17 / 55
餓鬼2
しおりを挟む
((何で……多すぎるでしょ))
ゴブリンの足跡が発見された森と隣接している畜産地区の牧場は、農業地区の畑と同じくらい広くスペースを取っており、家畜達が厩舎に帰っているこの時間帯であれば攻撃魔法をバカスカ撃とうが何に遮られることもない。 多対多の衝突としては都合が良い。
逆に住宅街は民家が並び、真夏日のような照明の魔法が村の空をカバーしていようが、細い道や曲がり角の先にゴブリンが何体潜んでいるのかは分からない。 奇襲は野生の専売特許だ。
しかしよりにもよって住宅街で戦闘だなんて……強力な魔法なんて勿論使えないし、夜が明けたとしても何処に何体潜んでいるのか分からない以上、数ヶ月間警戒を解けない長期戦は避けられない。
面倒な事を……!
「……レムリアさん!」
忌々しく思っているとシスターちゃんがそう叫んだ。
(えっ!? どこに!?)と窓から外を探す前にシスターちゃんが走りだす。 さっきは見当たらなかったけど……お姉ちゃんに聞いても((見えなかったよ?))と困惑していた。
階段を駆け降り、ギルドのホールに入る。
「消毒持ってきて!」
「ポーション追加来ましたー! 配ってくださーい!」
「呼吸戻りました! しっかりしてください!」
「骨折! 腕1、足1! 添え木と包帯持ってきて!」
「先生来ました!!」
「黄色から診てってもらって! 手術は指示に従ってよ!」
「はい!」
いつの間にかホールは野戦病院と化していた。
(こんなに負傷者がいたなんて……)
室内は熱気と極限の緊張感で蒸し暑く、血と汗と消毒液の臭いで充満している。 所々で食いしばる呻きや、傷口を抉るような悲鳴も聞こえてきた。
「うぅぁっと! ……エレスチャルちゃん?」
放心していると、シスターちゃんの背後に丸メガネさんが包帯の入った木箱を抱えて立っていた。
「エメルナちゃんまで!? ダメですよぉ会議室で待ってなきゃ!」
「あのっ、これって……どこからこんなに怪我人が?」
二階から見た防衛線はそんなに苦戦しているようには見えなかったのに。 つまり被害が大きいのは、
「……えっとね、住宅街の外からも侵入されたらしくて、念のため潜伏していた自警団さん達の奇襲は成功したんだけど、数が多くて乱戦になっちゃったんだって。 ギルマスの魔法で明るくできたから戦いやすくなって、負傷した人達をやっと運び込めたの」
「住宅街…………あの私、レムリアさんを助けに行きたいんです!」
「助けに? ……シエルナさん家でお留守番してるんだったよね? 外に出なければ大丈夫だと思うけ――」
「クラスプさん包帯あったぁ!?」
「――あっ、はい今行きます! ごめんね急いでるからっ。 外に出ちゃ駄目だからね!」
横にどいたシスターちゃんを通り過ぎ、丸メガネさんは受付カウンターへと走っていった。
グッと、私を支える腕に力が入る。
「どうしよ……レムリアさんに何かあったら」
震えるか細い呟きに、胸が締め付けられる思いになった。
駄目だなぁ……私は生まれ変わってもこういうのに弱いらしい。
前世の頃、自分は誰かの役に立ちたかった。
頼られる、誰かを助けられる主人公に憧れた。
でも結局、そのための努力なんて少しもしたことすら無くて、「もし目の前で引ったくりがあったら誰よりも先に動こう」「泣いてる迷子がいたら助けてあげよう」なんて言い訳じみた妄想ばかり。
ずっと役立ずのままで終わってしまった。 油断で親より先に死ぬとか、最低だよな。
今、俺の目の前には不安に押し流されそうな女の子が震えている。
助けになりたい。 心からそう思ったのは彼女のためか、それとも自分のためなのか。
(お姉ちゃん……)
((だっ……駄目だよ! 襲われたらどうするの?!))
(でも、お姉ちゃんだって行きたいんだよね?)
((っ!? …………うん))
私から心は読めないけど、感情は少なからず伝わってくる。 今まで敢えて触れなてこなかったのだが、心根を指摘されるのに慣れていなかったお姉ちゃんが素直に頷く。
私達の間で隠し事は難しい。 特に感情の変化や嘘偽りは。
今、お姉ちゃんは過去の経験から、その時の不安をまだ引きずっている。 経験の内容までは分からないけど、そんな感情だけは伝わってきた。
そして、お姉ちゃんならなんとかできるかもしれない考えを話していないって事も。
((それも伝わっちゃうんだ……絶対行くって言いそうだったもん))
躊躇いと共感に心が揺れる。
心配してくれているのは嬉しいよ? でもここで止めて、一人でいるレムリアさんが手遅れになったら二度と立ち直れない。
やる事は簡単だ、事情を話して誰かに付き添ってもらい、レムリアさんを保護してここに避難すればいい。 いつまで持続しているか知らないけど、外が明るい今なら不可能じゃない筈だ。
私達だけで全てを解決しなければいけないルールなんて無いんだし。
((何で一緒に行く前提なのかなぁ……))
となると問題なのは、どうやってそれをシスターちゃんに伝えるかだけど。
喋れる単語は少ない、更には喃語限定のハンデ付き。 加えて、1歳児が口にする程度の語彙で察してもらわないといけない。
私にやれるか? ……いや、やるしかない。
「どうしよ……私シスターなのに……」
シスターちゃん、責任感と焦りから抜け出せないでいるようだ。 あまり追い詰められ過ぎると独りで行ってしまうかもしれない。
大人に……は難しいか。
目の前にいるのは走り回っているか、負傷者の手当てに付きっきりの人ばかり。 子供が話し掛けられる雰囲気じゃない。
そもそもレムリアさんが、助けに行かないと危険なほどの状態にあるのかも分からない。 丸メガネさんを信じるなら、家に侵入されるとは限らないし、籠っていれば何処よりも安全な可能性だってある。
「助けに行きたい」だけでは、急を要する人に無理を通して着いてきてもらえる程の説得材料にはなりえない。
私まで、無理に動かない方が良いのではと思えてきた。
(でも……レムリアさんの性格からして、隠れているだけなんて出来るかな?)
レムリアさんはシスターだ。
窓の外で血を流した人が倒れていたら?
まさに今、ゴブリンに殺されそうになっている人を見てしまったら?
出ていって助けようとするかもしれない。 だってあの人は、自分を犠牲にするほど心優しいシスターさんなんだから。
シスターちゃんが恐れているのはそれだろう。
だとしたらどうする、その事を伝えさせる? 場に呑まれ畏縮したシスターちゃんに上手く説明できる余裕があるとは思えない。
無理を通して話しても、子供の心配事を真剣に受け取ってくれる人がいるのだろうか。
さっきも考えた通り、外に出なければほぼ安全なのだ。 それを知っていても飛び出す人がいる事を、この状況で伝えるのは難しい。
お母さんがいてくれれば……
(……………………お母さん?)
そうだ!
「にぃに!」
「えっ? ……エメルナちゃん、なにを」
「にぃにぃ~!」
大人に不安があるなら、歳の近い子供に言えばいい。
親の友達としてレムリアさんと面識があるであろう、職員に信頼されている子供が一人だけいる!
「にぃに! にぃにぃ~!」
「…………ぁっ」
うつむいていたシスターちゃんが顔を上げて走り出す。
丸メガネさんに。
「あの! ネロリくんって何処にいますか!」
「ふぇ? 倉庫で消耗した数を記録してるけど……」
「倉庫どこですか!」
丸メガネさんに連れてってもらい、一階奥の倉庫に着く。 そこでは数人の職員が武器防具の洗浄をし、中にはフローラ兄の姿もあった。
「ネロリくん!」
「どうかし……ってエメルナちゃんまで、何でここに」
あんまり意識させないでほしいなぁ。 置いていかれるじゃん。 気配を断ってみようかな……思いっきり目立ってるけど。
そんなことよりと、シスターちゃんが付き添ってもらえるよう説得する。
聞いて、考え込むフローラ兄と、オーバーリアクションな丸メガネさん。
「大変じゃないですか!? 早く助けに行かないと!」
「待ってください、誰が付き添うんですか。 満身創痍で運ばれてきた人ばかりなんですよね?」
そう、それを介抱する職員も含めて人手は空いてない。 動ける者は新しくチームを組んで出ているだろうし。
あとちょっとなのに……
「多分、それなら大丈夫ですよ?」
丸メガネさんに視線が集まる。
「ついさっき診療所の皆さんが到着したので、解毒待ちだった比較的軽傷の方々と、それに付き添っている職員の合計27名が行動出来るようになる頃です。 今なら強力してくれるかもしれません!」
(マジか……なら復帰する前に急がないと)
「行っても良いが、君はここに残るべきだ」
「嫌です、待っていられません!」
やけに強気に食い下がるシスターちゃんに、今しがた治療を終えた自警団の数名が危険を訴える。
実体験なだけに生々しいが、シスターちゃんは一歩も退かなかった。 この子声を掛けるのが苦手なだけで、切っ掛けさえあればグイグイいくのな。
「レムリアさんは私の唯一の家族なんです。 それに皆さんはレムリアさんの顔をご存じないんですよね」
「知らないって訳じゃ……」
歯切れが悪い。 目を泳がせている奴もいる。
(分かるよぉ~……『白いシスター』のイメージが強すぎるんだよね。 あの格好だと髪色も分からないし、今はパジャマ姿だし)
「今のレムリアさんは修道服姿ではない筈です。 もし行き違いになったりしたら、皆さんだけでは誰がレムリアさんか分からないです!」
なんだろう、この説得力……
考えたくないが、道端で倒れている可能性だってありえるからね。 そうなれば彼らだけでの捜索は断念せざるおえない。
倒れている人を放っておくとは思えないけど、最悪の場合はそのまま放置され、私達はいつまでも待ち続けることになる。
最悪の場合じゃなくても、雪の中での真珠色は紛らわしい。 ホッキョクグマみたいに。
結果、「じゃぁ一人ででも行きます!」と言い放った気迫に折れ、私達は自警団に着いていけることとなった。
防寒着を着るために一度机に下ろされ、私にも着せてくれる。
「ちょっと待て、その子も連れていく気か!?」
(あぁ~……さすがにアウトだよね)
潜伏スキルや認識阻害じゃない、ただ黙っていただけなんだから。
お姉ちゃんも半分残念そうだ。
((ここまでね。 大人しく会議室で待――))
「もちろん、連れていきます!」
「「(((えぇぇぇぇぇぇぇ!!??)))」」
私とお姉ちゃん、丸メガネさんにフローラ兄までもがハモった。
良いの!? 両手塞がっちゃうけど。
おじさんも困ってる。
「いくらなんでもその子は……」
「この子、変なんです!」
(んな変な叔父さんみたいに!)
「妙なところで賢いというか……私が動けるようになったのもこの子のおかげなんです。 この子もレムリアさんを心配しています、だから行きます!」
おぉ、ちょっと気になる発言もあったけど、概ね信頼してくれているようで嬉しい。
レムリアさんを心配する気持ちが伝わったのかな。
この子は言っても聞かなそうだ……既に折れていた自警団に、シスターちゃんを納得させる術は持ち合わせておらず。 てか何言われても無視して私を抱え直し「では、お願いします」と無敵状態(脅し)になったシスターちゃんを止められる者はここにはいなかった。
(そうだ!)
良いこと思い付いた。 これなら私でも撃退できるかも。
それが無理でもサポートくらいは可能な筈だ。
……バレないよね?
((う~ん……ゆっくり少しずつなら、1回分くらいは作れるかな))
お姉ちゃんのお墨付きも貰い、丸メガネさんとフローラ兄にお母さん達への言い訳を託し、私達は商業ギルドを出立した。
よし、歩きながら作るか。
ゴブリンの足跡が発見された森と隣接している畜産地区の牧場は、農業地区の畑と同じくらい広くスペースを取っており、家畜達が厩舎に帰っているこの時間帯であれば攻撃魔法をバカスカ撃とうが何に遮られることもない。 多対多の衝突としては都合が良い。
逆に住宅街は民家が並び、真夏日のような照明の魔法が村の空をカバーしていようが、細い道や曲がり角の先にゴブリンが何体潜んでいるのかは分からない。 奇襲は野生の専売特許だ。
しかしよりにもよって住宅街で戦闘だなんて……強力な魔法なんて勿論使えないし、夜が明けたとしても何処に何体潜んでいるのか分からない以上、数ヶ月間警戒を解けない長期戦は避けられない。
面倒な事を……!
「……レムリアさん!」
忌々しく思っているとシスターちゃんがそう叫んだ。
(えっ!? どこに!?)と窓から外を探す前にシスターちゃんが走りだす。 さっきは見当たらなかったけど……お姉ちゃんに聞いても((見えなかったよ?))と困惑していた。
階段を駆け降り、ギルドのホールに入る。
「消毒持ってきて!」
「ポーション追加来ましたー! 配ってくださーい!」
「呼吸戻りました! しっかりしてください!」
「骨折! 腕1、足1! 添え木と包帯持ってきて!」
「先生来ました!!」
「黄色から診てってもらって! 手術は指示に従ってよ!」
「はい!」
いつの間にかホールは野戦病院と化していた。
(こんなに負傷者がいたなんて……)
室内は熱気と極限の緊張感で蒸し暑く、血と汗と消毒液の臭いで充満している。 所々で食いしばる呻きや、傷口を抉るような悲鳴も聞こえてきた。
「うぅぁっと! ……エレスチャルちゃん?」
放心していると、シスターちゃんの背後に丸メガネさんが包帯の入った木箱を抱えて立っていた。
「エメルナちゃんまで!? ダメですよぉ会議室で待ってなきゃ!」
「あのっ、これって……どこからこんなに怪我人が?」
二階から見た防衛線はそんなに苦戦しているようには見えなかったのに。 つまり被害が大きいのは、
「……えっとね、住宅街の外からも侵入されたらしくて、念のため潜伏していた自警団さん達の奇襲は成功したんだけど、数が多くて乱戦になっちゃったんだって。 ギルマスの魔法で明るくできたから戦いやすくなって、負傷した人達をやっと運び込めたの」
「住宅街…………あの私、レムリアさんを助けに行きたいんです!」
「助けに? ……シエルナさん家でお留守番してるんだったよね? 外に出なければ大丈夫だと思うけ――」
「クラスプさん包帯あったぁ!?」
「――あっ、はい今行きます! ごめんね急いでるからっ。 外に出ちゃ駄目だからね!」
横にどいたシスターちゃんを通り過ぎ、丸メガネさんは受付カウンターへと走っていった。
グッと、私を支える腕に力が入る。
「どうしよ……レムリアさんに何かあったら」
震えるか細い呟きに、胸が締め付けられる思いになった。
駄目だなぁ……私は生まれ変わってもこういうのに弱いらしい。
前世の頃、自分は誰かの役に立ちたかった。
頼られる、誰かを助けられる主人公に憧れた。
でも結局、そのための努力なんて少しもしたことすら無くて、「もし目の前で引ったくりがあったら誰よりも先に動こう」「泣いてる迷子がいたら助けてあげよう」なんて言い訳じみた妄想ばかり。
ずっと役立ずのままで終わってしまった。 油断で親より先に死ぬとか、最低だよな。
今、俺の目の前には不安に押し流されそうな女の子が震えている。
助けになりたい。 心からそう思ったのは彼女のためか、それとも自分のためなのか。
(お姉ちゃん……)
((だっ……駄目だよ! 襲われたらどうするの?!))
(でも、お姉ちゃんだって行きたいんだよね?)
((っ!? …………うん))
私から心は読めないけど、感情は少なからず伝わってくる。 今まで敢えて触れなてこなかったのだが、心根を指摘されるのに慣れていなかったお姉ちゃんが素直に頷く。
私達の間で隠し事は難しい。 特に感情の変化や嘘偽りは。
今、お姉ちゃんは過去の経験から、その時の不安をまだ引きずっている。 経験の内容までは分からないけど、そんな感情だけは伝わってきた。
そして、お姉ちゃんならなんとかできるかもしれない考えを話していないって事も。
((それも伝わっちゃうんだ……絶対行くって言いそうだったもん))
躊躇いと共感に心が揺れる。
心配してくれているのは嬉しいよ? でもここで止めて、一人でいるレムリアさんが手遅れになったら二度と立ち直れない。
やる事は簡単だ、事情を話して誰かに付き添ってもらい、レムリアさんを保護してここに避難すればいい。 いつまで持続しているか知らないけど、外が明るい今なら不可能じゃない筈だ。
私達だけで全てを解決しなければいけないルールなんて無いんだし。
((何で一緒に行く前提なのかなぁ……))
となると問題なのは、どうやってそれをシスターちゃんに伝えるかだけど。
喋れる単語は少ない、更には喃語限定のハンデ付き。 加えて、1歳児が口にする程度の語彙で察してもらわないといけない。
私にやれるか? ……いや、やるしかない。
「どうしよ……私シスターなのに……」
シスターちゃん、責任感と焦りから抜け出せないでいるようだ。 あまり追い詰められ過ぎると独りで行ってしまうかもしれない。
大人に……は難しいか。
目の前にいるのは走り回っているか、負傷者の手当てに付きっきりの人ばかり。 子供が話し掛けられる雰囲気じゃない。
そもそもレムリアさんが、助けに行かないと危険なほどの状態にあるのかも分からない。 丸メガネさんを信じるなら、家に侵入されるとは限らないし、籠っていれば何処よりも安全な可能性だってある。
「助けに行きたい」だけでは、急を要する人に無理を通して着いてきてもらえる程の説得材料にはなりえない。
私まで、無理に動かない方が良いのではと思えてきた。
(でも……レムリアさんの性格からして、隠れているだけなんて出来るかな?)
レムリアさんはシスターだ。
窓の外で血を流した人が倒れていたら?
まさに今、ゴブリンに殺されそうになっている人を見てしまったら?
出ていって助けようとするかもしれない。 だってあの人は、自分を犠牲にするほど心優しいシスターさんなんだから。
シスターちゃんが恐れているのはそれだろう。
だとしたらどうする、その事を伝えさせる? 場に呑まれ畏縮したシスターちゃんに上手く説明できる余裕があるとは思えない。
無理を通して話しても、子供の心配事を真剣に受け取ってくれる人がいるのだろうか。
さっきも考えた通り、外に出なければほぼ安全なのだ。 それを知っていても飛び出す人がいる事を、この状況で伝えるのは難しい。
お母さんがいてくれれば……
(……………………お母さん?)
そうだ!
「にぃに!」
「えっ? ……エメルナちゃん、なにを」
「にぃにぃ~!」
大人に不安があるなら、歳の近い子供に言えばいい。
親の友達としてレムリアさんと面識があるであろう、職員に信頼されている子供が一人だけいる!
「にぃに! にぃにぃ~!」
「…………ぁっ」
うつむいていたシスターちゃんが顔を上げて走り出す。
丸メガネさんに。
「あの! ネロリくんって何処にいますか!」
「ふぇ? 倉庫で消耗した数を記録してるけど……」
「倉庫どこですか!」
丸メガネさんに連れてってもらい、一階奥の倉庫に着く。 そこでは数人の職員が武器防具の洗浄をし、中にはフローラ兄の姿もあった。
「ネロリくん!」
「どうかし……ってエメルナちゃんまで、何でここに」
あんまり意識させないでほしいなぁ。 置いていかれるじゃん。 気配を断ってみようかな……思いっきり目立ってるけど。
そんなことよりと、シスターちゃんが付き添ってもらえるよう説得する。
聞いて、考え込むフローラ兄と、オーバーリアクションな丸メガネさん。
「大変じゃないですか!? 早く助けに行かないと!」
「待ってください、誰が付き添うんですか。 満身創痍で運ばれてきた人ばかりなんですよね?」
そう、それを介抱する職員も含めて人手は空いてない。 動ける者は新しくチームを組んで出ているだろうし。
あとちょっとなのに……
「多分、それなら大丈夫ですよ?」
丸メガネさんに視線が集まる。
「ついさっき診療所の皆さんが到着したので、解毒待ちだった比較的軽傷の方々と、それに付き添っている職員の合計27名が行動出来るようになる頃です。 今なら強力してくれるかもしれません!」
(マジか……なら復帰する前に急がないと)
「行っても良いが、君はここに残るべきだ」
「嫌です、待っていられません!」
やけに強気に食い下がるシスターちゃんに、今しがた治療を終えた自警団の数名が危険を訴える。
実体験なだけに生々しいが、シスターちゃんは一歩も退かなかった。 この子声を掛けるのが苦手なだけで、切っ掛けさえあればグイグイいくのな。
「レムリアさんは私の唯一の家族なんです。 それに皆さんはレムリアさんの顔をご存じないんですよね」
「知らないって訳じゃ……」
歯切れが悪い。 目を泳がせている奴もいる。
(分かるよぉ~……『白いシスター』のイメージが強すぎるんだよね。 あの格好だと髪色も分からないし、今はパジャマ姿だし)
「今のレムリアさんは修道服姿ではない筈です。 もし行き違いになったりしたら、皆さんだけでは誰がレムリアさんか分からないです!」
なんだろう、この説得力……
考えたくないが、道端で倒れている可能性だってありえるからね。 そうなれば彼らだけでの捜索は断念せざるおえない。
倒れている人を放っておくとは思えないけど、最悪の場合はそのまま放置され、私達はいつまでも待ち続けることになる。
最悪の場合じゃなくても、雪の中での真珠色は紛らわしい。 ホッキョクグマみたいに。
結果、「じゃぁ一人ででも行きます!」と言い放った気迫に折れ、私達は自警団に着いていけることとなった。
防寒着を着るために一度机に下ろされ、私にも着せてくれる。
「ちょっと待て、その子も連れていく気か!?」
(あぁ~……さすがにアウトだよね)
潜伏スキルや認識阻害じゃない、ただ黙っていただけなんだから。
お姉ちゃんも半分残念そうだ。
((ここまでね。 大人しく会議室で待――))
「もちろん、連れていきます!」
「「(((えぇぇぇぇぇぇぇ!!??)))」」
私とお姉ちゃん、丸メガネさんにフローラ兄までもがハモった。
良いの!? 両手塞がっちゃうけど。
おじさんも困ってる。
「いくらなんでもその子は……」
「この子、変なんです!」
(んな変な叔父さんみたいに!)
「妙なところで賢いというか……私が動けるようになったのもこの子のおかげなんです。 この子もレムリアさんを心配しています、だから行きます!」
おぉ、ちょっと気になる発言もあったけど、概ね信頼してくれているようで嬉しい。
レムリアさんを心配する気持ちが伝わったのかな。
この子は言っても聞かなそうだ……既に折れていた自警団に、シスターちゃんを納得させる術は持ち合わせておらず。 てか何言われても無視して私を抱え直し「では、お願いします」と無敵状態(脅し)になったシスターちゃんを止められる者はここにはいなかった。
(そうだ!)
良いこと思い付いた。 これなら私でも撃退できるかも。
それが無理でもサポートくらいは可能な筈だ。
……バレないよね?
((う~ん……ゆっくり少しずつなら、1回分くらいは作れるかな))
お姉ちゃんのお墨付きも貰い、丸メガネさんとフローラ兄にお母さん達への言い訳を託し、私達は商業ギルドを出立した。
よし、歩きながら作るか。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。
勇者としての役割、与えられた力。
クラスメイトに協力的なお姫様。
しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。
突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。
そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。
なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ!
──王城ごと。
王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された!
そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。
何故元の世界に帰ってきてしまったのか?
そして何故か使えない魔法。
どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。
それを他所に内心あわてている生徒が一人。
それこそが磯貝章だった。
「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」
目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。
幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。
もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。
そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。
当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。
日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。
「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」
──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。
序章まで一挙公開。
翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。
序章 異世界転移【9/2〜】
一章 異世界クラセリア【9/3〜】
二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】
三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】
四章 新生活は異世界で【9/10〜】
五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】
六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】
七章 探索! 並行世界【9/19〜】
95部で第一部完とさせて貰ってます。
※9/24日まで毎日投稿されます。
※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。
おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。
勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。
ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。
召喚された陰キャの物作りチート異世界ライフ〜家に代々伝わる言葉を入力したら、大量にギフトが届いたんですけど?!〜
橘 はさ美
ファンタジー
田中 遥斗 (タナカハルト) 17歳。
とある高校2年生だ。
俺はいつもクラスの陽キャ共に虐げられる生活を送っていた。「購買の限定パン買ってこい」だの、「出世払いで返すから金貸せ」だの、もう沢山だッ!
――しかしある日、小休憩の時間にいきなり赤い魔法陣のようなものがクラスを襲った。
クラス中がパニックになる中、俺だけは目を輝かせていた。
遂に来たッ!異世界転移!これでこんなカス生活とはおさらばだぁぁぁぁあッ!!
――目が覚め、顔を上げるとそこは中世ヨーロッパのような王宮の中であった。
奥には王様が王座に座り、左右には家臣が仕える。
―乳房の大きい女性が口を開いた。
「あなた達は、我々が召喚しました。この世界は魔王の作り出す魔物でピンチなのです」
そして突然、”スキル水晶”なるものに手を触れさせられる。陽キャ共は強力なスキルを手に入れ、ガッツポーズをする。
⋯次はいよいよ俺だ⋯ッ!
そして空間に映し出される、ステータスとスキル。そのスキルは――”造形”。土属性の物の形を変えるスキルだ。
「お、お前、”造形”とか⋯粘土こねるだけじゃねーか!www」
クラス中で笑いが巻き起こり、俺は赤面。
王様たちも、ため息をついている。
⋯⋯ねぇ、俺の最強異世界生活はどこ行ったの??
真巨人転生~腹ペコ娘は美味しい物が食べたい~
秋刀魚妹子
ファンタジー
お腹が直ぐに空く女子高生、狩人喰は修学旅行の帰り道事故に合い死んでしまう。
そう、良くある異世界召喚に巻き込まれたのだ!
他のクラスメイトが生前のまま異世界に召喚されていく中、喰だけはコンプレックスを打開すべく人間を辞めて巨人に転生!?
自称創造神の爺を口車に乗せて、新しく造ってもらったスキル鑑定は超便利!?
転生先の両親祖父は優しいけど、巨人はやっぱり脳筋だった!
家族や村の人達と仲良く暮らしてたのに、喰はある日とんでもない事に巻き込まれる!
口数は少ないけど、心の中はマシンガントークなJKの日常系コメディの大食い冒険物語り!
食べて食べて食べまくる!
野菜だろうが、果物だろうが、魔物だろうが何だって食べる喰。
だって、直ぐにお腹空くから仕方ない。
食べて食べて、強く大きい巨人になるのだ!
※筆者の妄想からこの作品は成り立っているので、読まれる方によっては不快に思われるかもしれません。
※筆者の本業の状況により、執筆の更新遅延や更新中止になる可能性がございます。
※主人公は多少価値観がズレているので、残酷な描写や不快になる描写がある恐れが有ります。
それでも良いよ、と言って下さる方。
どうか、気長にお付き合い頂けたら幸いです。
【TS転生勇者のやり直し】『イデアの黙示録』~魔王を倒せなかったので2度目の人生はすべての選択肢を「逆」に生きて絶対に勇者にはなりません!~
夕姫
ファンタジー
【絶対に『勇者』にならないし、もう『魔王』とは戦わないんだから!】
かつて世界を救うために立ち上がった1人の男。名前はエルク=レヴェントン。勇者だ。
エルクは世界で唯一勇者の試練を乗り越え、レベルも最大の100。つまり人類史上最強の存在だったが魔王の力は強大だった。どうせ死ぬのなら最後に一矢報いてやりたい。その思いから最難関のダンジョンの遺物のアイテムを使う。
すると目の前にいた魔王は消え、そこには1人の女神が。
「ようこそいらっしゃいました私は女神リディアです」
女神リディアの話しなら『もう一度人生をやり直す』ことが出来ると言う。
そんなエルクは思う。『魔王を倒して世界を平和にする』ことがこんなに辛いなら、次の人生はすべての選択肢を逆に生き、このバッドエンドのフラグをすべて回避して人生を楽しむ。もう魔王とは戦いたくない!と
そしてエルクに最初の選択肢が告げられる……
「性別を選んでください」
と。
しかしこの転生にはある秘密があって……
この物語は『魔王と戦う』『勇者になる』フラグをへし折りながら第2の人生を生き抜く転生ストーリーです。
【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。
飼猫タマ
ファンタジー
訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。
ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。
そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。
しかし、その悪魔は違う意味で悪魔らしくなかった。
自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。
アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!
前世で眼が見えなかった俺が異世界転生したら・・・
y@siron
ファンタジー
俺の眼が・・・見える!
てってれてーてってれてーてててててー!
やっほー!みんなのこころのいやしアヴェルくんだよ〜♪
一応神やってます!( *¯ ꒳¯*)どやぁ
この小説の主人公は神崎 悠斗くん
前世では色々可哀想な人生を歩んでね…
まぁ色々あってボクの管理する世界で第二の人生を楽しんでもらうんだ〜♪
前世で会得した神崎流の技術、眼が見えない事により研ぎ澄まされた感覚、これらを駆使して異世界で力を開眼させる
久しぶりに眼が見える事で新たな世界を楽しみながら冒険者として歩んでいく
色んな困難を乗り越えて日々成長していく王道?異世界ファンタジー
友情、熱血、愛はあるかわかりません!
ボクはそこそこ活躍する予定〜ノシ
見習いサキュバス学院の転入生【R18】
悠々天使
恋愛
【R18】ただただ主人公が性的に襲われるだけの小説【R18】
21話以降かなりシナリオ重視になっていきます。
《以下本文抜粋》第14話。体育館裏の花蜜
「ほら、早く脱いで!」
渋々、膝のところで引っかかっているスラックスを脱ぎ、ワイシャツのボタンを外す。
外で裸になったのは、いつぶりだろう。
園児くらいの頃に、家庭用の簡易プールで泳いだ時くらいかもしれない。
その時と違うのは、身体が一人前の大人に成長していることと、目の前の美少女の股間を見て勃起していることだ。
風が素肌に当たるが、陽の光も同時に浴びているので、ちょうど良い気温だった。
とても良い気持ちだ。
「セイシくん、何だか気持ち良さそうね。そんな情け無い格好してるのに」
「そうだね、素肌に直接風が当たって良い感じなんだ」
「へぇー、そうなんだ。じゃあ私もなろっかな」
「え? ちょ、それはまずいよ」
ゆかが半脱げのブラウスを脱ぎ、産まれたままの姿になる。
これは、ヘアヌード。
「へ? 何でまずいの? ここまでくれば、何にも着なくても一緒でしょ、うーんしょ、ハイ! 素っ裸、完成っ」
ゆかの裸。白い肌に、揺れる黒髪のボブヘアー。
陽の光で身体の曲線が強調され、まるで天使のようだった。
ゆかが、大きく伸びをする。
「ふぅーっ、すっごい開放感。これ、体育館裏じゃなかったら、絶対不可能な体験よね」
「う、うん、そうだね」
「だねー!いぇーい」
素っ裸で芝生の上を小走りして一回りする美少女。
「ねぇねぇ、芝生の上で、ブリッジするから、見てて」
「え? ブリッジって、体育の時間にやってる、寝転がって足と手でやる、あのブリッジ?」
「そうそう、風と太陽が最高だから」
すごく楽しそうなゆか。
僕は彼女の正面に立つと、たわわな胸に目を奪われる。
「ふふっ、そんなにびんびんのカッチカッチにしちゃって、じゃあ、ゆか様の、華麗なるブリッジをお見せしますよ! はいっ」
ゆかは、立ったままで、ゆっくりガニ股になり、膝を曲げながら、地面に両手を着けて、腰を高く突き出す。
【説明文】
※趣味全開の作品。若干Mの方むけの内容。主人公はノーマル。
両親の都合により、なぜか聖天使女学院へ転入することになった玉元精史(たまもとせいし)は、のちにその学院がただの学校ではなく、普段は世に隠れている見習いサキュバスたちが集められた特殊な学校だということを知る。
注)見習いサキュバス(正式:未成熟な淫魔)とは、普通家庭で唐突に産まれ、自分がサキュバスと知らないまま育った子が多く、自分は通常の人間だと思っている。
入学する理由は、あまりにも性欲が強すぎるため、カウンセラーに相談した結果、この学院を紹介されるというケースが主である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる