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第3部 カレーのお釈迦様
第35話 パエリア、ローストビーフ、デザートには古代メソポタミア風クッキーはいかが? ☆☆☆
しおりを挟むさあ夕食だ。
空気も入れ替わって、そろそろ嫌な臭いもしなくなったし、ファフニール君が持たせてくれたパエリアを温めて……
と思ってバスケットを開けて見たら、無い!
サラダやスープとかはあるけれど、肝心のパエリアが無い!
代わりにメモがあって、几帳面そうなカッチリとした文字で
「パエリアは作り置きはひどく不味くなってしまうので、申し訳ありませんが、ご自分でお願い致します。食材を入れておきます」
だってさ⤵
ありゃりゃ、すぐに食べられると期待してたんだけどなあ。
仕方ない、早速作ろうか。
だってもう、お腹ぺっこぺこ。
バスケットの中にローストビーフを見つけたので、ひらめいて、生クリームにヨーグルトを混ぜておく。
それぞれの割合はお好みだが、今日は時間がないのでヨーグルトを多めで。
更に醗酵を促すために軽く時間魔法をかけておこう。
これを何にするかって? それはまだ内緒。
さてパエリアだ。
ここは久し振りに、美少女すぎる料理研究家、勇者アスラ先生にご登場願いましょうか。
はあい、お久しぶりでーす。今日は美味しいパエリアの作り方をご紹介したいと思いまーす。
フライパンにオリーブオイルをひき、輪切りにしたイカを両面に焦げ目がつくまで焼きまーす。
みじん切りにしたタマネギ、セロリ、ニンニク、薄く輪切りにしたパプリカを加え、タマネギが透明になるまで炒めまーす。
そこに潰したトマトを入れ、水分がなくなるまで中火で煮詰めましょう。トマトは完熟のものがお勧めでーす。
おお! この海老は川エビにしては大きいですねえ。手長エビでしょうか。しかも新鮮で、おが屑の中でまだ動いてますよぉ。ちょっと可哀そうだけど美味しそう。
これを洗って、先ほどのフライパンに入れ、更にムール貝、薄切りにしたソーセージ、水、塩、サフランを加えて強火にかけ、ひと煮立ちしたら具材を取り出しましょう。
残ったスープからは、サフランと具材の何とも言えずいい匂いがしますねえ。
煮立たせたスープに良く洗ったコメをふり入れて、強火で5分ほど、更に弱火で炊き上げまーす。炊く時間はお好みですが、ちょっぴり芯を残したアルデンテになる12・3分がお勧めでーす。
仕上げに10~20秒ほど強火にかけて、わざと「おこげ」を作りまーす。この少々の「おこげ」がぱりぱりと香ばしくって、とっても美味しいんですよ~。
最後に、具材を戻して盛り付けまーす。
くし切りにしたレモンを乗せ、パセリを振って完成でーす。
サフランライスとレモンの黄色、パプリカの赤と緑、それに海老やムール貝、ソーセージなどの具材の色が複雑に映えて綺麗ですねえ。
さあ、召し上がれ。
ということで実食…… と行きたいところだが、その前にオスカル君の食事。
ふふふ、このために、魔王城の貯蔵庫で見つけた犬用の「さいえ〇す・だい〇っと」のドライフードを大量に失敬してきたのだ。
でも、バベル君が後で怒らないといいけど。
(それは大丈夫だろう。猫と犬の餌は見かけは似ていても、かなり成分が違うからな)
え、そうなの?
(猫は肉食の習性が強く残っているから、犬の3倍のタンパク質が必要なのだ)
へー、へー、へーっ(以下略)
(思い浮かべてみよ。犬や狼には植物の葉や根を噛み切る前歯が有るが、猫科の動物にはそれが無いであろう。あれが純粋に肉食の証拠だ。あの犬歯と犬歯の隙間に人差し指を入れてみると、気持ちいいやら、猫が慌てて面白いやら……)
はいはい。とにかく、次はいよいよ人間の食事にしましょうかね。
まずはサラダ。
ファフニール君が持たせてくれたグリーンサラダにひと工夫。オレンジの果肉、軽く茹でたソラ豆、ティアマト農場直送のパイナップルを混ぜ、オリーブオイルとワインビネガー、岩塩、挽きたての黒胡椒で食べましょう。
くーっ! シンプルだけど果物の楽しさもあって、ワインビネガーの酸味、黒胡椒の香りと辛みが全体を引き締めて、これはパエリアに至る食事の最高の前奏曲。
次はコーンクリームスープ。
素朴でありながら滑らかな優しい味が胃を落ち着かせ、食欲を増してくれますよぉ。
ひと粒ひと粒が適度に煮込まれて、ぷっちんだったり、ぷつぷつだったり。そんなコーンの食感も楽しめてる仄かな塩味と甘みの二重奏。
否が応でも次の料理への期待が高まりますねえ。
ローストビーフはステーキ風の厚切りだ。つまりプライム・リブ!
もちろんオードブルっぽい薄切りでもいいんだけど、今日は長時間の移動で少し疲れたからねえ。がっつり食べて明日からのエネルギーを補給しよう。
添えてあるソースに、ここで先程の生クリーム&ヨーグルト登場。
実はこれは即席のサワークリーム。
少なくとも半日か、できれば1日ぐらい寝かせておくと上手い感じに醗酵して固まるんだけど、今日は魔法でズルをした。
ナイフで切ったローストビーフにソースとサワークリームをつけて食べると、予想通り絶妙の味!
うーん、肉の旨味はもちろん、野菜の味が溶けた濃厚なソースにサワークリームの爽やかな酸味が加わって、これはやっぱり肉料理の王様だね。
パエリアも見た目が鮮やかな上にトマトやソーセージや魚介の味がコメに沁み込んで、我ながら上出来だ。
コメは長粒種だけど、こんな風に料理したらオリーブオイルやサフランとの相性もバッチリ。ふわっと軽くぱらぱらで、しかも絶妙のアルデンテ!
海老の頭から出た味噌の風味も微かにあって、イカやムール貝の具材はそれぞれが違う旨味や食感を楽しませてくれて…… うん、これは料理コンクール(!?)に出したいほどの逸品だな。最高のクライマックス!
よーしよし。あの何でもかんでも文句たらたらのイシュタルまで、なぁーんにも言わずに一心不乱に食べてるぞ。
最後はデザートです。余韻を残して楽曲を終えましょう。
さあてイシュタル様、超古代を思い出させるメソポタミア風クッキーは如何でしょう。
まずバナナをボウルに入れてスプーンで潰しまーす。
そこにお湯で戻し小さく切ったデーツと、やはり小さく切ったマンゴー、それに大麦粉と溶かしバターを加えて混ぜまーす。
出来上がった生地を一口大に取り分けて細かく砕いたナッツをまぶし、シートの上に延ばしてオーブンで20分ほど焼けば完成でーす。
今日は少し厚めの、しっとりとした感じに仕上げてみました。
あっちっち。このまま食べても、少し冷ましてからでも、その辺はお好みで。
お味のほどはどうでしょう?
これが出て来た時のお子ちゃま2人の驚いた顔ときたら!
まあね、超古代の「あらぶ」地方は故郷(?)だからね。
メソポタミアは砂漠地方だから塩害が酷くって小麦が育ちにくいそうだ。だから超・超古代の粘土板に残されたというレシピに倣って大麦粉のクッキーにし、これも故郷を思わせるデーツを入れて、そこに古代は手に入らなかった砂糖じゃなくて、自然な甘みと華やかさを感じさせる果物を加えてみた訳だ。
我ながら工夫したんだぞぉ。
最初はポカーンと口を開けて、でも、ひと口食べると後は止まらない。
あっという間に大量のクッキーが消えてしまった。
もちろんオスカル君も「さいえ〇す・だい〇っと」を完食。
なにしろ巨体だから、大型犬の1か月分をペロっと食べてしまった。
食事を堪能したら後はお風呂に入って寝る!
だって明日も忙しそうだもの。
と、ここでオスカル君がひと言。
「で、ではぁ、外で見張りを……」
「そんなこと、必要ありません」(わ・た・し・談)
「し、しかしぃ、狼が皆様と一緒に家の中で寝るという訳にはぁ……」
「結界が張ってあるから見張りは不要。それに、仲間なんだから、ひとつ屋根の下で寝るのは当たり前でしょう。せっかく洗って清潔になったんだから、外で寝るなんて許しません!」
「ぁ、ありがとうございますぅ……」
とか何とかでオスカル君は居間の敷物の上、私たち3人はそれぞれの寝室に向かう。
まずは私専用の浴室でお風呂だ。
はあぁ…… ゆったりと気持ちいーい!
ここで予想通りイシュタル嬢の大声が聞こえる。
「何よお、この子供っぽい部屋ぁ!」
ぷぷぷ。ちょっと意地悪して、彼女の部屋はピンクの壁紙に花柄のベッドカバー、熊さんのヌイグルミ、あれもこれもメルヘン趣味にしておいたのだ。
ゴスロリ好きのイシュタルは、そりゃあやっぱり、お気に召さないよね。
ざまーみろ。やっと少しスッキリした。
天蓋付きのベッドに横たわってのんびりと、おやすみなさーい。うーん…… ZZZzzz……
ところが翌朝、目を覚まして居間に居りて行くとオスカル君が言う。
「ヒト族の軍に動きがあるようです……」
えっ!
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