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しおりを挟む「...おかえり、遅かったね」
......
「退けよ、家に入れない」
その男の姿を見るだけで、ドクンと心臓が高鳴る。
震える手に力を込めて、至って冷静に振る舞おうとするが、彼と目を合わせることは出来なかった。
「鏡夜」
甘い声で呼ばれると、腰の奥が疼いて堪らない。
「...なんのつもりだよ、家の前で待ち伏せなんて。ストーカー?」
内ポケットから取り出した鍵を、鍵穴に差し込み解錠すれば、彼がゆっくりと立ち上がった。
「それはこっちの台詞だけど。オレ、約束破られるの嫌いなこと知ってるよね?なにオレから逃げようとしてんの?」
じり、とドアに身体を押し付け、逃げないように俺の顔の横に腕をつく。
「っ...」
黒田の淡々とした喋り口調や、蔑んだような瞳で見つめられると、恐怖のあまり身体が竦んでしまう。
ぞっとするくらい、冷たい表情ーーー。
「何とか言いなよ。それとも、お仕置きされたくてワザとやってる?」
「んな...わけ...」
自分の身を守るように鞄をギュッと抱き締める。
彼から顔を背ければ、無理矢理顎を掴まれキスされそうになったため、急いで唇の間に手を差し込んだ。
もう、これ以上相手の思い通りになってはいけない。
抵抗し続けなきゃ、自分がまた悲しい思いをする。
「...、何この手」
「...する必要なんか、ないだろ。俺たち恋人同士じゃないんだし...」
「そう」
彼の瞳が妖しく光った。
喉奥から発せられた低い声に、一気に血の気が引いたのも束の間。
「でも、オレはまだ了承してない。手、退けて...これ以上オレを怒らせないで...?」
優しい声音が鼓膜を震わせる。
コロコロと変化を遂げる声のトーンから、彼の心境が伺えずに固唾を飲んだ。
「...」
この男はそんなに、俺を陥れたいのか?
飽きているのであれば解放してくれればいいだろう。
自分の思い通りに行かないからって、怒りをぶつけられるのは解せない。
「...人の心を弄ぶのは楽しいかよ...、わざわざご機嫌取りにここまで来たんだもんな。あんたがこの先俺を捨てることは目に見えてるけど、興味がなくなった割には俺に執着してさ...正直ウザイよ」
シン...、と静まり返ったマンションの部屋の前に佇んだまま。
ポツ
ポツ ポツ
木々や草花に雨粒がぶつかる音が辺りを一斉に包んだ。
雨の匂いや、じっとりとした空気が頬を撫でる。
「待って...。鏡夜、...君は一体何を言ってるんだ?」
眉間にシワをくっきりと刻む黒田は、雨なんか気にも止めずに、ただ俺の目を見つめていた。
「...そう言うのはいいって」
ドアノブに手をかけ、少しだけ開けた隙間に身体を滑り込ませる。
「もう、俺はあんたと関わる気ないから」
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