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第1部 ルシフェルって? 教会って?

第10話 ツッコミどころ満載なんですが(バベル君、再登場)☆

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 これって完全に迷走してね?
 頭おかしいんじゃね? 言いたかないけど。

(ならば言うな)

 ファンファーレ終了と共に、広ーい玄関ホールの中央に吊ってある大きなくす玉が割れ、派手に紙吹雪が舞った。
 垂れ幕には「はっぴい・ばーすでい」の文字。
 え、誕生日、誰の?

 天井からは無数の色とりどりの傘が逆さまに吊り下げてある。
 これはかつて「おらんだ」っていう国にあったらしい有名なお祭りだ。
 でも、屋内に傘って意味あるの?

 正面には大きなモミの木があって、クリスマスの華やかな飾り付け。
 でも、銀の星や金色の球、赤いブーツと一緒に、願い事らしきものを書いた紙、たぶん七夕たなばたの短冊みたいなものが下げてある。なんで?
 で、読んでみると、「ステキな彼氏ができますように」「ダイエット成功しますように」とかあるのと一緒に、「これを読んだ人は、7日以内に同じ内容の手紙を友人30名に出さないと不幸に……」とか書いてあって、ますます意味不明。

 部屋の両脇には立派な雛段ひなだんが幾つも据えてある。
 灯りをつけましょ雪洞ぼんぼりにーってね。
 男雛に女雛、下の段にはどういう訳かダルマさんや福助人形。大小のクマのぬいぐるみ、金髪や明るい茶色の髪にちょっと怖い顔のビスク・ドールが並んでる。

 壁には誰なのかわからない肖像画が何枚も掛けてある。
 描かれているのは痩せた泣き顔のピエロだったり、白い軍服を着た男性の首から上が大口を開けて笑ってるロバだったり。
 白塗りの顔に目の周りを真っ黒に化粧して、長髪をツンツンに突っ立てた男の人が、長ーい舌を出して右手の中指を立て、なかばニヤッとしてこっちをにらんでる絵を見た時は、なぜだろう、ちょっとムカついた。

 拍子木ひょうしぎが鳴り太鼓の音が何度も響いて、半裸の太った男性が何人も、わらわらと現れた。
 変なヘアスタイル、と思ったら、ああ、これはあれだ、「じゃぱにーず・ちょんまげ」だ。ということは腰に巻いてるのは「マワシ」だね。
 で、そのお相撲さん(!)たちが揃って右足を高く上げ、「シコ」を踏む。
 続いて左足。
 それから軽やかにくるくると、つま先立ちで三回転しては再び正面を向き、両脚を開き腰を落として、皆で低い大声で合唱。

「いらっしゃいませ、

 おう、スモウ・ダンサーズ。
 「シュール」って言葉が説明付きで頭をよぎる。

 シュールとは
 ① 基本はありえないことだが、あったら怖いこと
 ② 現実をありえない形で皮肉ったもの
 ③ 実際に起きてはいるが非日常的な光景

 だそうだ。
 この場合、当てはまるのはやっぱり ③ かなあと思うけど、定義 ① の「怖い」もある意味で捨てがたい。でも ② の「現実への皮肉」を狙った演出だったら深いなあ。なんて、そんな訳あるかい!

(今のは少し笑えたぞ)

 あ、そう? 
 やっぱり、ひとりノリツッコミがお好きなようで。


 てくてく。てくてく。
 執事さんに案内されて暗く長い廊下を歩いて行くと、うっすら青白く光る半透明の立体的な人影が幾つも、揺れるように優雅に踊っていた。

「これも当店、おっと、当城自慢の、魔石の力による幽霊の三次元映像でございます」

 ってるねえ。
 どこからか女性の、エコーのかかった甲高い笑い声まで聞こえてくるよ。

「おーほっほっほっ、うっ、…… 失礼しました。おーほっほっほっ」

 技術力があるなら録音にすればいいのに。仕事とはいえ大変だなあ。
 私は壁に見つけた小型のスピーカーに向かって言いたくなった。どうぞのどを大切に、あまり無理しないでください。
 てくてく。てくてく。


 重厚な両開きの木の扉には、あーらら、「おいでませ魔王楼」とか書きなぐってある暴走族風?。ということは、ここが来客用のダイニングルームだな。
 ついに来ちゃった。
 扉の前に先刻の黒猫さんが行儀良くお座りして「ちょこん」なんて待っていてくれた。

「お出迎えかあ。ありがとう。猫ちゃん偉いねえ」
「猫ちゃんではない。言ったであろう。従魔筆頭のバベルである」
「ああ、そうだったねえ」
「何だ、その間の抜けた喋り方は。もしかして少々頭が弱いのか? だから吾輩の名前も覚えられないとか」

 うっ、否めない。

(ふふん、痛いところを突かれたな)

「やはりヒト族の公爵家など大した事ないのである。娘の教育が行き届いていないのである」

 あ、この猫までまた。黙れ、余計なことを言うんじゃない。

「え? 公爵家って何のことだ?」
「ん、公爵家、娘? 誰が?」
「え、えっ? 別にそんなこと聞こえませんでしたけど。空耳じゃ? 『空』がエアーで『耳』がイアーで、『エアー・イアー』なんちゃって。いやぁー・いやぁー、あっはっは。あ、そう言えば、紅玉こうぎょくっていうリンゴと男爵っていうジャガイモがあって、これを交配すると紅玉男爵芋、略してって美味しそうですよね! リンゴの甘酸っぱさとジャガイモのホクホク感が一緒になって……」

(いかにも苦しいな。ジャガイモとリンゴが交配できるものか)

「お前、いきなり何を訳の分からない事を言っておるのだ。変な奴なのである。まあ良い。魔王様の客人であるから、今日のところは吾輩の名前の件は大目に見てやろう。ところで、吾輩がここで待っていたのは他でもない、昼食を共にしようと思ってな」
「猫ちゃ、じゃない、ええと、『』さんだっけ」
「そうそう、吾輩は豪華ブランド志向世代垂涎すいぜんの超超超優良血統黒猫。ワンレン・ボディコンの綺麗なお姉さんもついうっとり。ソバージュに太眉の贅沢ぜいたく大好きお嬢さんたちの憧れの的…… 貴様、何故それを知っている⁈」

 はぁ。

(おい、ツッコミはどうした?)

 意図的にやってんでしょ。
 つまんないし、今、テンションだだ下がりだし、どう突っ込めと?
 まさか、羽根の付いた扇子持って踊れジュリアナ東京って、知ってる?とか、ケータイ持つ手つきして「シモシモォ」とかやれと?
 そんな恥ずかしい真似するぐらいなら、舌噛んで死んだ方がマシだわ。

「で!」
「ん、何だ。ノリが悪いぞ。頭が弱いと言われて怒ったのか? だったら正直過ぎて申し訳ないことをした。失礼致しましたである」
「うー(怒)、そういうことじゃなくて、あなたはナイフやフォークは使えるのかって聞いてんの!」

(おっ、「あなた」とは、名前を言わずに上手く逃げたではないか)

「吾輩はそのような無粋ぶすいな道具は必要としないのだ。皿に盛り付けられたこれに優美に直接かぶりつく、ではなく食すのだ」

 くー(怒)、この猫は、いちいちかんさわる物言いをしやがって。
 で、そのさん(思い出した!)が前足で転がしてみせたのは、なんと缶詰だった。

「これは最近ある遺跡の、経年劣化無縁の貯蔵庫から見つかった高級キャットフード、獣医さんもお勧めの『さいえ〇す・だい〇っと商品名なので、一応は伏字にしてみました』である」
「経年劣化無縁って、収納してあるものが何百年も、何千年経っても腐敗や風化しないってことだよね。ふーん。とすると考えられるのは、空間内の時間経過を止めてあるんだね」
「そういうことである。意外に理解が早いではないか」

 また、この猫は。「意外に」は余計だ!
 でも、いいことを聞いたぞ。
 缶詰のラベルの色が鮮やかなままなことからして、経年劣化がないというのは本当のようだ。
 きっと全ての物質の運動を素粒子そりゅうしレベルで停止させてあるのだろう。
 そして、貯蔵庫内の時間が止められるなら、私の作る亜空間内だって時の流れを止めたり、ゆっくりにしたり、逆に速めたりできるはずだ。
 そうすれば食材の劣化を防いだり、逆に熟成を進めたり、温かい料理は温かいままに、冷たい料理やデザートは冷たいままに……

(やっと気付いたか)

 え、知ってたの?

(当たり前だ。それにしても、お前は食い物のことばかり。もっと他の使い方は思い付かないのか)

 じゃあ教えてくれればいいのに。ケチ!

(全て教えてしまえば面白くないそこかい!ではないか)

 猫ちゃんの高級キャットフード礼賛は続く。

「この『さいえ〇す・だい〇っと』には余計な血合いや内臓、小骨が極力含まれていないので、雑味がなく、食感も良く、猫まっしぐらの美味なのだ。なあゼブル、そう思うだろう」
「確かにバベルさんの申される通り、美味でございました飼い猫が食欲が無かったので食べてみた筆者の実体験から


「はい。それが何か?」
「うーん……」
「あまり美味しそうに食されるので、お願いして一口試してみると、見た目は綺麗な薄茶色のきめ細やかなペースト状で、舌触りはしっとり、かつ濃厚、味の方はもう絶妙な薄味の塩加減と肉の旨味がしっかり感じられて、忘れられない経験でございました」
「その通り。一度これを味わうと、その辺の肉や魚などひどく不味く感じられて、まさしく『猫またぎ』なのだ。しかも脂肪分や塩分も抑えられており健康にも良い」
「きっと小判型に丸めて軽くフライパンで炒めても、炭火で焼いても絶品でしょうなあ。料理のバリエーションも多そうですし、わたくしも一週間程度なら『さいえ〇す・だい〇っと』だけで暮らしていけるかと」
「吾輩はそれは遠慮しておこう。熱い料理は苦手なのでな」

 猫舌かい!
 それにしても、そんなに美味しいんなら私も一度ぐらいは試しに、と思ったら

「「食べるな」」

 怖いお兄さんとお姉さんに怒られてしまいました。
 おかしいぞ。二人には他人の心を読む能力はないはずなのに。

(行動パターンを読まれているのだ。それに顔に出ておる)

 ということで……
 執事さんが重そうな扉を開いて、「どうぞ」と招き入れてくれた。
 広いダイニングルームの中では、何人もの美形の女性たちが忙しそうに立ち働いている。
 皆がお洒落なシェフコートにプリーツの入った背の高い帽子、首にはワインレッドのスカーフタイという、一部の隙も無いいでたちだカッコイイーっ!
 一様にすらっとした長身で、それこそ城の入口に描いてあったようなバニーガール姿だって似合いそう…… って待てよ。

 グランシェフがこんなに何人もいる筈はない!

 それに、やってることは、料理を運んだり食器やカトラリーナイフやフォークですねを並べたりといった、全部がメイドさんの仕事じゃないか。

 その彼女たちがこちらに気付くと甘い声を揃えて

「お帰りなさいませぇ、

 ほーらやっぱりメイドさんだ、!!
 変じゃね?
 メイドはメイドでも、

「あら、どうなされました?」
「え、いや、何でもないです」

 ちょっと呆れてたらメイドさんの一人が話しかけてきたので、慌ててゴマカシておいたちょっとオロオロしましたが

「驚かれたでしょう。でも魔王様がおっしゃるには、古代の『二ホン』っていう国の『アキハバラ』発祥、世界に誇る伝統文化だったそうですわ。これからの時代の『とれんど』は、これに決定だそうです」

 ! 
 遺跡の映像で見たそれとは衣装も違うし、「世界に誇る」、しかも「伝統文化」だとお。
 どこで間違ったんだろう。
 魔王が視聴した時に限って、装置の映像か音声の調子でも悪かったのか、それとも単に理解の問題か?

「とにかく、さあお席へどうぞ、

 ん? 最後に気になる猫の鳴き声みたいなのが。
 椅子いすを引いてもらって席に着くと

「あらためて自己紹介させて頂きまあす。担当のジョセフィーヌ・アントワネットと申しまあす。ジョゼちゃんって呼んでもいいですよぉ。今日の『お・も・て・な・し』がお気に召したら、次回はぜひドーハンお願い致しまあす、にゃんにゃん」

 「ジョセフィーヌ」だとお。しかも「アントワネット」だとお。
 「ジョゼちゃん」だとお。
 そのいかにもいかにもな、いっそ笑えてさえしまいそうな名前は何だあ!

 「お・も・て・な・し」だとお。
 わざとらしく一字ごとに区切って、ゆっくり発音するんじゃない!
 その不吉な言葉で誘致したトーキョーの「おりむぴっく」は、新型コ〇ナウィルスの流行で大変なことになったのを知らないのかあ!

 「ドーハン同伴?」だとお。
 業種が違ってないかあ⁈
 それは夜のお姉さんが、下心ある男たちにお酒を飲ませる接客業だろう。
 何よりも、最後の、ポーズまで取って「にゃんにゃん」は絶対許せーん!

 なんだか頭はくらくら、寒気までしてきたぶるぶるぶる
 これは悪い風邪でもひいたか、それとも未知の暗黒魔法。
 強い魔法耐性のある私に、これほどのダメージを与えるとは……
 魔族の精神攻撃の威力、やはり恐るべし。

(そんな訳あるかい。もうええわ、と、よしよし、だいぶツッコミの呼吸がつかめてきたぞ)

 何が「よしよし」なんだか。



 お待たせしました。次回はいよいよ魔王登場です!
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