はニコッと深尋に笑いかける。
「なんか、光太郎くん.....市木くんみたい」
深尋は思わず本音が出てしまう。
「深尋ちゃん、市木みたいな遊び人と一緒にしてほしくないかな」
「どういう意味かな木南?」
「そのまんまだよ。僕は少なくとも、女の子をとっかえひっかえしない」
ゔっ....と市木は黙ってしまう。
「市木くん、明日香一筋じゃなかったの?」
「やだな、深尋ちゃん。俺はずーっと明日香ちゃんだけだよ?」
「嘘つけお前。僚にも言われてただろ」
「市木くんって、藤堂くんのお姉さんに手出してんの?」
「藤堂くんのお姉さんって、葉山のだろ?お前、葉山と争ってるのか?」
「ううん、光太郎くん。市木くんはとっくにフラレ.......」
「あーーっ‼UFOだーーーーっ‼」
なんだかんだいつもやり玉に挙がっている市木だが、それはそれで楽しそうだった。
そのあと深尋は、木南と連絡先を交換した。
ただの食事と聞いてきてみたら、合コンのようになったし、でも楽しかったからまあいいかと思った。
「深尋ちゃん、お家まで送るよ」
店を出ると、木南からそう言われて困ってしまった。
「そうそう、深尋ちゃんは木南に送ってもらいな。番犬くんは、芽衣ちゃんと話があるみたいだし」
「はあ⁉俺は話なんか....!」
隼斗は市木に反論したかったが、市木が隼斗の腕をグイっと引っ張り、みんなと少し離れる。
「あのさ番犬くん。芽衣ちゃんの話をちゃんと聞いてごらんよ。結局、ご飯を食べてる間、ほとんど話してないでしょ。芽衣ちゃんにも芽衣ちゃんの事情があるかもしれないんだからさ」
市木にめずらしく説得されて、隼斗は渋々芽衣を送っていくことにした。
2年と数か月ぶりに隼斗は芽衣と肩を並べて歩く。
しかし、2人の間に会話はない。
高校生の時、何度か芽衣を送るために通ったことのある道を、こうして再び2人で歩いている。
すると、家へと続く道の街灯の下で、芽衣が立ち止まる。それに気づいた隼斗も、立ち止まって振り返る。
「長瀬.....どうした?」
隼斗が声を掛けると、芽衣が顔を上げて隼斗を見つめる。
「あの.....もう、ここでいいよ.....」
「え.....?でも、まだ家は......」
「だって藤堂くん、わたしのことキライでしょ?これ以上は迷惑になるから.....」
まるで明日香みたいなことを言うなと、隼斗は思ってしまった。
「だからって、女の子をこんな暗い中1人にできないだろ。それに......前に話があるって言ってただろ.....」
そこで2人の間に沈黙が流れる。隼斗も、自分が言い出したものの、これ以上どうしたらいいのかわからない。
「................きなの....」
「.....え?」
芽衣が何か言っているが、声が小さく聞こえない。そのため、隼斗が一歩近づくと、涙をためた芽衣の目と隼斗の目がぶつかる。
「わたし、高校卒業してからもずっと、藤堂くんのことが好きなの。ずっと忘れられなくて.....今さらこんなこと言っても......藤堂くんを.....困らせるだけなのに......ごめんなさい.......」
芽衣は両手で顔を覆うと、そのままそこで泣いてしまった。
隼斗は女の子を泣かせてしまったと焦り、狼狽える。
明日香に泣かれるのは慣れている隼斗だが、その他の女の子相手だと、どうしていいかわからなくなってしまう。
「な....長瀬、泣くなよ。ごめん。ちゃんと話聞くから.....」
隼斗がそう言うと、芽衣はフルフルと首を振る。
「違う.....藤堂くんは、何も悪くない.....わたしが藤堂くんを.....傷つけたから.....怒って当然だよ.....なのに、まだ.....好きで.....ごめ......」
芽衣はそれ以上言葉を続けられなかった。
しばらくして、芽衣が落ち着いたのを見て、隼斗が話を切り出す。
「確かに、長瀬にあんなことをされて傷ついたよ。しかもその理由が恥ずかしかったからって言われて、なんだよそれって思った。俺は、自分が悪いことをしたと思って、ずっと悩んで苦しんだのに、そんなことでって思った」
「ふ........ごめんなさい.......」
芽衣はまた涙があふれてくる。すると隼斗が、左手の親指で芽衣の涙をグイっと拭う。
「俺の方こそごめん。あの時、もっと長瀬の様子を気にかけるべきだった。自分が長瀬と話をすることだけに固執して、結局遠ざけてしまっていたんだと思う。もう少し、余裕を持って接することが出来たらよかったのに、小さい男でごめんな」
そんなことを言われると、余計に涙があふれる。
あの時、お互い確かに好きだったのに。だから、体を重ねたのに。なんでこうなってしまったんだろう。過去に戻ってやり直したいと、何度も思った。
そして芽衣は、自分の涙を拭ってくれている隼斗の左手に、自分の手を重ねて言った。
「藤堂くん、わたし、あの時は恥ずかしくて言えなかったけど、これだけは言わせてほしいの.....」
「なにを......?」
芽衣は、自分の中の勇気を全部振り絞るかのように大きく息を吸って、
「わたし、藤堂くんとの初めての時、本当に気持ちよくて、幸せだったよ。ありがとう」
そう言って、まだ涙の残る目を細めてニコッと笑う。
その瞬間隼斗は、ぶわっと体中が熱くなり、顔が赤くなってしまった。
「なっ.....な.....なんでっ、そんなことっ......」
「だって本当のことだし、ちゃんと伝えないとって思って......」
「だからって、そんなっ.....直球は.....キツイ.....」
今度は隼斗が両手で顔を覆う。
『気持ちよかった』という言葉が、隼斗の頭の中を駆け巡る。
市木に「下手」と言われたことも、この一言ですべて吹き飛んだ。
「だけど、藤堂くんいいの?」
芽衣にそう言われると、隼斗はいったん落ち着きを取り戻し、何が?と聞いてみる。
「深尋さん、木南くんに狙われてるけど、大丈夫?」
「ん?ああ、別にそれはいいと思うけど.....なんで?」
隼斗は、芽衣がなぜ急に深尋のことを言うのかと、不思議に思った。
「だって、藤堂くんは深尋さんが好きなんだと思ったから.....」
「はあ⁉俺が深尋を⁉」
冗談だろ⁉と、顔に書けるくらいの勢いで隼斗が否定する。
「俺は深尋に、そんな感情を持ったことなんか1ミリもない。もちろん、幼馴染として、友達としては大事な存在ではあるけど、それ以上の気持ちは断じてない。それは深尋も同じだ」
「そうなの.....?」
「そう‼というか、それを深尋に言ったら、逆に俺がひどい目に合うと思うから、言わないでくれ....」
「え.....ひどい目って.....?」
芽衣は恐る恐る隼斗に聞いてみる。
「高級な焼肉とか、寿司を奢れだとか、ほしいものを買えとかそういうこと」
その答えを聞いて、芽衣はふふっと笑ってしまう。その笑顔は、隼斗が芽衣を好きだった時の笑顔と、何も変わらない笑顔だった。
「わかった、言わない」
芽衣は安心したのか、目は赤いままだが、自然な笑みが零れている。
隼斗はその顔を見て、過去の恋心が戻ってくる感覚に陥る。
芽衣の笑った時にできる右頬のえくぼとか、すこしたれ目なところとか、柔らかい唇の感触などが一気に頭の中に蘇る。
そして衝動的に、でも自然に、隼斗は芽衣を自分の腕の中に閉じ込める。
「あ....あの、藤堂くん....?」
芽衣は、何が起こったのかわからないまま、動揺してしまう。すると、隼斗は芽衣の右頬に自分の手を添えて、芽衣と目を合わせて告白する。
「長瀬.....俺たちもう一度やり直せるかな?」
「え......」
「なんか、いろいろ誤解があったし、行き違っていたから、やり直せたらと思ったんだけど.....」
そう言い終わらないうちに、また芽衣の目から涙があふれる。
「ご、ごめんっ....泣かせるつもりじゃ....」
「ありがとう藤堂くん.......もう一度、わたしと恋してくれませんか」
芽衣にまっすぐ見つめられた隼斗は、
「うん、こちらこそよろしく」
そう言って芽衣にキスをした。
最初は触れるだけのキスから、だんだんと深くなっていく。
それは隼斗と芽衣のわだかまりなど、一瞬で溶かすくらいに甘いキスだった。
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