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32 スキルを求めて
しおりを挟むさて、裁縫スキル取得のために町に繰り出した私ですが、目指すのはプルミエの街中ではなく、始まりの町、ファンシー。
裁縫スキルを出現させるには、布で適当にチクヌイするだけで発生するらしいけど、達成条件が防御力「3」必要。
で、気がついた。この破魔のワンピースも防御力「2」しかない。
ただの衣服って、防御力低いんじゃないのかと。
材質や、防御力をあげる、何らかのスキルが必要なのでは、と。
そして折角なら専門家にアドバイスを求めようと閃いた。
そこで、私の師匠、--リオンちゃんですよ。
彼女はおじさんの営む防具屋さんで それこそ、防具職人として実際に使える防具を作っている。いや、ホント、リオンちゃん天才。
なので、まず彼女に相談しようと思いついた。
たのもー! なんちて。
ふざけた妄想しながら とりあえずプルミエからファンシーへの道を駆けることにした。
暗く重々しい雰囲気の残るプルミエの町を横切り、門に向かう。
すると、またあの変な雰囲気の町民がいた。やっぱり門番の衛兵さんはその町民の様子を嫌そうにしていた。しかも、また捕まったよ私。なんだなんだ。
幸い、衛兵さんが また助けてくれた。
けれど、また衛兵さんが気になるワードを口にした。買取頼んだ薬屋さんと同じように。
「ヘルメス商会だからって、なんでも言いなりになると思うなよ…。お前らみたいなののせいで、今に、このプルミエは魔都になっちまうんだ…」と。
--ヘルメス商会…あの町民さんはヘルメス商会員ということかな? 魔都?
私は神獣エオストレーの言葉を思い出す。
『多くの民がこの門からはびこる魔から逃げるため動き出す』
『彼らの生活を脅かした堕ちた放浪者の仲間であるあなたの償い』
(はびこる魔…。そのせいで、プルミエは魔都になるの…? 償う必要のある出来事が、これから起きるの…?)
チリンと どこから聞こえるかわからない不吉な鈴の音を背中に、私はプルミエの門を後にした。
ファンシーへの道は、そんなシリアスな空気を破って、プレーヤーで大混雑でした。ワイワイ。
「ヒャッホー、レベル帯高い! 久しぶりにジョブLv上がっていくぜー!」
「もっと、来い、どんと来い~」
「キャー、すんごいポップ率! プルミエでLv上げ出来る日がまた来るなんて、感無量よね!」
(プレーヤー、悪魔だな!)
NPCさんらが、興奮するプレーヤーを見て、信じられないモノ見る目で通り過ぎていく。
まあ、プレーヤーはキミらをモンスターから助けてはいるのだ。大目に見て欲しい。
そんな私もファンシーまでのこの道々でモンスターをバッタバッタとなぎ倒して、レベルが上がった。
でも、以前より、この道、モンスターのポップ率上がっているような…。
んで、ちょっと強いような…。
それでも苦もなく倒せるのは攻撃力14に上乗せされたスキル称号効果のおかげか、はたまた増えたパーティーメンバーのメリッサちゃんのおかげか。
彼女はジローの背に乗り、呪歌 で私に回復支援してくれる。
回復職いてくれると、めちゃくちゃ戦いやすいわ~。
この程度の敵なら、ジローが鉄壁を誇ってくれるし。メリッサちゃんが防御2でも安心だね。
(で、でも、なんだか、注目されている気がする…)
1ダースの狼を倒したあと、見渡すと周囲に人が集まっていた。
すんごい、気になるんですけど?
狩人なのに、弓で戦っていないから?
【リオンちゃん体術】の使い手は少ないだろうけど、さすがにオーエスの声かけはしていないから。私にも羞恥心はあるのだ。
けれど、さっきからスクショのシャッター音がすごい聞こえるのよ、なぜだ?
どう頑張っても、このファンシーライトオンラインではスカートの中は見えないんだぞ、諸君!
キッと凛々しく振り返ると、彼らの視線の先は、私の後方にあった。
ジロー騎乗のちびっ子親指姫ちゃんだ。
メリッサちゃんが振り向くと、女子の黄色い声があがった。
(う、いや、自意識過剰か、私~。私じゃなくて、コレ、1/12のドールのメリッサちゃんがスクショ撮られているんだわ)
このサイズはもしかして珍しいのだろうか? ファンシーに着いたら確認事項だな。
私、ドール種のこと知らなすぎ。
(ま、まあ、メリッサちゃんも嫌がっていないし いいかあ…)
その後、軽く注目浴びながらも一度来た事ある道のせいか、ファンシーへは迷わず辿り着いた。ここでも、プレーヤーに振り向かれながら、私の初めてのバイト先、武器屋さんへ向かう。
カラカランというベルを鳴らして、ドアを開ける。
始まりの町に今プレーヤーは少ないのか、珍しくお客様はいなかった。
おう、と店にいた武器屋のおじさんは嬉しそうに声をあげた。
「こんにちは! リオンちゃんいますか?」
「おう、狩人の嬢ちゃん久しぶりじゃねえか。今リオンは弟の防具屋に行っているぜ。もうすぐ帰って来るから中で待っていてくれ。今プルミエにいるんだろ? 今日はどうした?」
武器屋のおじさんが にこやかに言う。
「リオンちゃんに相談があって。えっと、この子の防具について相談したくって」
言って私は両手の上にチョコンと座る親指姫こと、メリッサちゃんをおじさんに見せた。
手乗りドールである。
メリッサちゃんは見慣れない場所なので、キョトキョト周囲を見渡している。
「おい、こいつは…、ドール種じゃねえか…。嬢ちゃん こいつはどうした? まさか、買った…のか?」
おじさんの声が険しくなった。
私は久しぶりに人見知り発動し、一瞬硬直する。
それを助けてくれたのは、メリッサちゃんだ。
「まあ、ごきげんよう、ご主人。初めまして。わたくしはおねーさまに名付けていただいた第1ドールのメリッサですわ。誤解なさらないで。おねーさまはわたくしを助けてくださった恩人ですの!」
ハー、と武器屋のおじさんが大きく息を吐く。
(え? ドール種といるのって、マズイの? てか、人権ないって言っていたけど売り買いはタブー?)
デリケートな問題なのかとハラハラする私に、おじさんが頭かきかき詫びる。
「そりゃ悪かったな。いや、俺だって狩人の嬢ちゃんがまさか錬金術師や魔女みたいにドール種に好まない主人を押し付けるとは思わないがよ。最近は望まない主人に仕えるドール種が多いと聞くからな…。武器屋としちゃ、これ以上の恥はねえ…。うちも、ドール種を扱うこともあるからな」
「ええと?」
メリッサちゃんが私に説明してくれる。
「ドール種は実は武具のジャンルですわ! 私たちは、戦うための魔法生物ですの!」
ちょっと、メリッサちゃんが誇らしげ。
(お。おおう、ゲームシステムの都合上ペット枠だけど、この世界では武具扱いなのね。それとも、狩人以外は武具としてドール種が手に入る…? 狩人のペットはスキルの合わせ技だしなあ。どうなっているんだろ?)
そんなことを考えている私に、メリッサちゃんとおじさんの説明が続く。
ドール種はドールマスターを探すため、自らオークションに出ることもあるため、売買自体は問題ないのだと。
そこにドール種の本心からの意志があれば。
だが、欲しがる人間がいれば、価格は高額につりあがる。経済の理よ。
ドゥジエムが解放されて、オークションに放浪者たるプレーヤーが参加出来るようになって、その傾向が強くなった。
長く大橋の向こうに閉じ込められていたプレーヤーは武力だけでなく、経済力も高かった。
彼らはドール種に飛びついた。
錬金術師はこれ幸いと、武具として特殊な立ち位置のドール種を量産し、荒稼ぎを始めたのだ。
もともと、錬金術師たちの腐敗は実は王都の社会問題であったらしい。
特殊なスキルを用い、魔法生物を作り、不治の病も治す彼らは上流階級からの支持も多く、やがて好き勝手し始めた。今回もそのひとつ、ということだ。
そういう背景があったため、放浪者である私もドール種を金にあかせて手に入れたのでは、と武器屋のおじさんは疑ったのだ。
「まあ、俺らも長いこと"人形の家"の実情に気がつかなかったがな」
時期同じくして、ドール種が好まない売買先から逃げ出し始めた。
それが、町の人達の目に付き始めて、魔女が"人形の家"を乗っ取っていることが露見したらしい。錬金術師がそれらと結託していることも。
ドール種がマスターから逃げるという事態は異常事態で、このファンシーライトオンラインのNPC社会的には相当な事件だったわけだ。
「"人形の家"が正しく機能していませんでした。ムリもありませんわ…。でも、魔女も錬金術師も御用になったのでしょう? "人形の家"には以前のご主人が戻るのではありませんの?」
「ドゥジエムの"人形の家"にはな。だが--これを見てくれ」
おじさんは眉根を潜ませ、手に持つ新聞を見せる。
そこには大きく【錬金術師を惑わせた魔女、脱獄!】--と書いてあった。
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