上 下
8 / 108
第1部 ルシフェルって? 教会って?

第7話 魔族の街って凄いカオス!(決してヒツジではない、執事登場)☆☆

しおりを挟む


 極彩色の洪水だった。
 大通りの両脇に、派手派手な赤や青や黄色ののぼりだとか看板だとか。
 建物の造りも木造に色とりどりの漆喰しっくいだったり、原色に塗られた煉瓦れんがだったりと雑多で、それらが何かの生物みたいに、隙間なく熱気を持って押し合いへし合いしてるような街並みだ。

 頭上を横切る巨大な赤い幕に白字で

「めりい・くりすます」

 とか、夜空を思わせる紫の背景に三日月のような不吉な黄色で

「はっぴい・はろうぃーん」

 なんて堂々と書いてある。
 そんな季節だっけ。
 それに、「クリスマスプレゼント楽しみだな~」か「ハロウィーン化けちゃうぞぉ~!」か、どっちだよ!

 あれ、幻覚かな? あちこちの屋根の上に鯉のぼりが見えるような。風にたなびく真鯉に緋鯉。
 幻聴かな? 前後左右から火薬の爆ぜる音パンパンパパパパーンが聞こえる。この連続音は西洋風のクラッカーではなくて、ちゃいにーず爆竹。

 通りを行き交う人の格好も、いつか遺跡で観た旧文化の「こすぷれ」みたいで、国も時代もごちゃごちゃ、何でもアリだ。

 突然「どーん」という音が響き、頭上高くに小さな破裂音が連続したと思うと、真昼の空中に緑、赤、黒、黄、青、灰色の煙が花開いて、そして間隔を置いてまた「どーん」の繰り返し。
 音がするたびに、行き交う魔族、獣人、エルフ、ドワーフ、そしてヒト族が一斉に上を見上げて「おぉー」と声を出す。

「いったい何のお祭りなんだろう」
「違いますよ。この街はいつもこうなんです。賑やかでいいでしょ」

 たまたま隣にいた、柔らかそうなキツネ耳のお姉さん決して「ど〇兵衛」の人ではない! もっと美人が教えてくれる。
 あ、どうもご親切に。ありがとうございます。
 てか、お姉さん、その妖艶な光沢のある花柄の衣装は、もしかして、じゃぱにーずキモノと打掛うちかけじゃありませんか。
 前で結んだ帯も白塗りのお顔も、強めの頬紅も真っ赤な口紅も、花魁おいらん姿がまあ良くお似合いなこと。
 素足に黒塗りの高下駄とか、粋ですねえ。
 長ーい煙管きせるまでお持ちなんですか。本格的ですねえ。
 あ、お連れさんはやはり、じゃぱにーずサムライちょっと「傾奇者」風?ですか。

 おや、そちらのお二人さんは、これから舞踏会にお出かけですか。
 男性は青に銀、女性は赤に金色のふち飾りのついた仮面が素敵ですねえ。
 貴族風の長いタキシードにシルクハットも、ウエストを絞ったきらびやかなロングドレスも妖しげで、最高に雰囲気出てますよぉ。

 そこの君、本物のカボチャをくり抜いたランタンを頭にかぶるんじゃない! それは中にロウソクを入れて部屋に飾るものだ。

 おっと、お子ちゃまが不注意に走ってぶつかってきたぜ。
 先の折れた黒い三角帽子の脇から角が覗いてる。魔族だ。
 で、私はつい余計なことを言ってしまった。

「気をつけようね。おお、ミニの魔女っぽいワンピースに黒のマントかあ。いいねえ。決まってるぅ。でもね、ゾンビっぽい不健康な化粧はやめようか青白いファンデとか濃いシャドーとか紫がかったルージュとか。子供はやっぱり健康そうなのがいいなあ」
「ウルサイなあ、クソババア。って知らないの? バーカ」

 ババア! 私が?
 泣くぞ!

(わはは)

 気のせいか向こうでは、とんでもなく露出度の高い衣装に、すっごいハイヒールを履いた、真っ白な肌にとがった耳、きっとエルフのお姉さんが、お尻につけた羽根飾りを激しく揺らしながらサンバを踊っているような……

 うーん、

 言っておくけど、カボスじゃないよ。
 あれは焼き魚とかに絞ってかけると美味しい柑橘類。
 ほど良い酸っぱさと香りで、料理の風味が増すんだよねー。

(つまらん)

 すいません。調子に乗ってスベりました。
 とにかく、そうだよ、料理だよ!
 おい、私、周囲の情景にばかり呆けてないで、食べ物屋チェーック。
 ふふふ、この私に抜かりはないさ。

 軒先の多くが出店になっていて、肉や魚、野菜や果物が並べてあったりする。
 売り子さんたちの大声が、あちこちから耳に響いてくる。

「さあ、今朝捕れたばかりのニジマスだよーっ」
「新鮮な野兎の肉はどうだい。舌がとろけるよーっ」

 うん、ニジマスはシンプルな塩焼きやフライでも、バターと小麦粉でムニエルでも良いよね。
 野兎はシチューがいいかなあ。じっくり火を通せば確かにとろとろの味わい。
 でもね、新鮮なはずのニジマスは直射日光に当たってうろこは既にカラッカラ、目はどんより濁ってる。
 一方の兎の肉はうっすら土埃つちぼこりを被っちゃってるんだよね。
 君たちには食材の管理って概念はないのか!

 煙がもくもく。何の肉かちょっとわからない、謎の串焼き。
 大鍋から湯気がもくもく。のぞいてみると、こっちはモツとトマトの辛みの効いた煮込みだね。真っ赤っか。

「食べていかないかーい。焼きたてだよぉー。柔らかくて、肉汁たっぷりぃー」
「辛さと旨味と、トマトの酸味も溶け合って、ひと口食べたら止まらなぁーい」

 うーん、微妙。ゴメンけど、きっと血抜きや下処理が雑なんだよ。
 何だかキナくさい嫌な臭いがする。
 お腹が空いてたのに、おーい、私の食欲くん、君はどこへ消え去ってしまったんだー。帰ってこーい。
 魔王の料理にも、期待してたはずが、だんだん不安の方が大きくなってきた。

 でもどの店も結構な数のお客さんが並んでる。
 無雑作に置かれた椅子に腰掛けて肉にかぶりついたり、地面に座って皿を抱えて、スプーンですくった何かにふーふー息を吹きかけながら頬張る、右も左もそんな姿で一杯だ。
 熱中、活気、笑い声、そして大らかさや寛容さイイカゲンとも言う。そんなものにかけてはヒト族の街は完全に負けてるみたいだ。

 書きなぐった看板の文字には「酒家しゅうちゃ」「りすとらんて」とか「BAR」とあったりする。

 で、「招福酒家幸せいらっしゃいレストラン」の赤と黄色の店先には、多彩な色の酒瓶が並べて飾ってある。酒屋かい! しかしまあ、これはまだ有りがちな間違いだ。

 重厚な石造りの「りすとらんて・ぐるまんず」の玄関に立てかけてある黒板に、白いチョークでお品書きが書いてある。それはいい。でもそこに、今日のお勧めは「タコヤキ」「マーボードン麻婆丼?」「ワンコソバわんこ蕎麦?」ときた。おい! 店構えと料理のバランスってものがあるだろう。もしかして狙ってんのか? いやいや、それはないよねえ。

 「INAI・INAI・BARありがち過ぎる名前。うう! でも他に思いつかない(作者談)」の店頭には、安らかに目を閉じた豚の頭部が飾ってあって、飴色に焼いた鶏かアヒルが何羽も吊るしてある。えっ、BARじゃないの? でも、それも千歩譲って許そう。
 しかし、店頭に立っている白髪に白髭、薄ーいベージュのスーツに黒のリボンタイ、メガネに笑顔の恰幅かっぷくのいいお爺さんが小さく前へならいをしたような、たぶん「カー〇ル・サン〇ース」の等身大人形実は日本にしかないらしいですよ(これも作者談)、それは何だぁ!
 あっはっは、おまけにその隣には、お約束通り二本足で立って、傘を背負って徳利を持った信楽焼しがらきやきのタヌキだってさ。ちょっと笑えるぅ…… ふざけんな! 

 君たちは整合性とか必然性とかいうものを考えたことがないのか⁉

 武器屋、防具屋、道具屋、薬屋、服屋、靴屋、その他、その他。
 宿屋の元気のいいお婆さんが呼びかけてくる。

「そこの可愛いお嬢さーん。うちの宿は安全、快適ですよー。ぜひお泊りになってくださーい」

 えへへ、「可愛い」「お嬢さん」だって。
 さっきの心の傷が少し癒された。

 しかし隣の肉屋、お前は駄目だ。肉屋の店内で毛皮のコートを売るのはやめなさい! 肉と毛皮の関係屠殺して肉は食用に毛皮はコートに。げげげ! をつい想像してしまうじゃないか。
 花屋よ、バラやコスモスとかの切り花と一緒に、キャベツやブロッコリーを鉢植えにして飾るんじゃない! ナスやトウガラシもあるじゃないか。いったい君は花屋なのか八百屋なのか園芸店なのか?
 それから向かいの服屋も、スキンヘッドの中年男の呼び込みがセーラー服にハイソックスなのはどうかと思う……

 なんだか街中が、みたいだ。

 そんなこんな、心の中で軽く毒を吐き続けながら歩いてたら、前方の人ごみに動きがあった。バウバウバウって、犬の吠え声らしきものが最初は遠くから聞こえたような気がした。
 吠え声は次第に近づいて来て、けたたましさに喧騒がかき消された。
 少し遅れてひづめの音が迫って

「何だ何だ?」

 とかモヒカン氏が驚いてるうちに、犬に先導された随所に彫刻をほどこした黒と金の豪華な四頭立ての馬車が、群衆を二つに割り、私たちの目の前で止まった。
 そうかあ、犬は「馬車が通るぞおー」って注意をうながすためのサイレン代わりなんだね。
 犬も馬も全身が青銅色。それも鎧ではなく魔導で動くゴーレムだ。

「わん! お手」(銀髪メガネ魔法担当嬢・談)
「…………」(ゴーレム犬、ひたすら無言)
「ん、この犬、愛想ない」

(ゴーレム相手に何をしている。この娘、やはり少し天然入ってるのか?)

 うん、少しじゃなくて相当ね。

 すると、馬車の扉がゆっくりと開き

「愛想が無いのではなく、職務に忠実と言って頂きたいですな」

 限りなく黒寄りのチャコールグレー、いかにも質の良さそうな上下をビシッと着こなした、ロマンスグレーの、ナイスミドルよりちょっと年配の細身の紳士中年以降はこれが大切が降りてきた。
 おお、姿も声も渋いねえ。
 周囲から甲高かんだかい「きゃーっ」なんて声が聞こえてきそうだ。
 ま、これはあくまで比喩ね。実際には聞こえませんけど。

「失礼。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

GAME CHANGER 日本帝国1945からの逆襲

俊也
歴史・時代
時は1945年3月、敗色濃厚の日本軍。 今まさに沖縄に侵攻せんとする圧倒的戦力のアメリカ陸海軍を前に、日本の指導者達は若者達による航空機の自爆攻撃…特攻 で事態を打開しようとしていた。 「バカかお前ら、本当に戦争に勝つ気があるのか!?」 その男はただの学徒兵にも関わらず、平然とそう言い放ち特攻出撃を拒否した。 当初は困惑し怒り狂う日本海軍上層部であったが…!? 姉妹作「新訳 零戦戦記」共々宜しくお願い致します。 共に 第8回歴史時代小説参加しました!

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

ドレスを着たら…

奈落
SF
TSFの短い話です

タイムワープ艦隊2024

山本 双六
SF
太平洋を横断する日本機動部隊。この日本があるのは、大東亜(太平洋)戦争に勝利したことである。そんな日本が勝った理由は、ある機動部隊が来たことであるらしい。人呼んで「神の機動部隊」である。 この世界では、太平洋戦争で日本が勝った世界戦で書いています。(毎回、太平洋戦争系が日本ばかり勝っ世界線ですいません)逆ファイナルカウントダウンと考えてもらえればいいかと思います。只今、続編も同時並行で書いています!お楽しみに!

名前を書くとお漏らしさせることが出来るノートを拾ったのでイジメてくる女子に復讐します。ついでにアイドルとかも漏らさせてやりたい放題します

カルラ アンジェリ
ファンタジー
平凡な高校生暁 大地は陰キャな性格も手伝って女子からイジメられていた。 そんな毎日に鬱憤が溜まっていたが相手が女子では暴力でやり返すことも出来ず苦しんでいた大地はある日一冊のノートを拾う。 それはお漏らしノートという物でこれに名前を書くと対象を自在にお漏らしさせることが出来るというのだ。 これを使い主人公はいじめっ子女子たちに復讐を開始する。 更にそれがきっかけで元からあったお漏らしフェチの素養は高まりアイドルも漏らさせていきやりたい放題することに。 ネット上ではこの怪事件が何らかの超常現象の力と話題になりそれを失禁王から略してシンと呼び一部から奉られることになる。 しかしその変態行為を許さない美少女名探偵が現れシンの正体を暴くことを誓い…… これはそんな一人の変態男と美少女名探偵の頭脳戦とお漏らしを楽しむ物語。

処理中です...