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しおりを挟む今日は空き時間がなく、4時間目までびっちりと授業が詰まっている曜日。
ようやくお昼の時間になり、背伸びをしながら目頭を解していると、若王子が俺の肩を掴んだ。
「何です...?」
「少しお時間よろしいでしょうか」
機嫌が悪いのだろうか。
乱暴にスラックスのポケットへ煙草を突っ込んだ彼が、いつも通り胡散臭い笑顔を浮かべている。
「お昼明けじゃ駄目ですか?」
「駄目です」
「でも、お腹空きましたし...」
「5分で済みます」
一切崩れない表情、笑っていない目。
なんて恐ろしい。
「碓氷先生ったら、若王子先生のこと怒らせましたね~?」と、からかう様に口にした石井にすら視線を送ることの無い男には、流石にため息が漏れた。
「少しだけですよ...」
「ご協力、感謝します」
白衣を椅子に掛け、職員室を出る若王子はわざわざ屋上まで出向く。
ここに来るまでに数分経過しているが、本当に5分で終わるのか...?
ライターで火を付け、煙草を吸う彼が俺を横目で見やる。
「今朝、たまたま見てしまったのですが...僕の知らない男が姫に抱き着いてまして」
「姫...」
「姫も満更でもなさそうに男の頭を撫でたり、尻や腰を触らせたりと...僕、腸が煮えくり返ってしまいそうだったんです。
そしたら地べたに貴方も這いつくばっていたので」
「這いつくばってない...」
「何かするのは、事の経緯を聞いてからにしようと思いまして。
僕が誤解しているのであれば、あの人を傷付けかねませんし...、今の僕は何をしでかすか分かりませんから」
にっこり
絶対に禄なことを考えていない時の顔だ。
同じ笑顔でも付き合いが長いと分かってくる。
これは絶対に良くない顔。
「姫神先生に酷いことをする気ですか?」
このままでは姫神の命も危ういかもしれない。
「あはは...僕があの人に酷いことをするはずないじゃないですか。
もう一度、自分が誰のモノであるかを教えてあげるだけです」
あっ、こいつヤル気だ。
まんまと誤解している若王子に、今朝裏門に居たのは姫神の弟であること、久しぶりの再会で感極まっていたことを話した。
「...と、言うことだ。別にあの二人がやましい関係だとか、間男の登場とかそんなんじゃないですよ」
「......弟...?」
「そ。これで十分ですか?他に用がないなら戻ります」
「待て待て。普通の兄弟ってあんなに仲いいんですか?」
首根っこを掴まれ、俺を引き止める若王子が眉間にシワを刻む。
「知らねぇよ...俺は一人っ子ですから...。
つーか、お前らが仲悪いだけじゃないんですかね。一般家庭の兄弟なんてあんなもんなんですよ...多分」
まぁ...お互いにブラコンっぽいのは否めないが。
「仰る通り僕と響はあんまり仲良く無いですけど、実の兄にセクハラするような弟がいるなんて前代未聞ですよ」
煙草の煙を上に向かって吐き出す若王子が、くしゃりと箱を握り潰してから小さな声で呟いた。
「どうにかしないと、面倒なことになりそうだな...」
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