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27 親指姫、お前もか
しおりを挟む私と親指姫が皆の無事に安堵したその時、まだイベント完了していないことに気がついた。体が硬直し、動けなくなっていたからだ。
(イベント…!?)
私は慌てて倒したフィールドボス"山鯨"を見た。
(そう言えば、消えていない…! アナウンスもまだ…!)
このゲームは敵が死亡、または戦闘不能になれば消える仕様だ。イベント時はHPが残っていても極小であればAIが状態で判定して戦闘不能になるみたい。そういう場合はPKを殴ったときみたいに体が残るらしい。
これは姉を通してマーヤさんベータ組の横つながりの情報。
(て、ことは まさかまだ戦闘も終わっていないの…? ノオ…)
私は蒼白だ。せめて、MPとHP回復させて!
祈るように見つめていると、視線がイベント制御で自動的に"山鯨"の頭部、牡丹に定まる。
するとその牡丹から根が現れ、瞬く間に"山鯨"全体を飲み込み、根に包まれた"山鯨"は怪しい黒鉄色の煙となり、根に吸収されていく…。
牡丹が本体かな、コレ。
"山鯨"をすべて吸収した牡丹は人の身長ほどの大きさに巨大化、キシャアと花弁中央に凶悪な歯並びの口を開けた。
(このイベントムービー、怖い~!! もうだめだ~!)
--が、直後ズバンという音と伴に、牡丹の口のなかにドデカい槍が生えていた。
(…へ?)
疑問に思う間もなく、眼前で牡丹が断末魔の悲鳴と伴に爆散した。そして、その巨大牡丹の消えた後に、黒鉄色の--門が現れていた。
色は違うけどその形状…。すごく…見覚えがあります…。
同時にアナウンスが聞こえた。
『フィールドボス:山鯨を倒しました』
『成功報酬SPと"猪突の弓"が得られました』
『初討伐報酬 魔石:ピオニ-結晶を得ました』
『秘匿ジョブクエスト"人形の夢と目覚め 1"クリア! NPC:1/12ドール種が仲間になりました』
『ジョブLvが上がりました。狩人Lv11になりました』
(やった、ジョブクエストクリア! わわ、レベル3つも上がっている…! む? 初討伐報酬? レアボスじゃないのに?)
疑問に思った直後、答えが返ってきた。
頭上でカランカランと鳴るワールドアナウンス。
《--プルミエの花園奥地のヌシ、フィールドボス:山鯨が初討伐されました》
(まさかの初討伐…!? え、なんでだ!? このフィールドには皆来ていないの?)
混乱していると、背後から声がかかる。
「おい、怪我はないか!」
振り向くとそこに冒険者が一組、立っていた。
****
「驚いたな、ここに冥界門が現れるなんざ…」
そう言ってその人は黒いその天国門と同じデザインの門をまじまじと見る。
例の門と同じで背後には何もない。
だがコント仕様ではなく、シリアス風味だ。
そして、門が新たに出現した花園の向こうにも開けた風景が現れ、そこには美しい湖畔が木々の狭間から見えている。
彼は先ほど私たちを助けてくれたNPCキャラだった。
めちゃ王道な冒険者さん。大剣背負って黒を基調にしたカッコいい革装備だ。鑑定できれば何の素材かわかるだろうけど、私の持っている革装備とは一味違う、と言った光沢だった。
名前はクラウスさん。
そしてもう一人はヘレンさん。
奇妙な格好というか、全身鎧の女性だ。細身で銀の鎧で格好いいけど、お顔を見せてくれなかった。ちなみに喋ってもくれない。無口キャラか。彼女が放った槍があの巨大牡丹を貫いたのだ。
お二人はこの先の湖近くに住んでいる友人を訪ねるそうだ。
(湖…。おお、プルミエの行楽地よね)
私はドゥジエムに行く途中の馬車で聞いた話を思い出す。
「まあ、あんたたち放浪者があれだけ堕ちていりゃこの地も穢れるか。さて、ヘレン行くか。この門のこともアイツに報告せにゃならんしな。--で、あんたはどうする?」
クラウスさんは私を見て聞いてくる。
『彼らと伴に湖の庵に--行く/行かない』
(あら、珍しい、事前選択肢でた!)
ん~。迷うところ。
庵ってあたり、賢者さんかなにかと知り合いになるイベが待っている気がする。でも、なんかこのクラウスさんて人、言葉の端々にプレーヤーへの悪意が感じられるんだよね。町の人達もそうだったし。やっぱ、NPCには好感度があるのかな。
この門って良くないもの…っぽいよね。見た目でそれは判断できる、この禍々しい色合いよ。
この門の出現ってプレーヤーのせいかなー。そのせいで好感度低いのかも。
とにかく、人見知りの私としては、自分にあまり好意的じゃない人と行動するのはナンだなー。
(うん、行かない!)
『"行かない"を選択しました』
「え…、えーと、ご遠慮します。プルミエで頼まれたクエストがあるからそちらを優先なので。それに私はお腹が空いたのでご飯食べてこようかなーと」
現実でね。それと今日は疲れたので落ちたい。
「そうか。じゃあこれでな。ああ、この門のこともプルミエの冒険者ギルドに報告しておいてくれ。まあ、予想はしていただろうけどな。だから俺たちSクラス冒険者を呼び寄せたんだろうしな。…ん?」
立ち去りかけて彼は私を凝視する。
「あんた、その割符…」
「え?」
あれ、これは私とプルミエギルド長の思い出の品よ。見ないで、減る。
「なるほどな…。じゃあな。あんたとは また会うこともあるだろう」
--と意味深なことを言って彼らは門の現れた向こう、湖に向かって歩いていった。
(あれ? このイベントまだ終わんないの? 続きがあるの? あの、お二人とは別行動したいんですけど…)
ふー、とため息つくといつの間にか親指姫が傍らにいないことに気がついた。
(あやや? 仲間になったはずだよね!? どこ!?)
あわてて探すがどこにもいない。ジローもだ。
ジローはイベント後、自動でインベントリに戻るんだけど…。
(もしや?)
私はゴキュと喉を鳴らした。
そうして、そっとインベントリの確認をする。ステータスを呼ぶとモニターが現れ、ジローは"PET"欄に丸まった姿のサムネになっていて、そして、その横に。
1/12ドール種、という表記でチョコンと座った親指姫がこちらを見上げ、瞳を瞬かせていた。
(ペットでいいのか、親指姫ーーー!?)
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