18 / 92
18 クエストを引き受ける
しおりを挟む「失礼ですが、フェザントさんではありませんか?」
「はい?」
急に後ろから声をかけられビックリです。
カウンターにいた冒険者ギルドの職員さんだ。
彼女はやっぱり、と安堵の声をあげた。
「丁度良かった。実はお願いがあるのですが、少し奥まで来ていただいても宜しいでしょうか?」
そう言って彼女はカウンター奥を指し示す。その先はギルドの個室の扉が見える。
(あ、なんかイベント発生したかも?)
ともあれ彼女についていく。
なんか他のプレーヤーがこちらをチラチラ見ているのがわかる。
イレギュラークエ受注の時を思い出すなあ。なんだろう…。
扉の先は少し豪華な部屋になっていて、そこには中年のロマンスグレーのおじ様がいた。
おお、ハリウッドスターみたいなカッコ良さのある人だ。
「ようこそ、フェザントくん。今日はムリを言ってすまない。どうぞ、楽にしてください」
そう言って私に椅子を勧める。
革張りのソファに座るとさっきのギルドのお姉さんがコーヒーとクッキーを持ってきた。さっき食べたものと今度は違う種類だが、またアンケート出た。もしかして冒険者ギルドのスポンサー? リアルスポンサー? ヘルシー製菓さんか…。知らない会社だけど頑張っているな。今度現実のお店で探してみよう。
「初めまして。私はこのファンシーの冒険者ギルドのギルド長、アルファーレンだ。きみ達がライトの森の人斬りを討伐してくれたおかげでプルミエではまた薬草が安定流通して助かっている」
「いいえ、衛兵さんの手伝いしただけですから…!」
「ご謙遜を」
ギルド長はかすかに笑って机の中から一通の手紙を出した。
「実はこの手紙をプルミエの冒険者ギルド長に渡してほしい」
(おお、お使いクエストね)
「はい」と笑顔で帰すとロマンスグレーのアルファーレンさんは真剣な眼差しになった。
「この手紙の返事によって、信用ある冒険者に頼みたい仕事が入る。その際、きみにも頼むことになるだろう。宜しく頼む」
はあ。
「……はい」
とりあえず頷いたけど、なにかな?
ギルドを出たら、ピコンとフレンド通信が入った。サーシャとホノカさんだ。通信に出ようとしたら、それこそ通りの向こうに二人がいて、こちらに手を振っていた。
「フェザントちゃんもプルミエの手紙クエスト受けたんですね」
にこにことサーシャが言う。
「実は私も」
おお、ホノカさんもか。
プルミエまでの道中、パーティー組まないかとのお誘いだ。クロはログインしておらず、アオハお兄さんはドゥジエム拠点にするので今日は来ない。
「なんか冒険者ギルドの人、最後 意味深な感じでしたよね」
「そうだわね。プルミエが今大変なの知っている?」
およ?
確かプレーヤーが経済仕切っていて、NPCのお店がつぶされたりしていたんだよね。その余波がファンシーにも来ていたんだよね。
「でも、大橋の通行許可さえ手に入れば、おのずとプルミエにいたプレーヤーが流出して、そういった事態も収まるのでは?」
昨日今日ではムリかもしれないけども~。
「そうでもないみたい。友人が商人やっていて、プルミエから仕入れにきたんだけど、向こうは殺伐として ならず者が仕切る西部劇みたいな町になっているそうよ。【暁旅団】が二分したせいで」
【暁旅団】、と聞いてあの赤いドレスアーマーのプレーヤーを思い出す。確か
「紅さんだっけ?」
「違いますよ、フェザントちゃん。紅はるかさんですよね、ホノカさん」
「サーシャ、あなたわざとでしょ…。紅薔薇よ。街頭新聞にも載っていたんだけど、紅薔薇を中心にしたベータ時代からの古参がドゥジエムに向かい、残りがプルミエで今も経済活動をしているのですって。【暁旅団】だけじゃないけど、プレーヤーを取り込んだNPCの大手商家が変わらず町の価格調整を自分達の利益になるよう牛耳っている、ですって」
「西部劇…。酒場でミルク頼んだら笑われるのかな」
「傷のあるイケメンが代わりに笑ったヤロウを叩きのめして、ミルクを注文する流れですね。わかります」
サーシャがわかったことに驚愕。あなたのお父さん、お母さん、結構ご高齢ですね? または若い祖父母か? ちなみにうちはお父さんがファンです。うちの両親、結婚遅かったので。母はアシさんやっていたマンガ家さんのファンで傭兵マンガの薄い本作っていた。青春の遺物で書棚にこっそり隠しているのを知っている。姉と私は知っていても知らない振りができる気配り姉妹。腐っていても、お母さん大好き。
「私、傷のあるイケメンのは原作読んでいないわ。でも宇宙銀河鉄道は名作よねぇ」
ホノカお姉さん…!! 該当世代がいた。あばばば。
「あ、メール入った。ふむふむ」
ホノカお姉さんがディスプレイを広げて頷いている。
「あのさ、さっき話していた商人の友人が仕入れが終わってプルミエに戻るんですって。冒険者ギルドに依頼するから、護衛クエスト受注しないかって」
「? 一緒にパーティー移動だけで良くない?」
「冒険者ギルドに依頼すると商人の信用度が上がるんだって。私たちの冒険者ランクもポイント入るし、どう?」
「WIN-WINですね」
「受けましょう」
冒険者ギルドに戻るとホノカお姉さんのフレンドさんがいた。
あ。
「あれ、もしかしてお守り買ってくれた、初心者ウサギさん?」
フレンドさんが私を見て笑う。
NPCと同じ民族衣装風の街着を着込んだ熊耳の、そのボリューミーなお胸は!!
「熊のおねえさん…!」
「あれ、フェザントとハニーは知り合い?」
「私が初ログインした時、お買い物した露店の店主さんだよ。あの時は色々教えてくださってありがとうございました」
「いやいや、あんな高価なアイテム持っていたから。どう、楽しくやってる?」
「はい」
笑顔で返す。ご心配の通り、あの後サクっとPKされましたがな。
おかげで、紛失アイテムと同等の強化武器手に入りました。
「私始めた時は露店やっていたっけ?」
「丁度ホノカがこのゲーム始めた時に商人のレベル上がって、行商許可証手に入れたのよね。それで露店は閉めたの。場所代かかるのよ、あれ。改めて自己紹介ね。商人のハニーです。スキルに【付与】あるので支援職です。プルミエまでよろしくお願いしますね」
こちらこそ、とサーシャと一緒にお辞儀する。
サーシャもそのボディに驚いているようだ。私たち、成長期だから大丈夫だよ! これから、これから!
「いつもはどうしていたの?」
「馴染みのNPCの冒険者に頼んでいたんだけど、結婚して引退しちゃって。NPCの女の子の冒険者って少ないのよね。ヤロウだと不快な思いしそうだから避けているの。始める時全身スキャナー使ったの失敗したわ」
ああ、うちにもある健康器具。うちのはハンディタイプ。あれで全身の体型データ取り込み出来るんだよね。通販でよく服を買うから、うちでは家族全員のデータを定期的に保存しているんだよね。
「このゲーム、キャラデザ時間かかるから作り直し戸惑われますもんね…」
「もう、性別変更できればいいのに!」
お胸の大きい男の娘ですか…。それはそっちの方がヤヴァイのでは。
とりあえずお胸の話はそこそこにして、プルミエへ出発だ。
0
お気に入りに追加
59
あなたにおすすめの小説
ワイルド・ソルジャー
アサシン工房
SF
時は199X年。世界各地で戦争が行われ、終戦を迎えようとしていた。
世界は荒廃し、辺りは無法者で溢れかえっていた。
主人公のマティアス・マッカーサーは、かつては裕福な家庭で育ったが、戦争に巻き込まれて両親と弟を失い、その後傭兵となって生きてきた。
旅の途中、人間離れした強さを持つ大柄な軍人ハンニバル・クルーガーにスカウトされ、マティアスは軍人として活動することになる。
ハンニバルと共に任務をこなしていくうちに、冷徹で利己主義だったマティアスは利害を超えた友情を覚えていく。
世紀末の荒廃したアメリカを舞台にしたバトルファンタジー。
他の小説サイトにも投稿しています。
サイバシスト[PSYBER EXORCIST]
多比良栄一
SF
VRMMO世界をむしばむ「電幽霊」を霊能力で退治する血筋の者たち
VRMMO世界をむしばむ「電幽霊」を霊能力で退治する血筋の者たち
世界同時多発事故の基地局喪失(サーバー・バニッシュド)によって、一瞬にして数億人もの人々の意識の一部がヴァーチャル・ワールドに取り残された。
それから数年後、ちぎりとられた残留思念が悪意をもって人々を襲うようになった。それは人間の意識の成れの果て「電幽霊(サイバー・ゴースト)」
平家の血筋の主人公平平平(たいらへいべい)は源家の末裔 源源子(みなもとみなこ)は、陰陽師を育成する陰陽学園高校に入学すると、バディを組まされ、破天荒な先生と個性的なクラスメイトとともに「電幽霊」退治に挑むことになる。
連載中の「いつかぼくが地球を救う」の「電幽霊戦」の元の世界観。
ただし、「サイバシスト」ゲーム化を視野にいれた作品設定になっています。
読み切りの第一話部分です。どうぞ気楽にお楽しみください。
日本国転生
北乃大空
SF
女神ガイアは神族と呼ばれる宇宙管理者であり、地球を含む太陽系を管理して人類の歴史を見守ってきた。
或る日、ガイアは地球上の人類未来についてのシミュレーションを実施し、その結果は22世紀まで確実に人類が滅亡するシナリオで、何度実施しても滅亡する確率は99.999%であった。
ガイアは人類滅亡シミュレーション結果を中央管理局に提出、事態を重くみた中央管理局はガイアに人類滅亡の回避指令を出した。
その指令内容は地球人類の歴史改変で、現代地球とは別のパラレルワールド上に存在するもう一つの地球に干渉して歴史改変するものであった。
ガイアが取った歴史改変方法は、国家丸ごと転移するもので転移する国家は何と現代日本であり、その転移先は太平洋戦争開戦1年前の日本で、そこに国土ごと上書きするというものであった。
その転移先で日本が世界各国と開戦し、そこで起こる様々な出来事を超人的な能力を持つ女神と天使達の手助けで日本が覇権国家になり、人類滅亡を回避させて行くのであった。
銀河戦国記ノヴァルナ 第1章:天駆ける風雲児
潮崎 晶
SF
数多の星大名が覇権を目指し、群雄割拠する混迷のシグシーマ銀河系。
その中で、宙域国家オ・ワーリに生まれたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、何を思い、何を掴み取る事が出来るのか。
日本の戦国時代をベースにした、架空の銀河が舞台の、宇宙艦隊やら、人型機動兵器やらの宇宙戦記SF、いわゆるスペースオペラです。
主人公は織田信長をモデルにし、その生涯を独自設定でアレンジして、オリジナルストーリーを加えてみました。
史実では男性だったキャラが女性になってたり、世代も改変してたり、そのうえ理系知識が苦手な筆者の書いた適当な作品ですので、歴史的・科学的に真面目なご指摘は勘弁いただいて(笑)、軽い気持ちで読んでやって下さい。
大事なのは勢いとノリ!あと読者さんの脳内補完!(笑)
※本作品は他サイト様にても公開させて頂いております。
【おんJ】 彡(゚)(゚)ファッ!?ワイが天下分け目の関ヶ原の戦いに!?
俊也
SF
これまた、かつて私がおーぷん2ちゃんねるに載せ、ご好評頂きました戦国架空戦記SSです。
この他、
「新訳 零戦戦記」
「総統戦記」もよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる