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40 変身メリッサちゃん
しおりを挟む「おいおい、まさかドール種がいるのか」
私たちが騒がしかったのでマスターがこちらに来た。すると、メリッサちゃんを見て驚いている。
すると ハっとしたメリッサちゃんが弾かれたように言う。
「む、あなたは…!」
マスターを見てメリッサちゃんはいきなり私の後ろに隠れた。
「どうしたの?」
「……この方、錬金術師ですわ……!」
え!?
魔女と共謀してドール種を投売りした!?
「あ、悪の手先…!?」
私の呟きに慌ててマスターが否定する。
「おいおい、まさか錬金術師が全員、そんな奴らだと思わないでくれ! 王都やドゥジエムの錬金術師ギルドが腐っていたんだ」
ギャ、大きい声が響いている。
マスターの声は背の高さに合わせて上から轟くようだ。
「マスターはいい人だよ?」
「……おねーさまをたぶらかそうとしていた方に言われても、説得力に欠けますわ」
あ、メリッサちゃんのジト目。可愛いのでスクショとっとこ。割と貴重だし。
「いや、たぶらかすつもりはないから。魔法具の説明しただけだから」
クロがマスターと伴に力説している。
まあ。そうだよね。
デート商法じゃないよね?
「まあ、確かに錬金術師が今 肩身が狭いのも確かだな…。だがこういう魔法具作りには【錬金】のスキルが必要だから、俺達錬金術師は町に一人はいるさ。そうそう珍しくはないさ。ただ、魔女と共謀した一部の錬金術師のせいで評判は地に落ちた。俺も錬金術師と名乗るのは控えているくらいだ」
そう言ってマスターは肩をすくめた。
「だが、実際に魔女の調剤薬局で働いたことはないし、ドール種を安易に生み出したりはしていない。誓えるぜ。あんなことしたヤツらは、それなりの罪滅ぼしをせんとな」
(んん? 秘匿ジョブの流れ?)
--かと身構えたが、この話題はそこで終わった。錬金術師の秘匿ジョブ発生か、はたまた【錬金】が手に入るかと期待したのに。
だが、彼は意外なものに興味を示した。
それは、割符だ。
私がプルミエのギルド長からもらった、仲間の証。なんの仲間かはまだクエストの詳細聞きに行っていないのでわからないんだけど。
だが、マスターはこれに眼を留めた。
「あんた、その割符を持っているのか…。そうか、よし」
言って彼は懐からネックレスを取り出す。
「これはドール種の嬢ちゃんに身に付けさせてくれ。あんたの助けにもなるだろう…。いずれ、俺達はあんたの力を借りることになるだろうから」
『"ムーンストーンの首飾り"を手に入れました』
思わず受け取ったそれは華奢な鎖に小さなムーンストーンの石のペンダントトップのネックレス。スキル枠がふたつあり、内ひとつは既にスキルが収まっている。
そのスキルは【変化】。
詳細にサイズ調整が付与、とある。しかも。
「おお! 効果が"石化無効"!」
「錬金術師の作る魔法具だからな。それなりの効果さ」
ホワイトベアー戦でこれで苦しめられたから、この効果がどれだけ有難いか分かるわ~。
「いいんですか? こんな高価なものを頂いて」
「勿論だ。それとこれも渡しておこう」
『"魔法具屋イグニスの店の会員証"を手に入れました』
「おおー!」
「これでフェザントだけでもこの店に入れるね」
「うん!」
クロの言葉に私も笑顔になる。このお店素敵だもんね。
ネックレスを早速メリッサちゃんに装着。
メリッサちゃんの胸元に、半透明なムーンストーンが煌く。うん、可愛い。
「【変化】…! これはもしや大きさを人間サイズに変えられるスキル…!」
「知っているの? メリッサちゃん?」
「ええ! ドール種が欲しいスキルのひとつですわ。特にわたくしのように小さいドールではマスターの力になれないこともございますもの。さ、早速使ってみたいですわ!」
きっとー、と夢見るように彼女は呟く。
「大人になって、おねーさまのお力に…!」
彼女は私の手のひらから降りると言った。私もかがんで床に彼女を乗せた両手をメリッサちゃんが降りやすいようにゆっくり近づける。
私の手から降りた彼女は少し離れて緊張の面持ちで、ムーンストーンのネックレスを握りこんだ。
ゴキュ!
私も期待が膨らむよ!
「では、失礼して…。【変化】ーー!」
シュワワワワンと、カラフルなリボン状の光がメリッサちゃんを包んだ。魔法少女の変身シーンか。さすがに裸はないが、眼前がキラキラ光の渦になる。
そして、現れいでたる--は。
「…あれ?」
「小学生…?」
「むむ?」
「お前さんたち、なに勘違いしているんだ? ドール種が人間サイズになっても、大人になるわけじゃないぞ…。成長しないんだからよ…」
後ろから、マスターの呆れた声が聞こえた。
眼前にはリオンちゃんと同じ年頃の、容姿はメリッサちゃんそのものの、人間の子供がいた。
「むむぅ! これは話が違いますわーー!」
「誰からどんな話聞いてたんだよ…」
マスターの突っ込みに、私も彼女の情報源が気になる所。
「むむむ、残念無念ですわ…!」
魔法具屋さんを出て幾度目かのため息を吐くメリッサちゃんを見て、私は苦笑する。
今メリッサちゃんはそれこそ人間の小学生1年生くらいのサイズ。
着ている服装もサイズが自在に変わっていて、これが【サイズ調整】の賜物だね。やっぱ、彼女の服には必要な処置だな。
お人形のような容姿の--というか、人形だけど--彼女は注目の的だ。
「NPC? あんな子ファンシーにいた?」
「あの子、狩人プレーヤーが連れているドール種に似てない? ホラ、いつも空飛んでるアルマジロに乗っている…」
「ええ? だって、大きいよ…?」
「でも、ドゥジエムのイベの姫様の影武者も普通に大きかったじゃない? あれもドール種でしょ」
うおお、ウワサしないで~。
てか、私、狩人プレーヤーで個別認識されているんだな! てか、そういえば、ファンシーで狩人プレーヤー自分以外見たことなかったわ…。さすが、一桁…。
まあ、ステルスアルマジロのジローと1/12サイズのメリッサちゃんは目立っていたもんね…。
イグニスさんの魔法具屋を後にして、私たちは元もとの予定通り、プルミエに向かう。クロも一緒だ。
クロもあの"冒険者ギルドの手紙"を受注したのだ。
メリッサちゃんはせっかく【変化】で大きくなっているのでそのままフィールドへ。魔法具屋さんで金の髪に似合うピンクのリボンと、水晶が先端にはめ込まれたワンド-杖-を購入。いや、只で貰ってばかりもナンなので。リボンはMP20%アップ、水晶のワンドは魔法効果の30%アップだ。効果に見合った高額商品だったが、懐が暖かい内に大きい買い物したい派なので、丁度良かった。
プルミエへのプレーヤーでイモ洗い状態の街道を抜ける。モンスターの奪い合いになるかもと懸念したけど、モンスターの出現率が高かったのと、モンスターレベルも上がっているため、問題なく進めた。
おかげでクロのレベルもサクサクあがったし、プルミエに納めるお肉の確保も出来た。
メリッサちゃんの魔力強化の恩恵も大きく、フィールドボス戦もスムーズだった。
(今回のボスは"灰色熊 アッシュ"だったな。報酬も灰色熊装備。寒さ耐性がないだけで、防御力は大差ないのね)
そのままクロと二人で街道を抜け、プルミエの町の門に並ぶ。
相変わらず列が出来ていたので、灰色熊装備に着替えたクロと雑談しながら順番待ちだ。
「でも驚いた。錬金術師の作る魔法具って、効果高いんだねー!」
上級魔法が手に入らない狩人としては、この効果の高い魔法具は大変有難いのだ。ほくほく。
「上級職だからかな。あの店、ベータプレーヤーも知っている人いなかったんだ。多分ドゥジエムの人形の家解放イベントで解放されたんじゃないかな。これが広まったら、錬金術師の秘匿イベントは人気出そうだね」
「悪いことしないと出てこないジョブでしょ。あんまり、やりたくないかな」
「実際、えーっとハニーさんだっけ? 商人でプルミエで活動しているだけでカルマ値上がるんなら、思ったより出やすいイベントかもね」
そんなことを駄弁っていると、フレンドチャットが入った。
ホノカ:あ~ん、錬金術師の秘匿ジョブ進行しちゃったよーー!
「へ?」
「ホノカさん、カルマ値高かったっけ…?」
一瞬、私とクロで顔を見合す。
フェザント:久しぶりです、ホノカさん。どういう事情?
書き込みにホノカさんではなく、ハニーさんから返信があった。
ハニー:こいつ、ヘルメス商会に騙されて魔女の調剤薬局で働くことになっちゃったのよ。
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