69 / 108
第3部 カレーのお釈迦様
第10話 神と天使とオードブル ☆☆
しおりを挟むねえ、心の声さん。私って何を考えればいいんだろう?
(我が知るものか! それこそ、何を考えればいいか、自分で考えろ)
だって、公爵家を飛び出す前のこととか、冒険者になってからのこととか、一通り思い返しちゃって、もう何もないんだよぉ!
(当たり前だ。ほんの十数年の人生を振り返っても、たかが知れておる。それよりも他に考えるべき重要な事があるだろう)
例えばどんな?
(これから先の事だ。例えば神を名乗る者や天使についてとか)
あ、それはいいや、パス。全力で遠慮しときます。
(何故だ? 夢の中では自称神に食って掛かっていたではないか)
ああ、あれはたまたま目の前に、きっとコイツはって奴が現れたから、とりあえず文句は言っとかなきゃって思っただけで……
ん? でも、私まだ、心の声さんに夢の話なんかしてないはずだけど。
何で知ってんのかな~?
(そ、そ、それはあれだ。我はお前の心の中に住んでいるのだから、どんな夢を見たかも多少は分かるのだ。むにゃむにゃ……)
ふーん、なんか声に狼狽が感じられますけどぉ。
やっぱりねぇ。
(とにかくだ! 魔王になったからには、神や天使、ヒト族を相手に戦う覚悟を決めたのではないのか?)
あれ? 私、ヒト族全体の敵になったつもりはないよ。
(どういうことだ?)
いやー、教会やヒト族の街の息苦しい雰囲気よりも、魔族の自由な空気の方が好きだからね。それで魔王なんかにもなっちゃったけど、だからって別にヒト族全体を憎んでるんじゃないから。
まあ、教会や兵士とは戦わなきゃいけないだろうけど、関係のない民間人まで殲滅する気はありませんって。
(ふーむ。では神や天使についてはどうなのだ)
あ、それも考えても意味が無いよね。
だって、私、もう完全に目をつけられてるみたいだから、放って置いても向こうから戦いを仕掛けてくるんでしょ。だったらこっちも戦わないと仕方がないじゃん。まあ、成るようになりますよ。
(不安は無いのか?)
ないよ。
(相手は神を名乗る者や天使だぞ)
別にぃ。だから何なのさって感じぃ。
私って、そんなものに対する畏敬の気持ちが無いからね。
それに……
(それに、何だ?)
造物主って、教会が言う神様みたいに心が狭いものなのかなあ?
(何だと?)
だって、親が子供に「自分は親だから偉いんだぞ」とか「尊敬しろ」とか言う?
そんなこと、わざわざ言わなくたって親は親じゃん。親子の情愛や尊敬って、そんな強制や威嚇から生まれてくるものじゃないと思うんだよね。
なのに教会が言う造物主は、自分を崇めろとか、あれをしろ、これをするなって口うるさいし、あげくの果てには、魔族が自分の思い通りにならないからって、新たにヒト族を創って滅ぼしにかかるとか、万能の造物主にしては妙に小者臭がするんだなあ。なんで?
もしかして毒親?
どうして造物主は勝手に生物や人間を創るの?
望んでもいないのに出来ちゃった結婚(!)、とは違うよねえ。相手が居ないもの。
崇めて欲しいから?
(うーむ……)
まあ、造物主とか何とかは置いといても、とにかくイタい迷惑野郎であることは間違いないよね。
結論。そんなヤツはオシオキですよ。
(神にオシオキか!)
そうそう。
それに、私たちが勝てば、ヒト族もそんなヤツの洗脳から解放されるわけで、そうすればヒト族のためにもなるでしょ。
あのさあ、本当は心の声さんもゼブルさんも、自称神や天使が何者かっていうのは当然わかってるんでしょ?
(何だと?)
でも、それをあえて私に言わないってことは、今はまだ無理に知る必要はない、いずれ嫌でもわかるってことだよね。
(むむむ……)
だから私も今は聞かないし、考えません。
(ふーむ、一応は考えないように考えてはおるのだな)
まあね。
(しかし、相手の事を知らないで、戦術や戦略が立てられるのか?)
あ、それも、苦手だからパス。
(苦手? パス?)
だって、全然わからないもの。
でも、そういうのはゼブルさんとか、得意な人がいるわけでしょ。
だから私は余計な口は挟まないで、その人たちのことを信じてデーンと構えて、後は自分じゃなきゃ出来ないことをやるだけです。えへん。
(うーむ、大物なのかバカなのか……)
とかなんとかで、心の声さん相手にけっこう暇を紛らわすことができた。
後は、暫くするとふーちゃんが目を覚ましたので遊んでやったり、ゼブルさんが来て飛蝗と鼠のせいで起こった被害の状況を説明してくれたり。
やはり穀物がかなり喰い荒らされて、街も近隣の村も食糧事情が良くないのだそうだ。幸いに城の食糧庫は無事だったので、それを放出すれば取りあえずは何とかなるらしい。
ただ、火事のせいで家を失った人も相当数いて、近衛軍が食事と寝る場所を提供しているのだが、その食事が不味くって不満が出ているらしい。
まあね、魔王城のキッチンがあれだから、軍の食事が美味しい筈はない。
明日の最初の仕事はこれかなあ。
この際だから火事の被害者だけじゃなくて、軍の食事も一挙に改善して……
なんてことを考えてると、夕刻近くになってルドラ君とソフィアさんが一緒にやって来た。
ルドラ君はお父さんを相手に武技の特訓中らしくって、見るからにボロボロ。
ソフィアさんはガイアさんに言われて無詠唱での魔法の練習中、具体的には長時間集中しての瞑想だそうで、見るからに頬がこけて神経が参ってる感じ。
二人とも話もそこそこに、早々に自分たちの部屋に帰って行った。
そしてやっと夕食だ。
まずメイドさんが運んで来たのはオードブルの殻付きの牡蠣。
これが3つ、小さめのお皿に乗っていて、魔王城は海からは遠いから生牡蠣は鮮度に心配が…… なんて思ってたら、なんとシャンパン蒸し!
シャンパンとバターのいい香りがして、上には軽く香草が散らしてある。
食べてみると、蒸し具合も中までちゃんと火が通ってふっくらの仕上がり。
生臭さも全くなくって、でも牡蠣独特の磯っぽい旨味がたっぷり。
うーん、これは、この後に出てくる料理も期待できるぞぉ!
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
GAME CHANGER 日本帝国1945からの逆襲
俊也
歴史・時代
時は1945年3月、敗色濃厚の日本軍。
今まさに沖縄に侵攻せんとする圧倒的戦力のアメリカ陸海軍を前に、日本の指導者達は若者達による航空機の自爆攻撃…特攻 で事態を打開しようとしていた。
「バカかお前ら、本当に戦争に勝つ気があるのか!?」
その男はただの学徒兵にも関わらず、平然とそう言い放ち特攻出撃を拒否した。
当初は困惑し怒り狂う日本海軍上層部であったが…!?
姉妹作「新訳 零戦戦記」共々宜しくお願い致します。
共に
第8回歴史時代小説参加しました!
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
[恥辱]りみの強制おむつ生活
rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。
保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。
名前を書くとお漏らしさせることが出来るノートを拾ったのでイジメてくる女子に復讐します。ついでにアイドルとかも漏らさせてやりたい放題します
カルラ アンジェリ
ファンタジー
平凡な高校生暁 大地は陰キャな性格も手伝って女子からイジメられていた。
そんな毎日に鬱憤が溜まっていたが相手が女子では暴力でやり返すことも出来ず苦しんでいた大地はある日一冊のノートを拾う。
それはお漏らしノートという物でこれに名前を書くと対象を自在にお漏らしさせることが出来るというのだ。
これを使い主人公はいじめっ子女子たちに復讐を開始する。
更にそれがきっかけで元からあったお漏らしフェチの素養は高まりアイドルも漏らさせていきやりたい放題することに。
ネット上ではこの怪事件が何らかの超常現象の力と話題になりそれを失禁王から略してシンと呼び一部から奉られることになる。
しかしその変態行為を許さない美少女名探偵が現れシンの正体を暴くことを誓い……
これはそんな一人の変態男と美少女名探偵の頭脳戦とお漏らしを楽しむ物語。
タイムワープ艦隊2024
山本 双六
SF
太平洋を横断する日本機動部隊。この日本があるのは、大東亜(太平洋)戦争に勝利したことである。そんな日本が勝った理由は、ある機動部隊が来たことであるらしい。人呼んで「神の機動部隊」である。
この世界では、太平洋戦争で日本が勝った世界戦で書いています。(毎回、太平洋戦争系が日本ばかり勝っ世界線ですいません)逆ファイナルカウントダウンと考えてもらえればいいかと思います。只今、続編も同時並行で書いています!お楽しみに!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる