64 / 108
第3部 カレーのお釈迦様
第5話 名前をつけよう
しおりを挟むすると鳥は羽根を広げ、大きくはばたいて宙に浮いた。
そして空中で、ぴーっ、ぴーっと甲高く連続して鳴く。
なんだか、飼ってもらえると聞いて喜んでるみたいだ。
もともとが獣王の部下の細胞だから、言葉がわかるのかな?
でも、鳥に生まれ変わってまだ3日の子供だから、飛ぶのに慣れてないみたい。
右と左の羽根の使い方が不揃いで、いかにもぎこちない。
部屋中をふらふらと、あっちにぶつかったり、こっちにぶつかったり。
でもこれでやっと私は上体を起こせるぞ。
と、ここで、それまで黙っていたバベル君がベッドの上にぴょんと飛び乗って、私の脇から抗議を始めた。
「アスラ様。こんな鳥を飼うのはやめるのである。獣王の部下の細胞の生まれ変わりなんて、吾輩、やっぱり信用できないし、それにコイツは悪いヤツなのである。つい先程も……」
その話を聞いたからだろう。鳥は今度は怒ったような更に甲高い「ぴーっ」の声と共に、その足の爪と嘴でバベル君を攻撃にかかった。
これに対してバベル君も
「あ、コイツ、吾輩に対して生意気なのである。シャーッ!!」
とか、猫科特有の擦過音っぽい威嚇の声と共に、後ろ脚で立ち上がり気味に、左右連続の猫パンチで応戦する。
おーっ、顔が逆三角形になっちゃってるよ。
これは相当怒ってるな。
猫と鳥の戦いなら、普通は猫の方が強いんだろうけど、なにしろ子供とはいえ大型の鳥なんで、意外といい勝負だ。
そんな互角の勝負が1分あまりも繰り広げられて、私のベッドの上に羽毛と毛が飛び散らかった。
見かねたガイアさんがバベル君を、ゼブルさんが鳥を取り押さえてくれた。
でも
「放して下さいなのだ、ガイア様。コイツに思い知らせてやるのである。シャーッ!!」
「ぴーっ、ぴーっ!!」
なんて、双方とも背後から抱きかかえられながら、まだまだ戦意旺盛だ。
あ、そうだ! この鳥に名前をつけなくちゃ。
それで私は聞いた。
「ゼブルさんなら知ってるんじゃない。この鳥は、何ていう種類なの?」
「自然発生した鳥類ではありませんから、わたくしにも正直わかりかねますなあ。オウムやインコなどの南方の鳥類に少し似てはいますが、それよりも、もう既に遥かに大型ですし。しかも生まれて僅か3日でこの大きさならば、成長すれば相当の巨大な姿になるでしょうし。伝説の巨鳥ならば、ガルーダ、ロック鳥などが有名ですが……」
おお、ガルーダか! とすれば名前は「ガッちゃん」だね!
いやいやいや、さすがにそれはマズいだろ。
ロック鳥は少しネームバリューに欠けるかな。
「なぜ、そのような事をお聞きになるのです?」
「だって、いつまでも『鳥』って呼ぶ訳にはいかないでしょ。仲間にするんなら名前がなくちゃ。その参考にしようと思って」
これを聞いてバベル君が
「名前?! ヒドいのである。吾輩の名前はなかなか覚えてくれなかったのに」
と、ガイアさんに抱えられたまま、がっくりと首をうなだれる。
鳥は勝ち誇ったように、また「ぴーっ、ぴーっ」とご機嫌だ。
それには構わずに
「他は、有名どころだと、鳳凰とかフェニックスとか」
と、ゼブルさんが続ける。
鳳凰かあ。中国っぽい鳥には見えないしなあ。
フェニックスは炎に飛び込んで生まれ変わるってイメージからか、何だか赤っぽい鳥の感じがするぞ。この鳥の羽根は、もっと南の国の、森林の奥にある湖の色っぽい緑……
私は考えた末に言った。
「よし、決めた!」
「ほう、何になさいますか?」
「妾も興味があるぞ。どのような名前にするのじゃ?」
「緑色だし、獣王の部下の細胞が 生まれ変わった 鳥だから、グリーンフェニックス 999号。略して『ふーちゃん』です。『ふー』 はフェニックスのフ」
「「「はあ?」」」
あれ、何か文句ある?
「いや、アスラ様…… わたくしが思うに、グリーンフェニックスは良いとしても、999号はマズいのではないかと。確か旧文明の『あにめ』に、そんな名前の宇宙列車、銀河特急が出てきたのではないかと」
「じゃあ999はやめて、007号はどうよ?」
「いやいや、アスラ。それは妾でも知っておるぞ。世界的に有名なスパイ映画の主人公であろう。それではますますマズいのではないか?」
「いろいろ面倒くさいなあ。じゃあ001号でいきます。これなら問題ないでしょう。えへん!」
すると二人と一匹は、なんだか顔を見合わせて、小声で
「まさか、鳥の名前にナントカ『号』とか、ネーミングセンスが酷いにも程があるのじゃ」
「常識を疑われますな」
「吾輩、アスラ様に出会う前から名前があって良かったのである」
とか言ってるけど気にしない。
鳥はゼブルさんの手元を離れて飛んできて、私の頬に頭をスリスリして、喜んでるみたいだし。
私は鳥に言った。
「さあ、今日から君の名前は『グリーンフェニックス001号』、略して『ふーちゃん』だよ。いい名前でしょう。もちろん気に入ったよねえ」
「ぴー、ぴー、ぴーっ」(喜・喜・喜)
ということで、鳥の件は落着。
と思ったら、バベル君から懇願があった。
「では、この鳥を飼うのは仕方ないとして……」
「ただの『鳥』ではありません。『ふーちゃん』です!」
「ぶすーっ。では、その『ふーちゃん』を飼うことに関して……」
「『飼う』のではありません。『仲間にする』のです」
「ぶすぶすーっ。では『仲間にする』ことに関して、吾輩からアスラ様へ、どうしても聞いて欲しいお願いが有るのである」
それは ――――
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
GAME CHANGER 日本帝国1945からの逆襲
俊也
歴史・時代
時は1945年3月、敗色濃厚の日本軍。
今まさに沖縄に侵攻せんとする圧倒的戦力のアメリカ陸海軍を前に、日本の指導者達は若者達による航空機の自爆攻撃…特攻 で事態を打開しようとしていた。
「バカかお前ら、本当に戦争に勝つ気があるのか!?」
その男はただの学徒兵にも関わらず、平然とそう言い放ち特攻出撃を拒否した。
当初は困惑し怒り狂う日本海軍上層部であったが…!?
姉妹作「新訳 零戦戦記」共々宜しくお願い致します。
共に
第8回歴史時代小説参加しました!
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
[恥辱]りみの強制おむつ生活
rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。
保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。
名前を書くとお漏らしさせることが出来るノートを拾ったのでイジメてくる女子に復讐します。ついでにアイドルとかも漏らさせてやりたい放題します
カルラ アンジェリ
ファンタジー
平凡な高校生暁 大地は陰キャな性格も手伝って女子からイジメられていた。
そんな毎日に鬱憤が溜まっていたが相手が女子では暴力でやり返すことも出来ず苦しんでいた大地はある日一冊のノートを拾う。
それはお漏らしノートという物でこれに名前を書くと対象を自在にお漏らしさせることが出来るというのだ。
これを使い主人公はいじめっ子女子たちに復讐を開始する。
更にそれがきっかけで元からあったお漏らしフェチの素養は高まりアイドルも漏らさせていきやりたい放題することに。
ネット上ではこの怪事件が何らかの超常現象の力と話題になりそれを失禁王から略してシンと呼び一部から奉られることになる。
しかしその変態行為を許さない美少女名探偵が現れシンの正体を暴くことを誓い……
これはそんな一人の変態男と美少女名探偵の頭脳戦とお漏らしを楽しむ物語。
タイムワープ艦隊2024
山本 双六
SF
太平洋を横断する日本機動部隊。この日本があるのは、大東亜(太平洋)戦争に勝利したことである。そんな日本が勝った理由は、ある機動部隊が来たことであるらしい。人呼んで「神の機動部隊」である。
この世界では、太平洋戦争で日本が勝った世界戦で書いています。(毎回、太平洋戦争系が日本ばかり勝っ世界線ですいません)逆ファイナルカウントダウンと考えてもらえればいいかと思います。只今、続編も同時並行で書いています!お楽しみに!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる