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15 質問

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 クラウディオが研究しないと明言しなかったため、空気は少しギスギスしている。

 アレクレットは場を和ませようとアフタヌーンティーの2段目のスコーンを手に『俺、クロテッドクリーム多めが好きなんだ~』と言ったら、クラウディオが自分の分のクリームを半分、アレクレットの小皿に移してきた。

「いいの? このクロテッドクリーム美味しいよ?」
「俺はジャム2にクリーム1ぐらいがいい」
「えー、でも、このジャムちょっと酸味強くない?」
「それが良いんだろ」

 スコーンに薄くクロテッドクリームを塗り拡げてジャムを載せて食べるクラウディオの食べ方は、アレクレットと真逆だ。
 アレクレットはクラウディオから貰ったクリームをたっぷり乗せたスコーンにかぶりつく。一口で食べれなかった分が口からはみ出るし、スコーンが崩れてポロポロと落ちてしまった。
 皿をサッと差し出してくれるクラウディオは以外にも気が利く男だと思ったが、作法なんか気にしなくて良いと言ったジョン=スミスが紅茶の取っ手に指を入れない持ち方やクリームとジャムを皿に乗せてから食べている完璧なマナーを見るとちょっと恥ずかしくなった。



「では、聖紋のことで何をお聞きになりたいですか?」
「妖精王の祝福はどうすれば妊娠出来るんだ?」
「ペニスを肛門に入れるアナルセックスをする必要があります。やり方についてはネットで検索して下さい。その際は避妊具を──」
「アナルで中出しはした。それでも出来なかったから聞いてるんだ」
「ちょ、な、~~っ」

 向こうが医者のような堅苦しい表現にしたのだから、クラウディオも、もう少しオブラートに包んだ言い方をして欲しい。
 恥ずかしがるアレクレットにジョン=スミスは微笑んだ。

「お二人のお付き合いはどれくらいですか?」
「えっと、出会ったばっかりです・・・」

 声と視線がアレクレットに向かっていたので、その質問にはアレクレットが答えた。
 するとジョン=スミスは、よくある質問に答える役所の窓口のような、いかにも営業スマイルという表情でこういった。

「でしたら、もう少しお付き合いを続けられてから再度挑戦されることをおすすめします」

 『これ以上の質問はありませんね?』と念押しするような言い方でもあったので、アレクレットはシュンと口を閉じた。
 だが、クラウディオは臆することなく質問を重ねる。

「なんでだ? 出会ったばかりでは何が足りないんだ?」
「そうですねぇ。『愛』でしょうか」
「抽象的な表現は要らないんだが?」
「事実です。祝福は愛し愛されて、機が熟した時、子どもを授かることが出来るのです」

 言い方は少しおどけている感じがするけど、目や表情は真剣で、煙に巻くために言っているわけではなさそうだった。
 『愛し愛され』というのは分からないが、『機が熟す』というのは、要するにアレクレットの聖紋が父と同じくらい複雑な模様になって、色がピンクや赤になった時ということだろうか。

「それはどうしたら分かる?」
「貴方がたがお付き合いを重ねるうちに分かることだと思いますよ?」
「今すぐ知りたい」
「僕も知りたいです! 教えてください!」
「うーん・・・祝福持ちに言われると弱いんですよねぇ」

 次に長考するのはジョン=スミスの番だ。
 紅茶のカップをじっと見つめて、コツコツと机を叩いていた指が止まった。

「どうして・・・『今すぐ』なのでしょうか?」

 顔は紅茶のカップに向けられたまま、目だけがアレクレットを見る。その視線は鋭く、まるでサスペンスドラマの刑事が犯人を尋問するときのような怖さがあった。

「僕が・・・、子どもが、欲しくて・・・」
「クラウディオさんとは出会ったばかりとお聞きました。お付き合いをなさっていけば、子どもはいずれ授かれるものだと思いますが?」
「・・・本当は、祝福を無くしたいんです」
「それでしたら、女性と結婚して、子を成すと祝福は消滅しますよ?」
「え、あ・・・結婚だけじゃ、駄目なの・・・?」
「はい。アレクレットさんの子どもを女性に産んでもらう必要があります」

 女性を利用して祝福を消滅させる方法は、ますます取りづらくなった。

「誰とも結婚したくなくて。でも、・・・独り身を貫くのが、ちょっと、難しくて・・・」

 『結婚したくない』だけでは、また『独り身でいれば良い』と正論で返されそうだったので、先手を打って言ってみたが、その原因であるカポトイーニのことはクラウディオに知られたくない。
 クラウディオをチラリと見る。まだ、アレクレットの言葉に疑問を持った感じはしない。

 なんとか、カポトイーニの事を出さずに説明する方法は無いかと頭を捻っていたら、目が合ったジョン=スミスはニコっと笑った。

「管理部の者として、ご両親の事なども存じています。アレクレットさんのご事情はお察します」
「なら、教え──」
「しかし、様々な家族の形があることは承知していますが、進んで未婚のまま子どもを持とうとなさるのには、個人的には協力しかねます」

 アレクレットのシングルファーザー計画は否定された。結婚せずに子どもを持つことがそんなに駄目なことなんだろうか。
 聖紋がある状態で純粋に女性を好きになれる気がしない。契約結婚をしてもらおうと考えたこともあったけど、ジョン=スミスが言うには子どもを産んでもらわないとならないなんて。もっと無理だ。
 その上、男同士なら愛し合いされないと子が授かれないというのも面倒くさすぎる。

 ただ、本当に愛し合いされないと子が出来ないと言うのなら、カポトイーニと結婚せざるを得なくなっても、アレクレットがアイツを愛することは無いだろうから子を産む事は避けられるかもしれない。

(かもしれない? ・・・いや、いやいや、無理。絶対に嫌)

 カポトイーニと結婚なんて絶対したくない。でも、聖紋がある限りあのオッサンが諦めるとは思えない。
 かといって、女性を使って祝福を消滅させられないし、男を愛す日が来るとも思えない。そうなると、アレクレットはカポトイーニが死ぬまで結婚を迫られて、怯え暮らすことになるのだろうか?

(それは、つらい・・・)

 せめて、結婚させられないように、白い結婚か友情結婚だけでもすべきなのもしれない。







***











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