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三章、ノストラ

二話、敵だしね

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「っ」

 鼻血がツー、と溢れ出す。拒絶反応だ。

 ————お金ちょっと使うわね? は? 夜ご飯? 知らないわよそんなの。カップ麺でも食べれば?
 ————子供のお金は親のだから少しぐらいは恩返ししなさい!!
 ————うるさいわね!! 少しは私の気持ちを考えなさいよ!! 会話して欲しいとか我儘言うんじゃない!!

「……この子に何か」

 バッ、とコードレスが睨むことでどうにか近付いた主を黙らせることに成功する。

「あ、いえ、そ、その…………その、この、家族、で」
「家族?」

「……ごめん、なさい……元、家族、…。で、す」
「(普通に聞いただけなのですが)」

 見れば何処かやつれて、髪がまとまっていないの中年ほどの女性と、アラカより背が高い女子高生が一人いた。

「(確か片方がアラカの義妹……じゃあこっちは母親、でしょうか)」

 はあ、と溜息を吐くとそれだけで顔を曇らせる。

「その……アラカと、お話がしたくて」
「ほう……壊れた玩具にまだ働けというのですか」

 その言葉にコードレスは敵意を滲ませて告げる。
 隣に酷く怯えているアラカを強引に抱き寄せた。

「折角話しかけてきてくれたのです、要件を聞きましょう。
 きっと、この子をこんなに怯えさせる以上の価値がある話なのでしょう?」

 コードレスは対面の形でアラカを強く抱き締めて、敵意を向ける。

 ニマリ、と笑うが瞳だけは微塵も笑っていなかった。

「そ、れは…・あ、あの……家に帰って、こない、か…。t」
「あ?」

 そのあり得ない言葉に、思わず聞き返すコードレス。

「、……ごめん、なさい」

 その上で、女は曇りきった顔で……そう呟いた。

「少しだけ、会話をしてくれれば、それで」

 その上で更に求めてきた。
 コードレスはアラカを強く抱き締めたまま、瞳を閉じて怒りを抑えて呟く。

「会話を出来る様に、見えますか」

「………………見え、ません……」

 多くの間を開けて、そんなことにすら気付いていなかったのか女は消えるような声で呟いた。

「この人達はどうも君の家族みたいです。
 会話をしたい、と言っていますが……どうしますか?」

 そこで初めて、コードレスはアラカに耳打ちをした。

「君の好きになさい」

「……」

 コードレスのその言葉を聞いてから、アラカはポツリとコードレスにだけ聞こえるように囁いた。

「……この子の口座から引き出したお金の分を返してくれたら会話するかもしれないそうだよ」
「え…………」

 伝言様式でコードレスは口を開く。
 お金を使った分返せ、という要求。とんでもなく優しい提案にも関わらず女は絶望したような顔を浮かべた。

「幾らかは分からないけれど、借りたものは返さないとね。
 借りたまま更に貸せだなんて、あまりにも不公平だろう?」

「っ」

 言葉に詰まる女に、要領えないままコードレスは言葉を続けた。

「これは私の推察でしか無いけれど、これは相当譲歩してる条件ではないかな。
 有体に言って優しすぎる」

 ゆえに、この程度の条件で何故お前らは戸惑っている。と敵意混じりの瞳を向ける。

「(……この子は少し有り得ないほどに善人だ。
  あの方が言ったように……)」

「ぁ、そ、その……」

 ややあって吃りながら、女は声を出した。

「…………わかり、ました」

 それは了承の意思。一筋の希望だというのにその顔は絶望のどん底だ。

「三兆円を……いつ、返せるか分かりませんが……失礼します」
「三兆!?」

 そう、忘れてはいないだろうか。
 アラカは一人で世界を支えており、世界で唯一の魔力生成能力者なのだ。

 つまりアラカとは〝全人類に魔力が行き届くほどに魔力を生成していた〟。


「(魔力を各国に販売したのなら……辻褄も合う)」


 そしてそんな〝唯一の武器〟を無償で提供などすれば各方面で問題が起きるだろうと政府は判断して金銭取引を行なっていたのだ。

 その結果、アラカの口座は相当おかしなことになっていた。

「私も私でクズであるとは自負しているが……凄いな、私以上の屑にここ数日で何人もお目にかかっている……」
「っ」

 コードレスはあまりのぶっ飛びように思わず笑ってしまう。

「ふふ、あはは。凄いな君ら。人の金を、それも三兆とは、どんな使い道だね。
 常識から大きく外れた状況を人は可笑しいと笑うらしいが、なるほどこれがそうか。あはははは」

 顔を曇らせる女に、笑いが止まらないコードレス。

「……ああ、ごめんなさい。ええと、じゃあ三兆円……頑張ってください」
「…………」(ぺこり)

 頭を下げて、トボトボと背を向ける姿にコードレスは確信した。

「(あれ、これ二度と会話できないな……)」

 言った後でようやく二度と会話できないことになったのを自覚した。
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